瞼裂斑
部位:球結膜にとどまり角膜に侵入しない。
形態:黄白色の隆起。三角形〜楕円形。
治療:通常は経過観察。炎症時に点眼治療。

瞼裂斑(pinguecula)は、瞼裂部の球結膜に角膜輪部を基底にして発生する黄白色〜黄褐色の小隆起である。線維脂肪性の変性組織であり、角膜には侵入しない1)。名称はラテン語のpinguis(脂肪)に由来する。
加齢とともに罹患率が増大し、50歳を超えると多かれ少なかれほとんどの人に認められる。最も目立つ加齢性変化の一つといえる。鼻側に好発するが、耳側や両側に生じることもある。通常は両眼性である。
ICD-10コード:H11.1。
瞼裂斑は非悪性の加齢性変化であり、悪性化することはない。ゆっくりと増大する可能性はあるが、視力障害の原因にはならない。ただし結膜上皮内腫瘍(CIN)など他の結膜病変との鑑別が必要な場合がある。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。

多くの瞼裂斑は無症状であり、見た目が気になる以外に訴えがないことが多い。
症状を生じる場合は以下のものがある。
瞼裂斑の発症には紫外線(UV)曝露が深く関与しており、翼状片の形成と類似した病因が推定されている1)。その物理的な隆起は眼瞼と眼球のアライメントを変え、涙液の広がりと機能に影響を及ぼす1)。
結膜下のコラーゲンやエラスチンなどの蛋白質が、糖化あるいはラセミ化といった修飾を受けることで分解されにくくなり、異常凝集物の塊を形成すると考えられている。
翼状片と瞼裂斑がいずれも鼻側に多く発生する理由は、角膜を内側に通過する光が鼻側角膜輪部の領域に焦点を結ぶ一方、鼻の影が耳側への光の強度を弱めるためと考えられている。
瞼裂斑
部位:球結膜にとどまり角膜に侵入しない。
形態:黄白色の隆起。三角形〜楕円形。
治療:通常は経過観察。炎症時に点眼治療。
翼状片
部位:結膜から角膜上に三角形に侵入する。
形態:血管豊富な白色膜状組織。Bowman膜を破壊。
治療:視機能障害時に手術(結膜弁移植術など)。
瞼裂斑は翼状片の前駆病変となりうるとする考えがある。炎症性瞼裂斑で鼻側角膜上皮欠損を伴う場合は、翼状片への進行リスクが高いとされる。
瞼裂斑は翼状片の前駆病変となりうるとされるが、すべてが翼状片に進行するわけではない。増大は緩徐であり、紫外線防護を行うことで進行を抑制できる可能性がある。翼状片との違いについては上の比較表を参照。
生検による組織病理学的確認は通常不要であるが、非典型例では適応となることがある。
| 疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 翼状片 | 角膜上に三角形に侵入する |
| 結膜上皮内腫瘍(CIN) | 充血・色素を伴うことあり |
| 角膜縁デルモイド | 先天性、黄白色の隆起 |
| 結膜母斑 | 色素性病変 |
Verhoeff弾性線維染色にて、結膜上皮下の膠原線維の乱れとエオジン好性の弾性線維変性(elastoid degeneration)を認める。被覆上皮はしばしば菲薄化するが、過形成や異形成を呈することもある。核内p53の増加が認められることがあり、UV曝露による変異と一致する。
無症状の瞼裂斑は治療不要であり、経過観察のみでよい。悪性化の心配がないことを患者に説明する。
瞼裂斑に炎症を生じた場合(瞼裂斑炎)は点眼治療を行う。
涙液分布異常に起因するドライアイ症状には人工涙液またはヒアルロン酸点眼薬を処方し、涙液層の安定化を図る。
内科的治療が奏効しない場合、またはコンタクトレンズ装用の妨げとなる場合、外見的に目立つ場合に切除を検討する。
外科的切除は可能であるが、再発のリスクがあり、充血が完全には消失しないこともある。美容上の理由だけでの切除は慎重に検討すべきであり、まずは保存的治療(人工涙液・ステロイド点眼)を試みることが一般的である。
瞼裂斑の本態は、結膜上皮下のコラーゲン線維の変性と異常蛋白質の蓄積である。
紫外線曝露により結膜上皮下の膠原線維が乱れ、弾性線維変性(elastoid degeneration)が生じる。コラーゲンやエラスチンなどの蛋白質が糖化あるいはラセミ化といった翻訳後修飾を受けると、プロテアーゼによる分解を受けにくくなる。これらの分解抵抗性蛋白質が異常凝集物として蓄積し、黄白色の隆起を形成する。
瞼裂斑の上皮において核内p53蛋白の増加が認められることがある。これはUV曝露によるDNA損傷に対する細胞応答であり、翼状片や角膜輪部腫瘍でも同様の所見が報告されている。p53変異の存在は、これらの病変がUV誘発性の変化のスペクトラム上にあることを示唆する。
瞼裂斑の隆起は眼瞼と眼球表面のアライメントを変化させ、涙液の分布と機能に影響を及ぼす1)。隆起が高度な場合、涙液メニスカスの不連続が生じ、隣接する角膜周辺部に乾燥性のdelle(凹窩)を形成する。