前眼部所見
眼瞼裂斜上:63〜82%に認める。ダウン症候群児の特徴的顔貌の一部。
内眼角贅皮:31〜97%。民族差がある。
睫毛内反:韓国の報告では54%に認められる。
眼瞼縁炎:3〜34.5%。
ブラッシュフィールド斑:47.15%1)。虹彩実質の局所的過形成で、視機能への影響はない。

ダウン症候群(Down syndrome; DS)は21番染色体の過剰(21トリソミー)による染色体異常で、最も頻度が高い。発生頻度は出生約700人に1人(600〜800人に1人)である。
遺伝型は不分離型が90〜95%、転座型が3〜4%、モザイク型が1〜2%を占める。母体年齢の上昇に伴い頻度が増加する。
全身的には、特徴的顔貌(瞼裂の斜上、鼻根部平坦、内眼角贅皮)、先天性心疾患、筋緊張低下、知的障害を伴う。
Muñoz-Ortizら(2022)は22研究の系統的レビューにより、ダウン症候群小児における眼科所見の加重有病率は85%と報告した1)。
眼合併症の頻度は年齢とともに増加し、1歳未満では38%であるが、5〜7歳では80%に達する。
系統的レビューによると、ダウン症候群の小児における眼科所見の加重有病率は85%と報告されている。1歳未満では38%であるが年齢とともに増加し、5〜7歳では80%に達する。定期的な眼科スクリーニングにより早期発見・早期治療が可能となる。
前眼部所見
眼瞼裂斜上:63〜82%に認める。ダウン症候群児の特徴的顔貌の一部。
内眼角贅皮:31〜97%。民族差がある。
睫毛内反:韓国の報告では54%に認められる。
眼瞼縁炎:3〜34.5%。
ブラッシュフィールド斑:47.15%1)。虹彩実質の局所的過形成で、視機能への影響はない。
屈折・運動系所見
後眼部・その他
| 眼科所見 | 有病率 | 備考 |
|---|---|---|
| 屈折異常 | 約80% | 斜乱視が特徴的 |
| ブラッシュフィールド斑 | 47.2% | 虹彩過形成、視機能影響なし |
| 眼瞼結膜炎 | 42.5% | 1歳未満で31% |
| 乱視 | 37.2% | — |
| 遠視 | 36.4% | — |
| 斜視(全体) | 33.5% | 内斜視27.7%、外斜視4.7% |
| 円錐角膜 | 20.8〜32% | 思春期発症、30歳頃停止 |
| 近視 | 21.5% | — |
| 眼振 | 15.6% | — |
| 鼻涙管閉塞 | 14.5% | 73%両側性 |
| 弱視 | 13.3% | — |
| 白内障 | 10.9% | 先天白内障2.2% |
ブラッシュフィールド斑は虹彩実質の局所的過形成による所見であり、視機能への影響はない。ダウン症候群の約47%にみられる特徴的所見であるが、治療は不要である。民族により出現頻度に差がある。
21トリソミーの原因は21番染色体の数的異常である。
不分離型(90〜95%)
減数分裂の不分離により21番染色体が3本存在する。母体年齢の上昇が主なリスク因子である。孤発性であり通常遺伝しない。
転座型(3〜4%)
21番染色体の長腕が14番や21番の染色体に転座する。保因者の親から遺伝する可能性がある。
モザイク型(1〜2%)
体細胞の一部のみが21トリソミーを示す。表現型は一般に軽度である。
眼合併症の発症には、21番染色体(HSA21)上の遺伝子の過剰発現が関与する。HSA21遺伝子の過剰発現は抗血管新生特性をもたらし、ダウン症候群患者における未熟児網膜症や加齢黄斑変性の発症リスク低下に寄与すると考えられている。
出生前には絨毛採取や羊水穿刺による核型分析で確定診断する。出生後は特徴的表現型から疑い、末梢血の核型検査で確定する。
AAP(米国小児科学会)・AAPOSの推奨に基づき、以下のスケジュールで眼科スクリーニングを行う1)。
| 時期 | 検査内容 |
|---|---|
| 新生児 | 赤色反射確認(先天白内障の除外) |
| 6〜12ヶ月 | 斜視・固視の評価 |
| 1〜3歳 | 屈折検査(調節麻痺薬下) |
| 3〜5歳 | 視力検査、屈折検査、眼位評価 |
| 5歳以降 | 毎年の視力・屈折・円錐角膜スクリーニング |
新生児期に赤色反射の確認(先天白内障の除外)を行い、6〜12ヶ月で斜視・固視の評価、1〜3歳で調節麻痺薬下の屈折検査、3〜5歳で視力検査を開始する。5歳以降は毎年の視力・屈折・円錐角膜スクリーニングが推奨される。
各眼合併症に対する治療は以下の通りである。
手術は全身麻酔下で施行するため、合併する心疾患の評価が術前に必要である。
ダウン症候群児の内斜視に対する斜視手術は、標準的な手術量で一般の小児と同様の成績が得られる。過矯正のリスクも同程度であり、調節性内斜視の要素がある場合は眼鏡矯正を先行させる。
ダウン症候群における眼合併症は、多因子性の病態が関与している。
Ts65Dnマウスモデルの研究により、21番染色体の遺伝子量効果(gene dosage effect)が神経堤細胞の発達異常を引き起こすことが示されている1)。神経堤由来組織(角膜実質・虹彩・眼窩骨)の発達異常が、前眼部の多彩な所見の基盤となる。
ダウン症候群児では生後の正視化過程が障害される1)。正常では眼軸長と角膜曲率が成長に伴い協調的に変化し、正視に収束する。ダウン症候群児ではこの協調が欠如するため、遠視・近視・乱視が高率に残存する。
調節不全は32〜100%に認められ、内斜視の発症にも関与する。現在は感覚経路の障害(視覚入力の処理異常)が有力視されているが、毛様体筋の形態異常や神経支配の障害も提唱されている。
HSA21上の遺伝子過剰発現は抗血管新生因子の産生増加をもたらす。この特性は、ダウン症候群患者における固形腫瘍、未熟児網膜症、加齢黄斑変性の発症リスク低下と関連する。
ダウン症候群患者における円錐角膜の高頻度は、遺伝的素因と眼擦りの習慣の両方が関与する4)。知的障害による自制困難が眼擦りを助長し、角膜の機械的ストレスが蓄積する。思春期に発症し30歳頃に停止する傾向がある。
OCT(光干渉断層計)を用いた研究により、ダウン症候群児の多くに中心窩形成不全が認められることが示されている。中心窩陥凹の深さや内網膜層の残存パターンの解析により、視力低下の機序解明が進みつつある。
HSA21遺伝子の過剰発現がもたらす抗血管新生特性は、網膜血管疾患や腫瘍に対する治療標的としての応用が模索されている。ダウン症候群患者で血管新生性眼疾患のリスクが低い機序の解明は、新規抗血管新生薬の開発に寄与する可能性がある。
調節不全の正確な機序はいまだ解明されていない。感覚経路の障害が有力視されているが、毛様体・水晶体の形態的要因やオートフォーカス機能の神経制御異常など、複数の仮説が検証されている。メカニズムの解明は、ダウン症候群児に対するより効果的な調節補助手段の開発につながる可能性がある。