酢酸セルロース膜
孔径0.22μmのミリポアフィルター:最良とされる標準的な選択。
形状:5mmの細片にカット(一端四角形、一端テーパー状)。オリエンテーション用に表面に印をつける。
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)用途:直径10mmの円形フィルターを使用する。

圧痕細胞診(impression cytology)は、酢酸セルロースフィルターペーパーを眼表面に適用して表層上皮細胞を採取し、組織学的・免疫組織化学的・分子生物学的解析を行う低侵襲の検査法である。
1977年にEgbert et al.が結膜杯細胞の研究目的で技法を確立し、その後Tsengが改良して眼表面疾患への臨床応用が広まった。
病理診断は組織診と細胞診に大別される。細胞診は組織構造の情報が得られないため組織診の補助的検査に位置づけられるが、眼では組織診の侵襲が大きいため細胞診の有用性が高い。
圧痕細胞診はフィルターペーパーで上皮を引きはがし、細胞を二次元的なシートとして採取する。結膜スメアは綿棒や細胞診スパーテルで擦過して採取する。圧痕細胞診は杯細胞の分布・密度の評価に優れている。
圧痕細胞診は「症状」を診る疾患ではなく検査法であるため、本セクションでは採取標本で観察される所見と、その臨床的意義を記述する。
圧痕細胞診は以下の幅広い疾患・病態に適用される。
眼表面疾患
腫瘍
眼表面扁平上皮腫瘍は角結膜上皮内腫瘍(conjunctival intraepithelial neoplasia, CIN)と浸潤性扁平上皮癌に分類される。主要なリスク要因は以下の通りである。
フィルターペーパーの種類を比較する。
酢酸セルロース膜
孔径0.22μmのミリポアフィルター:最良とされる標準的な選択。
形状:5mmの細片にカット(一端四角形、一端テーパー状)。オリエンテーション用に表面に印をつける。
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)用途:直径10mmの円形フィルターを使用する。
ニトロセルロース膜
台形短冊状(3×6mm程度):日本の教科書で示される形状。
表裏の区別が必要:滑らかな面が表側。裏側(粗面)を結膜上皮に接着させる。
免疫組織化学:ニトロセルロース膜が適している。
Biopore膜
角膜輪部幹細胞疲弊症診断への応用:酢酸セルロース、ニトロセルロースとともに選択肢となる。
共通の特性:1〜3層の表面上皮を採取できる。
採取部位は上皮欠損となり、帰宅後に眼痛を生じる場合がある。事前に患者へ説明し、角膜保護剤の点眼を処方する。
採取部位に上皮欠損が生じるため、帰宅後に眼痛を感じる場合がある。検査前に説明のうえ、角膜保護剤点眼を処方して対応する。多くの場合、欠損は数日以内に自然修復される。
各疾患の圧痕細胞診所見を以下に示す。
角膜輪部幹細胞疲弊症の診断において、圧痕細胞診はゴールドスタンダードと考える意見がある(ただし臨床では広く使用されているわけではない)。
角膜上に杯細胞が出現することが結膜化(conjunctivalization)の直接的証拠となり、診断の根拠となる。フィルターを角膜中央部に適用し、杯細胞の有無を確認する。
各腫瘍診断における圧痕細胞診の予測精度を以下に示す。
| 疾患 | 診断予測精度 |
|---|---|
| 眼表面扁平上皮腫瘍(組織学的診断) | 80% |
| 中等度異形成 | 77% |
| アカントアメーバ角膜炎 | 94.6% |
眼表面扁平上皮腫瘍の確定診断のゴールドスタンダードは切除生検である。圧痕細胞診・剥離細胞診は表層と浸潤性病変の区別が困難であり、確定診断には用いられない。
慢性春季カタルを背景とする眼表面扁平上皮腫瘍では、偽上皮腫性過形成との鑑別が難しい。圧痕細胞診で多形性のある色素含有上皮細胞が検出された場合、眼表面扁平上皮腫瘍を疑う端緒となる1)。
組織学的診断予測精度は80%であり、確定診断には切除生検が必要である。圧痕細胞診では浸潤性病変と上皮内病変の区別が困難なため、補助的な診断ツールとして位置づけられる。
酢酸セルロースフィルターは眼表面上皮の最表層(1〜3層)を粘液分泌物とともに引きはがして採取する仕組みである。
フィルターをしっかり接着させた場合、数層の重層化した細胞シートとして採取が可能となる。これにより細胞の形態・分布・密度を二次元的に評価できる。
正常結膜上では杯細胞が結膜全体に分布している。慢性炎症や重度ドライアイは杯細胞を破壊し、上皮化生(扁平上皮化)を引き起こす。角膜輪部幹細胞疲弊症では輪部の幹細胞が枯渇することで、本来は角膜上皮を補充する機能が失われ、結膜上皮が角膜表面を覆う「結膜化」が生じる。圧痕細胞診で角膜上の杯細胞が同定されることが、この結膜化の証拠となる。
圧痕細胞診は低侵襲であるものの、採取部位に上皮欠損を生じるため完全な非侵襲的検査とはいえない。近年、以下の新しいモダリティが発展している。
各診断モダリティの特性を以下に示す。
| モダリティ | 特性 | 備考 |
|---|---|---|
| 圧痕細胞診 | 杯細胞・免疫組織化学評価が可能 | 1〜3層のみ評価、上皮欠損あり |
| 生体共焦点顕微鏡 | 1〜10μmの解像度で細胞定量化 | 5〜15分の患者協力が必要 |
| 高解像度光干渉断層計 | 浸潤性と上皮内病変の区別 | 上皮肥厚 >120μmで浸潤性を示唆 |
生体共焦点顕微鏡は、角膜・結膜細胞を生体内で1〜10μmの解像度で観察可能である。細胞の定量化が可能であるが、5〜15分の患者協力が必要となる。
高解像度光干渉断層計(高分解能前眼部光干渉断層計)は上皮肥厚(120μmを超える場合)の同定により、浸潤性と上皮内病変の区別に有用とされる。
眼表面扁平上皮腫瘍に対してはマイトマイシンC 0.04%、5-フルオロウラシル、インターフェロンα-2b、抗VEGF薬、シドフォビルなど複数の薬物療法が検討されているが、公式ガイドラインは未確立の状況にある。
慢性春季カタルを背景とする24歳男性の眼表面扁平上皮腫瘍において、圧痕細胞診で多形性色素含有上皮細胞が検出され、マイトマイシンC 0.04%の2サイクル治療後に腫瘍縮小が確認された。その後の切除生検(4mmマージン、ノータッチ法、凍結療法、羊膜移植を含む)の病理所見は軽度〜中等度異形成であり、6か月の経過で再発は認められなかった1)。圧痕細胞診はマイトマイシンC治療後のモニタリングにも応用可能とされる。
生体共焦点顕微鏡および高解像度光干渉断層計が発展している非侵襲的モダリティである。高解像度光干渉断層計は上皮肥厚(>120μm)を指標に浸潤性病変の区別に有用とされるが、いずれも研究段階の要素を含む。圧痕細胞診は杯細胞の同定や免疫組織化学染色が可能な点で今も独自の価値を持つ。