桑の実様
typical mulberry type:最も典型的な病型。
角膜中央部:灰白色の隆起性病変が集簇する。桑の実の外観に類似する。
上皮下アミロイド:乳白色で半透明の膠様の隆起物が角膜中央部から周辺へと増加する。

膠様滴状角膜ジストロフィ(gelatinous drop-like corneal dystrophy:GDLD)は、角膜上皮下にアミロイドが沈着し、両眼性に著明な視力低下を来す遺伝性の角膜疾患である。
本疾患は1914年に中泉によって初めて報告された。1932年に清沢が「膠様滴状角膜変性症」と命名して以来、この名で呼ばれている。IC3D分類における略称はGDLDで、上皮ジストロフィに分類される。
2019年に指定難病「膠様滴状角膜ジストロフィー」に認定され、医療費助成の対象となった。
GDLDは世界各地で報告されているが、日本に比較的多い疾患である。欧米ではほとんど見られない。TACSTD2遺伝子には20以上の変異が報告されており、遺伝的異質性が認められる。
10歳代までに発症することが多い。幼少期より以下の症状を訴える。
加齢とともにアミロイドの沈着数や大きさが増す。灰白色から黄色の沈着となり、最終的には瞼裂部を中心に角膜の大部分を覆う。周辺部からの血管侵入、著明な視力低下および眼痛を来し、整容的な問題も加わり患者のQOLを大きく低下させる。
角膜混濁の形態により以下の4病型に分類される。
桑の実様
typical mulberry type:最も典型的な病型。
角膜中央部:灰白色の隆起性病変が集簇する。桑の実の外観に類似する。
上皮下アミロイド:乳白色で半透明の膠様の隆起物が角膜中央部から周辺へと増加する。
帯状角膜変性型
band keratopathy type:初期段階に見られることがある。
瞼裂間:浅層の混濁を認める。帯状角膜変性に類似する所見を呈する。
結膜病変:結膜にも病変を認めることがある。
金柑様
kumquat-like type:進行例に多い。
びまん性黄白色沈着:角膜全体が黄色に変化し金柑様を呈する。
血管侵入:表層新生血管を伴うことがある。
実質混濁型
stromal opacity type:より進行した段階。
実質への波及:病変が角膜実質に及ぶ。
血管侵入:乳白色〜黄色の膠状隆起物に血管侵入を伴う。
そのほか以下の特徴的所見がある。
GDLDはTACSTD2遺伝子の機能喪失型変異により発症する。
TACSTD2遺伝子の異常により、角膜上皮においてタイトジャンクション(密着結合)の構成蛋白であるClaudin 1およびClaudin 7の分解が亢進する。タイトジャンクションが正常に形成されなくなると上皮のバリア機能が低下する。その結果、涙液中のラクトフェリンなどの蛋白質が角膜内に侵入し、アミロイド線維を形成して上皮下に沈着する。

厚生労働省難治性疾患政策研究事業により、GDLDの診断基準が作成されている。
A. 症状
B. 検査所見
C. 鑑別診断:二次性アミロイドーシスおよびclimatic droplet keratopathyを除外する
D. 眼外合併症:なし
E. 遺伝学的検査:TACSTD2遺伝子に異常を認める
Definiteの条件は以下のいずれかを満たす場合である。
B1(桑の実状の沈着)は非常に特徴的な所見であり、典型例では診断に苦慮しない。非典型例ではA〜Cと遺伝子検査(E)を組み合わせて診断する。
重症度は良好な方の眼の矯正視力に基づき、I〜IV度に分類される。
| 重症度 | 基準 | 医療費助成 |
|---|---|---|
| I度 | 片眼のみ罹患、僚眼は健常 | × |
| II度 | 両眼罹患、良い方の矯正視力0.3以上 | × |
| III度 | 両眼罹患、良い方の矯正視力0.1以上0.3未満 | ○ |
| IV度 | 両眼罹患、良い方の矯正視力0.1未満 | ○ |
Definiteと診断されると指定難病の対象となる。重症度III度以上で医療費助成を受けることができる。
TACSTD2遺伝子検査は2020年から「角膜ジストロフィー遺伝子検査」として保険収載されている。ただし、施設内で検査を遂行できる体制を整えたうえで施設認定を得る必要がある。非典型例の診断に特に有用である。
