格子状角膜ジストロフィ(LCD)
原因遺伝子:TGFBI(R124C等)
沈着物:アミロイド
特徴:格子状の分岐する線状混濁が角膜実質に出現する。コンゴレッド染色陽性で偏光顕微鏡下に黄緑色の複屈折を示す

角膜実質ジストロフィは、角膜実質に異常タンパク質やその他の物質が沈着することで角膜混濁を生じる遺伝性疾患群である。2015年に改訂されたIC3D(International Committee for Classification of Corneal Dystrophies)分類では、病変部位と遺伝子変異に基づき体系的に分類されている。
多くのサブタイプにおいてTGFBI(transforming growth factor β-induced)遺伝子の変異が原因となる。TGFBI遺伝子は染色体5q31に位置し、1つのアミノ酸変異の違いで異なる臨床像を呈する点が特徴的である。TGFBI遺伝子の変異は格子状角膜ジストロフィI型、Reis-Bücklers角膜ジストロフィ、Thiel-Behnke角膜ジストロフィ、顆粒状角膜ジストロフィII型(Avellino角膜ジストロフィ)、顆粒状角膜ジストロフィI型などの角膜実質ジストロフィに関与する8)。TGFBIpは細胞外マトリックス(ECM)タンパク質であり、コラーゲン、インテグリン、フィブロネクチンとの相互作用を介して細胞接着を仲介する8)9)。現在までに70種以上のTGFBI変異が同定されており、そのうち41種が格子状角膜ジストロフィに関連する3)。
2015年のIC3D改訂では「上皮-実質TGFBI関連ジストロフィ」という名称が導入され、混濁が上皮下から実質深層にまで及ぶ一連の疾患として包括的に分類されている。
格子状角膜ジストロフィ(LCD)
原因遺伝子:TGFBI(R124C等)
沈着物:アミロイド
特徴:格子状の分岐する線状混濁が角膜実質に出現する。コンゴレッド染色陽性で偏光顕微鏡下に黄緑色の複屈折を示す
顆粒状角膜ジストロフィ(GCD)
原因遺伝子:TGFBI(1型: R555W、2型: R124H)
沈着物:ヒアリン(1型)、ヒアリン+アミロイド(2型)
特徴:瞳孔領付近に顆粒状の白色混濁が出現する。マッソン・トリクローム染色で赤色に染まる
斑状角膜ジストロフィ(MCD)
原因遺伝子:CHST6
沈着物:グリコサミノグリカン(GAG)
特徴:びまん性の角膜混濁で実質全層に及ぶ。アルシアンブルー染色陽性である。常染色体劣性遺伝で唯一の劣性遺伝サブタイプである
このほか、UBIAD1変異によるSchnyder角膜ジストロフィ(コレステロール・リン脂質の沈着)、TACSTD2変異による膠様滴状角膜ジストロフィ(GDLD)、GSN変異による格子状角膜ジストロフィ2型(Meretoja症候群)、DCN変異による先天性実質角膜ジストロフィなども角膜実質ジストロフィに含まれる。
TGFBI遺伝子の変異により角膜実質に異常なタンパク質(TGFBIp)が沈着する一群の遺伝性角膜疾患です。変異するアミノ酸が1つ異なるだけで、格子状・顆粒状・Reis-Bücklersなど臨床像が大きく変わる点が特徴的です。常染色体優性遺伝で、多くは両眼性に進行します。
角膜実質ジストロフィに共通する自覚症状として以下がある。
LCD患者では再発性上皮びらんが初発症状となることが多い。GCDでは混濁そのものによる視力低下が主訴となりやすい。GDLDでは視力低下、羞明、異物感、流涙が主要症状である10)。
格子状角膜ジストロフィ(LCD):典型例(LCD1)では角膜中央から中間周辺部にかけて、分岐する格子状の線状混濁が角膜実質前層に出現する。すりガラス状の角膜混濁と上皮下瘢痕も伴う。Variant LCDでは遅発性で非対称な分布を示すことがある。フィンランドの家系で報告されたSer591Phe変異例では、71歳で初めて症状が出現し、半透明の上皮下不整と中心〜中間周辺部の太い分岐する格子状混濁を認めた2)。
