非感染性
HLA-B27関連:最も多い全身疾患との関連。強直性脊椎炎・乾癬性関節炎・反応性関節炎・炎症性腸疾患を含む脊椎関節炎と関連する。強直性脊椎炎患者の約半数に急性前部ぶどう膜炎がみられる。
サルコイドーシス:肉芽腫性前部ぶどう膜炎を呈する。
ベーチェット病:前房蓄膿を伴う前部ぶどう膜炎として発症する。
若年性特発性関節炎:小児で慢性かつしばしば無症状の両眼性前部ぶどう膜炎を呈する。
IgG4関連疾患:高眼圧性肉芽腫性前部ぶどう膜炎として発症する稀な原因。血清IgG4が著明高値を示す8)。

急性前部ぶどう膜炎は、急性に発症する前眼部炎症を主体とするぶどう膜炎の総称である。前房内に炎症細胞が認められるものを虹彩炎(iritis)、前部硝子体にも炎症が及ぶものを**虹彩毛様体炎(iridocyclitis)**と呼ぶ。
急性前部ぶどう膜炎はぶどう膜炎の中で最も多い病型である1)。欧米ではぶどう膜炎全体の約50%を占めるのに対し、わが国での頻度は2.5〜6%程度と地域差がある。若年男性に多く、HLA-B27陽性者での発症が特徴的で、わが国の急性前部ぶどう膜炎患者におけるB27陽性率は4〜63%の幅で報告されている。
急性前部ぶどう膜炎の主要な病因は、特発性・リウマチ性疾患関連・Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎・ヘルペス性ぶどう膜炎の4つに大別される1)。適切な抗炎症療法により症状は消失する例が多いが、再発を繰り返す例も少なくない。治療中止後3か月以上炎症が再発しなければ「限局的な期間」の炎症として扱う。
欧米ではぶどう膜炎全体の約50%を占める非常に頻度の高い疾患だが、日本では2.5〜6%程度にとどまり、頻度には地域差がある。日本では感染性ぶどう膜炎(サイトメガロウイルス等)や原田病・ベーチェット病が相対的に多い。
通常は片眼性で急性に発症する。主な自覚症状は以下の通りである。
細隙灯顕微鏡検査で以下の所見を確認する。
HHV-6A関連の急性前部ぶどう膜炎では眼瞼浮腫・前房内の大量の線維膿性滲出物・眼圧50 mmHgを超える高眼圧という重篤な所見が報告されている1)。ゾレドロン酸誘発性の急性前部ぶどう膜炎では投与後24〜36時間での急速な発症が特徴で、dusty KP・前房フレア・フィブリン滲出を呈する2)。
急性前部ぶどう膜炎は病因により非感染性(自己免疫・炎症性)、感染性、薬剤誘発性の3群に分類される。
非感染性
HLA-B27関連:最も多い全身疾患との関連。強直性脊椎炎・乾癬性関節炎・反応性関節炎・炎症性腸疾患を含む脊椎関節炎と関連する。強直性脊椎炎患者の約半数に急性前部ぶどう膜炎がみられる。
サルコイドーシス:肉芽腫性前部ぶどう膜炎を呈する。
ベーチェット病:前房蓄膿を伴う前部ぶどう膜炎として発症する。
若年性特発性関節炎:小児で慢性かつしばしば無症状の両眼性前部ぶどう膜炎を呈する。
IgG4関連疾患:高眼圧性肉芽腫性前部ぶどう膜炎として発症する稀な原因。血清IgG4が著明高値を示す8)。
感染性・薬剤誘発性
ヘルペス系ウイルス(HSV・VZV・CMV):角膜炎・虹彩炎を伴う眼部ヘルペスとして発症する。
HHV-6A:前房穿刺液のmNGSでHHV-6A DNAが検出された症例が報告されている1)。
梅毒:あらゆるぶどう膜炎パターンを模倣し得るため、常に除外が必要。
ゾレドロン酸(ビスホスホネート):初回静注後の急性前部ぶどう膜炎発症率は約1.1%、平均発症までの期間は3日(範囲2〜4日)2)。経口アレンドロネートの年間発症率0.029%に対し大幅に高い。
COVID-19ワクチン:接種後の急性前部ぶどう膜炎リスク上昇が報告されている。Pfizer-BioNTech製では初回接種5日後・2回目接種3日後に同側性に発症した例がある4)。
ゾレドロン酸による急性前部ぶどう膜炎発症リスクについては、WHOの薬事監視データベース(VigiBase)でも48,990件中195件のぶどう膜炎が報告されており、ビスホスホネート初回投与時の相対リスクは1.45(95% CI: 1.25–1.68)と報告されている3)。長期経口アレンドロネートを忍容している患者でも、ゾレドロン酸静注後に急性前部ぶどう膜炎を発症するリスクは除外できない2)。HLA-B27関連の急性前部ぶどう膜炎患者の19.2〜50%に強直性脊椎炎を合併するため、眼症状だけでなく脊椎・関節症状の評価も重要である。
ワクチン関連の急性前部ぶどう膜炎は一過性であり、局所ステロイド点眼で多くは改善する。現在の知見では接種を中止する根拠にはならないとされている4)5)6)。ただし発症した際は眼科での治療を受け、接種の継続については担当医に相談することが望ましい。
診断は、発症様式・経過・側性(片眼/両眼)・眼所見の慎重な臨床的特徴付けに基づく。
細隙灯顕微鏡検査 が最も重要な診断ツールである。前房内の炎症細胞・フレア・角膜後面沈着物(KP)・フィブリン・前房蓄膿・虹彩結節・虹彩後癒着を評価する。初診時に散瞳して眼底検査を実施し、後眼部炎症の有無で鑑別診断の方向性を定める。
以下の全身検査が診断に有用である。
広範な非標的の「ぶどう膜炎スクリーニングパネル」は予測値が低いため推奨されない。
以下の疾患との鑑別が重要である。
| 疾患 | 前房所見の特徴 | 鑑別ポイント |
|---|---|---|
| ベーチェット病 | さらさら・移動性あり | 眼底病変・口内炎・外陰部潰瘍 |
| 急性網膜壊死 | 豚脂様KP | 周辺部網膜の壊死巣 |
| 細菌性眼内炎 | 重篤な膿性混濁 | 手術既往・外傷・全身感染源 |
局所抗炎症治療と散瞳薬が治療の根幹である。
| 薬剤 | 用法・用量 | 目的 |
|---|---|---|
| リンデロン点眼(ベタメタゾン0.1%) | 初期:1〜2時間ごと→漸減(6→4→2回/日) | 炎症抑制 |
| ミドリンP点眼(トロピカミド・フェニレフリン配合) | 1日3回 | 虹彩後癒着予防・疼痛軽減 |
| ネオシネジコーワ点眼(フェニレフリン5%) | 1日3回 | 散瞳補助 |
炎症が強い場合は以下を追加する。
局所療法にもかかわらず視力を脅かす再発性・慢性疾患には全身療法を追加する。
日本での標準治療はステロイド点眼(リンデロン点眼0.1%:炎症の強さに応じて1〜2時間ごとから開始し漸減)と散瞳薬(ミドリンP点眼1日3回)の組み合わせが基本である。虹彩後癒着の予防と疼痛軽減のために散瞳薬を必ず併用する。炎症が強い場合は結膜下注射や短期間の内服ステロイドを追加する。
遺伝的素因(HLA-B27陽性)に感染曝露が加わると、分子模倣(molecular mimicry)により眼特異的抗原との交差反応が生じ、虹彩炎が誘発されると考えられている。TNF-αは強直性脊椎炎の罹患仙腸関節部から遺伝子・蛋白レベルで検出されており、ASおよびその関連ぶどう膜炎の病態に中心的な役割を担う。腸内マイクロバイオームがHLA-B27関連疾患の発症に関与する可能性も動物実験で示唆されている。
含窒素ビスホスホネートはメバロン酸経路を阻害してファルネシルピロリン酸(FPP)・ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)の合成を抑制する3)。その結果イソペンテニルピロリン酸(IPP)・ジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)が蓄積し、γδT細胞を活性化してIL-1・IL-6・TNF-α・IFN-γなどの炎症性サイトカインが放出される2)3)。
Jin et al.(2021)は、この急性前部ぶどう膜炎が発熱・筋肉痛・関節痛と同時に出現することから急性相反応(APR)の一部と位置づけた2)。25(OH)D < 30 ng/mLの患者ではAPR発症リスクが有意に高く、ビスホスホネートの涙液中への分泌が眼内炎症を惹起する可能性も指摘されている2)。
ゾレドロン酸機序
メバロン酸経路阻害:FPP・GGPP合成を抑制する。
IPP・DMAPP蓄積:γδT細胞を強力に活性化する。
炎症性サイトカイン放出:IL-1・IL-6・TNF-α・IFN-γが放出される。
ぶどう膜炎発症:眼局所の炎症として急性発症する。
ワクチン関連機序
分子模倣:ウイルス成分が自己抗原に構造的に類似し、BおよびT細胞が交差反応を起こす4)5)6)。
バイスタンダー活性化:非特異的な過剰免疫応答が局所炎症環境を形成する6)。
DAMPs/PAMPs:mRNAワクチン成分が免疫応答を誘発する7)。
免疫記憶の減衰:ワクチン免疫原性は4〜6か月で減衰する7)。
HHV-6はウイルス糖蛋白H(gH)を介してCD46(補体制御因子)と相互作用し、細胞融合・侵入を起こす1)。CD46はすべての有核細胞膜上に存在するため、Tリンパ球・線維芽細胞・上皮細胞・内皮細胞など多様な細胞型に感染が可能である1)。HHV-6A型はHHV-6B型よりも高い毒性を示し、gH/gL/gQ1/gQ2の4量体複合体を介してウイルス複製なしにCD46依存性の細胞融合を誘導する1)。正常眼内液からのHHV-6 DNA検出率は2%未満であることから、眼内液陽性は活動性感染を示唆する所見として重要である1)。
ゾレドロン酸がメバロン酸経路を阻害することでIPP・DMAPPが蓄積し、γδT細胞が活性化されてIL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインが大量に放出される。この全身炎症反応(急性相反応)の一環として眼内でぶどう膜炎が発症すると考えられている2)3)。
HHV-6が眼内炎症の唯一の病原体として確認された症例は文献上9例のみであり、うち4例は事前に基礎疾患のない健常者であった1)。前眼部限局型のHHV-6A関連の急性前部ぶどう膜炎は非常に稀な報告である。
Ma et al.(2024)は、mNGSにより従来のPCRでは検出されなかったHHV-6Aを房水と血液の両方から検出した1)。フォスカルネット+ガンシクロビル静注による抗ウイルス治療後、矯正視力は2か月で20/50、5か月で20/22に改善した。治療への反応性が活動性感染の根拠となり、染色体組み込みHHV-6(ciHHV-6)との鑑別にも有用であった。
mNGSは原因不明の急性前部ぶどう膜炎における病原体同定において有望な技術として注目されており、今後の診断応用が期待される1)。
34の症例報告のレビューでは、大半が初回投与後7日以内に片側性に発症し、ステロイド点眼で後遺症なく改善していた3)。現行の骨粗鬆症治療ガイドラインではゾレドロン酸誘発性の急性前部ぶどう膜炎は絶対禁忌として記載されておらず、再投与時の再発リスクに関するデータは依然として限定的である2)3)。
初回接種後にぶどう膜炎リスクが上昇するという大規模集団研究の知見が蓄積しつつある。前部ぶどう膜炎が最多であり、大部分が局所ステロイドで消退する4)5)。
Sanjay et al.(2022)は、41例のワクチン後の急性前部ぶどう膜炎を多施設研究として報告した5)。平均発症は接種後5.5日(範囲1〜14日)で、大半がPfizer製ワクチン後であり局所ステロイドで改善した。免疫抑制薬(メトトレキサート25 mg/週)投与中でも発症する例が示された。
造血幹細胞移植後の慢性移植片対宿主病患者ではModerna接種3日後に急性前部ぶどう膜炎(cell 4+)+前房蓄膿が発症し、硝子体内デキサメタゾン0.5 mg注射により発症6か月後に改善した難治症例も報告されている7)。ワクチン接種を中止する根拠にはならないとされているが、免疫抑制状態の患者では特別な注意が必要である。
前部ぶどう膜炎単独でのIgG4関連疾患発症報告は稀である8)。血清IgG4高値(1381 mg/dL;正常値1〜123 mg/dL)が診断の手がかりとなった8)。リツキシマブが難治例・再発例に対して有効であるとの症例報告があり、今後の大規模な検討が期待される8)。