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網膜・硝子体

水晶体起因性ぶどう膜炎(水晶体過敏性眼内炎)

1. 水晶体起因性ぶどう膜炎とは

Section titled “1. 水晶体起因性ぶどう膜炎とは”

水晶体起因性ぶどう膜炎(lens-induced uveitis; LIU)は、正常では免疫学的特権を有する水晶体蛋白が眼内に露出することで生じる肉芽腫性ぶどう膜炎である。「水晶体過敏性眼内炎(phacoanaphylactic endophthalmitis)」とも呼ばれる。1919年に Verhoeff と Lemoine により初めて報告された。

全ぶどう膜炎に占める頻度は1%未満と極めて稀であり1)2)、ある系統的レビューでは140例中6例のみが臨床的に診断されたにとどまる。1)現代の白内障手術技術の向上に伴い、発症はさらに減少している。

本疾患は発症機序により以下の2病型に大別される。1)

水晶体性(IV型)

別称:phacoantigenic uveitis

機序水晶体嚢の破裂に伴い水晶体蛋白が前房内に大量露出。IV型(細胞性・遅延型)過敏反応を惹起する。

原因:外傷・手術による嚢損傷が主体。

水晶体溶解性

別称:phacolytic uveitis / glaucoma

機序:嚢がintactなまま過熟白内障の蛋白が嚢から漏出。マクロファージが蛋白を貪食し線維柱帯を閉塞させる。

原因:過熟白内障の自然経過による。

Q 水晶体起因性ぶどう膜炎は感染性眼内炎と同じものか?
A

異なる疾患である。感染性眼内炎は細菌・真菌などの病原微生物による化膿性炎症であるのに対し、LIUは水晶体蛋白への免疫反応による無菌性の肉芽腫性炎症である。ただし臨床像が類似することがあり鑑別を要する。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。

発症は急性〜亜急性であることが多く、患眼のみに症状が生じる。

  • 視力低下:手動弁〜光覚弁まで著しく低下することがある。1)2)
  • 眼痛:中等度〜高度の疼痛を呈する。1)2)
  • 充血:混合充血(毛様充血+結膜充血)を認める。
  • 羞明・流涙:炎症に伴って生じる。

細隙灯顕微鏡所見が診断の基本となる。

  • 眼圧上昇:著明な眼圧上昇を認めることが多い。Lopez-Zunigaらの報告では IOP 15 mmHg1)、Bievel-Radulescuらの報告では IOP 50 mmHg に達した症例が記載されている。2)
  • 前房フィブリン:炎症が重篤な場合に観察される。1)
  • 前房蓄膿(pseudohypopyon):前房底部に白色層状の沈殿物を認める。2)マクロファージと水晶体蛋白から構成される。
  • 角膜後面沈着物(KP):肉芽腫性炎症では羊脂様KPを呈することがある。
  • 後房波及(retrolental opacity):病変が硝子体腔まで及ぶ場合がある。1)
Q 偽前房蓄膿は感染性眼内炎の前房蓄膿と見た目が同じか?
A

両者ともに前房底部の白色沈殿として観察され、細隙灯だけでは鑑別が困難なことがある。LIUの偽前房蓄膿はマクロファージ・水晶体蛋白由来であり、房水培養の無菌性確認が鑑別の鍵となる。

水晶体は発生学的に免疫学的特権臓器であり、水晶体蛋白は「自己」として免疫系に認識されていない。2)通常は水晶体嚢がバリアとして機能するため免疫応答は起こらない。このバリアが破綻した際にLIUが生じる。

  • 過熟白内障(Morgagnian白内障):嚢が脆弱化し自然破裂または蛋白漏出が生じる。2)特に医療アクセスが困難な地域では晩期白内障が多く、LIUの主要原因となる。
  • 眼外傷:鈍的・穿孔性外傷による嚢損傷。
  • 白内障手術中の合併症:嚢破裂・皮質残留。
  • 長期放置された白内障:水晶体皮質の液化・嚢透過性亢進。

LIUの臨床診断は容易でなく、ある報告では140例の観察対象のうち臨床的に診断できたのはわずか6例であった。1)

  1. 問診:白内障の放置期間、眼外傷歴、過去の眼手術歴を確認する。
  2. 細隙灯顕微鏡検査:前房の炎症所見・KP・偽前房蓄膿の有無を評価する。
  3. UBM検査:水晶体嚢破損の有無を評価し、病型分類と手術計画に活用する。1)
  4. 眼圧測定:線維柱帯閉塞による眼圧上昇を確認する。
  5. 房水針生検(確定診断):帯状肉芽腫(zonal granuloma)が認められれば確定診断となる。2)

以下の疾患との鑑別が特に重要である。1)2)

鑑別疾患鑑別ポイント
感染性眼内炎培養陽性・急速進行
TASS手術直後・無菌性
交感性眼炎僚眼にも炎症
Q 白内障手術後に目が赤く痛くなったらLIUを疑うべきか?
A

