コンテンツにスキップ
神経眼科

急性散在性脳脊髄炎

急性散在性脳脊髄炎(Acute Disseminated Encephalomyelitis; ADEM)は、中枢神経系(脳・脊髄)の急性自己免疫性脱髄疾患である。ミエリン鞘に対する免疫介在性損傷によって多巣性の神経欠落症状を呈する。初記載は約250年前であり、天然痘感染後の患者で報告された。1)

疫学

小児における罹患率は10万人あたり0.23〜0.4人とされる。平均発症年齢は3.6〜7歳であり、10歳未満に好発する。小児では男児に多い。成人を対象とした437例のメタアナリシスでは平均発症年齢37.1歳、男性41.7%であった。1) 成人では女性が多い傾向がある。2) 地理的には赤道から離れるほど有病率が高い。

サブタイプ

単相性ADEM

最も多い型:一度のエピソードのみで再発しない。通常はこの型である。

経過:3ヶ月以内に症状は改善に向かう。

多相性ADEM

再発型:3ヶ月以上の間隔をあけて新たな病変が出現する。

注意点:3回以上の再発はMSやNMOSDなど別疾患を示唆する。

ADEM-ON

視神経炎合併型:ADEMの発症から3ヶ月以内に視神経炎を合併する。MOGAD関連が多い。

予後視力回復は症例により異なる。

AHLE

急性出血性脳白質炎:出血・壊死を伴う劇症型。フィブリノイド壊死・壊死性血管炎を呈する。

重篤度:致死率が高い最重症型である。

MOGADとの関連

MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク)抗体陽性率は小児ADEMの33〜66%に達する。ADEMはMOGAD(MOG抗体関連疾患)のコア臨床フェノタイプの一つであり、小児MOGADの20〜60%がADEMとして発症する。

Q ADEMは再発するのか?
A

通常は単相性(一度きりのエピソード)の経過をたどる。ただし多相性ADEMやADEM-ONの場合は再発する。再発が3回以上続く場合や、3ヶ月以上後に新病変が出現する場合は、MSやNMOSDなど別の脱髄疾患の可能性を考慮して再評価する必要がある。

前駆症状(発症前3〜4日間)として発熱・倦怠感・頭痛・嘔気・嘔吐が先行することが多い。神経症状は発症後2〜5日でピークに達する。

成人437例のメタアナリシスによる主な症状の頻度を示す。1)

  • 多巣性発症:80.5%(95% CI 50.5–98.9)
  • 錐体路徴候(腱反射亢進・痙性・バビンスキー徴候):68.7%
  • 運動障害:63.4%
  • 歩行障害:52.0%
  • 脳幹症状:46.7%
  • 脳症(昏睡・昏迷・嗜眠・行動変化):43.7%。ADEMをMSから区別する重要な特徴。
  • 括約筋障害:40.1%
  • 脳神経麻痺:38.3%
  • 頭痛:38.2%
  • 感覚障害:35.2%
  • 視神経炎:13.6%
  • 痙攣:12.4%

小児での主な症状(頻度の幅は報告間差):四肢脱力17〜77%、運動失調10〜52%、脳神経麻痺11〜48%、視神経炎7〜23%、痙攣4〜48%、発熱27〜63%。

眼症状(神経眼科的重要所見)

  • 視神経炎:片側または両側性。両側性はMSよりADEMに多い。視力低下(中央値20/600)・眼球運動時痛・色覚異常を伴う。
  • 複視:脳幹病変による眼球運動障害で生じる。
  • 皮質盲:後頭葉・視覚野の病変によって出現する。
  • 視神経乳頭浮腫:眼底所見として確認される。
  • ぶどう膜炎:まれに報告される。

重症例ではICU入室を要する。成人では39.7%(95% CI 23.5–57.1)がICU入室となる。1)

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

神経学的所見

  • 錐体路徴候:腱反射亢進・痙性・バビンスキー徴候など上位運動ニューロン障害所見
  • 小脳症状:運動失調・眼振
  • 脳幹所見:脳神経III〜XIIの機能障害・嚥下障害・構音障害。脳幹病変は予後不良と関連する。
  • 皮質症状:失語・失読・失書・同名半盲・高次感覚消失

