らい腫型(L型)・境界群(B群)
ぶどう膜炎:慢性虹彩毛様体炎が主体。サルコイドーシス類似の所見を呈し、長期経過で再燃を繰り返す。
虹彩真珠(iris pearls):病徴的所見。死滅したらい菌が徐々に拡大・融合し、有茎状となって前房内に停滞したもの。瞳孔縁や隅角にみられる小球型の白色結節。
虹彩萎縮・縮瞳:慢性炎症や瞳孔散大筋への交感神経障害の結果として認める。
白内障・続発緑内障:炎症の慢性化により発症。

ハンセン病(Leprosy、またはHansen’s disease)は、培養不能な抗酸菌であるらい菌(Mycobacterium leprae)によって引き起こされる慢性感染症である。主に皮膚・鼻口腔粘膜・末梢神経を侵し、慢性肉芽腫性炎症を引き起こす。眼も高頻度に侵される重要な標的臓器である。
1874年にノルウェーのHansenがらい菌を同定した。これはヒトの疾患の原因として細菌が特定された最初の事例である。治療は1940年代後半のダプソン(dapsone)開発まで不可能であった。
疫学
世界的には新規症例数は大幅に減少しているが、WHO報告によると2017年末時点で世界中に210,942人の新規症例が存在し、人口1万人あたりの有病率は0.25であった。主な発生国はインド・ブラジル・インドネシア・コンゴ民主共和国・アンゴラ・バングラデシュ・ナイジェリアなどである。日本では新規患者は年間数名で、そのほとんどが在日外国人である。約1,450名(2018年4月時点)の患者が療養所に入所しており、高齢化が進んでいる。
らい菌の増殖至適温度は31℃前後であり、体温の高い内臓への感染は稀で、体温の低い顔面の表層組織や眼の前眼部に特異的に誘引される。外胚葉起源の組織に親和性を持つため、末梢神経や眼に好発する。
感染経路
鼻分泌物のエアロゾルを介した飛沫感染が最も可能性が高い。らい菌は傷のない健康な皮膚を通過できないため、接触による感染は起こらない。感染力は非常に弱く、乳幼児期の濃厚感染以外はほとんど発病しない。北米では、ヒア・アルマジロからの動物由来感染(zoonotic transmission)も確認されており、一塩基多型(SNP)型3I-2がアルマジロと一致することが分子疫学的に示されている。1)
新規患者は年間数名であり、そのほとんどが在日外国人である。1996年の「らい予防法」廃止後は、感染症として保険診療が可能となり、新規患者の多くは大学病院や一般医療機関で診察を受けるようになった。国内発症は極めて稀だが、輸入例が散発的に報告される。
ハンセン病の症状は病型と侵された臓器によって大きく異なる。
全身症状
眼症状
眼病変の出現頻度は病型によって異なる。顔面神経麻痺に起因する眼瞼・角膜病変はいずれの病型にも発症するが、角膜炎・上強膜炎・強膜炎・ぶどう膜炎はらい腫型(L型)と境界群(B群)にのみ認められる。
らい腫型(L型)・境界群(B群)
ぶどう膜炎:慢性虹彩毛様体炎が主体。サルコイドーシス類似の所見を呈し、長期経過で再燃を繰り返す。
虹彩真珠(iris pearls):病徴的所見。死滅したらい菌が徐々に拡大・融合し、有茎状となって前房内に停滞したもの。瞳孔縁や隅角にみられる小球型の白色結節。
虹彩萎縮・縮瞳:慢性炎症や瞳孔散大筋への交感神経障害の結果として認める。
白内障・続発緑内障:炎症の慢性化により発症。
結核様型(T型)・全病型
兎眼(lagophthalmos):顔面神経麻痺による眼瞼閉鎖不全。露出性角膜症の主要な原因。
角膜知覚低下・麻痺:三叉神経第1枝(眼神経)の障害による。神経麻痺性角膜炎を引き起こす。
睫毛脱落(madarosis):上下眼瞼の眉毛脱落。
数珠状角膜神経:生体顕微鏡下で確認できる特徴的所見。
眼合併症の全体像
眼病変は患者の約3〜4割に発症するとされている(近年の新規患者での推定)。古い報告では7〜8割に認めるとされていた。
眼合併症の一覧:
