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神経眼科

片頭痛の眼科的徴候

片頭痛は重度の頭痛を特徴とする一次性頭痛疾患である。悪心・羞明・音過敏・視覚前兆を伴い、4〜72時間持続する。反復性(月15日未満)と慢性(月15日以上)に分類される。

  • 15歳以上の8.4%が片頭痛に罹患する。
  • 男性3.6%、女性12.9%で、30歳代が最多である。
  • 推定生涯有病率は16%で、女性は男性の約2倍である1)
  • 世界で3番目に多い疾患であり、50歳以下の障害原因の第1位を占める1)

国際頭痛分類第3版(ICHD-3)における片頭痛の主な亜型を示す。

  • 1.1 前兆のない片頭痛:最も多い亜型。視覚前兆を伴わない。
  • 1.2 前兆のある片頭痛:典型的前兆・脳幹性前兆・片麻痺性・網膜片頭痛を含む。
  • 1.3 慢性片頭痛:月15日以上、3ヶ月以上継続する頭痛。
  • 1.4 片頭痛の合併症:片頭痛性脳梗塞・てんかん重積型視覚前兆などを含む。
  • 1.6 片頭痛に関連する周期性症候群:小児期の周期性嘔吐など。
  • 頭痛を伴わない視覚前兆:高齢の片頭痛既往者に多い。TIAや後頭葉てんかんとの鑑別が重要。
  • 基底型片頭痛(脳幹性前兆を伴う片頭痛):めまい・運動失調・耳鳴り・複視を伴う。
  • 網膜片頭痛:一過性単眼性視覚障害。一過性の網膜動脈虚血を伴う。
  • 片麻痺性片頭痛:可逆的な運動脱力を伴う前兆。有病率0.01%。家族性(CACNA1A・ATP1A2・SCN1A遺伝子変異)と散発性に分類される2)
Q 片頭痛で眼の症状が出るのはなぜですか?
A

皮質拡延性抑制(CSD)と三叉神経血管系の関与が主な原因である。CSDは後頭部の視覚野から始まる神経細胞の脱分極波であり、閃輝暗点を引き起こす。また、三叉神経血管系の活性化によりCGRP・サブスタンスPなどの炎症性物質が放出され、血管拡張・神経原性炎症が羞明や頭痛を引き起こす。

  • 羞明(光過敏):片頭痛患者で最も多い眼科症状。光により頭痛が悪化する。ほぼ常に両側性であり、三叉神経・自律神経性頭痛(持続性片側頭痛など)の片側性羞明との鑑別点となる。
  • 視覚前兆(閃輝暗点):ジグザグ状・鋸歯状・三日月型のちらつく光が視野中心から周辺へ拡大・移動する。20〜30分で消失し、その後に拍動性頭痛が後続する。両眼性・同名性が特徴。
  • 視覚残留(パリノプシア):視界から消えた物体の残像が残る。前兆のある片頭痛で多く認められる。
  • ビジュアルスノー:テレビの砂嵐のような小粒子が全視野に拡散する。数年間持続しうる。ビジュアルスノー症候群(VSS)患者の60%が片頭痛を併発する。
  • 不思議の国のアリス症候群(AIWS):小視症・大視症・自己身体部位の変容。5〜14歳男性と16〜18歳女性に多い。
  • 良性発作性片側性瞳孔散大(BEUM):間欠的な霧視・「頭がぼんやりする」感覚を伴う。
Q 閃輝暗点と一過性黒内障はどう違いますか?
A

主な違いは視覚症状の性質・眼の片側性・持続時間の3点である。閃輝暗点はジグザグの光という陽性症状で両眼性、20〜30分(最長60分)持続する。一過性黒内障は暗転・灰色化という陰性症状で片眼性、1〜5分(最長10分)の短時間で消失する。一過性黒内障は頸動脈や眼動脈の塞栓症に起因することがあり、見逃してはならない。

眼科的徴候を呈する亜型別の臨床所見を以下に示す。

網膜片頭痛

単眼性視力喪失:可逆的な単眼性の視力低下または消失。

暗点:「C」字型・着色・閃輝・拡大する暗点。少なくとも2回のエピソードで診断する。

TMVLの除外:重篤な原因(動脈炎、塞栓症)を必ず鑑別する。

片麻痺性片頭痛

運動脱力:片側性の可逆的な運動麻痺が前兆として出現する。

多様な前兆:視覚・感覚・言語症状を伴う。各症状は5〜60分持続する。

ICHD-3基準:5分以上かけて進展し、前兆に伴うか60分以内の頭痛が続く2)

眼筋麻痺性神経障害

第III脳神経障害:80%で第III脳神経が関与する。眼瞼下垂眼球運動障害・瞳孔散大。

MRI所見:脳神経の限局性肥厚と造影効果が特徴的。

確定診断:2回以上の発作が必要。小児では過敏性・嘔吐が主訴となることがある3)

基底型片頭痛

脳幹症状:めまい・構音障害・運動失調・耳鳴り・難聴を伴う。

複視:典型的前兆として両側性の感覚異常や意識変容を伴うことがある。

失神:重症例では一時的な意識消失が起こりうる。

典型的な片頭痛では眼科検査(視野検査を含む)は通常正常である。片頭痛発作中にOCTA(光干渉断層血管撮影)を施行すると脈絡膜血管密度の著明な低下と中心窩無血管域(FAZ)の拡大が認められる。

  • 生活習慣:月経周期(月経関連片頭痛)、ストレス、不規則な睡眠。
  • 食事:アルコール(特に赤ワイン・ビール)・MSG・カフェイン・熟成チーズ・アスパルテーム・チョコレート。
  • 薬剤:経口避妊薬・エストロゲン療法・鼻閉改善薬・オピオイド・SSRI。
  • 感覚刺激:天候変化・特定の音・臭い・光。光は急性片頭痛を悪化させる最も一般的な誘因。
  • 人口統計学的因子:女性・肥満・糖尿病・頭部外傷・ストレス。
  • 慢性化リスク:急性期治療薬の過多使用(鎮痛薬≧月15日、トリプタン≧月10日)・急性期治療の不備。
  • 遺伝的要因:家族性片麻痺性片頭痛ではCACNA1A・ATP1A2・SCN1A遺伝子変異(常染色体優性遺伝2)
  • 脳卒中リスク:前兆のある片頭痛は脳卒中のリスク因子となる。経口避妊薬・喫煙を併用する45歳未満の女性でリスクが特に高い。
Q 片頭痛を悪化させる食品や薬剤には何がありますか?
A

食品では赤ワイン・ビール・チョコレート・熟成チーズ・MSG(グルタミン酸ナトリウム)・アスパルテームなどが誘因として知られる。薬剤では経口避妊薬・エストロゲン療法・鼻閉改善薬・オピオイド・SSRIが片頭痛を誘発・悪化させることがある。誘因は個人差が大きいため、頭痛ダイアリーによる自己観察が重要である。

片頭痛の診断は病歴・身体診察・ICHD-3基準に基づいて行う。典型的症状では画像診断は不要である。診断支援ツールとしてID-Migraine・VARS・MIDAS質問票・MSQ 2.1がある1)

画像診断(脳MRI/CT)の適応は以下の場合に限る。

  • 説明のつかない異常な神経学的所見
  • 40歳以降の新規発症・進行性悪化
  • 片頭痛性脳梗塞の疑い
  • 突然の激しい頭痛(くも膜下出血の除外が必要)

完全な眼科的検査(視力・視野・眼球運動・対光反射・眼底検査・細隙灯検査)を実施する。反復性有痛性眼筋麻痺性神経障害(RPON)では、MRIで脳神経の限局性肥厚と造影効果が特徴的な所見となる3)

閃輝暗点と一過性黒内障の鑑別

Section titled “閃輝暗点と一過性黒内障の鑑別”

以下の3点を比較することで鑑別できる。

項目閃輝暗点一過性黒内障
視覚症状の性質陽性(ジグザグの光)陰性(暗転・灰色化)
眼の片側性両眼性・同名性多くは片眼性
持続時間20〜30分(60分以内)1〜5分(10分以内)
  • 緊張型頭痛・群発頭痛:頭痛の性状・随伴症状による鑑別。
  • TIA・後頭葉てんかん:頭痛を伴わない視覚前兆との鑑別。
  • 外傷・感染症・先天性疾患に続発する頭痛:二次性頭痛の除外が必要。
  • ロメリジン塩酸塩(ミグシス):カルシウム拮抗薬。日本で多用される予防薬。
  • ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩(ジヒデルゴット):予防薬として使用。前兆時にも適用可。

軽度発作にはNSAIDs・ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩・経口トリプタン製剤を用いる。重症発作には経口トリプタン製剤を用いる。

  • スマトリプタン:経口・皮下注・点鼻薬が利用可能。
  • アスピリン:頭痛への有効性が知られている。
  • エルゴタミン:前兆時に予防的に投与することがある。

急性期治療 1)

  • NSAIDs(イブプロフェン・アスピリン):トリプタンより副作用が軽微。
  • トリプタン(スマトリプタン25〜100mg):NSAIDsより有効性が高い。トリプタン+NSAIDsの併用は単剤より2時間疼痛消失率が高い。
  • ラスミジタン:5-HT1F受容体作動薬。急性期治療の新規薬剤。

予防療法 1)

  • β遮断薬:メトプロロール200mg/日・プロプラノロール80mg×2/日が最もエビデンスが高い。
  • トピラマート:発作頻度の減少とQOL改善が報告されている。
  • アミトリプチリン:プロプラノロール・トピラマートより有効とする解析がある。
  • バルプロ酸・ベラパミル・ガバペンチン:予防効果が報告されている。
  • ボツリヌス毒素:慢性片頭痛に対してプラセボより優位な効果を示す。
  • リボフラビン(ビタミンB2)・マグネシウム・CoQ10酸化ストレス・神経過興奮性への補完的アプローチ。

片麻痺性片頭痛 2)

標準化された治療ガイドラインは存在しない。急性期にはNSAIDs・非麻薬性鎮痛薬を用いる。予防にはβ遮断薬・カルシウム拮抗薬・三環系抗うつ薬・抗てんかん薬を用いる。頻回発作には長時間作用型ベラパミルまたはラモトリギンが使用される。

RPON(反復性有痛性眼筋麻痺性神経障害) 3)

急性期にコルチコステロイドが70%の症例で使用される。プレドニゾン2mg/kg/日×10日、またはメチルプレドニゾロンIV 25mg/kg×5日などの報告がある。予防にはフルナリジン(発作頻度減少の報告あり)やピゾチフェンが用いられる。

Q 予防薬のトピラマートは眼に副作用がありますか?
A

トピラマートは片頭痛予防薬として広く使用されるが、投与開始後2週間前後に急性閉塞隅角(TiAAC)を引き起こすことがある。毛様体脈絡膜滲出によって水晶体虹彩隔膜が前方移動し、眼圧が急激に上昇する。目の痛み・視力低下・霧視が生じた場合は速やかに眼科を受診し、処方医へも連絡する必要がある4)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

片頭痛の基本機序は髄膜・血管・三叉神経支配領域の刺激であり、外頸動脈分枝の拡張が引き金となる血管性頭痛である1)

ストレス・食品・ホルモンなどの誘因 → 脳幹の血管調節異常 → 末梢血管拡張 → 三叉神経ニューロンへの伸展シグナル → CGRP・インターロイキンなどの炎症性・血管活性物質の産生 → さらなる拡張と血管透過性亢進 → 組織浮腫というカスケードが形成される1)

関与する神経伝達物質はサブスタンスP・一酸化窒素・CGRPである。中脳水道周囲灰白質(PAG)・青斑核(LC)・縫線核(DRN)が片頭痛の病態に関与する脳部位として挙げられる。

皮質拡延性抑制(CSD)と視覚前兆

Section titled “皮質拡延性抑制(CSD)と視覚前兆”

