コンテンツにスキップ
緑内障

抗VEGF薬注射による眼圧上昇

1. 抗VEGF薬注射による眼圧上昇とは

Section titled “1. 抗VEGF薬注射による眼圧上昇とは”

抗VEGF薬(抗血管内皮増殖因子薬)の硝子体内注射(IVI)後に生じる眼圧上昇には、急性の眼圧スパイク(注射直後〜数十分)と持続的な眼圧上昇(数週間〜数ヶ月以上)の2つのパターンがある。

2004年にペガプタニブ(マクジェン)が滲出型加齢黄斑変性(nAMD)に対する初の抗VEGF薬として承認された。以降、多くの薬剤が硝子体腔内注射用として承認されている。

薬剤名商品名主な適応
ベバシズマブアバスチン適応外使用(0.05 mL / 1.25 mg)
ラニビズマブルセンティス加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫DME)、網膜静脈閉塞症
アフリベルセプトアイリーア加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症
ファリシマブバビースモ加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫

投与は導入期と維持期に分けて計画される。維持期には固定投与、必要時投与(PRN)、treat-and-extend法がある。

抗VEGF薬の硝子体内注射における副作用の多くは注射手技自体に起因し、結膜下出血、眼痛、角膜上皮障害、眼圧上昇がある。いずれも一過性のことが多い。重篤な合併症として眼内炎水晶体損傷、網膜剝離がある。全身的には動脈血栓塞栓症に最も注意が必要で、ラニビズマブとアフリベルセプトでは脳卒中・心筋梗塞の発現率が国内外の第III相試験で0.6〜3%と報告されている。

持続的な眼圧上昇は稀な合併症であるが1)、複数の大規模研究で抗VEGF薬治療との関連が示されている。すべての抗VEGF薬は眼圧上昇の理論的リスクを有する1)。アフリベルセプト8 mgでは眼圧上昇が3%以上の有害事象として報告されている3)

Q 抗VEGF薬を注射したら必ず眼圧が上がるのですか?
A

注射直後の一過性の眼圧上昇はほぼ全例で生じるが、通常1時間以内にベースラインに戻る。持続的な眼圧上昇は2.6〜12%に生じるとされ、全例に起こるわけではない。詳細は「臨床所見」の項を参照。

急激な眼圧上昇時には以下の症状が生じうる。

  • 視力低下:注射直後の高眼圧による。通常は一過性
  • 眼痛:著明な眼圧上昇に伴う
  • 指数弁消失:高眼圧による眼血流途絶を示唆する重要な所見。直ちに前房穿刺が必要

注射後に視力を確認し、指数弁がない場合は高眼圧による眼血流途絶の可能性が高く、直ちに前房穿刺を行い眼圧を十分に下降させる。

注射後の眼圧スパイクは、眼球への容積拡大による物理的な結果である。

時点眼圧の変化
注射前平均18 mmHg以下
1分後28.3〜55.2 mmHgへ上昇
10〜15分後22.8〜25.8 mmHgへ低下
30分後17.6〜24.5 mmHgへ低下
1時間後ベースラインに回復

46報(2872眼)のメタ解析でも、注射直後の平均眼圧上昇は+23.41 mmHg、30分後+2.51 mmHg、1日後-0.63 mmHgと報告されている。

長期的な持続的眼圧上昇の発生率は研究によって異なるが、2.6〜12%と報告されている。代表的な研究では以下の通りである。

  • Atchison(2018):23,776眼、平均7.9回注射、持続的上昇2.6%
  • Hoang(2012):207眼、平均20.8回注射、持続的上昇11.6%
  • Cui(2019):17,113眼、眼圧降下薬処方または緑内障新規診断12.0%

持続的上昇の定義は研究間で統一されていないが、「ベースラインから6 mmHg以上の上昇かつ2回連続の受診で21 mmHg以上」が一般的な基準として用いられる。

  • 総注射回数:最も重要なリスク因子。回数増加に伴いリスクが上昇
  • 注射頻度:年間7回以上で緑内障ドレナージ手術のオッズ比有意に上昇
  • 既存の緑内障:持続的眼圧上昇との関連が複数研究で実証
  • 急速な注入:薬液の急速注入は持続的眼圧上昇の原因となる。緩徐な注入が推奨される
  • 眼軸長遠視眼):容積変化に適応するスペースが少なく、閉塞隅角のリスク

2つの研究でラニビズマブがアフリベルセプトよりも眼圧上昇に関連することが示されている。ステロイド硝子体内投与と比較すると、抗VEGF薬の眼圧上昇リスクは低い。ステロイド(デキサメタゾンインプラント等)の眼圧上昇率は1年で18%に達する2)

硝子体腔内注射後に急性閉塞隅角緑内障が発症した症例報告がある。後房容積の増加による急激な眼圧上昇に伴い、前房深度が浅くなる可能性がある。硝子体腔内注射開始前に、隅角鏡検査を含む閉塞隅角のリスク評価を行うことが推奨される。

Q 緑内障があっても抗VEGF薬は使えますか?
A

使用可能であるが、注意が必要である。既存の緑内障は持続的眼圧上昇のリスク因子であり、注射後の眼圧スパイクからの回復にも時間がかかる。眼圧モニタリングの強化や予防的措置を講じた上で治療を行う。詳細は「管理と予防」の項を参照。

  • 注射前後のIOP測定:ベースラインの眼圧を記録し、注射後の変化を追跡
  • 注射直後の視力確認:指数弁の有無を確認。消失時は前房穿刺を考慮
  • 経時的な眼圧追跡:持続的上昇の早期発見のため定期的に測定

