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神経眼科

鼻副鼻腔未分化癌

1. 鼻副鼻腔未分化癌(SNUC)とは

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鼻副鼻腔未分化癌(sinonasal undifferentiated carcinoma; SNUC)は1986年にFriersonらが初めて報告した、鼻腔および/または副鼻腔に発生する極めて稀で進行の速い悪性腫瘍である。鼻副鼻腔を被覆するシュナイダー膜上皮(Schneiderian epithelium)から発生すると考えられている。組織学的には扁平上皮分化・腺分化を認めない未分化癌と定義される。

鼻副鼻腔腫瘍全体に占めるSNUCの割合はスウェーデンの調査で5.8%と報告されており、米国の調査(318症例)では男性62%、白人82.7%、50代に好発する2)。年齢調整罹患率は10万人あたり0.02人と極めて低い。最も一般的な発生部位は鼻腔・篩骨洞・上顎洞であり、40〜85歳と幅広い年齢層で発症する(多くは40〜50代)2)

Q SNUCの発症率はどのくらいか?
A

年齢調整罹患率は10万人あたり0.02人と極めて稀な腫瘍である。スウェーデンの調査では鼻副鼻腔腫瘍の5.8%を占め、50代男性に多い傾向がある。日本の副鼻腔悪性腫瘍全体では扁平上皮癌が最多(約80%)であり、SNUCはそのごく一部を構成する。

  • 鼻閉・鼻出血:最も一般的な初発症状。
  • 頭痛・顔面痛:腫瘍の局所進展に伴い出現。
  • 急速な症状進行:数週間〜数か月にわたる急速な進行が特徴であり、良性疾患(副鼻腔炎等)と類似するため診断が遅れやすい。
  • 複視:腫瘍の眼窩・頭蓋底浸潤による外転神経麻痺が原因となることが多い1)
  • 視力障害・眼球突出:眼窩内視神経圧迫や腫瘍の眼窩直接浸潤による。
  • 嗅覚低下:篩骨洞・鼻腔内病変で生じる2)
  • 大きな局所進行病変:通常4cm超の腫瘤として発見され、骨破壊・骨リモデリングを伴う。
  • 頭蓋内進展:しばしばみられ、前頭蓋窩への浸潤が生じうる2)
  • 眼窩浸潤所見:眼球突出、眼球運動制限、眼瞼腫脹・下垂、視力低下、視野狭窄、結膜浮腫・充血。
  • 上眼窩裂症候群:腫瘍が眼窩先端部に及ぶと全眼球運動障害と三叉神経V1領域知覚障害が出現する。視神経障害が加わると眼窩先端部症候群となる。
  • 脳神経麻痺:外転神経麻痺(複視)が特に多い1)
  • 頸部リンパ節転移:10〜30%で初診時にみられる2)
  • 病期:60%以上がAJCCステージ3または4、T4での診断は71〜100%3)
Q 初期症状は副鼻腔炎と似ているのか?
A

鼻閉・鼻出血・頭痛などの初発症状は慢性副鼻腔炎と類似しており、診断の遅れが生じやすい。SNUCに特徴的なのは急速な症状進行(数週間〜数か月)と、眼症状(複視・眼球突出・視力低下)や脳神経麻痺の出現である。これらが加わった場合には副鼻腔悪性腫瘍を積極的に疑う必要がある。

SNUCはシュナイダー膜上皮由来の悪性腫瘍であるが、明確なリスク要因は未確立である。

  • EBV(Epstein-Barr virus)との関連:アジア集団でEBV関連が示唆されたが、厳密に定義されたSNUCではEBVゲノムは検出されないとする複数の報告があり、関連は否定的である1)。EBV陽性例はリンパ上皮癌様の特徴を持つ別の腫瘍の可能性がある1)
  • 職業的曝露:金属粉塵・衣服繊維が鼻副鼻腔癌の一般的リスク因子として指摘されるが、SNUCに特異的なデータはない1)
  • 喫煙:症例報告では喫煙歴を持つ患者が散見されるが、明確な因果関係は確立していない3)
  • 分子的背景:SMARCB1(INI-1)遺伝子欠損やIDH2コドン172変異がSNUCの亜型を定義する重要な分子異常として同定されている。

CT:非石灰化腫瘤と副鼻腔閉塞・骨破壊・骨リモデリングを示す。造影で多様な増強効果を呈する。骨破壊を伴う眼窩内浸潤を認めれば副鼻腔悪性腫瘍を強く疑う。

MRI所見:

画像シーケンス典型所見
T1強調(造影なし)骨格筋と等信号の均質腫瘤
T2強調骨格筋より高信号
T1強調(造影あり)不均一な増強効果

良性粘液嚢胞はT2均一高信号を示すため鑑別は比較的容易。確定診断には生検後の病理組織学的検査が不可欠であり、画像のみでの鑑別は不十分である。PET-CT・造影CTによる全身精査も行う。

病期分類(カディッシュ分類)

Section titled “病期分類(カディッシュ分類)”

グループA

腫瘍が鼻腔内に限定。

グループB

鼻腔および副鼻腔に限定。

グループC

眼窩・頭蓋底・脳実質浸潤を含む鼻副鼻腔外への進展。

修正ステージD

頸部リンパ節転移または遠隔転移あり。

カディッシュ・ステージが高いほど予後不良。

  • 組織所見:大きな茸状腫瘍、広範な壊死を伴う高細胞性増殖、多形性の未分化細胞。
  • 免疫組織化学(IHC):CK7・CK8・CK8/18・CK19・パンケラチンが陽性。CK4・CK5/6・CK14は陰性2)
  • SMARCB1(INI-1)欠損型の確認:核内INI-1発現消失が診断確定に重要3)。72.5%の患者が初回に誤診されるとされる3)

鑑別診断:扁平上皮癌、嗅神経芽細胞腫、小細胞未分化神経内分泌癌、鼻副鼻腔リンパ上皮癌、粘膜悪性黒色腫、血液リンパ系悪性腫瘍、横紋筋肉腫

Q SNUCの確定診断にはどのような検査が必要か?
A

確定診断は生検後の病理組織学的診断による。IHCマーカー(CK7・CK8等が陽性、CK5/6等が陰性)の確認が必須である。SMARCB1(INI-1)欠損亜型が疑われる場合は核内INI-1発現のIHCを追加する。画像(CT・MRI)は病変の範囲評価と治療計画に不可欠だが、確定診断にはならない。

確立された普遍的な治療戦略はなく、化学療法・放射線療法・外科切除の様々な組み合わせが用いられる。可能であれば全摘出が望ましく、広範囲眼窩内浸潤では放射線単独または化学療法+手術の3者併用療法が選択される。

治療成績の比較:

治療戦略5年生存率の目安
外科切除+術後補助化学放射線療法55.8%
化学放射線療法単独42.6%
切除縁陰性75.3%
転移性疾患合併18.6%

3者併用療法(化学療法+放射線療法+外科切除)の5年生存率51% vs 他の管理38%。IMRT使用で59% vs 非IMRT 16%。60Gy以上の照射で73% vs 23%という用量反応関係が報告されている。

化学療法レジメン:シクロホスファミド+ビンクリスチン+ドキソルビシン、またはエトポシド+シスプラチン。放射線量は50〜65Gyが推奨2)

日本からの報告(Miyataら 2022)では、切除不能T4bN0M0左上顎洞SNUC(75歳女性)に対し、TPF導入化学療法(ドセタキセル 70 mg/m²+シスプラチン 70 mg/m²+フルオロウラシル 750 mg/m²×5日)→VMAT 70 Gy/35分割 → HDR-ISBT(高線量率組織内小線源療法)ブースト16 Gy/4分割 → ニボルマブ(240 mg/body、2週間ごと)の治療で2か月後に完全奏効、2年間無病生存が得られた6)

Q 治療成績を左右する最も重要な因子は何か?
A

切除縁陰性(R0切除)の確保が最も重要である。切除縁陰性例の5年生存率が75.3%であるのに対し、切除縁陽性例は5年目までに全員死亡したとの報告がある。また3者併用療法(化学療法+放射線療法+手術)と強度変調放射線療法(IMRT)の使用が生存率向上に寄与する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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SNUCはシュナイダー膜上皮由来の未分化癌であるが、分子的亜型分類が進展している。

SMARCB1欠損型

機序:染色体22q11.2上のSMARCB1腫瘍抑制遺伝子の不活化4)。SWI/SNF複合体のコアサブユニットINI-1タンパク質が消失し、転写調節と細胞機能が障害される3)

頻度:鼻副鼻腔癌の約3〜6%3)4)

予後:特に不良(中央OS 22か月、死亡率45.3%、遠隔転移49.3%)3)

WHO分類:2022年第5版でSNUCの亜型として分類3)

IDH2変異型

機序:IDH2コドン172の変異(R172K, R172S等)により新形質酵素活性(neomorphic activity)が生じ、イソクエン酸からα-ケトグルタル酸ではなく2-ヒドロキシグルタル酸(2-HG)が産生される7)

結果:2-HG蓄積→ヒストン脱メチル化酵素・TET酵素の阻害→DNA全体の過メチル化7)

予後:比較的良好とされる7)

SMARCA4(BRG1)欠損型:Amigayらによる10例のSNUC全例でSMARCA4の完全欠失とSMARCB1/INI1発現低下が報告されている2)

免疫逃避機構:主要組織適合性複合体(MHC)の発現低下が免疫逃避を促進する3)。PRAME・BRCA1の発現亢進が免疫療法の理論的標的となる可能性がある3)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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Trinh らは転移性p16陽性SNUCの56歳女性に対し、複数ラインの化学療法が無効となった後にペムブロリズマブ(200mg)+イピリムマブ(1mg/kg)の二重免疫チェックポイント阻害を施行した5)。肝転移の著明改善が得られたが、Grade IVの多発神経炎・SIADH(免疫関連有害事象)が生じ、プレドニゾン1mg/kgで改善した。最終的に免疫療法開始から4年後にCOVID-19で死亡した。COX-2阻害薬セレコキシブの追加がIDO1抑制を介して免疫応答を増強した可能性が示唆されている5)

SDSC(SMARCB1欠損亜型)に対する免疫療法(抗PD-1薬 tislelizumab)の初報告では、手術+化学放射線療法後に追加投与した34歳男性で2年後再発なし・遠隔転移なしという転帰が得られた3)

高線量率組織内小線源療法(HDR-ISBT)ブースト

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根治的化学放射線療法後の残存腫瘍に対し、小線源療法ブーストを追加する日本発の報告がある。陽子線・炭素イオン線治療と比較して線量勾配が急峻で正常組織への影響が少ない利点があり、特に上顎洞癌では技術的に実施可能とされる6)

  • IDH2変異型:他癌腫で承認済みのIDH阻害薬の応用が期待される7)
  • SMARCB1欠損型EZH2阻害薬などのエピジェネティック治療の可能性が研究されている3)

  1. Kaifee SQ, Haq Y, Sadhar B. Non-Epstein-Barr virus sinonasal undifferentiated carcinoma presenting as diplopia and rhinorrhea. Cureus. 2024;16(1):e53185.
  2. Antoniades E, Cheva A, Constantinidis J, et al. Intracranially extended sinonasal undifferentiated carcinoma: a case report and literature review. Am J Case Rep. 2022;23:e935876.
  3. Zhang L, Gao AX, He YL, et al. Immunotherapy in SMARCB1 (INI-1)-deficient sinonasal carcinoma: two case reports. World J Clin Cases. 2023;11(32):7911-7919.
  4. Douglas JE, Kaufman AC, Rajasekaran K. Management of a unique sinonasal undifferentiated carcinoma subtype in the era of SARS-CoV-2. ORL. 2020. DOI:10.1159/000511713.
  5. Trinh JQ, Acosta C, Easwar A, et al. Durable and dramatic response to checkpoint inhibition combined with COX-2 inhibitor celecoxib in a patient with p16+ metastatic sinonasal undifferentiated carcinoma: a case study. Cancer Reports. 2024;7:e1915.
  6. Miyata Y, Murakami N, Honma Y, et al. Technical report: a high-dose-rate interstitial brachytherapy boost for residual sinonasal undifferentiated carcinoma. J Radiat Res. 2022;63(6):879-883.
  7. Burgermeister S, Stoykova S, Krebs FS, et al. Methylation-based characterization of a new IDH2 mutation in sinonasal undifferentiated carcinoma. Int J Mol Sci. 2024;25:6518.
  8. Ayyanar P, Mishra P, Preetam C, Adhya アカントアメーバ角膜炎. SMARCB1/INI1 deficient sino-nasal carcinoma: extending the histomorphological features. Head Neck Pathol. 2021;15:555-565.
  9. Ma S, Xia Y, Wang M, et al. SMARCB1 (INI1)-deficient sinonasal carcinoma with yolk sac differentiation, a case of long-term clinical remission after multiple rounds of radiotherapy. Diagn Pathol. 2025;20:102.

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