水晶体所見
Vogt型:皮質浅層の多色性顆粒状混濁。瞳孔領浅層皮質に多く、徹照法で良好に観察される。加齢白内障の focal dots との鑑別が必要。
Fleischer型:後皮質浅層の線維性混濁。Y字縫合に沿って広がる星状混濁として徹照法で観察できる。進行すると白色線維性混濁となり、高度の視機能障害をきたす。

筋強直性ジストロフィー(Myotonic dystrophy: DM)は、骨格筋の萎縮・筋力低下・ミオトニア(筋強直)を主症状とする多系統疾患である。常染色体優性遺伝を示し、ヌクレオチド反復配列の伸長によって発症する。
DMには主に2つの型がある。DM1(シュタイネルト病)は第19染色体のDMPK遺伝子のCTG反復配列伸長により発症し、DM2は第3染色体のCNPB遺伝子のCCTG反復配列伸長により発症する。
疫学:DMの有病率はヨーロッパで約8,000人に1人と推定されていた。しかし近年の遺伝学的研究では変異頻度が2,760人に1人に及ぶ可能性も示されており、実際の有病率はより高い可能性がある。
DMは多系統疾患であるため、眼症状は疾患全体のマネジメントの一部として扱われる。白内障が最も頻度の高い眼科的合併症であり、全身症状の発見前に白内障が初発症状として眼科を受診するきっかけになることもある。
骨格筋の筋力低下・筋強直・眼瞼下垂・斧様顔貌・若年性脱毛症・心伝導障害・呼吸障害・睡眠障害・内分泌異常・認知機能障害など多岐にわたる。DM1はDM2より早期発症かつ重症で、心臓合併症が主な死因となる。
白内障が進行した場合の視力低下が最も訴えられる症状である。その他に以下の症状が見られる。
水晶体所見
Vogt型:皮質浅層の多色性顆粒状混濁。瞳孔領浅層皮質に多く、徹照法で良好に観察される。加齢白内障の focal dots との鑑別が必要。
Fleischer型:後皮質浅層の線維性混濁。Y字縫合に沿って広がる星状混濁として徹照法で観察できる。進行すると白色線維性混濁となり、高度の視機能障害をきたす。
眼付属器・前眼部
眼瞼下垂:筋原性で両眼性が多い。前頭筋弱化による眉毛下垂も伴うことがある。
縮瞳:薬物散瞳後も瞳孔散大不全を示す。瞳孔散大筋の機能不全が原因と考えられる。
低眼圧:DM患者の平均眼圧は健常者より約23%低い。毛様体剥離が原因の一つとされる。
フックス角膜内皮ジストロフィ(FECD):DM1患者におけるFECDの頻度は最大46%と推定される。DMPK遺伝子のCTG反復伸長がRNA介在性毒性を通じてFECDの臨床症状を引き起こし得ることが判明した。これは重要かつ近年認識されてきた眼科的合併症である。
色素性網膜症:蝶形黄斑変化を伴うパターンジストロフィに似た所見を呈することがある。DM1・DM2のいずれにおいても一貫した所見ではなく、外見も多様である。
眼球運動障害:サッカード速度の異常や外眼筋ミオトニアが認められる。孤立性の眼筋麻痺は比較的まれだが、様々なパターンが報告されている。
白内障はDM1・DM2の両方において比較的早期から出現する。特にDM2では白内障が最初の初発症状となることがある。白内障の混濁形態(Vogt型・Fleischer型)は特徴的であり、全身疾患発見の契機となることも多い。
DM1はDMPK遺伝子のCTG反復配列伸長、DM2はCNPB遺伝子のCCTG反復配列伸長による遺伝性疾患である。常染色体優性遺伝であり、家族内発症が認められる。
水晶体混濁の発症機序については完全には解明されていないが、以下の要因が考えられている。
FECDとの関連については、DM1の原因変異であるDMPKのCTG反復伸長が、おそらくRNA介在性毒性を通じてFECDの臨床症状を引き起こし得ることが示された。FECDはTCF4遺伝子のCTG反復伸長とも関連するが、DM患者では異なる機序で生じると考えられている。
DMの診断は主に神経内科的な評価により行われるが、眼科所見が診断の端緒となることも多い。
| 検査 | 目的 | 所見 |
|---|---|---|
| 細隙灯顕微鏡検査 | 白内障の評価 | Vogt型・Fleischer型の判定 |
| 徹照法 | 混濁パターンの確認 | Y字縫合に沿う星状混濁など |
| 角膜内皮細胞検査 | FECD合併の評価 | 内皮細胞数の低下 |
| 眼圧測定 | 低眼圧の確認 | 健常者比23%低値の報告あり |
白内障の混濁形態は特徴的である。散瞳下で多色性顆粒状混濁(Vogt型)および後皮質星状混濁(Fleischer型)を確認する。副甲状腺性白内障も類似した所見を呈するため鑑別が必要だが、全身所見の組み合わせにより判断できる。
現時点でDMに対する疾患修飾療法は存在しない。管理は各症状への対症療法が中心となる。
視機能に影響を及ぼす白内障は、白内障手術(水晶体乳化吸引術)で治療する。進行は比較的遅いが、Fleischer型混濁が進行すると視機能低下を生じ、手術が必要になる。
麻酔上の注意:DM患者は鎮静薬・睡眠薬・オピオイドの呼吸抑制作用に非常に高い感受性を示す。スクシニルコリンは予測不能な反応を引き起こす可能性があるため使用を避ける。神経筋遮断薬拮抗薬(ネオスチグミン)もミオトニアを悪化させる可能性がある。手術は可能な限り局所麻酔(点眼麻酔・球周囲麻酔)で行うことが望ましい。白内障手術には、ロピバカインを用いた球周囲麻酔の有効性・安全性が報告されている。
眼瞼下垂や眉毛下垂が視機能に影響する場合は外科的修復術が適応となる。斜視手術が適応となることはまれである。
局所麻酔を用いることで、白内障手術はDM患者でも安全に実施可能である。ただし、DMに詳しい麻酔科医・内科医との連携が重要であり、全身麻酔が必要な場合はデスフルランやセボフルランなどの揮発性麻酔薬、超短時間作用型オピオイド(レミフェンタニル)、非脱分極性筋弛緩薬(ベクロニウム・ロクロニウム)の使用が推奨される。
DMの基本病態は、異常に伸長したヌクレオチド反復配列から産生されるRNAによる毒性(RNA-mediated toxicity)である。
DM1の分子機序:DMPK遺伝子の3’非翻訳領域のCTG反復伸長により産生されるCUG反復RNA(r(CUG)n)が核内にRNA fociを形成する。これらのRNA fociがMBNL1(Muscleblind-like 1)などのRNA結合タンパク質を隔離・不活化する。その結果、MBNL1が制御する多数の遺伝子(ClC-1塩素チャネル、インスリン受容体など)のpre-mRNAスプライシングが異常をきたす。ClC-1スプライシング異常が骨格筋ミオトニアの直接的原因となる。
眼症状との関連:
DM2との差異:DM2ではCCTG伸長を持つ4塩基配列のRNA fociが形成される。白内障はDM1・DM2双方で見られるが、DM2では心伝導障害や認知機能低下などの全身合併症の頻度がDM1より低く、重症度も軽い傾向がある。
CUG反復配列RNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)が研究されている。動物モデルではミオトニアの改善、スプライシング異常の修正が示されている。眼症状への応用については今後の研究が期待される。
CTG反復伸長領域を直接編集するアプローチが探索されている。細胞・動物モデルレベルでの研究段階にある。
DM1とFECDの分子的共通基盤が明らかになりつつある。DMPK変異キャリアにおけるFECDのスクリーニングや、共通の治療標的の探索が進んでいる。