眼科的所見

  • rAPD(相対的瞳孔対光反応不全):視神経炎の客観的証拠
  • 視神経乳頭浮腫:眼底鏡・OCT所見
  • 眼球運動障害:脳幹・核間性障害による

MRI所見

  • T2/FLAIR:びまん性・境界不明瞭・大きく両側性の高信号病変(>1〜2 cm)
  • 白質・灰白質の両方に病変あり
  • 成人での異常頻度:脳MRI異常91.6%、白質病変87.1%、脳室周囲43.2%、皮質下41.9%1)
  • ガドリニウム造影増強:成人で58.0%に認める1)
  • T1低信号「ブラックホール」は稀(MSとの鑑別点)
  • 脊髄病変:成人で41.6%、複数椎体にわたる1)
  • DWI:発症1週間以内は拡散低下、以降は拡散増加

髄液所見(成人メタアナリシス)1)

  • 髄液異常:70.0%
  • リンパ球優位の細胞増多:51.8%
  • 蛋白上昇(>45 mg/dL):39.1%
  • オリゴクローナルバンド陽性:23.9%

ADEMは感染や抗原刺激を契機に発症する。成人の全症例の67%で誘因となる抗原刺激が同定され、先行感染から発症までの平均期間は12.5日(0〜60日)である。1)

先行感染

成人では先行感染が51.7%(95% CI 38.2–65.0)に認められる。主な内訳は上気道感染25.7%・急性胃腸炎8.7%である。1)

  • 関連ウイルス:サイトメガロウイルス、EBV、HSV、HHV-6、H1N1、肝炎ウイルス、HIV、インフルエンザ、麻疹、風疹、水痘帯状疱疹、SARS-CoV-2など
  • 関連細菌:肺炎マイコプラズマ、カンピロバクター、肺炎クラミジア、ボレリア、レジオネラなど

COVID-19との関連

30例の系統的レビューでは、COVID-19感染からADEM発症までの平均期間は23.2日(4〜60日)であった。症例の73.68%が成人男性、平均年齢49.8歳であった。4)

ワクチン接種後

成人での発症は2.9%(95% CI 0–8.3)にとどまり、ワクチン接種後のリスクは約0.1%と比較的低い。感染後のリスクの方が高い。1)

MOG抗体

小児症例の33〜66%でMOG抗体が陽性となる。MOGADとADEMの強い関連性を示す。

遺伝的素因

特定のHLA-DRサブタイプとの関連が示唆されている。

Q ワクチン接種後にADEMを発症するリスクはどの程度か?
A

成人でのワクチン接種後ADEM発症は全症例の約2.9%であり、絶対リスクは約0.1%と低い。感染症を契機とするADEMの発症率よりも低いことが示されており、ワクチン接種の利益がリスクを上回ると考えられている。1)

**IPMSSG診断基準(小児向け)**として以下の4項目がある。

  1. 炎症性脱髄が原因と推定される多巣性の臨床的CNSエピソード
  2. 発熱・全身疾患・発作後状態では説明できない脳症の存在
  3. 発症から3ヶ月以上後に新たな臨床/MRI所見がないこと
  4. 急性期の脳MRI異常で脱髄と一致する変化を認めること

成人の診断においてはIPMSSGが小児向け基準であるため、適用すると半数以上が診断できないという課題がある。1)

  • MOG抗体:cell-based assay(CBA)による検出。ADEMのコア臨床フェノタイプとしてMOGAD診断基準に含まれる。
  • AQP4抗体:陰性であることがADEMとNMOSDの鑑別に有用。
  • その他血清検査:CBC・ESR・CRP・ANA・ウイルス血清学(HSV・EBV)・マイコプラズマ・COVID-19
  • 髄液検査:細胞数・蛋白・オリゴクローナルバンド(詳細は「臨床所見」の項参照)
  • MRI:T2/FLAIR・DWI・ガドリニウム造影を含む頭部・脊髄MRI

ADEMとMSでは以下の点で画像所見が異なる。

所見ADEMMS
ドーソン・フィンガーなしあり
脳室周囲病変温存傾向多い
病変サイズ・形状大きく境界不明瞭・両側性小さく境界明瞭
深部灰白質・皮質病変あり少ない
T1ブラックホールあり(陳旧性病変)

MOGADにおける画像支持基準として、多発するill-definedなT2高信号病変・深部灰白質病変・橋/中小脳脚/延髄の ill-defined T2高信号・皮質病変が挙げられる。

鑑別診断:MS・NMOSD・感染性脳脊髄炎・CNS血管炎・悪性腫瘍

第一選択

高用量ステロイドパルス療法:メチルプレドニゾロン1 g/日を3〜5日間静注。その後4〜6週間にわたり経口漸減する。

使用率:成人の95.2%(95% CI 87.4–99.7)で使用される。1)

第二選択

静注免疫グロブリン(IVIG)ステロイド不応例に対して使用する。

使用率:成人の16.4%(95% CI 9.2–24.9)で使用される。1)

第三選択

血漿交換療法(TPE/PLEX):ステロイド・IVIG不応例に対する三次治療。

使用率:成人の7.3%(95% CI 2.0–14.7)で使用される。1) ASFAガイドラインでは二次治療として位置づけ。3)

重症例への追加治療

シクロホスファミドはAHLEなど劇症型の重症例に用いられる場合がある。5) 頭蓋内圧亢進に対してはマンニトールなどによる脳浮腫管理を行う。5)

小児の後方視的研究では、4〜5回のTPEセッション後に意識改善・痙攣消失・運動機能回復などの進行性改善が確認されている。3)

Bhardwajら(2024)の小児ADEM後方視的研究では、TPE施行例の95%で即時の臨床改善が認められ、78%でフォローアップ時に有意な改善が得られた。3) ただし標準化されたプロトコールは未確立であり、セッション回数・交換量・置換液の最適化は今後の課題とされる。

  • 死亡率:7.8%(95% CI 3.3–13.5)
  • 残存障害:47.5%(95% CI 31.8–63.4)
  • 再発率:7.2%(95% CI 2.0–20.8)
  • 平均入院日数:23.1日
  • アジアでの死亡率:14.5%(地域別で最高)
  • 小児の予後:60〜90%が神経症状の完全回復2)
Q ステロイドが効かない場合はどうするか?
A

ステロイドパルス不応例には静注免疫グロブリン(IVIG)が二次選択として用いられる(成人使用率16.4%)。IVIG不応例には血漿交換療法(TPE)が三次選択となる(成人使用率7.3%)。1) 小児を対象とした研究ではTPE施行例の95%で即時臨床改善が報告されており、積極的な早期導入が予後改善に寄与する可能性がある。3)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

ADEMの発症機序の中心は**分子模倣(molecular mimicry)**である。外来抗原(感染病原体)と宿主ミエリン鞘の構造類似性により、抗原特異的免疫応答が自己免疫反応へと転化する。

主な標的抗原:MBP(ミエリン塩基性蛋白)・MOBP・OSP・MOG・MAG・PLP

発症プロセス

  • プライミング相:感染が血液脳関門(BBB)を破壊する。BBB破壊にはプロテアーゼ・遊離酸素ラジカルの放出、ICAM-1・E-セレクチンの発現増加が関与する(ADEMの小児で高値)。ミエリンエピトープが末梢循環に流出し、二次リンパ組織でTリンパ球に提示される。
  • エフェクター相:活性化したミエリン反応性T細胞が脳実質に侵入する。サイトカイン・ケモカインの産生により多形核食細胞・単球が動員される。TNF-α産生・補体活性化・ADCC・ミエリン貪食・酸素/窒素ラジカル・CD8+細胞傷害性T細胞介在性の軸索損傷が生じる。

エピトープ拡散と傍観者活性化

免疫応答が初期標的以外の自己抗原にも多様化する「エピトープ拡散(epitope spreading)」と、感染による非特異的免疫活性化がCNS損傷に寄与する「傍観者活性化(bystander activation)」も発症に関与する。3)

