前眼部所見
豚脂様KP(mutton-fat KP):片眼性の豚脂様角膜後面沈着物と強い前房炎症が主徴。
扇状・斑状の虹彩萎縮:慢性ぶどう膜炎による閉塞性血管炎に続発。細隙灯の透照法(retro-illumination)で透照欠損として観察される。慢性期には麻痺性散瞳をきたすこともある。
高眼圧:線維柱帯炎(trabeculitis)や炎症細胞による線維柱帯閉塞が原因。多くの患者で眼圧上昇発作を繰り返す。
角膜所見:角膜知覚低下・偽樹枝状病変・角膜浮腫・角膜内皮炎・神経麻痺性角膜炎など多彩。

帯状疱疹ぶどう膜炎(Herpes Zoster Uveitis; HZU)は、ヘルペスウイルス科の2本鎖DNAウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella zoster virus; VZV)の再活性化によって生じるぶどう膜炎である。
初感染後、VZVは後根神経節に潜伏し、再活性化時に三叉神経第1枝(眼神経)に沿って眼症状を引き起こす。皮膚症状を伴う場合を眼帯状疱疹(Herpes Zoster Ophthalmicus; HZO)、皮膚症状なしで眼炎症のみの場合を無疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)と呼ぶ。
疫学:
VZVぶどう膜炎はHSVぶどう膜炎と比較して慢性化しやすく、再発時に眼圧上昇を繰り返す傾向がある。また皮膚の帯状疱疹発疹を伴う場合が多く、扇状の虹彩萎縮がより顕著に現れる。重症化すると急性網膜壊死(ARN)・進行性外層網膜壊死(PORN)など後部ぶどう膜炎に至ることがHZUの特徴である。
前部ぶどう膜炎として発症した場合:
後部病変が主体の場合:
前駆期として軽度の発熱・倦怠感・皮膚の感覚過敏・チクチク感・進行性の痛みが先行することがある。その後3〜5日以内に、正中線を越えない三叉神経眼神経枝に沿った皮膚分節性の発疹が現れる。
前眼部所見
豚脂様KP(mutton-fat KP):片眼性の豚脂様角膜後面沈着物と強い前房炎症が主徴。
扇状・斑状の虹彩萎縮:慢性ぶどう膜炎による閉塞性血管炎に続発。細隙灯の透照法(retro-illumination)で透照欠損として観察される。慢性期には麻痺性散瞳をきたすこともある。
高眼圧:線維柱帯炎(trabeculitis)や炎症細胞による線維柱帯閉塞が原因。多くの患者で眼圧上昇発作を繰り返す。
角膜所見:角膜知覚低下・偽樹枝状病変・角膜浮腫・角膜内皮炎・神経麻痺性角膜炎など多彩。
後眼部所見
急性網膜壊死(ARN):免疫正常者に発生。周辺部から始まり中央へ広がる白色または黄色の網膜壊死。50%以上で裂孔原性・牽引性網膜剥離を合併する。
進行性外層網膜壊死(PORN):免疫不全者に発生。後極部・中間周辺部における多局性の深い網膜混濁で周辺部へ拡大。
網膜血管炎・視神経炎:局所性または多局性の病変。
硝子体炎(Vitritis):後眼部侵犯時に認める。
ハッチンソン徴候(Hutchinson’s sign): 鼻尖部に帯状疱疹発疹が認められる所見。眼内炎症の予測因子として重要。三叉神経鼻毛様体枝の侵犯を示す。
起こりうる。皮膚症状を伴わない「無疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)」では発疹が出ないまま眼内炎症が生じる。このため皮膚症状がなくてもHZUを疑い、前房水PCRなどの検査が必要になる場合がある。
VZVはウイルスDNA分子量が約80×10^6と、ヒトヘルペスウイルス中で最も小さい。ウイルスの基本構造はHSVと同様で、後根神経節に潜伏感染する。
VZV再活性化のリスク因子:
HIV陽性患者の前部ぶどう膜炎の原因として、VZVが43%と最多を占めるとの報告がある1)。
HZOの存在または既往に基づく臨床診断が多い。皮膚病変がない場合、以下の組み合わせで疑う:
特にVZV関連後部ぶどう膜炎(ARN・PORN疑い)では、検査結果を待つことなく経験的治療を開始すべきである。髄膜炎が疑われる場合は脳MRIと腰椎穿刺を速やかに実施する。
フックス異色性虹彩毛様体炎(FHI)との鑑別(重要):
VZV再活性化による虹彩萎縮・虹彩異色がFHIに類似し、誤診されうる1)。FHI除外に必須な所見(90%以上で存在):硝子体炎・微細星状KP・低フレア値(レーザーフレア光度計<20ph/ms)・後癒着なし・虹彩テクスチャー差・嚢胞様黄斑浮腫なし・FA上の乳頭過蛍光1)。これらが欠如する場合はFHIの診断は支持されない。
全身抗ウイルス薬(10〜14日間):
日本の教科書的処方例(VZVぶどう膜炎):
局所ステロイド:
プレドニゾロン酢酸塩1%(ベタメタゾン0.1%)を1日4回から開始し、徐々に漸減する。全身ステロイドの使用は議論があり、免疫抑制状態では禁忌。
散瞳・調節麻痺薬:
快適性向上と後癒着リスク低減のために使用する。
眼圧管理:
房水産生抑制薬(βブロッカー・炭酸脱水酵素阻害薬)を積極的に使用。プロスタグランジン関連薬はVZV再活性化リスクがあるため避ける。
抗ウイルス薬の静脈内投与(入院管理):
ガンシクロビル(ganciclovir)・ホスカルネット(foscarnet)はアシクロビルよりも眼内バイオアベイラビリティが高い。眼内抗ウイルス薬注射(硝子体注射)が必要となる場合もある。全身ステロイドは避け、抗ウイルス療法開始後少なくとも24時間後に追加検討する。
再発性疾患では抗ウイルス療法の期間延長が有益な場合がある。
ワクチンは完全な予防ではないが、発症率を50%低下させる効果がある。ワクチン接種後の接種部位周辺での帯状疱疹再活性化の報告はあるが、眼ヘルペスの発症を大幅に低減できる。特に50歳以上の高リスク者には接種が推奨される。
VZVはウイルスDNA分子量が80×10^6と小さく、後根神経節に潜伏感染する。再活性化後、三叉神経軸索流によって角膜・結膜へ病変を形成し、眼内にも波及する。
眼内での機序:
急性網膜壊死(ARN)では、周辺部網膜から始まる壊死性網膜炎が視神経炎・血管炎・網膜剥離へと進展する。PORNは免疫不全患者でVZVが主に外層網膜を侵犯し、急速に壊死が拡大する病態で、予後がきわめて不良である。
Papasavasら(2021)は45歳のHIV陽性患者(CD4 332/mm³)において、VZVぶどう膜炎が虹彩異色を伴いFHIと誤診された症例を報告した1)。ステロイド点眼中止後10日で豚脂様KP・後癒着・フレア増大(20→51.4ph/ms)が出現し、VZVぶどう膜炎の診断に至った。抗ウイルス薬とステロイドの二重療法を継続し、抗レトロウイルス治療(ART)開始後にCD4数の回復を待って治療調整した。
一部の著者は、抗ウイルス薬の硝子体注入とレーザー光凝固を伴う早期硝子体手術(pars plana vitrectomy)がその後の網膜剥離発生率を低下させると示唆しているが、依然として議論がある。急性網膜壊死後の網膜剥離に対してはシリコーンオイルタンポナーデを伴う硝子体手術が必要となり、長期的な管理が求められる。
細隙灯検査による定性的な炎症評価に加え、レーザーフレア光度計(LFP)による房水フレアの定量化がHZUの客観的モニタリングに有用であることが示されている1)。LFP値の変動は治療反応性の評価・鑑別診断(FHI鑑別)に活用されている。