早期
網膜結晶:後極部に多数の黄白色結晶状沈着を認める。
RPE変化:軽度のRPE不整・色素脱失が散在する。
脈絡膜:明らかな萎縮は認めない。

ビエッティ結晶状ジストロフィ(Bietti crystalline dystrophy: BCD)は、CYP4V2遺伝子の両アレル性変異に起因する常染色体劣性遺伝の脈絡網膜ジストロフィである1)。1937年にイタリアの眼科医G.B. Biettiが3例の患者で初めて報告した1)。
CYP4V2はシトクロムP450ファミリーに属する酵素をコードする遺伝子であり、これまでに100種以上の変異が同定されている1)。BCDの有病率は東アジア人(中国・日本・韓国)で高く、遺伝子頻度の解析からは約1/67,000と推定されている1)。
視覚障害は20〜40代で発症することが多い。50〜60代で高度視覚障害に至り、法的失明に達する患者もいる。
BCDの初発症状は多くの場合20〜30代で自覚される1)。
症状の進行速度には左右差や個人差が大きい1)。
BCDの眼底所見は、Yuzawaらの分類により3段階に分けられる1)。
早期
網膜結晶:後極部に多数の黄白色結晶状沈着を認める。
RPE変化:軽度のRPE不整・色素脱失が散在する。
脈絡膜:明らかな萎縮は認めない。
中期
結晶の拡大:沈着範囲が赤道部へ拡大する。
RPE萎縮:地図状のRPE萎縮が後極部に出現する。
脈絡膜硬化:脈絡膜血管の硬化・狭細化が進行する。
進行期
広範な萎縮:脈絡網膜萎縮が後極から赤道部を超えて拡大する。
結晶の減少:萎縮進行に伴い結晶は減少・消失する。
脈絡膜大血管露出:RPE・脈絡膜毛細血管の高度萎縮により大血管が透見される。
進行期では萎縮の進行に伴い結晶が減少する所見が特徴的であり、13年間の長期経過観察でもこの傾向が確認されている6)。
角膜輪部には上皮下および前部実質に黄白色結晶を認めることがあり、患者の25〜50%に見られる1)。北欧系の患者でより高頻度とされる。水晶体にも同様の結晶沈着が報告されている1)。
近親婚家系では、罹患者だけでなく家族にも角膜および網膜の結晶沈着が認められた報告がある5)。また、血清コレステロール・LDL・トリグリセリドの上昇など全身の脂質代謝異常を伴うことがある5)。
角膜結晶は全例に認められるわけではなく、報告により25〜50%の患者に見られる1)。CYP4V2は角膜での発現が限定的であるため、角膜結晶がなくてもBCDは否定できない。診断は網膜所見と遺伝子検査を主体に行う。
BCDの原因遺伝子はCYP4V2(染色体4q35)であり、2004年にLiらにより同定された1)。CYP4V2はシトクロムP450ファミリー4・サブファミリーV・メンバー2をコードし、脂肪酸のω-水酸化に関与する1)。これまでに100種以上の変異が報告されている1)。
アジア人集団で最も高頻度の変異はc.802-8_810delinsGCであり、日本・中国・韓国の患者で高い割合を占める1)3)。ブラジル人患者ではc.1169G>T(p.Arg390Leu)という新規変異も同定されており、同部位の変異c.1169G>A(p.Arg390His)も報告されている3)4)。
BCDは常染色体劣性遺伝であり、両親がともにCYP4V2変異の保因者である場合、子どもに25%の確率で発症する。片方の親のみが保因者であれば発症しないが、子どもの50%が保因者となる。
診断の基本は眼底検査による特徴的所見の確認である。網膜の黄白色結晶沈着、RPE萎縮、脈絡膜血管硬化の三徴を認める1)。角膜輪部の結晶も診断の補助となる。
BCDの評価にはマルチモーダルイメージングが有用である1)。
| 検査法 | 主な評価項目 | 特徴的所見 |
|---|---|---|
| 光干渉断層計(OCT) | 網膜構造 | 高反射ドット、ORT |
| 光干渉断層血管撮影(OCTA) | 脈絡膜血管 | 毛細血管密度低下 |
| FAF | RPE機能 | 高/低蛍光パターン |
網膜電図は杆体・錐体機能の評価に不可欠である。BCDでは暗所視(杆体系)および明所視(錐体系)のa波・b波振幅が低下する1)5)。
臨床所見が不明確な場合、CYP4V2のシーケンシングにより確定診断が可能である1)4)。
BCDに対する根治治療は現時点で確立されていない1)。治療の主軸は合併症の管理と進行のモニタリングである。年1回以上の定期的な眼科検査が推奨される。
脈絡膜新生血管
治療法:抗VEGF薬の硝子体内注射が有効である1)。
小児例:15歳男児においてranibizumab単回注射で良好な転帰が得られた報告がある2)。BCD合併MNVでは初の小児抗VEGF治療例であった2)。
嚢胞様黄斑浮腫
治療法:炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド内服、ドルゾラミド点眼)が用いられる1)。
機序:非血管性の浮腫であり、Müller細胞機能障害が関与すると考えられている1)。
黄斑円孔
特徴:まれな合併症であるが、13年経過観察中に無症候性の全層黄斑円孔を発症した報告がある6)。
治療方針:無症候性で中心窩が保たれている場合、手術適応は慎重に判断する6)。
視覚障害が進行した患者に対しては、ロービジョン専門医への紹介や補助具の活用が重要である。
抗VEGF薬の硝子体内注射が標準的な治療法であり、成人のみならず小児例でも有効性が報告されている2)。定期的なOCT・OCTAによるモニタリングで早期発見が重要である。
CYP4V2は脂肪酸のω-水酸化酵素活性を有し、飽和中鎖脂肪酸の末端炭素を水酸化してジカルボン酸を産生する1)。また、脂肪酸前駆体からn-3多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)への変換にも関与する1)。
CYP4V2変異によりこれらの酵素活性が低下すると、脂質の結合・伸長・不飽和化に異常を来す1)。その結果、コレステロールおよびコレステロールエステルが網膜、角膜、結膜の細胞内に蓄積し、結晶として沈着する1)。
CYP4V2遺伝子はRPEに高発現するが、心臓・脳・肺・肝臓・腎臓・リンパ球にも発現している1)。皮膚線維芽細胞やリンパ球にも脂質封入体が確認されていることから、全身的な脂質代謝異常が存在する可能性が示唆されている1)。しかし、臨床的な表現型は眼に限局する。
AI活用によるCYP4V2変異体の3Dタンパク質構造解析では、変異がヘム結合部位の構造変化を引き起こし、酵素機能の喪失につながることが示されている3)。
BCDに対する遺伝子治療として、ヒトCYP4V2遺伝子を搭載したAAVベクターの網膜下注入が研究されている1)。
Wangらは12名の参加者を対象としたヒト初の臨床試験で、組換えAAV2/8-CYP4V2ベクターの網膜下注入の安全性と有効性を評価した。治療に関連する重篤な毒性は報告されず、治療眼の77.8%で180日目までにBCVAの改善が認められた1)。
複数の臨床試験が現在進行中であり、NCT04722107およびNCT05694598が登録されている3)。動物モデル(マウス・ゼブラフィッシュ)やiPSCを用いた基礎研究も並行して進められている1)。
Kumarら(2025)はAOSLO(補償光学走査型検眼鏡)を用いた深層表現型解析により、従来のOCTでは検出できなかった嚢胞様構造をBCD網膜内に発見した3)。これらの構造は結晶沈着とは独立しており、BCD特有の新たな変性所見である可能性が示唆された。
AI活用による3Dタンパク質構造予測とAOSLOを組み合わせた遺伝型-表現型解析は、臨床診断の精度向上と疾患進行のバイオマーカー開発に寄与しうるアプローチである3)。
2025年現在、複数の臨床試験が進行中であり、初期の結果は有望である3)。しかし、一般的な治療として利用可能になる時期は未定である。最新の情報は担当医に確認されたい。