組織病理学的特徴

静脈周囲の袖状脱髄(perivenular sleeves of demyelination)が特徴的である。浸潤細胞にはマクロファージ・B/Tリンパ球・形質細胞・顆粒球が含まれる。重要な点として、すべての病変が同一の脱髄段階にあること(異なる活動段階の病変が混在するMSとの鑑別点)。

MOGADの病態との関係

MOGADはoligodendrogliopathy(オリゴデンドロサイト障害)であり、astrocytopathy(AQP4標的のNMOSD)とは異なる。病理像はCD4陽性T細胞優位の浸潤・顆粒球浸潤・MOG含有マクロファージを特徴とする。ADEMの約50%がMOG-IgG陽性である。

AHLEの病態

劇症型のAHLE(急性出血性脳白質炎)ではフィブリノイド壊死・壊死性血管炎・出血を伴い、通常のADEMとは異なる重篤な経過をたどる。5)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Kazziら(2024)の系統的レビューでは、小児ADEM後の認知機能障害として注意障害43%・学習および記憶33%・実行機能30%・処理速度27%が報告された。2) 少なくとも1つの認知領域に障害を有する割合は16〜66%であった。注意障害は5年以上持続するとの報告もある。イスラエルの研究ではADHD基準を満たす割合が44%に達し、うつ・不安症状の上昇も確認された。成人における認知・精神的転帰のデータは現時点では限定的である。

Zelada-Ríosら(2021)の30例の系統的レビューでは、小児9例・成人21例を分析した。4) 小児では77.8%が中等度/重度のADEMであったが、77.8%で転帰良好であった。成人では68.42%が中等度/重度のADEMであり、死亡率の詳細なデータは限定的である。COVID-19感染後のADEMはSARS-CoV-2の神経侵襲または免疫介在性機序が推定されている。

血漿交換療法のプロトコール最適化

Section titled “血漿交換療法のプロトコール最適化”

TPEの標準化プロトコールは未確立である。セッション回数・交換量・置換液の最適化、および治療応答の予測バイオマーカーの同定が今後の重要課題として挙げられている。3)

MOG抗体陽性ADEM(MOGAD)に対する高レベルのエビデンスに基づく治療法はまだ確立されていないが、複数の臨床試験が進行中である。

Q ADEMの後に認知機能障害は残るか?
A

小児の16〜66%で少なくとも1つの認知領域に障害が残るとされ、注意障害が最も多い(43%)。注意障害は5年以上持続することも報告されている。2) そのため回復後も長期的な神経心理学的フォローアップが重要である。成人でのデータは現時点では限定的である。


  1. Li K, Li M, Wen L, et al. Clinical Presentation and Outcomes of Acute Disseminated Encephalomyelitis in Adults Worldwide: Systematic Review and Meta-Analysis. Front Immunol. 2022;13:870867.

  2. Kazzi C, Alpitsis R, O’Brien TJ, et al. Cognitive and psychopathological outcomes in acute disseminated encephalomyelitis. BMJ Neurol Open. 2024;6:e000640.

  3. Bhardwaj T, Kumar S, Parashar N, et al. Evaluating Therapeutic Plasma Exchange in Pediatric Acute Disseminated Encephalomyelitis: A Comprehensive Review. Cureus. 2024;16(7):e64190.

  4. Zelada-Ríos L, Pacheco-Barrios K, Galecio-Castillo M, et al. Acute disseminated encephalomyelitis and COVID-19: A systematic synthesis of worldwide cases. J Neuroimmunol. 2021;359:577674.

  5. Alsaid HM, Atawneh MAA, Abukhalaf S, et al. Acute Hemorrhagic Leukoencephalitis - A Rare but Fatal Form of Acute Disseminated Encephalomyelitis - Complicated by Brain Herniation: A Case Report and Literature Review. Am J Case Rep. 2022;23:e935636.

  6. Ciçek A, De Temmerman L, De Weweire M, et al. Thunderclap headache as a first manifestation of acute disseminated encephalomyelitis: case report and literature review. BMC Neurol. 2024;24:315.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます