この疾患の要点
眼科遠隔医療(teleophthalmology)は、情報通信技術を用いた遠隔地での眼科的ケア提供システムであり、Store-and-forward型とリアルタイム型の2方式がある5) 。
米国VA・TECS(技術ベース眼科サービス)は2015〜2022年に67サイトが設立され、2021年度に21,712名を対応した1) 。
糖尿病網膜症スクリーニング が最も確立された適応であり、テレグラウコーマのメタ解析(45研究)では感度83%・特異度79%が報告されている4) 。
眼圧測定 ・細隙灯顕微鏡・視野検査 などは専用機器が必要なため、オンライン診療では実施できない2) 。
オンライン診療は2018年に保険適用開始、2022年の診療報酬改定で恒久化された3) 。
遠隔医療は患者の移動時間を平均61時間削減し、医師待ち時間を30%短縮するとの報告がある4) 。
眼科では検査機器が不可欠なため対面診察の代替はできないが、安定期の経過観察・処方継続・スクリーニングでの活用が進んでいる。
眼科遠隔医療(teleophthalmology)とは、情報通信技術を用いて遠隔地での眼科的ケアを提供するシステムである。遠隔地での眼疾患評価や診療支援を目的に、通信技術と眼科検査データを組み合わせる5) 。
眼底カメラ ・OCT ・視野計など標準化された画像データを送信して専門医が後日読影する非同期(Store-and-forward)型と、ビデオ通話によるリアルタイム診察型の2方式が主流である5) 。眼科は画像データの標準化が進んでいるため、Store-and-forward型に特に適した診療科とされる。
オンライン診療は2018年の診療報酬改定で保険適用が開始された3) 。COVID-19パンデミック(2020年〜)を機に初診からのオンライン診療が時限的に解禁され、2022年の改定で恒久化された3) 。眼科では眼圧測定 ・眼底検査 ・視野検査 など対面でなければ実施できない検査が多く、他科に比べて遠隔化の普及は限定的である。農村部・離島など眼科医へのアクセスが困難な地域や、感染症流行時の非接触診察での有用性が注目されている。
Q
眼科でオンライン診療は受けられるか?
A
保険診療としてオンライン診療を受けることが可能になっているが、眼底検査 ・眼圧測定 ・視野検査 ・細隙灯顕微鏡検査 など対面でなければ実施できない検査が多く、適用範囲は限定的である。安定期の慢性疾患(緑内障 ・AMD 等)における経過報告・処方継続や術後の問診、外眼部疾患の相談などで活用される。初回評価や急性期の症状には原則として対面診察が必要である。
眼科遠隔医療には方式により特性が異なる3つのモデルがある5) 。
Store-and-forward型(非同期型)
仕組み :眼底写真・OCT ・視野データを送信し、専門医が後日読影
利点 :時間的制約がない。専門医の読影効率が高い
代表例 :糖尿病網膜症スクリーニング (最も普及)、ROP 遠隔読影
TECS標準構成 :認定眼科助手が視力 ・屈折 ・眼圧 ・眼底写真(3枚)・外眼部写真を撮影し、専門医が遠隔で読影・処方1)
リアルタイム型(同期型)
仕組み :ビデオ通話による診察
適用 :問診・視力 確認・主観的症状評価・投薬管理
特徴 :COVID-19パンデミックで急拡大したが、数か月以内に大幅減少2)
課題 :対面診察に比べ身体所見の取得が困難
Advanced TECS(多機能型)
仕組み :OCT ・視野計を組み合わせた高度遠隔診察
適用 :テレグラウコーマ・テレ黄斑 診察
特徴 :慢性疾患の長期モニタリングに特に有用1)
課題 :高価な機材が必要で導入施設は限定的
糖尿病網膜症の眼底写真(硬性白斑・毛細血管瘤・網膜出血)
Hao S, Liu C, Li N, et al. Clinical evaluation of AI-assisted screening for diabetic retinopathy in rural areas of midwest China. PLoS One. 2022;17(10):e0275983. Figure 1A. DOI: 10.1371/journal.pone.0275983. License: CC BY 4.0.
散在する黄白色の硬性白斑、血管壁の小さな膨隆(
毛細血管瘤 )、ぼんやりした赤色斑(
網膜 出血)が認められる
糖尿病網膜症 の眼底写真。本文「適応疾患と実績データ」の項で扱う
糖尿病網膜症 遠隔スクリーニングに対応する。
糖尿病網膜症スクリーニング は遠隔眼科医療で最も確立された適応である。
米国退役軍人省(VA)のTECS(Technology-based Eye Care Services)では、2015〜2022年に67サイトが設立され、2022年第1四半期時点で83.6%のサイトが継続稼働している1) 。2021年会計年度には21,712名を対応し、平均年齢は64.7歳であった。対応患者の52.1%が農村部・高度農村部在住であり、農村部・高度農村部では視力 脅威疾患リスクが都市部の1.3〜2.5倍とされる1) 。
テレグラウコーマの精度に関するメタ解析(45研究)では、緑内障スクリーニング としての感度83%・特異度79%が報告されている4) 。眼圧測定 ・視野検査 ・隅角鏡検査 の遠隔実施が技術的課題として挙げられており、安定期の経過観察での活用が主体となっている2) 。
OCT ベースの遠隔モニタリングが安定期AMD の経過観察に活用されている1) 。ただし活動性病変の見落としリスクが存在するため、OCT 所見の変化時には対面受診への切り替えが必要である。
疾患 有病率 遠隔医療での対応 白内障 47.8%1) 術前評価補助・術後経過確認 緑内障 17.6%1) 安定期モニタリング(眼圧測定 は対面必須) 糖尿病網膜症 6.3%1) スクリーニング(最も確立) 加齢黄斑変性 5.8%1) 安定期OCT モニタリング
遠隔医療の導入により患者の移動時間が平均61時間削減され、医師待ち時間が30%短縮したとの報告がある4) 。
Q
どのような眼科疾患にオンライン診療が向いているか?
A
糖尿病網膜症スクリーニング (Store-and-forward型)、安定期の緑内障 ・AMD 経過観察、角結膜 疾患の問診が適している。DRスクリーニングでは眼底写真を遠隔送信する方式が最も確立されており、感度83〜97%が報告されている4) 。急性疾患や眼圧測定 ・視野検査 ・細隙灯顕微鏡検査 などの精密検査が必要な場合は対面診察が不可欠である。
眼科において遠隔医療でできること・できないことを明確に把握することが重要である。
問診(症状の聴取・経過の確認)
視力 の自己測定値の評価(参考値として)
処方の継続・変更相談
術後の経過報告(緊急性のない場合)
写真送信による外眼部疾患の相談(結膜 充血 ・眼瞼腫脹等)
検査結果の説明・相談
安定期慢性疾患における投薬管理
眼圧測定 (tonometry):緑内障 管理の根幹
細隙灯顕微鏡検査 :角膜 ・水晶体 ・前房 の詳細評価
眼底検査 (直接検眼鏡・倒像検眼鏡)
隅角鏡検査 (gonioscopy):緑内障 の隅角 形態評価
角膜 厚測定 (pachymetry):緑内障 リスク評価
視野検査 :専用自動視野計が必要
蛍光眼底造影 :新生血管 ・無灌流野の評価
屈折 検査 (正確な処方には調節麻痺下検査が必要)
オンライン診療を上手に活用するポイント
オンライン診療を安全・効果的に使うために以下を意識してください。
対象の選び方 :安定した慢性疾患(緑内障 ・AMD 等)の定期受診、処方継続相談に適しています。急に視力 が低下した・眼が痛い・飛蚊症 が急増した場合は速やかに対面受診してください。
写真の活用 :眼瞼・結膜 の外観変化はスマートフォンで撮影して送信すると、医師が症状を確認しやすくなります。
かかりつけ医との関係 :初診はまず対面で受診し、主治医との信頼関係を構築してからオンライン診療を活用するのが基本です。
Q
オンライン診療で眼底検査や視野検査はできるか?
A
眼底検査 ・視野検査 ・眼圧測定 などの精密検査は専用機器が必要なため、オンライン診療では実施できない。眼底検査 には倒像検眼鏡や細隙灯顕微鏡と前置レンズが、視野検査 には自動視野計が必要である2) 。これらが必要な場合は対面受診が不可欠であり、特に急な視力 低下・眼痛 ・飛蚊症 の急増といった緊急症状では直ちに眼科を受診すること。
オンライン診療は段階的に制度整備が進められてきた。
2018年 :診療報酬改定でオンライン診療が保険適用開始(再診のみ、対面診察を原則とする)
2020年4月 :COVID-19対応で時限的に初診からのオンライン診療を解禁。電話・オンラインでの診療が一時的に大幅拡大
2022年 :診療報酬改定でオンライン診療の恒久化。初診からのオンライン診療が条件付きで認められた
オンライン診療料の算定要件 :情報通信機器を用いた診察、リアルタイムの視覚・聴覚情報の双方向送受信が必要
通常の対面診察に準じた保険診療として算定される
通信料等のシステム利用料が別途かかる場合がある(施設によって異なる)
処方箋は郵送またはオンライン発行(患者が薬局で受け取る形式)
オンライン服薬指導(2020年解禁)と組み合わせることで自宅完結型のフローが可能
厚生労働省の指針では、オンライン診療は医師と患者がリアルタイムに視覚・聴覚情報を共有して行う診療とされる。医学的情報が限られるため、必要時に対面診療へ切り替える体制と、医師患者間の信頼関係を前提に運用する3) 。
無散瞳眼底カメラ(Topcon)の外観
Ruck J. Non-mydriatic Topcon retinal camera. Wikimedia Commons. 2007. Figure 1. Source ID: File:Retinal_camera.jpg. License: CC BY-SA 3.0.
卓上型の無散瞳 眼底カメラ (Topcon製)の全体像で、患者が額と顎をあてる固定部と撮影レンズ部が確認できる。本文「技術的基盤と必要な機器」の項で扱うStore-and-forward型遠隔眼科医療の撮影機器に対応する。
遠隔眼科医療の実施に必要な機器・システム構成は方式によって異なる。
TECSの標準構成では、約120平方フィート(約11平方メートル)の検査室に以下の機材を設置する。
撮影機器 :無散瞳 眼底カメラ (眼底写真3枚)、外眼部写真撮影機
基本検査機器 :視力 表、屈折 測定装置、眼圧 計
データ送信 :DICOM規格準拠の画像伝送システム
読影端末 :遠隔地の専門医が使用する高解像度モニター
人員配置 :認定眼科助手(またはそれ以上の技術者)が現地で患者対応
Advanced TECS ではさらにOCT ・自動視野計を追加し、テレグラウコーマ・テレ黄斑 診察に対応する1) 。
通信システム :ビデオ通話プラットフォーム(個人情報保護・セキュリティ確保が必須)
電子カルテとの連携 :診察記録・処方をシステム内で一元管理
患者側機器 :スマートフォン・タブレット・PC(カメラ・マイク付き)
スマートフォン眼底撮影 アダプター :安価なレンズアダプターを用いた眼底撮影 の普及
家庭用眼圧 計 :非接触型・連続測定型の開発が進行中
ウェアラブル眼圧 モニター :24時間眼圧 変動の記録が可能になる可能性
AIとの統合 :撮影→AI自動判定→専門医確認というワークフローの実用化6)
5G通信 :高精細リアルタイム診察の実現
患者報告アウトカム(PRO) :デジタルツールによる症状・視機能の継続的収集
COVID-19パンデミック中にニューヨーク市(NYC)で遠隔医療使用が急増したが、数か月以内に大幅に減少した。インタビューを受けた医師のほとんどにとって遠隔医療はルーティン診療には含まれなくなった一方、将来の技術発展に対して楽観的な見方も示されていた2) 。
農村部・離島のアクセス格差解消 :眼科専門医が不足する地域での遠隔スクリーニング普及1)
AI画像診断との統合 :自動判定精度の向上で診断効率がさらに改善する見込み(AI眼科診断については別記事参照)6)
家庭用機器の普及 :家庭用眼圧 計・スマートフォン眼底カメラ が普及すれば遠隔モニタリングの幅が大きく拡大する
5G・高速通信の整備 :高精細画像のリアルタイム転送が可能になり診察精度が向上する
患者報告アウトカム(PRO)のデジタル収集 :視機能・症状の継続的評価を遠隔で実施
検査精度の限界 :眼圧 ・視野・細隙灯の遠隔実施が困難であり、緑内障 など精密検査が必要な疾患では限界がある2)
医師−患者間の信頼関係 :対面診察に比べ関係構築が限定的
情報セキュリティ・個人情報保護 :医療情報の安全な通信・保管体制の整備が必要
インフラ格差 :医療過疎地ではインターネット環境そのものが整備されていない場合がある
診療報酬・規制の動向 :制度変化への継続的な対応が必要3)
Simon LS, Davis ML, Medunjanin D, et al. National Experience of Technology-based Eye Care Services: A Comprehensive Ophthalmology Telemedicine Initiative. Ophthalmology. 2025;132(4):442-451.
Liu H, Ying S, Kamat S, et al. The Role of Telemedicine in Glaucoma Care Triggered by the SARS-CoV-2 Pandemic: A Qualitative Study. Clin Ophthalmol. 2023;17:2251-2266.
厚生労働省. オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成30年3月、令和8年4月一部改訂). https://www.mhlw.go.jp/stf/index_0024_00004.html(2026年5月3日閲覧)
Thomas SM, Jeyaraman MM, Hodge WG, et al. The effectiveness of teleglaucoma versus in-patient examination for glaucoma screening: a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2014;9(12):e113779.
American Academy of Ophthalmology EyeWiki. Teleophthalmology. https://eyewiki.aao.org/Teleophthalmology(2026年5月3日閲覧)
Ting DSW, Gunasekeran DV, Wickham L, et al. Next generation telemedicine platforms to screen and triage. Br J Ophthalmol. 2020;104(3):299-300.
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