GDLDの治療は混濁の範囲と視力障害の程度に応じて選択される。遺伝性疾患であるため、いずれの治療法でも再発率が極めて高い点が最大の課題である。
PTK
エキシマレーザー治療的角膜表層切除術:混濁が浅層に限局する場合の第一選択。
適応:初期〜中等度の表層混濁。角膜上の隆起物を用手的に擦過するか、PTKを施行する。
角膜移植
表層・深部表層(DALK)・全層(PKP):進行例に適応される。
再発率:全層角膜移植後4年以内に97%が再発する。DALKでは内皮を温存するため再発が遅延する可能性がある。
角膜輪部移植
角膜上皮形成術/輪部移植:角膜移植に併用する。
目的:移植片由来の角膜上皮で眼表面を被覆し、宿主上皮の再侵入を防ぐ。ホスト角膜上皮を除去してから移植を行う。
角膜移植後は治療用SCLの連続装用を継続し、再発を遅延させる。複数回の角膜移植に伴い、移植片拒絶反応や続発性緑内障により失明に至る場合もある。
近年は人工角膜(ボストンI型Kpro)の適応も検討されている。宿主の角膜上皮を介さないため理論的にアミロイド再沈着を回避できるが、術後合併症(感染症、人工角膜後膜など)のリスクがある。
GDLDでは角膜移植後の再発率が極めて高い。全層角膜移植(PKP)後4年以内に97%が再発すると報告されている。レシピエントの上皮細胞がドナーの上皮細胞に置き換わることが原因であり、角膜輪部幹細胞移植の併用や治療用SCLの連続装用で再発の遅延が図られる。
GDLDの原因遺伝子であるTACSTD2は染色体1p32に位置するシングルエクソン遺伝子である。TACSTD2蛋白は角膜上皮のバリア機能維持に不可欠な役割を果たす。
TACSTD2遺伝子に機能喪失型変異が生じると、タイトジャンクションの構成蛋白であるClaudin 1およびClaudin 7の分解が亢進する。正常ではバリア機能に大きく貢献するタイトジャンクションが形成されなくなり、上皮の透過性が亢進する。
上皮バリア機能の低下により、涙液中のラクトフェリンなどの蛋白質が角膜内に侵入する。侵入した蛋白質はアミロイド線維を形成し、角膜上皮下に沈着する。アミロイド沈着物にはラクトフェリンが含まれるが、本疾患はラクトフェリン遺伝子の異常ではない。
組織学的にはアミロイド沈着はコンゴレッド染色で橙赤色に染色される。偏光顕微鏡下ではアップルグリーン(リンゴ緑色)の二色性を示す。電子顕微鏡では上皮のタイトジャンクションが電子透亮性の空間に置き換わっているのが観察される。沈着物は角膜層板内にも侵入し、コラーゲン線維やプロテオグリカンの変性を来す。
TACSTD2遺伝子には20以上の変異が報告されている。本邦ではQ118X変異(ナンセンス変異)が創始者変異として病因染色体の80%以上を占める。ホモ接合体で発症するのが典型的であるが、異なる家系同士の結婚による複合ヘテロ接合体でも発症する。
一部の患者ではTACSTD2変異が検出されず、遺伝的異質性の存在が示唆されている。また浸透率が低いため、遺伝子を受け継いだすべての個人が臨床症状を呈するわけではない。
角膜アミロイドーシスは原発性か続発性か、全身性か局所性かにより分類される。GDLDは格子状角膜ジストロフィとともに原発性局所性のアミロイドーシスに位置づけられる。続発性局所性のアミロイド変性は睫毛乱生、円錐角膜、外傷などに伴って生じるもので、鑑別診断の対象となる。
GDLDは希少疾患であり、個々の施設では臨床経験を持つ医師が少なく、標準的な診断法や治療法が確立されていないという課題があった。厚生労働省難治性疾患政策研究事業として診断基準および重症度分類が作成され、現在はMinds(Medical Information Network Distribution Service)準拠の診療ガイドラインが作成中である。
2020年からTACSTD2遺伝子検査が保険収載され、非典型例の確定診断が容易になった。臨床像に大きな揺らぎがあり、他の角膜変性疾患や炎症性疾患との鑑別に苦慮する場合にも遺伝子診断が有用である。