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角膜・外眼部疾患

膠様滴状角膜ジストロフィ(GDLD)

1. 膠様滴状角膜ジストロフィ(GDLD)とは

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膠様滴状角膜ジストロフィ(gelatinous drop-like corneal dystrophy:GDLD)は、角膜上皮下にアミロイドが沈着し、両眼性に著明な視力低下を来す遺伝性の角膜疾患である。

本疾患は1914年に中泉によって初めて報告された。1932年に清沢が「膠様滴状角膜変性症」と命名して以来、この名で呼ばれている。IC3D分類における略称はGDLDで、上皮ジストロフィに分類される。

  • 遺伝形式:常染色体劣性(潜性)遺伝
  • 原因遺伝子:TACSTD2(tumor associated calcium signal transducer 2)遺伝子(染色体1p32)
  • 有病率:日本では1991年の全国調査で約3万3千人に1人と推定された。近親婚の減少によりさらに低下していると考えられる
  • 地域差:日本で比較的多く見られ、欧米ではほとんど報告されない
  • Q118X変異:本邦患者における創始者変異であり、病因染色体の80%以上を占める

2019年に指定難病「膠様滴状角膜ジストロフィー」に認定され、医療費助成の対象となった。

Q GDLDは日本以外でも発症しますか?
A

GDLDは世界各地で報告されているが、日本に比較的多い疾患である。欧米ではほとんど見られない。TACSTD2遺伝子には20以上の変異が報告されており、遺伝的異質性が認められる。

10歳代までに発症することが多い。幼少期より以下の症状を訴える。

  • 羞明:初期から顕著な症状である
  • 異物感:角膜表面の膠様隆起物による
  • 流涙:刺激症状に伴う
  • 視力低下:アミロイド沈着の進行に伴い徐々に悪化する。成人期以降は著明となる

加齢とともにアミロイドの沈着数や大きさが増す。灰白色から黄色の沈着となり、最終的には瞼裂部を中心に角膜の大部分を覆う。周辺部からの血管侵入、著明な視力低下および眼痛を来し、整容的な問題も加わり患者のQOLを大きく低下させる。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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角膜混濁の形態により以下の4病型に分類される。

桑の実様

typical mulberry type:最も典型的な病型。

角膜中央部:灰白色の隆起性病変が集簇する。桑の実の外観に類似する。

上皮下アミロイド:乳白色で半透明の膠様の隆起物が角膜中央部から周辺へと増加する。

帯状角膜変性型

band keratopathy type:初期段階に見られることがある。

瞼裂間:浅層の混濁を認める。帯状角膜変性に類似する所見を呈する。

結膜病変:結膜にも病変を認めることがある。

金柑様

kumquat-like type:進行例に多い。

びまん性黄白色沈着:角膜全体が黄色に変化し金柑様を呈する。

血管侵入:表層新生血管を伴うことがある。

実質混濁型

stromal opacity type:より進行した段階。

実質への波及:病変が角膜実質に及ぶ。

血管侵入:乳白色〜黄色の膠状隆起物に血管侵入を伴う。

そのほか以下の特徴的所見がある。

  • フルオレセイン遅延染色(delayed staining):角膜上皮障害がないにもかかわらず、タイトジャンクション形成不全による透過性亢進から、フルオレセイン点眼後数分で蛍光が観察される
  • 上皮菲薄化:膠様隆起物のある部位では角膜上皮が菲薄化している
  • 血管侵入:角膜周辺部に表層の血管侵入を認める

GDLDはTACSTD2遺伝子の機能喪失型変異により発症する。

TACSTD2遺伝子の異常により、角膜上皮においてタイトジャンクション(密着結合)の構成蛋白であるClaudin 1およびClaudin 7の分解が亢進する。タイトジャンクションが正常に形成されなくなると上皮のバリア機能が低下する。その結果、涙液中のラクトフェリンなどの蛋白質が角膜内に侵入し、アミロイド線維を形成して上皮下に沈着する。

  • 家族歴:常染色体劣性遺伝のため、両親が保因者である場合に発症のリスクがある
  • 日本人血統:Q118X変異が創始者変異として高頻度に存在する
  • 血族結婚:通常、発端者の両親が血族結婚である。ただし異なる家系同士の結婚による複合ヘテロ接合体でも発症する
Gelatinous Drop-Like Corneal Dystrophy image
Gelatinous Drop-Like Corneal Dystrophy image
Yang Jing, Chun Liu, Liya Wang A novel TACSTD2 mutation identified in two Chinese brothers with gelatinous drop-like corneal dystrophy 2009 Aug 14 Mol Vis. 2009 Aug 14; 15:1580-1588 Figure 5. PMCID: PMC2728569. License: CC BY.
上段はFourier-domain OCTで、矢印部に角膜表層の高反射沈着と前方への隆起がみられる。下段の正常対照では表層が滑らかで、病変との差が明瞭である。

