増殖型(嚢胞腺腫)
真の乳頭:血管性結合組織芯を持つ乳頭状突起を認める。
腺腫性過形成:管腔内に増殖性変化を示す。
ER/PR陽性:約80%でエストロゲン・プロゲステロン受容体が陽性である4)。

アポクリン汗嚢腫(apocrine hidrocystoma)は、アポクリン汗腺の分泌部から発生する良性嚢胞性腫瘍である。1964年にMehreganにより初めて報告され、頭頸部領域のアポクリン汗腺の嚢胞性増殖として記述された1)。単純な分泌物の貯留嚢胞ではなく、アポクリン腺の腺腫性新生物と位置づけられている1)5)。
眼瞼においては、修飾アポクリン腺であるMoll腺から発生する。好発部位は頭皮、顔面、腋窩、外耳道、眼瞼、鼠径部などの毛包が豊富な領域である1)。日本の眼科教科書では「アポクリン嚢胞腫」として眼瞼良性腫瘍の分類に記載されている。
疫学的には30〜70歳の成人に好発し、性差はない1)。小児・思春期の発症は稀である5)。多くは孤立性であるが、多発例ではSchopf-Schulz-Passarge症候群やGoltz-Gorlin症候群との関連が報告されている2)5)。
アポクリン汗嚢腫はアポクリン腺由来、エクリン汗嚢腫はエクリン腺由来である。アポクリン型は通常孤立性で3〜15mmの大きさであり、毛包が豊富な部位に好発する。組織学的には断頭分泌やリポフスチン顆粒の有無で鑑別される。
アポクリン汗嚢腫は通常無症状である。眼瞼に発生した場合、以下の症状を呈することがある。
アポクリン汗嚢腫自体は良性であるが、基底細胞癌や無色素性メラノーマなど悪性腫瘍との鑑別が必要である。臨床所見のみでは確定診断が困難な場合があるため、眼瞼に嚢胞性腫瘤を認めた場合は眼科を受診し、組織学的検査を受けることが望ましい。
アポクリン汗嚢腫の病因は完全には解明されていない。アポクリン腺分泌細胞の調節不全による腫瘍性増殖が主たる仮説であり、単純な分泌物の貯留ではなく腺腫性新生物と考えられている1)5)。
発生に関する仮説は以下の通りである。
明確な素因は確立されておらず、自然退縮の記録もない5)。
外観(青色調・ドーム状・可動性・透光性)から疑えるが、臨床診断の精度には限界がある。術前に汗嚢腫と診断されても、組織学的に嚢胞腺腫(増殖型)であったり、逆に表皮嚢腫と誤診される場合がある4)。
摘出後の切除生検による組織病理学的検査が確定診断に必須である。摘出した腫瘍は必ずホルマリン固定し、顕微鏡下で診断する。
主な組織学的所見は以下の通りである。
増殖型(嚢胞腺腫)と非増殖型はSugiyamaらの分類に基づいて区別される4)。
増殖型(嚢胞腺腫)
真の乳頭:血管性結合組織芯を持つ乳頭状突起を認める。
腺腫性過形成:管腔内に増殖性変化を示す。
ER/PR陽性:約80%でエストロゲン・プロゲステロン受容体が陽性である4)。
非増殖型(汗嚢腫)
偽乳頭:結合組織芯を持たない偽乳頭のみを認める。
単純嚢胞:管腔内増殖を伴わない。
ER/PR陰性:ホルモン受容体は通常陰性である4)。
免疫組織化学ではCK7陽性、p63陽性(筋上皮細胞)を示す5)。
主要な鑑別疾患を以下に示す。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| エクリン汗嚢腫 | エクリン腺由来。多発性が多い |
| 基底細胞癌 | 悪性。真珠様光沢、潰瘍形成 |
| 無色素性メラノーマ | 悪性。急速増大、血管拡張 |
T2高信号の嚢胞性病変は海綿状血管腫と誤診されうる2)。内部隔壁を伴う場合は表皮嚢腫との鑑別も問題となる4)。MRIのみでの確定診断は困難であり、最終的には組織病理学的検査が必要である。
狭いマージンでの完全外科的切除が第一選択である1)2)。局所麻酔下で施行可能であり1)4)、完全切除で予後はきわめて良好である。不完全切除では再発の報告がある2)。
嚢胞壁が破れやすい場合、フィブリン糊にフルオレセイン(またはインドシアニングリーン、トリパンブルー、メチレンブルー)を混合して嚢胞を充填し、切除マージンの確認を促進する術中技法が報告されている2)。
小さく無症状の病変は経過観察も許容される2)。
外科的切除
適応:症状のある病変、診断確定が必要な病変。
方法:局所麻酔下の狭いマージンでの完全切除。
再発率:完全切除で最小限。
利点:確定診断が同時に得られる。
代替療法
針穿刺:簡便だが嚢胞壁が残存し再発率が高い1)5)。
硬化療法:高張ブドウ糖の嚢胞内注入1)2)。
トリクロロ酢酸:15mmまでの病変に有効2)。
CO2レーザー蒸散:多発性散在病変に適する2)5)。
そのほかの代替治療として、ボツリヌス毒素A1)、1%アトロピンクリームまたはスコポラミンクリーム局所塗布後の針穿刺5)、電気外科手術5)が報告されている。
針穿刺では嚢胞内容物を排出できるが、嚢胞壁が残存するため再び液体が貯留し再発する。完全な嚢胞壁の除去が再発防止の鍵であり、外科的切除が推奨される1)5)。
アポクリン汗嚢腫はアポクリン汗腺分泌部の腺腫性嚢胞増殖により発生する。単なる分泌物の貯留嚢胞ではなく、腺腫性新生物である1)5)。
嚢胞壁は二層上皮(分泌性内層+筋上皮外層)からなり、アポクリン腺起源を反映している。内層の分泌上皮はアポクリン腺に特徴的な断頭分泌(decapitation secretion)を示す。細胞頂部が突出してapical snoutを形成し、離断される分泌様式である1)2)3)。
嚢胞液中にはリポフスチン顆粒(PAS陽性)が含まれ、これが臨床的に観察される青色調の原因となる1)5)。
増殖型(嚢胞腺腫)では乳頭状・腺腫状の管腔内増殖を認め、血管性結合組織芯を持つ真の乳頭が形成される4)。増殖型の約80%でエストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PR)が陽性であり、非増殖型では陰性である4)。この所見はホルモン依存性の増殖機序の関与を示唆している。
汗嚢腫→嚢胞腺腫→内分泌ムチン産生汗腺癌(endocrine mucin-producing sweat gland carcinoma)への多段階的な進行の可能性が示唆されている4)。
Sugiyamaらの分類に基づく増殖型(嚢胞腺腫)と非増殖型の区別が提唱されている4)。結合組織芯を持つ真の乳頭の有無が分類の基準となる。
Al Ghulaigaら(2024)は4例の眼周囲アポクリン嚢胞腺腫を報告し、術前に汗嚢腫と臨床診断された3例が組織学的に増殖型(嚢胞腺腫)であったことを示した。増殖型の80%でER/PRが強陽性であり、非増殖型との生物学的差異が確認された4)。
増殖型(嚢胞腺腫)が内分泌ムチン産生汗腺癌への前駆病変となる可能性が示唆されている4)。ER/PR免疫染色による悪性化リスクの層別化が今後の課題である。
CO2レーザー蒸散、高張ブドウ糖硬化療法、トリクロロ酢酸注入などの低侵襲治療の有効性と再発率の体系的評価が進められている2)。
Huangら(2022)はフィブリン糊にフルオレセインを混合して嚢胞を充填する術中マーキング技法を報告し、完全切除の確認に有用であることを示した2)。
Sahuら(2023)は鼻涙管に沿ったアポクリン汗嚢腫の初めての症例を報告した3)。涙嚢嚢胞・類皮嚢胞・涙嚢瘤との鑑別が重要であり、同部位での発生例の蓄積が必要とされている。