虹彩真珠は死滅したらい菌が徐々に拡大・融合し、有茎状となって前房内に停滞したものである。らい腫型ぶどう膜炎に病徴的(pathognomonic)な所見であり、細隙灯顕微鏡で虹彩表面や前房内に小球型の白色結節として確認できる。
感染リスク因子
重症眼病変のリスク因子
病型別の眼病変リスク
らい腫型(L型)患者では菌が血流を介して眼球に直接侵入することがある。結核様型(T型)では主に神経障害(顔面神経・三叉神経)を介して間接的に眼障害が生じる。
WHOが推奨する診断は、以下の主要基準に基づく:
日本では(1)知覚低下を伴う皮疹、(2)神経麻痺・肥厚・運動障害、(3)らい菌検出、(4)病理組織所見の4項目を総合して診断する。
皮膚スミア検査
皮疹真皮内の組織液を採取し、抗酸菌染色して検鏡する。全ての部位で陰性の場合は少菌型、いずれかの部位で陽性の場合は多菌型と分類される。
病理組織特殊染色
抗酸菌染色やS100染色による病理組織検査。少菌型では類上皮細胞肉芽腫や巨細胞、多菌型では組織球性肉芽腫(泡沫状変化(レブローマ)や空洞化)を観察する。
PCR・血清抗PGL-1抗体検査
らい菌の特異的検出に用いる。日本ではハンセン病研究センターで検査可能。
メタゲノム次世代シーケンシングは新たな補完的診断ツールとして報告されており、特に非典型的な臨床像や髄液中の菌同定など困難症例での診断精度向上に寄与する。2)
細菌学的分類
| 分類 | 皮膚病変数 | 治療期間 |
|---|---|---|
| 少菌型 | 1〜5個 | 6か月 |
| 多菌型 | 6個以上 | 12か月 |
WHOが推奨する多剤併用療法(multidrug therapy; MDT)が標準治療である。日本ではリファンピシン・ジアミノジフェニルスルホン・クロファジミンに加え、必要に応じてオフロキサシンを追加する。これら4剤は保険適用となっている。
多菌型の標準レジメン(12か月)
少菌型の標準レジメン(6か月)
単一皮膚病変のみの場合(単回投与)
治療中にらい反応(急性反応)が生じることがあり、ステロイド内服が必要となることもある。
ぶどう膜炎の管理
兎眼の管理
兎眼(lagophthalmos)に対する手術成績は満足いくものではなく、最も使用される眼瞼縫合術(tarsorrhaphy)では不十分な場合がある。より効果的な手術オプションの必要性が指摘されている。
らい菌に対する患者の免疫応答の差異が、疾患の臨床スペクトラムを決定する。
免疫応答と病型の関係
らい反応(急性免疫合併症)
眼への影響の機序
純神経型ハンセン病(Pure Neural Leprosy; PNL)では皮膚病変がなく、末梢神経系のみに神経学的障害が現れる稀な病型である。サイトカインプロファイルの研究から、純神経型ハンセン病は結核様型・らい腫型双方のサイトカイン(CCL-2・インターロイキン10など)を有する独特の免疫学的プロファイルを示すことが報告されている。3)
Naiduら(2021)は、カナダ生まれの男性(50歳)においてアルマジロとの接触歴なしに発症したらい腫型ハンセン病の症例を報告した。1) 一塩基多型型3I-2はヨーロッパ起源であり、北米のアルマジロで発見される一塩基多型型と一致していた。カナダ国内での自然獲得感染は2例目とされる。
この報告は、北米における動物由来感染の増加と、新たな感染経路の可能性を示しており、非流行地でのハンセン病に対する臨床的注意喚起として重要である。
Zhaoら(2024)は、髄液のメタゲノム次世代シーケンシングによってM. leprae感染を確定診断した症例を報告した。2) 全身性エリテマトーデス・リスタリア菌性髄膜炎を合併した30歳女性において、スリット皮膚スメアとメタゲノム次世代シーケンシングの組み合わせにより多菌型ハンセン病(2型反応:らい性結節性紅斑)と確定した。メタゲノム次世代シーケンシングは従来の診断法を補完する新たなツールとして注目されている。