厚生労働省難治性疾患政策研究事業により、GDLDの診断基準が作成されている。

A. 症状

  • 視力低下
  • 羞明
  • 異物感
  • 流涙

B. 検査所見

  1. 両眼の角膜中央部から瞼裂に灰白色隆起性の角膜上皮直下のアミロイド沈着物の集簇(桑の実状)を認める
  2. フルオレセイン遅延染色(delayed staining)を認める
  3. 角膜周辺部に表層の血管侵入を認める

C. 鑑別診断:二次性アミロイドーシスおよびclimatic droplet keratopathyを除外する

D. 眼外合併症:なし

E. 遺伝学的検査:TACSTD2遺伝子に異常を認める

Definiteの条件は以下のいずれかを満たす場合である。

  • Dを満たし、Aのいずれかを認め、B1を認め、Cの鑑別すべき疾患を除外できる症例
  • Dを満たし、Aのいずれかを認め、B2またはB3を認め、Eを認め、Cの鑑別すべき疾患を除外できる症例

B1(桑の実状の沈着)は非常に特徴的な所見であり、典型例では診断に苦慮しない。非典型例ではA〜Cと遺伝子検査(E)を組み合わせて診断する。

重症度は良好な方の眼の矯正視力に基づき、I〜IV度に分類される。

重症度基準医療費助成
I度片眼のみ罹患、僚眼は健常×
II度両眼罹患、良い方の矯正視力0.3以上×
III度両眼罹患、良い方の矯正視力0.1以上0.3未満
IV度両眼罹患、良い方の矯正視力0.1未満

Definiteと診断されると指定難病の対象となる。重症度III度以上で医療費助成を受けることができる。

  • 細隙灯顕微鏡検査:角膜表面の膠様隆起物や混濁を観察する。充血と角膜浮腫のない両眼性の角膜混濁を認めた場合に角膜ジストロフィを疑う
  • フルオレセイン透過試験:タイトジャンクション機能不全により色素が角膜組織内へ速やかに透過する
  • 前眼部光干渉断層計AS-OCT:上皮下層および角膜実質全体にわたるアミロイド沈着を確認できる
  • TACSTD2遺伝子検査:令和2年(2020年)から角膜ジストロフィー遺伝子検査として保険収載された。TACSTD2はシングルエクソン遺伝子であり検索が容易である
  • 組織検査:コンゴレッド染色陽性、偏光顕微鏡でアップルグリーン(リンゴ緑色)の二色性を示す
  • 続発性角膜アミロイドーシス睫毛乱生円錐角膜などの慢性刺激に伴いアミロイドが沈着する。遺伝がないこと、慢性眼表面炎症の背景があることが鑑別点となる。確定診断には組織検査が必要
  • Climatic droplet keratopathy:40歳以上の男性に多い。砂漠や極寒地域に見られ、紫外線や乾燥が原因。黄色から灰白色の隆起状角膜病変を呈する
  • 帯状角膜変性:カルシウム塩が上皮下に沈着する。3時・9時方向の周辺部から始まり中央へ進展する
  • ザルツマン結節状変性:中年以上の女性に好発する非炎症性の上皮下結節。灰白色の隆起性結節がGDLDの桑実状結節に似ることがある
  • 格子状角膜ジストロフィ:TGFBI遺伝子変異による常染色体優性遺伝。角膜実質に分岐した線維状混濁を呈する
Q 遺伝子検査は保険で受けられますか?
A

TACSTD2遺伝子検査は2020年から「角膜ジストロフィー遺伝子検査」として保険収載されている。ただし、施設内で検査を遂行できる体制を整えたうえで施設認定を得る必要がある。非典型例の診断に特に有用である。

GDLDの治療は混濁の範囲と視力障害の程度に応じて選択される。遺伝性疾患であるため、いずれの治療法でも再発率が極めて高い点が最大の課題である。

  • 人工涙液:表面の刺激症状を緩和する対症療法として用いる
  • 治療用ソフトコンタクトレンズ(SCL)の連続装用:上皮のターンオーバーを減少させることで膠様隆起病変の再発を抑制し、手術間隔の延長を得ることができる。術後も装用を継続する

