AGSの特徴
全身所見:進行性脳症、小頭症、白質ジストロフィー、脳萎縮、基底核の頭蓋内石灰化、慢性髄液リンパ球増多、肝脾腫、血小板減少症、ループス様症候群。
眼所見:先天性または後天性緑内障(多くは生後6か月以内に診断)、視神経萎縮、皮質盲。
鑑別:TORCH症候群と誤診されることがある。

免疫遺伝性疾患は、原発性免疫不全症を引き起こす遺伝子変異を特徴とする疾患群である。多種多様な全身症状および眼症状を呈し、緑内障を合併する疾患として、アイカルディ・グティエール症候群(AGS)とシングルトン・メルテン症候群(SGMRT)が知られている。
いずれも稀な疾患であり、自然免疫に関与する遺伝子の変異が原因となる。EGSの分類では、非後天性全身疾患または症候群に伴う緑内障に位置づけられる1)。症候群性緑内障では分子診断が臨床診断の修正や適切な遺伝カウンセリングに貢献する2)。
SGMRTの方が緑内障の浸透度が高い。DDX58変異患者では94%に緑内障が認められる。一方、AGSではSAMHD1変異で20%以上と報告されており、変異遺伝子により大きく異なる。
AGSでは生後1年以内に神経学的症状が出現する。SGMRTでは骨関節症状や皮膚症状に加え、小児期から眼圧上昇を認める。
AGSの特徴
全身所見:進行性脳症、小頭症、白質ジストロフィー、脳萎縮、基底核の頭蓋内石灰化、慢性髄液リンパ球増多、肝脾腫、血小板減少症、ループス様症候群。
眼所見:先天性または後天性緑内障(多くは生後6か月以内に診断)、視神経萎縮、皮質盲。
鑑別:TORCH症候群と誤診されることがある。
SGMRTの特徴
全身所見:乾癬様皮疹、大動脈および心臓弁の石灰化、骨減少症・骨粗鬆症、腱断裂、関節炎、歯の異常。
眼所見:先天性または若年開放隅角緑内障(診断時中央値5歳)。緑内障はSGMRTで最も浸透度が高い特徴。
角膜所見:角膜移植不全の発生率が高い。
AGSには7つの関連遺伝子が知られている。大部分は常染色体劣性遺伝であるが、IFIH1変異は常染色体優性遺伝をとることがある。
| 遺伝子 | 遺伝形式 | 緑内障リスク |
|---|---|---|
| SAMHD1 | AR | 最も高い(20%以上) |
| TREX1 | AR | 報告あり |
| RNASEH2A/B/C | AR | 報告あり |
| ADAR | AR | 最も低い |
| IFIH1 | AD | 最も低い |
SGMRTは常染色体優性遺伝の稀な疾患であり、自然免疫に関与するDDX58遺伝子およびIFIH1遺伝子の変異に関連する。
免疫遺伝性疾患に伴う緑内障の確定診断には遺伝子検査が重要である。標的遺伝子検査やエクソーム・ゲノムシーケンシングが用いられる2)。
分子診断の利点:
小児緑内障の一般的な検査法に準じる1)。
AGSおよびSGMRTにおける緑内障治療は、薬物療法を行い、必要に応じて外科的介入を検討する。
緑内障点眼薬(β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、経口炭酸脱水酵素阻害薬など)により眼圧管理を行う。
小児緑内障では初回手術がほぼ全例に適応となる。薬物治療は長期的に有効でも実行可能でもないことが多い1)。
AGSおよびSGMRT患者の視能予後は不良であり、複数回の緑内障手術を要する場合がある。
基本的な治療戦略(薬物療法→手術)は通常の小児緑内障と同様であるが、視能予後がより不良であり、複数回の手術を必要とする頻度が高い。SGMRTではJAK阻害薬による全身治療が眼症状にも有効性を示す可能性があり、通常の緑内障治療とは異なるアプローチが検討されている。
SGMRTに伴う緑内障の病態の中心は、DDX58遺伝子変異によるRIG-I(レチノイン酸誘導性遺伝子I)受容体の機能不全である。
RIG-I受容体は自然免疫の重要な構成要素であり、線維柱帯細胞にも存在する。DDX58変異によるRIG-I受容体の機能不全は、以下の経路で緑内障を引き起こす。
RIG-I受容体は角膜にも存在する。角膜のRIG-I受容体の機能不全により、SGMRT患者では角膜移植不全の発生率が高い。角膜手術を検討する際にはこの点を考慮する必要がある。
AGSでは、自然免疫に関与する遺伝子(TREX1、RNASEH2A/B/C、SAMHD1、ADAR、IFIH1)の変異によりI型インターフェロン経路が異常活性化する。この慢性的な免疫活性化が全身の炎症や組織障害を引き起こすが、眼組織における緑内障発症の詳細な機序はまだ十分に解明されていない。
SGMRTの原因遺伝子であるDDX58の変異により、RIG-I受容体の機能不全が生じる。このRIG-I受容体は角膜にも存在しており、その機能異常が角膜移植不全の高い発生率につながると考えられている。
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬は、SGMRTの全身治療において有望な結果を示している。本疾患の眼症状の治療においても有効性を示す可能性があり、今後の研究が期待される。
遺伝性網膜疾患と同様に、将来的に遺伝子特異的な治療アプローチが緑内障においても可能となる可能性がある。分子診断の重要性はプレシジョン・メディシンの観点からもますます高まっている2)。
免疫遺伝性疾患に伴う緑内障では、原因遺伝子の同定が治療標的の特定に直結する。特にRIG-I受容体経路を標的とした治療の開発が期待される。