視覚前兆の原因はCSDである。後頭部に起源する神経細胞の脱分極波が前方へと伝播する。脱分極によってカリウム濃度が上昇し、興奮性アミノ酸の放出がさらに拡延を増強する。閃輝暗点は脳血管れん縮による後頭葉視覚領域の一過性虚血で出現する2)

  • 基底型片頭痛:脳幹におけるCSDが関与する。
  • 網膜片頭痛:網膜におけるCSD(ただし皮質メカニズムを示唆するエビデンスも多く、「網膜片頭痛」は誤称との指摘もある)。
  • 片麻痺性片頭痛:軟膜血管からの血管原性漏出が三叉神経血管系を刺激し、前兆としての片麻痺を引き起こす2)
  • 羞明:錐体駆動の網膜経路 → 光感受性視床ニューロン+皮質過剰興奮のメカニズムによる。
  • AIWSおよびビジュアルスノー:AIWSは視路の一時的虚血に起因する。ビジュアルスノーは副視覚野(舌状回・ブロードマン19野)の高代謝が関与する。

OCTA所見と家族性片頭痛の遺伝子

Section titled “OCTA所見と家族性片頭痛の遺伝子”

自然発症片頭痛発作中にOCTAで脈絡膜血管密度の著明な低下とFAZの拡大が認められる。脈絡膜循環が網膜循環より発作中に脆弱であることを示唆する所見である。

家族性片麻痺性片頭痛に関連する遺伝子はCACNA1A(カルシウムチャネル)・ATP1A2(Na/Kポンプ)・SCN1A(ナトリウムチャネル)の3種が知られる2)。TREK遺伝子(二孔カリウムチャネル)の変異は静止膜電位の調節障害と神経過興奮性に関与する1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

CGRP阻害薬(モノクローナル抗体)

Section titled “CGRP阻害薬(モノクローナル抗体)”

フレマネズマブ・エレヌマブ・ガルカネズマブはFDA承認の慢性片頭痛予防薬である1)

Dengら(2020)による4,402例・11 RCTsのメタ分析では、抗CGRP mAbsは50%レスポンダー率を有意に改善し、月間片頭痛日数と急性期薬の使用量を減少させることが示された。ベネフィット・リスクプロファイルはプロプラノロール・トピラマートより優れるとの広い合意がある1)

ガルカネズマブは負荷量240mg皮下注 → 120mg/月×5ヶ月のレジメンで頭痛の重症度・頻度・持続時間が改善した。注射部位の掻痒・発疹が主な副作用として報告されている1)

ウブロゲパント(ubrogepant)は2019年にFDA承認された経口急性期治療薬である。前兆の有無を問わず使用できる1)。アトゲパント(atogepant)は経口予防薬として開発されている。

トナベルサットおよびカリウムチャネルを標的とした治療

Section titled “トナベルサットおよびカリウムチャネルを標的とした治療”

トナベルサットはベンゾピラン系新規分子であり、グリア細胞-ニューロン間のギャップ結合コミュニケーションを阻害してCSDを抑制する。39例のRCT(Goadsby et al. 2009)において、前兆のある片頭痛の予防に有効であることが示されているが、現時点ではFDA未承認である1)

二孔カリウムチャネル(TREK)の変異は静止膜電位の調節障害を来たし、神経の過興奮性につながる。TREKの活性化・阻害を標的とした治療研究が進行中である1)


  1. Okobi OE, Boms MG, Ijeh JC, et al. Migraine and Current Pharmacologic Management. Cureus. 2022;14(10):e29833.
  2. Kana T, Mehjabeen S, Patel N, et al. Sporadic Hemiplegic Migraine. Cureus. 2023;15(5):e38930.
  3. Falsaperla R, Presti S, Lo Bianco M, et al. Diagnostic controversies in recurrent painful ophthalmoplegic neuropathy: single case report with a systematic review. Ital J Pediatr. 2022;48:82.
  4. Al Owaifeer AM, AlSultan ZM, Badawi AH. Topiramate-induced acute angle closure: A systematic review of case reports and case series. Indian J Ophthalmol. 2022;70:1491-501.

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