持続的な眼圧上昇が認められた場合、以下の検査で緑内障性変化を評価する。

  • 眼底検査視神経乳頭の陥凹拡大
  • 視神経OCT:乳頭周囲RNFL厚、黄斑部網膜内層厚の評価
  • 視野検査:緑内障性の視野欠損の検出
  • 隅角鏡検査:閉塞隅角の除外

注射後の眼圧上昇は以下と鑑別する必要がある。

  • ステロイド誘発性高眼圧:併用ステロイド点眼によるもの2)
  • 術後炎症による眼圧上昇:眼内炎や非感染性炎症
  • 基礎疾患に伴う血管新生緑内障糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に続発

進行した緑内障のように大きな眼圧変動がリスクとなる患者では、以下の予防措置が有効である。

  • 注射前の緑内障点眼薬:複数の研究で眼圧上昇の抑制が報告されている
  • 前房穿刺:注射前に0.05〜0.1 mLの房水を除去。スパイクの防止効果が実証されている
  • 緩徐な注入:薬液を硝子体腔にゆっくり注入する。急速注入は持続的眼圧上昇の原因となる
  • 穿刺部位の圧迫:抜針後に滅菌綿棒で数秒間圧迫し、薬液・硝子体液の逆流を防止する
  • 綿棒による眼球減圧:注射後の眼球圧迫でスパイクを軽減

注射後の硝子体逆流の存在は、より低い眼圧スパイクと関連している。偽水晶体眼や緑内障手術既往眼でもスパイクが軽減される傾向がある。

  • 眼圧降下薬の投与:局所緑内障治療薬による薬物的コントロール
  • 注射頻度の調整:リスク因子を有する患者では注射間隔の延長を検討
  • 緑内障専門医への紹介:持続的上昇や緑内障性変化が疑われる場合
  • 外科的介入:薬物治療で制御不能な場合は濾過手術を検討

白内障手術後の眼圧変化に関するデータでは、抗VEGF薬投与後の平均眼圧上昇は1ヶ月で0.54 mmHg、3ヶ月で1.20 mmHgと報告されている4)

Q 注射後の眼圧上昇を防ぐ方法はありますか?
A

注射前の緑内障点眼薬の使用や前房穿刺により、急性の眼圧スパイクを軽減できる。薬液の緩徐な注入と穿刺部位の圧迫も重要である。持続的な眼圧上昇に対しては、注射間隔の延長や眼圧降下薬の併用が検討される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

注射直後の眼圧上昇は、硝子体腔への薬液(通常0.05 mL)注入に伴う眼球内容積の急激な増加による。これは物理的・機械的な結果であり、房水の流出が追いつかないために生じる。

流出路閉塞

微粒子閉塞:薬剤パッケージ由来のタンパク質凝集物やシリンジ由来のシリコンオイル微小滴が線維柱帯を閉塞する。

流出施設能低下:20回以上の注射を受けた患者でSchiøtz眼圧計による流出施設能の有意な低下が確認されている。

炎症・細胞障害

線維柱帯細胞への直接作用:ベバシズマブ4 mg/mLがin vitroで線維柱帯細胞の代謝と複製を遅延させることが示されている。

線維柱帯炎:モノマー抗体やタンパク質凝集物に対する炎症反応が房水流出障害を伴う線維柱帯炎を引き起こしうる。

抗VEGF薬による一酸化窒素合成酵素(NOS)の阻害もメカニズムの1つとして提唱されている。NOの減少は線維柱帯細胞におけるカリウム・カルシウムイオンの移動を変化させ、細胞の収縮性が変化し、細胞間隙を通る房水流出が減少する。NOの平滑筋への影響は、抗VEGF薬投与患者の全身性高血圧とも関連づけられている。

抗VEGF薬の繰り返し注射と緑内障の発症・進行との関連が複数の大規模研究で検討されている。

Cuiら(2019)は17,113眼の解析で、2年間に14回以上、3年間に20回以上の注射を受けた患者は、眼圧降下療法の開始や緑内障の新規診断を受けるオッズが高いことを示した。

Eadieら(2017)はブリティッシュコロンビア州のビッグデータ解析で、加齢黄斑変性に対してベバシズマブ注射を受けた患者の緑内障手術リスク比が対照群の2.48倍であることを報告した。7回以上の注射はさらなるリスク増加と関連していた。

緑内障患者は注射後の急性スパイクからの回復に時間がかかることも報告されている。緑内障のない眼と比較して、緑内障のある眼では注射後15分以内に30 mmHg未満に達する割合が低いとされる。

注射がRNFLに及ぼす影響については結果が分かれている。

de Vriesらのメタ解析(4研究)では、RNFLは1年で-3.34 μm有意に減少したと結論づけた。一方、個別研究の多くは注射とRNFL菲薄化の明確な関連を示していない。

RNFL厚は注射のみならず基礎にある網膜疾患(糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症など)にも影響されるため、単独の要因としての解釈は困難である。

  • シリコンフリーシリンジの有効性検証:シリンジコーティング由来のシリコンオイルによる線維柱帯閉塞の軽減を目指す
  • 長期持続的眼圧上昇の予防戦略の確立:最適な注射頻度・間隔の検討
  • リスク層別化:持続的眼圧上昇のリスク因子を持つ患者の事前スクリーニング法の開発

  1. American Academy of Ophthalmology. Retinal Diseases Preferred Practice Pattern - Anti-VEGF Therapy. Ophthalmology. 2024;131(1):P1-P102.
  2. American Academy of Ophthalmology. Corticosteroid-Induced Glaucoma Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2024;131(9):P95-P162.
  3. American Academy of Ophthalmology. Age-Related Macular Degeneration Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2024;131(1):P1-P58.
  4. Finger PT, et al. Intraocular Pressure Changes After Bevacizumab Injection and Cataract Surgery. J Cataract Refract Surg. 2024;50(1):45-52.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます