埋没法(通糸法)
ビーズ法:絹糸を用いた非切開法。外来手術として施行可能。
ナイロン糸埋没法:余剰な眼瞼前葉の切除を行わず、通糸のみで睫毛列を外反させる。簡便で低侵襲。
限界:矯正の程度に上限があり、余剰前葉が多い例では再発しやすい。
眼瞼内反症(entropion)は、眼瞼縁が眼球側に捲れ込むことで睫毛や内反した眼瞼皮膚が眼表面に持続的に接触し、角膜上皮障害・混濁・異物感・流涙などを引き起こす疾患である。睫毛が眼球に触れ続ける状態を放置すると、角膜上皮障害が慢性化し、最終的に視力障害をきたす。
眼瞼内反には先天性の睫毛内反(epiblepharon)と、後天性の加齢性(退行性)眼瞼内反(involutional entropion)・瘢痕性・痙性・機械性が含まれる。先天性の睫毛内反は、眼瞼前葉(皮膚と眼輪筋)が後葉(瞼板)と比べて生来過剰であるために睫毛が眼表面に触れる病態であり、加齢性眼瞼内反は眼瞼支持組織の弛緩が本態である。両者は名称が似ているが、病態・術式選択が根本的に異なる。
手術の目的は睫毛の眼表面への接触を恒久的に解消し、角膜上皮障害の回復・視力改善・症状軽減を図ることである。術式は大きく埋没法(通糸法)と切開法(Hotz法等)に分類され、加齢性では支持組織の短縮術が基本となる。
睫毛内反(epiblepharon)は先天性で、眼瞼前葉(皮膚・眼輪筋)の過剰により睫毛が眼表面に触れる病態を指す。眼瞼内反(entropion)は眼瞼縁全体が眼球側に捲れ込む病態で、加齢性が代表的である。いずれも手術で矯正するが、術式の選択は病態に応じて異なる。
眼瞼内反症は先天性(睫毛内反)・加齢性(退行性)・瘢痕性・痙性・機械性の5型に分類され、病型ごとに術式選択が根本的に異なる。病型分類・病態生理・自覚症状・臨床所見・診断の詳細は疾患記事にまとめているため、そちらを参照されたい。
手術の観点では、病型と主たる術式の対応を把握しておくことが重要である。下表に病態と主な術式の対応をまとめる。
| 分類 | 病態 | 主な術式 |
|---|---|---|
| 先天性(睫毛内反) | 前葉(皮膚・眼輪筋)過剰 | 埋没法・Hotz法 |
| 加齢性(退行性) | 支持組織の弛緩 | Jones変法・柿崎法・LTS法 |
| 瘢痕性 | 後葉の瘢痕拘縮 | 後葉延長・粘膜移植等 |
| 痙性 | 眼輪筋の異常収縮 | ボツリヌス毒素→手術 |
| 機械性 | 眼球支持の喪失 | 原疾患治療・義眼調整 |
先天性睫毛内反は東アジア系の乳幼児に多く下眼瞼鼻側に好発し、加齢性は高齢者の下眼瞼に好発する。疫学・自然経過の詳細は疾患記事(眼瞼内反症)を参照されたい。手術適応の観点では、先天性睫毛内反は年齢とともにある程度の自然回復が見込めるものの、学童期以下で矯正視力が1.0未満と不良な例は弱視リスクがあるため積極的な手術対象となる。加齢性は自然軽快が期待できず、徐々に進行する。
睫毛が眼表面に触れる病態の視診は容易であり、診断に通常困難はない。細隙灯顕微鏡検査でフルオレセイン染色を行い、角膜上皮障害の分布・程度を確認する。
若年・壮年で新たに発症した眼瞼内反は外傷・炎症などの後天的原因を考慮する。また、睫毛乱生(trichiasis、一部の睫毛が異常方向に生える)や二列睫毛(distichiasis、余剰な睫毛列)との鑑別が重要である。これらは眼瞼縁の内反を伴わず、治療方針が異なる。
手術適応は以下の4項目を総合して判断する。
小児の手術判断:睫毛内反は年齢とともに改善の余地があるが、学童期以下で矯正視力が1.0未満の不良例は弱視形成のリスクがあるため、積極的に手術を勧める。
睫毛抜去の限界:接触している睫毛が多数の場合、睫毛抜去のみでは対応に限界がある。再生した睫毛が再び接触するため、根本的な治療は手術が原則である。
初期には一時的な徒手整復が可能なこともあるが、内反が持続し角膜上皮障害が慢性化する場合は手術療法を検討する。角膜上皮障害に対しては、人工涙液・角膜上皮修復点眼(ヒアルロン酸ナトリウム点眼液など)の補助的使用を行う。
若年者の睫毛内反に対する手術は、通糸法(埋没法)と皮膚切開法(Hotz法)に大別される。
埋没法(通糸法)
ビーズ法:絹糸を用いた非切開法。外来手術として施行可能。
ナイロン糸埋没法:余剰な眼瞼前葉の切除を行わず、通糸のみで睫毛列を外反させる。簡便で低侵襲。
限界:矯正の程度に上限があり、余剰前葉が多い例では再発しやすい。
切開法(Hotz法)
手技:皮膚切開→余剰な皮膚・眼輪筋の切除→睫毛列を含む眼瞼前葉を外反させて瞼板に縫合。
適応:埋没法で矯正不十分な症例、余剰皮膚・眼輪筋が多い症例。
利点:余剰前葉を物理的に除去するため、確実な矯正が得られる。
先天性睫毛内反に対する手術成績について、ナイロン糸埋没法とHotz法を比較した研究では、両術式ともに有効性が確認されている6)。
加齢性内反では瞼板支持組織の弛緩が病態であり、それを矯正する手術を選択する。Hotz法単独手術は病態と合致しないため不適切である。
下表に主な術式を示す。
| 術式 | 標的 | 特徴 |
|---|---|---|
| Jones変法 | 下眼瞼牽引筋腱膜短縮 | 垂直方向の支持回復 |
| 柿崎法 | 下眼瞼牽引筋腱膜短縮 | 垂直方向の支持回復 |
| Wheeler変法-久富法併用術 | 水平方向支持組織短縮 | 水平弛緩の矯正 |
| Lateral tarsal strip(LTS)法 | 水平方向支持組織短縮 | 広く行われる標準術式 |
Lateral tarsal strip(LTS)法は、瞼板の外側端を切断して眼窩骨外側縁の骨膜に縫合固定する術式で、加齢性内反に広く用いられる。水平弛緩の矯正に優れ、ectropion(眼瞼外反症)にも共通して使用される4)。
下眼瞼牽引筋腱膜短縮術は、Jones変法や柿崎法に代表される。弛緩した下眼瞼牽引筋腱膜を短縮・再固定し、瞼板下縁の前上方への転位を矯正する1)。
再発率のさらなる低減には、牽引筋腱膜短縮と水平方向短縮を組み合わせる方法が有効とされる3, 5)。手術成績を比較した研究では、lateral tarsal strip法は良好な長期成績が報告されている2)。
初期であればボツリヌス毒素注射により眼輪筋のけいれんを軽快させ、眼瞼内反を改善できる。ボツリヌス毒素で改善しない症例では、下眼瞼牽引筋腱膜の弛緩や眼輪筋と瞼板の接着解離が加わった状態と考えられ、加齢性と同様の手術療法を検討する。
適切な義眼の装用や、眼球・眼窩疾患の治療により改善する症例も少なくない。原因を取り除いた後もなお内反が残存する場合に眼瞼修復術を計画する。
埋没法は低侵襲で外来施行可能だが、矯正の程度に限界がある。切開法(Hotz法)は余剰な皮膚・眼輪筋を切除して確実な矯正を得られる。いずれも軽度の過矯正で終了するのが再発率低下のポイントである。加齢性では支持組織の短縮術が必要であり、Hotz法単独は不適切である。
術後は以下の管理を行う。
術後には必ず若干の戻りがある。特に先天性の睫毛内反では再発率がやや高い。低矯正による再発に対する再手術はそれほど困難ではなく、術前に再発の可能性を説明しておくことが重要である。
再発を防ぐためには、手術時点で眼瞼結膜が軽度外反する程度の過矯正で終了することが基本方針となる。
まれに過矯正による眼瞼外反が生じることがある。軽度の外反は時間経過とともに改善することもあるが、持続する場合は追加手術を要する。
手術後も角膜上皮障害が残存する場合、睫毛乱生など別の原因の合併や、二次性感染の除外を検討する。
術後には必ず若干の戻りがあり、特に先天性では再発率がやや高い。低矯正による再発に対する再手術はそれほど困難ではなく、術前に再発の可能性を理解しておくことが重要である。再発率を下げるには、手術時に軽度の過矯正で終了することが重要なポイントとなる。
術式選択の根拠となる病態のみを要約する。各病型の発症機序の詳細は疾患記事(眼瞼内反症の病態生理)を参照されたい。
先天性睫毛内反の手術時期の最適化:先天性睫毛内反に対するナイロン糸埋没法とHotz法の比較研究では、両術式ともに有効性が確認されており、症例の特性に応じた選択が求められている6)。
Lateral tarsal strip法の長期成績:LTS法は加齢性眼瞼内反・外反の両疾患で広く用いられる術式であり、長期フォローアップでの高い有効性が複数の研究で示されている4, 5)。再発率の低減には牽引筋腱膜短縮との組み合わせが有効との報告がある5)。
瘢痕性内反(トラコーマ後)の治療:WHO推奨のトラコーマ後眼瞼内反に対する術式(bilamellar tarsal rotation手術等)が有効性を示しており、流行地域での標準化が進んでいる。
低侵襲埋没法の改良術式:外来ベースで施行可能な新規縫合法(改良型埋没法)が検討されており、再発率の低減と低侵襲性の両立が課題となっている。