I期(初期)
慢性結膜炎:軽度充血を主体とする非特異的所見。
上皮下線維化:下眼瞼結膜円蓋部の微細な白い線条として認められる。
ローズベンガル染色陽性:ムチン障害を反映する。
涙液機能不全:マイボーム腺消失や杯細胞減少に伴う。

眼類天疱瘡(ocular cicatricial pemphigoid; OCP)は、結膜基底膜に対する自己抗体によって引き起こされる慢性の瘢痕性結膜炎である。粘膜類天疱瘡(mucous membrane pemphigoid; MMP)の眼病変に相当し、両者の用語は互換的に用いられる。
粘膜類天疱瘡は口腔・眼・鼻咽頭・食道・喉頭・生殖器などの粘膜に水疱・びらんを生じる自己免疫性疾患である。口腔病変が最多(約90%)であり、眼病変は約61%に認められる1)。眼病変は粘膜類天疱瘡のなかでもハイリスクに分類され、口腔粘膜や皮膚のみの症例よりも予後が不良である。口腔疾患を持つ患者の最大3分の1が眼病変へ進行する。
疫学的には、発症率は12,000〜60,000人に1人と推定される。男女比は1:2で女性に多く、発症年齢は通常60〜80歳である。30歳未満の発症は稀であり、人種差は報告されていない。
同一疾患の異なる呼称である。皮膚科では粘膜類天疱瘡と呼び、眼科では眼病変を持つものを眼類天疱瘡と呼ぶ。眼以外にも口腔・食道・喉頭など多臓器の粘膜が侵されうる。
眼類天疱瘡の初期症状は非特異的であり、見逃されやすい。
眼類天疱瘡の病期分類にはFoster分類とMondino分類がある。Foster分類は臨床徴候に基づき、病期の理解に有用である。
I期(初期)
慢性結膜炎:軽度充血を主体とする非特異的所見。
上皮下線維化:下眼瞼結膜円蓋部の微細な白い線条として認められる。
ローズベンガル染色陽性:ムチン障害を反映する。
涙液機能不全:マイボーム腺消失や杯細胞減少に伴う。
II期
結膜円蓋部の短縮:下円蓋部の深さの減少を認める。正常の下円蓋部深さは約11mmである。
III期
瞼球癒着:球結膜と瞼結膜が癒着する。上方視・下方視で眼瞼を牽引して検出する。
角膜への血管侵入:角膜輪部幹細胞の障害を反映する。
睫毛乱生:眼瞼内反に伴い睫毛が角膜に接触する。
涙液分泌減少:涙腺導管閉塞による。
IV期(終末期)
眼表面の角化:角膜表面が皮膚のように角化する。
眼瞼癒着:眼瞼と眼球の広範な癒着により眼球運動が制限される。
角膜輪部幹細胞欠乏症:角膜上皮幹細胞が消失し結膜組織が角膜に侵入する。
Mondino分類は下眼瞼結膜円蓋部の深さの消失割合に基づく。
| ステージ | 円蓋部深さの消失 |
|---|---|
| I | 最大25% |
| II | 25〜50% |
| III | 50〜75% |
| IV | 75%以上 |
進行する場合がある。臨床的に静穏に見える結膜でも組織学的には炎症細胞浸潤が認められることがあり、「白い炎症(white inflammation)」と呼ばれる。英国の研究では、炎症がないにもかかわらず42%で疾患が進行したと報告されている。
眼類天疱瘡はII型過敏反応(自己抗体が組織を攻撃する反応)に分類される自己免疫疾患である1)。
主な標的自己抗原は以下の通りである。
遺伝的素因として、HLA-DR4との関連が知られる。特にHLA-DQB1*0301アレルは眼類天疱瘡および類天疱瘡疾患と強い関連を示す。
眼類天疱瘡の診断は臨床所見と免疫学的検査の組み合わせによる。
両眼性の慢性結膜炎が緩徐に進行し、瘢痕性変化を伴う点が特徴である。以下の場合に眼類天疱瘡を疑う。
印象細胞診(impression cytology)では結膜の杯細胞消失が認められる。臨床的な進行の監視には連続的な写真撮影が有用である。
確定診断には結膜の直接免疫蛍光法(DIF)が必要である。
眼類天疱瘡は結膜を消失させる疾患であるため、生検は慎重に行い、必要最小限の組織のみを採取すべきである。
瘢痕性結膜炎の鑑別は広範囲にわたる。
スティーブンス・ジョンソン症候群との鑑別は全身性の発熱・発疹の既往の有無による。偽類天疱瘡との鑑別には点眼薬の長期使用歴の聴取が重要である。
偽類天疱瘡は上皮毒性を有する点眼薬の長期使用で生じ、臨床所見は眼類天疱瘡と同一である。直接免疫蛍光法でも基底膜帯の線状染色を示すことがある。原因薬剤(ピロカルピン、チモロールなど)の中止により改善するかどうかが鑑別の決め手となる。
