前房内所見
セル・フレア:前房内の白血球浮遊とタンパク漏出。細隙灯で斜入光を当てて観察する。
角膜後面沈着物(KP):炎症産物が角膜内皮に付着した所見。通常は非肉芽腫性の微塵様KPを呈する。
前房蓄膿:沈着物が下方に溜まった状態。重症例で認められる。

外傷性虹彩炎(traumatic iritis)は、鈍的外力により虹彩・毛様体が損傷され、前房内に炎症が生じる病態である。虹彩毛様体炎(iridocyclitis)とも呼ばれ、前部ぶどう膜炎の一型に分類される。
鈍的眼外傷が最も多い原因である。スポーツ外傷、交通事故、エアバッグ展開による衝撃など、受傷機転は多岐にわたる。スポーツ眼外傷では前眼部損傷が最も多く、全体の72%を占める。
米国における虹彩炎の発症率は10万人あたり約12人と推定される。虹彩炎はぶどう膜炎全体の90%を占め、外傷性虹彩炎はその約20%に相当する。高齢者よりも若年層に多く、女性よりも男性に多い傾向がある。
通常は受傷した片眼のみに発症する。両眼同時に受傷した場合は両眼性となりうる。交通事故のエアバッグ展開では両眼に外傷性虹彩炎を生じた報告がある。
外傷性虹彩炎の症状は通常、受傷後3日以内に出現する。
細隙灯顕微鏡検査が診断の中心である。鈍的外力により虹彩・毛様体に微細な組織損傷が生じ、血液房水関門が破壊される。その結果、炎症細胞やタンパクが前房内に遊出する。
前房内所見
セル・フレア:前房内の白血球浮遊とタンパク漏出。細隙灯で斜入光を当てて観察する。
角膜後面沈着物(KP):炎症産物が角膜内皮に付着した所見。通常は非肉芽腫性の微塵様KPを呈する。
前房蓄膿:沈着物が下方に溜まった状態。重症例で認められる。
虹彩・瞳孔所見
フォシウス環:虹彩色素が水晶体前嚢に環状に付着。打撲で虹彩が水晶体に押し付けられて生じる。
縮瞳:羞明に対する侵害受容反射による。
散瞳:虹彩括約筋断裂がある場合に生じる。対光反射は減弱〜消失する。
虹彩後癒着:炎症で縮瞳した虹彩と水晶体前面が癒着する。
眼圧は上昇することも低下することもある。炎症や線維柱帯の損傷は眼圧上昇を引き起こし、毛様体の房水産生能低下は眼圧低下を招く。
後房からの房水流出が遮断されて眼圧が上昇する。虹彩が前方に膨隆する「虹彩膨隆(iris bombe)」を形成し、難治性の二次性緑内障に至ることがある。散瞳薬による癒着の予防が重要である。
鈍的眼外傷が直接の原因である。ボール外傷などで眼球に外力が加わると眼球壁が変形し、虹彩・毛様体に伸展力がかかる。これにより微細な組織損傷と血液房水関門の破壊が生じ、前房内に炎症細胞が遊出する。
代表的な受傷機転は以下の通りである。
最近の眼外傷の既往が診断の手がかりとなる。以下の手順で診察を進める。
前房内炎症の評価にはSUN(Standardization of Uveitis Nomenclature)分類が用いられる。
| グレード | 細胞数(1×1mm光束) | フレア |
|---|---|---|
| 0 | <1個 | なし |
| 1+ | 6〜15個 | わずか |
| 2+ | 16〜25個 | 中等度 |
| 3+ | 26〜50個 | 高度 |
| 4+ | >50個 | フィブリン析出 |
眼球破裂が疑われる場合(高度の結膜浮腫、低眼圧、結膜下出血など)は、CT・MRIによる画像検査を行う。金属性異物が疑われる場合、MRIは禁忌である。
外傷性虹彩炎は以下の疾患との鑑別が重要である。
その他の虹彩炎の原因として、感染性(帯状疱疹、梅毒など)、遺伝性(HLA-B27関連)、薬剤性、全身疾患関連(ベーチェット病、若年性関節リウマチなど)がある。明確な外傷歴があり全身性の関与が疑われない場合、臨床検査は不要である。
前房出血は赤血球による赤い沈殿と霧視を主体とし、虹彩炎より早期に出現する。虹彩炎は白血球によるセル・フレアと羞明が特徴的である。両者は合併することもある。
治療の基本は散瞳薬とステロイド点眼の併用による消炎である。
日本の教科書的な標準処方を以下に示す。
眼圧上昇が高度な場合は、ダイアモックス錠(250mg)2錠 分2(朝・夕食後)の内服を追加する。その際はアスパラカリウム錠(300mg)2錠 分2を併用して低カリウム血症を予防する。
受傷後5〜7日で再診する。炎症が消失していれば散瞳薬を中止する。ステロイドは約2週間かけて漸減した後に中止する。
受傷後1ヶ月の再診では以下を確認する。
通常1〜2週間で軽快する。外傷性虹彩炎は他の前部ぶどう膜炎と比較してステロイドへの反応が良好であり、漸減も比較的速やかに行える。重症例ではフィブリン消退後に虹彩後癒着が残ることがある。
鈍的外力が眼球に加わると、眼球壁の変形に伴い虹彩・毛様体に伸展力や剥離方向の力がかかる。前房内圧が一過性に上昇し、角膜輪部が伸展するとともに房水が後方・隅角部へ移動する。これにより以下の病態が段階的に進行する。
より強い外力が加わった場合は以下の構造的損傷を伴う。
眼圧上昇の機序は複数ある。炎症による線維柱帯の機能障害、前房出血後の赤血球崩壊産物による房水流出阻害(泡沫細胞緑内障)、虹彩後癒着による瞳孔ブロックなどが関与する。一方、毛様体解離や毛様体の房水産生能低下は低眼圧の原因となる。
隅角後退に伴う線維柱帯の損傷や二次的変性により、受傷後数年を経てから眼圧上昇を呈する症例がある。患者への説明と定期的な眼圧観察が重要である。
視力予後は通常良好である。合併症として視力低下、緑内障、白内障(炎症持続期間がリスクに直結)、不正瞳孔(癒着形成・括約筋断裂による)、帯状角膜変性、嚢胞様黄斑浮腫(CME)が挙げられる。