前眼部所見
両側性球結膜充血:最も代表的な所見。滲出物を伴わない。発症後第3〜7病日に出現することが多い。
limbic sparing:角膜輪部(limbus)周囲のみ充血が少ない特徴的パターン。川崎病に特徴的とされる。
前部ぶどう膜炎:虹彩毛様体炎。発症5〜8病日にピーク。2歳以上の小児で多い1)。
点状表層角膜炎:角膜上皮に点状病変を生じる。

川崎病(Kawasaki disease: KD)は皮膚粘膜リンパ節症候群(mucocutaneous lymph node syndrome)とも呼ばれる急性の自己限定性血管炎である。中型血管、特に冠動脈を侵しやすい。先進国において小児後天性心疾患の最大原因であり、心筋梗塞・突然死に至り得る潜在的に致死的な疾患である。
疫学的には1歳前後をピークとして4歳以下の乳幼児に多く、男子がやや多い。アジア系人種で最も発症率が高く、特に日本・韓国での発症率は高い。上海での疫学調査では、5歳未満小児の川崎病罹患率が2008年の30.3/10万から2016年には107.3/10万へと増加している7)。
未治療例では15〜25%に冠動脈瘤(coronary artery aneurysm: CAA)を合併するが、早期のIVIG治療により5%未満に抑制できる1)。患者の約9%が急性期の心臓合併症を経験し、約3%に永続的な心臓後遺症が残る。
眼症状は川崎病の主要な初発症状の一つであり、眼科医が最初に診察する機会も多い。眼所見を正確に把握し診断を早めることが、救命的な介入を早期に行う上で極めて重要である。
新生児での川崎病(NKD)は極めて稀であるが報告されており、日本の全国調査(2001〜2012年)では130,323例中23例(0.02%)が新生児であった2)。新生児例は不全型が多く(68.4%)、冠動脈病変の頻度が高い(89.5%)ため、より慎重な経過観察が必要である2)。
眼症状は川崎病急性期に出現し、通常は両側性・前眼部に限定される。
眼所見は80%の症例で認められるとされ、早期診断の手がかりとなる。
前眼部所見
両側性球結膜充血:最も代表的な所見。滲出物を伴わない。発症後第3〜7病日に出現することが多い。
limbic sparing:角膜輪部(limbus)周囲のみ充血が少ない特徴的パターン。川崎病に特徴的とされる。
前部ぶどう膜炎:虹彩毛様体炎。発症5〜8病日にピーク。2歳以上の小児で多い1)。
点状表層角膜炎:角膜上皮に点状病変を生じる。
後眼部・その他
硝子体混濁:稀だが報告がある。後眼部病変の証拠として重要。
視神経乳頭炎様所見:年長児でみられることがある。網膜血管の拡張蛇行を伴う場合もある。
網膜炎・網膜剥離:極めて稀(文書化された症例は7例のみ)。重症・非典型例や成人例で報告。
慢性期合併症:乾性角結膜炎(ドライアイ)・眼瞼炎などの眼表面疾患。
区別できる重要なポイントがある。川崎病の結膜充血は滲出物(眼脂)を伴わないのに対し、アデノウイルスは結膜滲出物を引き起こす。また毒素性ショック症候群(TSS)や猩紅熱には川崎病のような眼・関節病変がない。膿性結膜炎や滲出性咽頭炎があれば川崎病以外の診断を考える。
川崎病の病因は未解明であるが、遺伝的素因を持つ個体が環境刺激(感染因子、風・水を媒介とする可能性のある因子)によって発症すると考えられている。感染因子が自然免疫系を過剰に活性化し、中型動脈の内皮障害を招く。
冠動脈瘤のリスクを高める因子として以下が知られている。
日本では上海同様、川崎病の発症率が増加傾向にある。特に5歳未満の年齢層で高率であり、男女比は約1.7:1とされる7)。
遺伝的要因も関与しており、罹患した兄弟姉妹の発症リスクは一般人口の10倍、川崎病既往親を持つ子どもの発症リスクは2倍高い4)。
川崎病には単一の確定診断検査は存在せず、臨床診断である。
日本では以下の6主要症状のうち5つを満たせば川崎病と診断する。
| 主要症状 | 詳細 |
|---|---|
| 発熱 | 5日以上続く原因不明の発熱 |
| 結膜充血 | 両側眼球結膜の充血(眼脂なし) |
| 粘膜変化 | 口唇紅潮・苺舌・口腔咽頭粘膜発赤 |
| 発疹 | 不定形発疹 |
| 四肢末端変化 | 急性期:手足の硬性浮腫・指先端の紅斑。回復期:指先からの膜様落屑 |
| リンパ節腫脹 | 急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹 |
4つしか認められない場合でも、心臓検査で冠動脈瘤が確認され他の疾患が否定されれば川崎病と診断する。不全型川崎病(incomplete KD: IKD)は全川崎病の20%以上を占めるとされる2)。
診断が困難な非典型例・抗生物質に反応しない症例では積極的に川崎病を疑う必要がある。頸部深部感染様症状(咽後膿瘍様)を呈しながら川崎病と診断された症例も報告されており、抗生物質に反応しない発熱性リンパ節腫脹では鑑別に挙げるべきである1)。
アデノウイルス感染症・エンテロウイルス感染症・麻疹・単核球症・猩紅熱・リウマチ熱・毒素性ショック症候群(TSS)・Stevens-Johnson症候群・若年性関節リウマチ・敗血症など。
川崎病の治療目標は急性期の炎症を抑制し、冠動脈合併症を予防することである。確定診断されたすべての患者に以下を投与する。
IVIG非反応例(2回目のIVIG投与48時間後も発熱が持続)には以下の治療が考慮される。
長期的な眼合併症(乾性角結膜炎・眼瞼炎)に対しては、症状に応じた対症療法を行う。
遺伝的素因を持つ小児が環境刺激(感染因子)にさらされると、自然免疫系が過剰に活性化する。
急性期には活性化したT細胞・マクロファージから多様なサイトカイン(IL-1β、IL-6、IL-8、TNF-α、IFN-γなど)が大量に放出され、高サイトカイン血症(サイトカインストーム様)状態となる。これらのサイトカインにより以下の血管内皮変化が生じる。
その結果、中型動脈(特に冠動脈)の中膜(tunica media)に炎症細胞・炎症メディエーターが浸潤し、動脈炎・動脈瘤形成に至る。動脈瘤内では狭窄・血栓形成が生じ、心筋梗塞・破裂・虚血性不整脈のリスクとなる。
眼における炎症は、全身の血管炎の局所発現と理解される。球結膜の小血管への炎症細胞浸潤が結膜充血を生じ、虹彩毛様体への炎症波及が前部ぶどう膜炎を引き起こす。
組織病理学的には好中球浸潤による肉芽腫性炎症と動脈中膜の破壊が認められ、後期にはリンパ球・単球・線維芽細胞が浸潤し動脈リモデリングが生じる。
川崎病の末梢血管病変については、毛細血管形態の異常(動静脈径の拡大・毛細血管間距離の増大・ループ数の減少・無熱期における毛細血管血流速度の著明な低下)が報告されており、末梢血管血栓症のリスク因子となり得る5)。
インフリキシマブ(抗TNF-α抗体)は、IVIG抵抗性の難治性川崎病に対して有効性が報告されている。新生児例においても使用例が報告されており、難治性症例への選択肢として注目されている3)。
川崎病に末梢動脈血栓症を合併した症例(報告25例)では、抗凝固療法(ヘパリン・ワルファリン)・血栓溶解療法・血管拡張薬(プロスタグランジン)の組み合わせが試みられており、早期介入が予後を改善する可能性が示唆されている5)。高圧酸素療法も補助的選択肢として検討されているが、川崎病合併末梢動脈血栓の報告25例では使用例はなく、今後の知見蓄積が求められる。
IVIGの最適投与タイミングについては現在も議論がある。2022年の中国専門家コンセンサスはKD確定後速やかな投与を推奨しており、早期投与が冠動脈病変の予防に有効と報告されている7)。投与量・方法(2g/kg/日 単回 vs. 1g/kg/日 2日連続)の差が予後に与える影響は統計的に有意差がないとする報告もある7)。