未治療では最大75%で疾患が進行する。全身免疫抑制療法が治療の主体であり、局所療法のみでは結膜瘢痕化の進行を阻止できない。
局所療法は眼表面疾患の対症療法であり、全身療法の代替にはならない。
急性増悪や進行例では副腎皮質ステロイド全身投与で速やかに消炎し、同時に免疫抑制薬を開始する。ステロイドは効果が得られたら漸減する。
数年間の治療後に静穏が維持されれば全身療法の終了を試みるが、最大22%で再発するため継続的なモニタリングが必要である。
数年間の全身療法で疾患が静穏に保たれれば、治療終了を試みることができる。ただし最大22%で再発が見られるため、治療終了後も定期的なモニタリングの継続が重要である。
眼類天疱瘡の病態はII型過敏反応に基づく1)。感受性のある個体において、結膜基底膜の透明帯(lamina lucida)に存在するヘミデスモソームのα6β4インテグリンβ4サブユニットに対する自己抗体が産生される1)。
自己抗体が基底膜抗原に結合すると補体が活性化され、結膜上皮の細胞毒性破壊が生じる。基底膜の破壊は水疱形成につながり、上皮および固有層に炎症細胞浸潤が出現する。
炎症の時間経過に伴う変化は以下の通りである。
眼類天疱瘡患者の結膜組織では複数の炎症性サイトカインが上昇している1)。
特にインターロイキン13は結膜線維芽細胞に対して線維化促進・炎症促進作用を持ち、臨床的に静穏な状態でも進行する結膜線維化に関与している可能性がある。
涙液中ではインターロイキン8、マトリックスメタロプロテアーゼ8、マトリックスメタロプロテアーゼ9、ミエロペルオキシダーゼの上昇が認められ、好中球浸潤に由来すると考えられている。
Jamesら(2021)は、粘膜類天疱瘡の病態にはα6β4インテグリンのβ4ペプチドの細胞質ドメインに対する自己抗体が関与し、罹患組織でインターロイキン1、インターロイキン6、インターロイキン12、インターロイキン13、インターロイキン17の上昇が認められることを報告した1)。JAK-STAT経路がこれらのサイトカインシグナルに関与するため、ヤヌスキナーゼ阻害薬による複数の炎症経路の同時抑制が治療効果をもたらす可能性が示唆された。
進行例では杯細胞の消失と涙腺導管の閉塞により、水層・ムチン層の涙液不足が生じる。この乾燥症と上皮下線維化・輪部幹細胞の破壊が重なり、角膜輪部幹細胞欠乏症と眼表面の角質化へ至る。
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬は、粘膜類天疱瘡の病態に関与する複数のサイトカインシグナル経路を同時に抑制する新規治療戦略である1)。
Jamesら(2021)は、複数の既存治療(メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、リツキシマブ、シクロホスファミドなど)に抵抗した難治性眼粘膜類天疱瘡 2例に対し、ヤヌスキナーゼ1/3阻害薬トファシチニブ(11mg徐放錠/日)を使用した1)。いずれの症例も8週間以内に結膜炎症の著明な改善を認め、1例は16ヶ月以上にわたりトファシチニブ単剤で疾患活動性の消失を維持した。もう1例はコスト問題で一時中止後に再燃したが、再開により再び静穏が得られた。
バリシチニブ(ヤヌスキナーゼ1/2阻害薬)も難治性眼粘膜類天疱瘡への有効例が報告されている1)。トファシチニブとバリシチニブに共通するヤヌスキナーゼ1阻害が治療効果の鍵である可能性が指摘されている1)。
非感染性ぶどう膜炎を対象としたトファシチニブ(NCT03580343)、バリシチニブ(NCT04088409)、フィルゴチニブ(NCT03207815)の介入試験が進行中である1)。
涙液中のインターロイキン8、マトリックスメタロプロテアーゼ9、ミエロペルオキシダーゼが治療反応のモニタリングに有用な可能性がある。全身免疫療法によりこれらのレベルが低下することが報告されている。特にミエロペルオキシダーゼは疾患活動性の定量的マーカーとして感度・特異度が高いとされる。
培養口腔粘膜上皮移植は、眼類天疱瘡を含む角膜輪部幹細胞欠乏症に起因する眼表面疾患の治療に有効性が示されている。培養粘膜上皮シート移植は、遷延性上皮欠損における上皮修復や瞼球癒着の進行防止にも有用である。