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ぶどう膜炎

穿孔性強膜軟化症

穿孔性強膜軟化症(Scleromalacia Perforans; SP)は、炎症を伴わない前部壊死性強膜炎に分類される稀で重篤な眼疾患である。上強膜および強膜の穿通血管に対する自己免疫的損傷(III型アレルギー反応)によって生じる。ICD-10コードはH15.053である。

1930年にvan der Hoeveがオランダ王立眼科学会で初めて報告した。両側性であり、結膜下の黄色または灰色の結節から始まる。やがて強膜壊死・穿孔・ぶどう膜の露出へと進行する。強膜炎全体の約4%を占める。

Watson分類では、前部強膜炎の壊死性タイプのうち「非炎症性」に位置づけられる。壊死性強膜炎は強膜炎のうちで予後が悪く、発症年齢は60歳代と他の病型に比し高齢である。両眼性は60%程度で、早期に適切な治療がなされないと失明し、眼球温存が困難になる。

Q 穿孔性強膜軟化症と壊死性強膜炎は違うのか?
A

壊死性強膜炎は「炎症性」と「非炎症性」に分類される。穿孔性強膜軟化症は非炎症性の壊死性強膜炎に相当し、充血や疼痛をほとんど伴わない点が炎症性壊死性強膜炎と異なる。

発症は緩徐である。多くの患者は非特異的な刺激感を訴える。

  • 疼痛:通常は認めない。充血や疼痛のなかった眼に突然強膜の変化が出現する。
  • 視力:初期には影響を受けない。壊死性強膜炎まで進行した重症例で初めて自覚されることが多い。
  • 外観の変化:強膜の色の変化として家族が気づくか、本人が鏡で発見する。眼科の定期検査中に発見されることもある。

初期所見

壊死性強膜プラーク角膜縁付近に血管充血を伴わない白色~黄色の無血管領域が出現する。

結節形成:結膜下の黄色または灰色の結節として始まる。

進行期所見

壊死領域の癒合・拡大:壊死領域が融合し、範囲が広がる。

強膜菲薄化:強膜が薄くなり、下層の暗色のぶどう膜組織が透見される。

強膜ぶどう腫眼圧上昇例では膨隆を形成する。

菲薄化がさらに進行すると眼球穿孔を来し、視機能が失われる可能性がある。強膜菲薄部は炎症が沈静化した後も残存する。自然穿孔は稀であるが、軽微な外傷で眼球破裂する危険がある。

穿孔性強膜軟化症の病因は免疫複合体(抗原抗体複合体)の蓄積によるIII型アレルギー反応である。関節リウマチなどの自己免疫疾患との合併頻度が高く、内因性強膜炎の発生機序には免疫機構の関与が考えられている。

典型的には長期間の関節リウマチ(RA)を患う高齢女性に発生する。その他の関連疾患は以下の通りである。

ポルフィリン症や帯状疱疹感染でも穿孔性強膜軟化症の発症が報告されている。また、眼科手術の既往が契機となって生じるsurgically induced necrotizing scleritis(SINS)として発症する場合もあり、斜視手術・線維柱帯切除術・強膜バックリング手術・マイトマイシンC併用翼状片切除術の術後に生じやすい。

マイトマイシンC(MMC)の点眼使用後には、術後数か月~数年を経て強膜の石灰化や壊死性強膜炎(穿孔性強膜軟化症)を発症することがあった。マイトマイシンC1回投与でも線維芽細胞抑制に加え強膜のゼラチナーゼ活性が亢進し、コラーゲンの産生減少や配列異常に関与する可能性が示唆されている。

Q 関節リウマチがあると必ず発症するのか?
A

関節リウマチ患者の多くは穿孔性強膜軟化症を発症しない。穿孔性強膜軟化症は強膜炎全体の約4%を占める稀な病態であり、長期間のRA歴を有する高齢女性に多い。RA以外の自己免疫疾患が原因となる場合もある。

穿孔性強膜軟化症は臨床診断である。充血を伴わない強膜壊死プラークの存在と強膜菲薄化の進行が特徴的所見となる。

  • 自然光下の観察:強膜炎では暗赤色を呈するが、穿孔性強膜軟化症では充血を欠く白色~黄色の壊死巣が特徴的である。長期罹患例には限局性の強膜菲薄化があり、青黒く観察される。自然光下での観察は、細隙灯顕微鏡よりも全体像の把握に適する。
  • 細隙灯顕微鏡検査:強膜血管の拡張と蛇行の有無、壊死の範囲、菲薄化の程度を評価する。角膜と前房の観察も行い、角膜周辺部浸潤や前部ぶどう膜炎の波及を確認する。
  • エピネフリン点眼反応:1,000倍希釈エピネフリン点眼で表在性充血は消退するが、深在性の強膜炎の充血は消退しない。結膜炎上強膜炎との鑑別に有用である。

背景にある自己免疫疾患の評価のため、以下の検査が必要となる。

検査項目目的
CBC・ESR・CRP炎症の評価
RF・抗核抗体・抗DNA抗体膠原病のスクリーニング
ANCA(c-ANCA・p-ANCA)血管炎の評価

その他、尿検査、梅毒血清反応、血清尿酸、サルコイドーシスのスクリーニングも施行する。

  • 強膜硝子様プラーク:強膜の加齢に伴う硝子様変性である。プラークは眼瞼裂内の内直筋付着部の直前に位置する。
  • 老年性強膜軟化症:老年性強膜プラークの進行例で、石灰化したプラークが脱落して生じる。
  • MALTリンパ腫:結膜円蓋部に好発する淡いピンク色の腫瘤を認める。強膜血管が透見できない点が穿孔性強膜軟化症との鑑別ポイントである。
Q 痛みがない強膜の変化でも受診すべきか?
A

穿孔性強膜軟化症は充血や疼痛を伴わずに進行する。発見が遅れるほど治療時期を逸し、予後が悪化する。強膜の色調変化に気づいた場合は、症状がなくても速やかな眼科受診が推奨される。

穿孔性強膜軟化症の管理は根本的に全身治療であり、積極的かつ集学的なアプローチを必要とする。早期であれば治療効果は得られるが、典型的な所見を呈する時期にはすでに治療時期を逸していることが多い。壊死性強膜炎では失明率が40%といわれる。

全身性コルチコステロイドが治療の中心となる。

  • 経口プレドニゾロン:0.5~1 mg/kg/日で開始し、徐々に減量する。
  • ステロイドパルス療法:メチルプレドニゾロン静注。重症例や経口ステロイドに反応不良な場合に施行する。

ステロイドの眼周囲への局所注射は、コラゲナーゼ活性を高め、さらなる強膜融解や穿孔を招く恐れがあるため避けるべきである。

ステロイドを補完する免疫抑制療法が不可欠であり、リウマチ内科医との連携が推奨される。関節リウマチにはメトトレキサート、全身性血管炎にはシクロホスファミドが選択されることが多い。

  • シクロホスファミド:経口 2~3 mg/kg/日。非感染性壊死性強膜炎に最も効果的とされる。
  • メトトレキサート:週 7.5~20 mg
  • アザチオプリン:開始用量 2.5 mg/kg/日。強膜炎への有効性がやや劣るとの報告がある。
  • シクロスポリン:2.5~5.0 mg/kg/日。血中トラフ値150 mg/mLを超えないよう調整する。腎機能障害に注意が必要である。
  • ミコフェノール酸モフェチル:2~3 g/日

上記の免疫抑制治療に抵抗性の強膜炎に対して導入を検討する。

快適さの向上と眼表面の保護のため、頻回な人工涙液点眼が推奨される。シクロスポリンA局所点眼の使用報告もある。

手術適応

ぶどう膜露出例:眼球の完全性維持のため手術が必要となる。

壊死部面積:小さいほど手術予後は良好である。時期を逸しない早急な手術が重要となる。

手術のポイント

壊死巣の完全切除:周辺健常部まで含めて切除する。

保存強膜移植:冷凍保存強膜が強度・形態維持の面から適する。

結膜による完全被覆:移植強膜片を結膜で覆う。

パッチ移植に用いる材料は多岐にわたる。保存強膜(新鮮・冷凍・グリセリン保存)、真皮、広筋膜、骨膜、角膜、羊膜、合成材料(ゴアテックス)、結膜有茎弁などが報告されている。広範な結膜壊死や角膜潰瘍を伴う場合は、自家結膜移植や角膜上皮移植術を併用する。術後治療としてシクロスポリンの内服および点眼も行われる。

Q 手術をすれば治るのか?
A

手術は眼球の構造的破綻を防ぐための処置であり、疾患そのものの根治ではない。背景にある自己免疫疾患の全身的コントロールが不可欠であり、術後も免疫抑制療法の継続と再発防止のための長期経過観察を要する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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穿孔性強膜軟化症の病態は、免疫複合体の沈着によるIII型アレルギー反応(アルサス反応)が根底にある。上強膜および強膜の穿通血管に免疫複合体が蓄積し、血管炎を惹起する。

YoungとWatsonは、強膜破壊の3つの決定要因を提唱した。

  • 強膜線維細胞の活性化:細胞周囲マトリックスの吸収を引き起こす。
  • 炎症細胞による実質浸潤:強膜実質への細胞浸潤が組織破壊を進行させる。
  • 局所的な血管閉塞の遷延:持続する虚血が強膜壊死を促進する。

組織病理学的には、中心部の壊死塊(コラーゲン・非コラーゲン線維・細胞残渣)を類上皮細胞が囲む慢性肉芽腫性変化を認める。穿孔性強膜軟化症では壊死組織の緻密なプラークが脱落し、結膜の全層欠損と露出領域を再被覆するための結膜上皮の不全を伴う。

強膜炎全般の発症機序として、非感染性強膜炎では全身性炎症疾患に随伴する眼病変としてみられることが多い。原因となる全身疾患が無治療であると、強膜の同一部位に再燃することが少なくない。

Q なぜ痛みがないまま進行するのか?
A

穿孔性強膜軟化症は「非炎症性」の壊死性強膜炎に分類される。典型的な強膜炎では血管炎による充血と強い疼痛を伴うが、穿孔性強膜軟化症では炎症反応が乏しいまま血管閉塞と組織壊死が進行する。そのため疼痛を欠き、発見が遅れやすい。


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