顆粒状角膜ジストロフィ1型(GCD1):初期に瞳孔領付近に円形で辺縁鮮明な顆粒状の白色〜灰白色の小さな混濁が角膜上皮下および実質浅層に観察される。ヘテロ接合体のR555W変異により生じ、ホモ接合体では重症化する。
顆粒状角膜ジストロフィ2型(GCD2; Avellino角膜ジストロフィ):R124H変異が原因。ヒアリンとアミロイドの両方が沈着する混合型。SMILE施行後のGCD2患者では、術後2ヵ月で手術界面に沈着が出現し、33ヵ月後にはFD-OCTでBowman膜直下の沈着と界面沈着が同時に確認された1)。
斑状角膜ジストロフィ(MCD):びまん性の角膜混濁が実質全層に及ぶ。CHST6遺伝子変異による常染色体劣性遺伝。角膜ジストロフィのなかで唯一の劣性遺伝型である。
Schnyder角膜ジストロフィ:角膜中央部のリング状〜円盤状の混濁が特徴。コレステロールやリン脂質の沈着による。全身的な脂質異常症を高率に合併する。
膠様滴状角膜ジストロフィ(GDLD):両眼の角膜中央部から瞼裂に灰白色隆起性のアミロイド沈着物が集簇する。桑の実状と称される特徴的な外観を呈する10)。角膜上皮障害がないにもかかわらず、フルオレセイン染色後数分で蛍光が観察されるdelayed stainingは診断に有用な所見である10)。
LCD患者では角膜上皮が脆弱化しており、感染症を併発するリスクがある。LCD1患者に両側性Mooren潰瘍を合併した症例も報告されている7)。また、LCDの角膜では微胞子虫(microsporidia)角膜炎の発症例が報告されており、上皮障害に起因する易感染性が示唆されている6)。角膜ジストロフィの一般人口における有病率は100万人あたり897人と推定されており、LCDはそのうち1%未満を占める6)。
角膜実質ジストロフィの大半はTGFBI遺伝子の点変異が原因である。変異部位と対応する疾患を以下に示す。
| 変異 | 疾患名 | 遺伝形式 |
|---|---|---|
| R555W | 顆粒状角膜ジストロフィ1型 | AD |
| R124H | 顆粒状角膜ジストロフィ2型 | AD |
| R124C | 格子状角膜ジストロフィ1型 | AD |
| R124L | Reis-Bücklers角膜ジストロフィ | AD |
| R555Q | Thiel-Behnke角膜ジストロフィ | AD |
| L527R | 格子状角膜ジストロフィ4型 | AD |
| Ser591Phe | Variant LCD(遅発型) | AD |
AD: 常染色体優性遺伝
新規のTGFBI変異は今なお報告が続いている。フィンランドの家系で同定されたc.1772C>T(p.Ser591Phe)変異は、エクソン13のFAS1-4ドメインに位置し、遅発性で非対称なvariant LCDを引き起こす2)。この変異はgnomADデータベースに登録がなく、複数の予測プログラムで病原性と判定された2)。米国の家系においても同変異が独立に確認されている3)。同一のSer591位置における異なるアミノ酸置換(Ser591Tyr)はTBCD様の表現型を示すことが報告されており、同一コドンの異なる変異が異なる臨床像を生じることが実証された3)。
TGFBI以外の原因遺伝子として、CHST6(MCD)、UBIAD1(Schnyder CD)、TACSTD2(GDLD)、GSN(LCD2 / Meretoja症候群)、DCN(先天性実質角膜ジストロフィ)がある。
TGFBI関連角膜ジストロフィの患者では、LASIK・PRK・SMILE等の屈折矯正手術が角膜沈着を増悪させることが知られている。GCD2患者に対する片眼SMILE施行後、術後2ヵ月で手術界面に新規沈着が出現し、33ヵ月後には沈着のサイズ・密度・数が増加した1)。TGF-βは創傷治癒に不可欠な因子であり、角膜上皮の外傷がTGFBI遺伝子を活性化してTGFBIpの産生を増加させる1)。LASIK後のGCD1増悪例では、フラップ界面にマッソン・トリクローム陽性のヒアリン沈着が確認されている5)。
TGFBI関連角膜ジストロフィの患者さんでは、LASIK・PRK・SMILEなどの屈折矯正手術は禁忌です。手術による角膜への侵襲がTGF-βを誘導し、異常タンパク質の沈着を増悪させます。術前に家族歴がある場合や角膜混濁が疑われる場合は、必ず遺伝子検査を行う必要があります。
各サブタイプに特徴的な所見を示す。LCDでは格子状の線状混濁、GCDでは顆粒状の白色混濁、MCDではびまん性の角膜混濁が観察される。GCD2では逆照明で半透明の沈着と空胞(breadcrumb様外観)が確認できる5)。
沈着の深度と広がりを定量的に評価できる。GCD2のLASIK後症例では、フラップ界面(深度149μmおよび115μm)の高反射沈着が描出された5)。LCDでは実質内の高反射沈着が可視化される2)。
細胞レベルでの沈着の形態を評価可能。GCD1のLASIK後例では基底上皮層〜Bowman膜に細く高反射な沈着、前部〜中間実質に台形の高密度白色沈着が認められた5)。
| 染色法 | 対象沈着物 | 対応疾患 |
|---|---|---|
| コンゴレッド染色 | アミロイド | LCD、GDLD |
| マッソン・トリクローム | ヒアリン | GCD1、GCD2 |
| アルシアンブルー染色 | GAG | MCD |
偏光顕微鏡下にコンゴレッド陽性沈着は黄緑色の複屈折(apple green birefringence)を示す。GCD2ではアミロイドとヒアリンの双方が沈着するため、コンゴレッドとマッソン・トリクロームの両方で陽性となる6)。
確定診断に有用である。とくにvariant LCDや非典型例では遺伝子解析が診断の鍵となる2)3)。GDLDの診断基準では検査所見に遺伝学的検査を組み合わせることで、非典型例の診断精度が向上する10)。
浅層の角膜混濁に対する第一選択。エキシマレーザーにより混濁部位を切除する。初期病変には有効だが、遺伝性疾患のため再発は避けられない。
LCDの難治性再発性上皮びらんに対し、トポグラフィーガイド下経上皮PRKとPTKを同時併用する手法が報告されている4)。78歳男性のLCD症例で両眼に施行したところ、術後3ヵ月で角膜びらんが消失し、矯正視力が右眼20/100→20/25、左眼20/400→20/50に改善した4)。マスキング剤(1%ヒドロキシメチルセルロース)による表面平滑化とマイトマイシンC塗布が併用された4)。
混濁の進行に応じて表層角膜移植(LKP)、深部表層角膜移植(DALK)、全層角膜移植(PKP)が選択される。TGFBI関連ジストロフィでは上皮由来の沈着が主体であるため、表層移植が第一選択となるが、再発のリスクは残る。
LASIK後のGCD1増悪例に対してはフェムトセカンドレーザー補助縫合不要表層角膜移植(F-SALK)が奏効した報告がある5)。術後6ヵ月でグラフト透明度4+を維持し、矯正視力6/24→6/12に改善した5)。
LCD1に両側性Mooren潰瘍を合併した症例では、シクロスポリン全身投与下に全層角膜移植が施行され、術後両眼とも矯正視力20/30を達成した7)。10年以上経過しても潰瘍の再発はなかった7)。
GDLDでは混濁範囲に応じてPTKまたは角膜移植(表層・深部表層・全層)が施行される10)。遺伝性疾患であるため再発率が非常に高く、複数回の角膜移植を要することが多い10)。ソフトコンタクトレンズの装用によりアミロイド沈着の再発抑制と手術間隔の延長が得られることが知られている10)。GDLDは2019年に指定難病に認定され、重症度分類III度以上で医療費助成の対象となる10)。
TGFBI関連角膜ジストロフィの患者にはLASIK、PRK、SMILEを含むすべての角膜屈折矯正手術が禁忌である1)5)。
PTK(第一選択)
適応:浅層の混濁、再発性上皮びらん
利点:低侵襲、視力改善が期待できる
課題:遺伝性のため再発は避けられない。PRK併用で屈折矯正と表面整復を同時に行う手法も報告されている4)
角膜移植
適応:進行した混濁、PTKで対応困難な深層病変
術式:表層・深部表層・全層から病変深度に応じて選択する
課題:再発リスクが残る。GDLDでは複数回の移植が必要になることが多い10)
PTKは浅層の混濁除去に有効で視力改善が期待できますが、遺伝性疾患であるため数年後に再発する可能性があります。再発時には再度のPTKや角膜移植が検討されます。生涯にわたる定期的な経過観察が重要です。
TGFBI遺伝子がコードするTGFBIp(ケラトエピテリン)は、N末端の分泌シグナル配列をもつECMタンパク質であり、コラーゲン、フィブロネクチン、インテグリンとの相互作用を介して細胞接着を仲介する8)9)。TGFBI変異により産生される異常TGFBIpは正常な分解・クリアランスを受けず、角膜実質内に蓄積・凝集する。
変異の種類により沈着物の性質が異なる。R124C変異ではアミロイド線維が形成されてLCDの臨床像を呈し、R555W変異ではヒアリン沈着がGCD1を引き起こす。R124H変異(GCD2)ではアミロイドとヒアリンの両方が沈着する混合型となる。
Ser591Phe変異に対するRosettaベースの構造予測では、ΔG = 23.5 REUの熱力学的不安定化が算出された3)。これはエネルギー的なフラストレーション(energetic frustration)を反映し、LCD誘発性変異に共通して見られる不安定化パターンと一致する3)。同一コドンの異なる変異(Ser591Phe vs Ser591Tyr)で異なる表現型(LCD vs TBCD様)が生じることは、アミノ酸置換の種類がタンパク質のフォールディングと凝集機序を決定することを示唆している3)。
角膜への外傷はTGF-βの発現を誘導する1)。TGF-βはTGFBI遺伝子を活性化し、TGFBIpの産生を増加させる。変異TGFBIpが過剰に産生されることで沈着が加速する。角膜上皮は角膜実質のケラトサイトと比較してより多くのTGF-βを産生するため、上皮損傷が大きい手術ほど増悪が顕著になる1)。
GCD2ではTGFBIpがリソソーム機能障害を介してオートファジークリアランスの遅延を引き起こすことも報告されており1)、ミトコンドリア機能障害と細胞酸化ストレスの亢進がTGFBIp沈着を促進する分子メカニズムが示唆されている1)。SMILEはLASIKやPRKと比較して上皮損傷が少ないため、GCD2の増悪がやや軽度である可能性が示唆されているが、依然として禁忌である1)。
GDLDではTACSTD2変異によりタイトジャンクションの形成不全が生じ、上皮透過性が亢進する。この透過性亢進により涙液中のタンパク質が角膜実質に浸入し、アミロイドとして沈着すると考えられている。
TGFBI変異のスペクトラムは拡大を続けている。Ser591Phe変異の発見2)とその独立した確認3)は、遅発性variant LCDの遺伝的多様性を示した。同一アミノ酸位置の異なる置換が異なる表現型を示すという知見3)は、変異特異的な分子メカニズムの解明への道を開いている。
Rosettaベースのタンパク質構造予測により、TGFBI変異がタンパク質の安定性に与える影響を定量的に評価できるようになった3)。新規変異の病原性評価や治療標的の探索において、計算生物学的手法の重要性が高まっている。
PRK+PTK同時併用手術はLCDの難治性上皮びらんに対する新しい治療選択肢として期待される4)。トポグラフィーガイド下手術により不整角膜の矯正と混濁除去を同時に達成できる。LASIK後のGCD増悪に対するF-SALK5)も、これまで治療選択肢が限られていた症例群への新たなアプローチとなっている。
LCD角膜における微胞子虫角膜炎の初報告6)は、角膜ジストロフィ患者の上皮バリア機能障害が感染リスクを高めることを改めて示した。治療的角膜移植後の再発も報告されており、LCD患者の感染管理の重要性が認識されている。
はい、GDLDは2019年に指定難病「膠様滴状角膜ジストロフィー」に認定されました。診断基準によりdefiniteと診断されると指定難病の対象となり、重症度分類III度以上(良好な方の眼の矯正視力で判定)で医療費助成を受けることができます。
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