手術直後であれば術後眼内炎やTASSの可能性もある。一方、手術から時間が経過した後の発症、または過熟白内障・眼外傷の既往がある場合はLIUを疑う。UBM・房水検査で鑑別を進める。

白内障手術(水晶体摘出術)が唯一の根治的治療である。2)線維柱帯切除術など緑内障手術単独では起因物質を除去できないため無効である。2)

手術前に炎症と眼圧を可能な限りコントロールする。

眼圧降下(過熟白内障・高眼圧例)2)

  • 浸透圧利尿薬(マンニトール静注)
  • 炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミド内服)

術前消炎(水晶体性病型)1)

  • prednisolone 1%点眼(6時間ごと)
  • nepafenac 0.1%点眼(8時間ごと)
  • prednisone 40 mg内服
  • celecoxib 200 mg内服

超音波乳化吸引術(PEA)

適応:嚢がintactまたは部分的損傷で核が軟〜中等硬度の症例。

特徴IOL同時挿入(嚢内または毛様溝固定)。retrolental opacityがある場合は前部硝子体切除を併施する。1)

術後成績:術後2か月で矯正視力 20/25 を達成した報告がある。1)

嚢外摘出術(ECCE・MSICS)

適応:過熟・硬核白内障(Morgagnian白内障)。2)

特徴虹彩フックやトリパンブルー染色を活用した手動嚢外摘出術。VenkateshらはMSICS 33例での安全性を実証している。2)

術後成績:術後1か月で矯正視力 20/40 を達成した報告がある。2)

phacoanaphylactic緑内障

定義(EGS第5版):水晶体蛋白への肉芽腫性炎症に伴う続発緑内障。3)

治療方針:線維柱帯切除単独は無効。水晶体摘出が必須。眼圧降下薬で術前管理後に白内障手術を施行する。2)3)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

水晶体は胚発生期に免疫学的特権を獲得した臓器である。2)水晶体蛋白(α・β・γクリスタリン)は発生初期に隔離されるため、T細胞レパートリーに登録されず「非自己様」蛋白として扱われる。正常では水晶体嚢がこの蛋白を封じ込め免疫系との接触を防ぐ。

嚢破裂型(IV型・遅延型過敏反応)1)

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嚢が物理的に損傷されると水晶体蛋白が前房内に大量露出する。感作されたT細胞が活性化し、CD4陽性ヘルパーT細胞主導のIV型(遅延型)過敏反応が生じる。病理学的には**帯状肉芽腫(zonal granuloma)**が特徴的であり、水晶体蛋白の周囲に多核巨細胞・上皮様細胞・リンパ球が集積する。2)

過熟白内障では核の液化に伴いα-クリスタリンなどの高分子蛋白が嚢の微細孔から漏出する。膨化したマクロファージが線維柱帯メッシュワークを物理的に閉塞することで続発開放隅角緑内障が生じる。

LIU症例の50%以上に続発緑内障(phacoanaphylactic glaucoma)が合併するとされる。3)EGSグラウコーマガイドライン第5版はこれを独立した病型として定義している。3)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

術前の超音波生体顕微鏡(UBM)による嚢評価は診断精度の向上に貢献している。

Lopez-Zunigaら(2025)は76歳男性のLIU症例においてUBMで嚢がintactであることを確認し、病型をphacolyticと診断した。これにより手術アプローチを適切に計画できたと報告している。1)

UBMは嚢破裂の有無を術前に評価し、嚢外摘出術と超音波乳化吸引術の選択に貢献する。今後はOCTとの組み合わせによる非侵襲的術前診断の精度向上が期待される。

後房波及(retrolental opacity)への対応

Section titled “後房波及(retrolental opacity)への対応”

従来はLIUを前眼部疾患と捉えることが多かったが、硝子体腔への炎症波及(retrolental opacity)が認識されるようになってきた。

Lopez-Zunigaら(2025)はPEA+IOL挿入に加えて前部硝子体切除術を同時施行することで、後房波及のある症例でも良好な術後視力(術後2か月で20/25)を得られることを示した。1)

医療アクセス問題と過熟白内障対策

Section titled “医療アクセス問題と過熟白内障対策”

発展途上国・農村地域では白内障の放置により過熟白内障が増加し、LIUの発症率が依然として高い。2)

Bievel-Radulescuら(2021)は医療アクセスが制限された83歳の農夫の症例を報告し、農村部での晩期白内障管理の課題を指摘している。2)

白内障アウトリーチプログラムや移動式眼科手術チームの普及が予防的介入として注目されている。


  1. Lopez-Zuniga DI, Ruiz-Lozano RE, Garza-Garza LA, et al. Phacoanaphylactic endophthalmitis: a case report and review of the literature. Cureus. 2025;17(9):e93053.
  2. Bievel-Radulescu R, Tiu C, Tiu VE, et al. Phacoanaphylactic endophthalmitis with secondary glaucoma in a patient with hypermature cataract. Rom J Ophthalmol. 2021;65(3):300-306.
  3. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2021;105(Suppl 1):1-169.

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