PTK

エキシマレーザー治療的角膜表層切除術:混濁が浅層に限局する場合の第一選択。

適応:初期〜中等度の表層混濁。角膜上の隆起物を用手的に擦過するか、PTKを施行する。

角膜移植

表層・深部表層(DALK)・全層(PKP:進行例に適応される。

再発率:全層角膜移植後4年以内に97%が再発する。DALKでは内皮を温存するため再発が遅延する可能性がある。

角膜輪部移植

角膜上皮形成術/輪部移植:角膜移植に併用する。

目的:移植片由来の角膜上皮で眼表面を被覆し、宿主上皮の再侵入を防ぐ。ホスト角膜上皮を除去してから移植を行う。

角膜移植後は治療用SCLの連続装用を継続し、再発を遅延させる。複数回の角膜移植に伴い、移植片拒絶反応や続発性緑内障により失明に至る場合もある。

近年は人工角膜(ボストンI型Kpro)の適応も検討されている。宿主の角膜上皮を介さないため理論的にアミロイド再沈着を回避できるが、術後合併症(感染症、人工角膜後膜など)のリスクがある。

Q 角膜移植をしても再発しますか?
A

GDLDでは角膜移植後の再発率が極めて高い。全層角膜移植(PKP)後4年以内に97%が再発すると報告されている。レシピエントの上皮細胞がドナーの上皮細胞に置き換わることが原因であり、角膜輪部幹細胞移植の併用や治療用SCLの連続装用で再発の遅延が図られる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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TACSTD2遺伝子とタイトジャンクション

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GDLDの原因遺伝子であるTACSTD2は染色体1p32に位置するシングルエクソン遺伝子である。TACSTD2蛋白は角膜上皮のバリア機能維持に不可欠な役割を果たす。

TACSTD2遺伝子に機能喪失型変異が生じると、タイトジャンクションの構成蛋白であるClaudin 1およびClaudin 7の分解が亢進する。正常ではバリア機能に大きく貢献するタイトジャンクションが形成されなくなり、上皮の透過性が亢進する。

上皮バリア機能の低下により、涙液中のラクトフェリンなどの蛋白質が角膜内に侵入する。侵入した蛋白質はアミロイド線維を形成し、角膜上皮下に沈着する。アミロイド沈着物にはラクトフェリンが含まれるが、本疾患はラクトフェリン遺伝子の異常ではない。

組織学的にはアミロイド沈着はコンゴレッド染色で橙赤色に染色される。偏光顕微鏡下ではアップルグリーン(リンゴ緑色)の二色性を示す。電子顕微鏡では上皮のタイトジャンクションが電子透亮性の空間に置き換わっているのが観察される。沈着物は角膜層板内にも侵入し、コラーゲン線維やプロテオグリカンの変性を来す。

TACSTD2遺伝子には20以上の変異が報告されている。本邦ではQ118X変異(ナンセンス変異)が創始者変異として病因染色体の80%以上を占める。ホモ接合体で発症するのが典型的であるが、異なる家系同士の結婚による複合ヘテロ接合体でも発症する。

一部の患者ではTACSTD2変異が検出されず、遺伝的異質性の存在が示唆されている。また浸透率が低いため、遺伝子を受け継いだすべての個人が臨床症状を呈するわけではない。

角膜アミロイドーシスにおける位置づけ

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角膜アミロイドーシスは原発性か続発性か、全身性か局所性かにより分類される。GDLDは格子状角膜ジストロフィとともに原発性局所性のアミロイドーシスに位置づけられる。続発性局所性のアミロイド変性は睫毛乱生、円錐角膜、外傷などに伴って生じるもので、鑑別診断の対象となる。

GDLDは希少疾患であり、個々の施設では臨床経験を持つ医師が少なく、標準的な診断法や治療法が確立されていないという課題があった。厚生労働省難治性疾患政策研究事業として診断基準および重症度分類が作成され、現在はMinds(Medical Information Network Distribution Service)準拠の診療ガイドラインが作成中である。

2020年からTACSTD2遺伝子検査が保険収載され、非典型例の確定診断が容易になった。臨床像に大きな揺らぎがあり、他の角膜変性疾患や炎症性疾患との鑑別に苦慮する場合にも遺伝子診断が有用である。

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