眼所見

ホモシスチン尿症
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. ホモシスチン尿症とは
Section titled “1. ホモシスチン尿症とは”ホモシスチン尿症(homocystinuria)は、メチオニンの代謝経路にあるシスタチオニンβ合成酵素(CBS)の先天的欠損により、代謝産物であるホモシスチンが血中に蓄積し、尿中に大量排泄される疾患である。常染色体劣性遺伝の形式をとる。
CBS遺伝子は第21染色体(21q22.3)に位置する。現在164の病原性変異が同定されており、最も多いのはp.Ile278ThrおよびP.Gly307Serである。変異の67%がミスセンス変異である。
世界的な有病率は、診療記録ベースで10万人あたり0.82人、新生児スクリーニングベースで10万人あたり1.09人と推定される。本邦での発症頻度は出生100万人に1人とされる。アイルランドでは出生64,900人に1人と高い頻度が報告されている2)。新生児マススクリーニングの対象疾患であり、血中メチオニン高値を指標に発見される。
四大症候は水晶体脱臼、知的障害、骨格異常(マルファン様体型)、血栓塞栓症である1)。
両者は骨格異常や水晶体脱臼を共通して呈するが、鑑別点がいくつかある。水晶体の偏位方向はホモシスチン尿症では下方が多く、マルファン症候群では上方・上耳側が多い。マルファン症候群では知的障害を伴わず、骨粗鬆症も通常みられない。遺伝形式もマルファン症候群は常染色体優性である。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”眼症状としては以下が主な自覚症状となる。
- 視力低下:水晶体偏位の進行に伴い、近視・乱視が増強する。単眼複視をきたすこともある。
- 高度近視:2番目に多い眼症状である。軸性と水晶体性の両方が原因となりうる。出生時に診断され良好にコントロールされた患者では正視~軽度屈折異常にとどまるが、コントロール不良例では-5D以上の進行性高度近視となる。
- 急性の眼痛・視力低下:水晶体の前方脱臼による瞳孔ブロック緑内障発作で生じうる。
全身の自覚症状は以下の通りである。
- 骨格異常:高身長、長い四肢、側彎症、漏斗胸などのマルファン様体型を呈する。
- 発達遅滞・てんかん:中枢神経障害として精神症状がみられることがある。
- 血栓塞栓症:無治療では思春期以降に冠動脈血栓、肺塞栓、脳血栓・塞栓を発症する。
臨床所見(医師が診察で確認する所見)
Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”全身所見
マルファン様体型:高身長、長い四肢、クモ状指、側彎症、漏斗胸。約50%の患者で骨格系が侵される。
骨粗鬆症:未治療患者の70%が16歳までに脊椎骨粗鬆症を発症する1)。
知的障害:発達遅滞、運動障害、てんかんを伴う。
血栓塞栓症:未治療では15歳までに27%が臨床的に検出可能な血栓塞栓事象を発症する。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”ホモシスチン尿症の本態はCBS酵素の欠損である。CBSはホモシステインをシスタチオニンに変換する転硫経路の酵素であり、補酵素としてビタミンB6を必要とする。CBS欠損により血中ホモシステインが蓄積し、多臓器に障害をもたらす。
ホモシステインの蓄積による主な病態は以下の通りである。
- エラスチンの架橋阻害:結合組織の脆弱化。骨格異常や水晶体脱臼の原因となる。
- フィブリリンの変質:血管内皮機能不全に寄与する。
- システイン低下:水晶体チン小帯はシステイン含有量が高く、低下により脆弱化する。
- 酸化ストレスの亢進:血管内皮障害、動脈硬化の促進。
遺伝形式は常染色体劣性であり、両親が保因者の場合、子の25%が発症し、50%が無症状の保因者となる。患児の兄弟姉妹の検査が推奨される。
後天性の高ホモシステイン血症はビタミンB6・B9(葉酸)・B12の欠乏のほか、喫煙、飲酒、メトトレキサート、亜酸化窒素、フェニトイン、カルバマゼピンなどの薬剤でも生じうる。
常染色体劣性遺伝である。両親が保因者の場合、子の25%が発症し50%が保因者となる。発症児の兄弟姉妹は無症候であっても検査が推奨される。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”新生児スクリーニング
Section titled “新生児スクリーニング”新生児マススクリーニングが最も重要な診断手段である。血中メチオニン高値を指標として発見される。ただし、ピリドキシン反応性の軽症型では偽陰性となることがあり、後に眼症状や全身症状で受診する場合がある。
メチオニンは肝臓病や他の代謝異常でも上昇するため、診断の確定には尿中ホモシスチンの大量排泄の確認が必要である。
生化学的検査
Section titled “生化学的検査”- 血漿総ホモシステイン:15 μmol/Lを超えると高値とみなされる。空腹時またはメチオニン負荷試験後に測定する。
- 血中アミノ酸分析:ホモシスチンおよびメチオニンの著明な上昇を認めれば診断可能である。
CBS遺伝子の両アレル性病原性変異を確認することで確定診断となる。遺伝子解析も有用である。
水晶体脱臼を呈する疾患との鑑別が重要である。
| 疾患 | 偏位方向 | 特徴 |
|---|---|---|
| ホモシスチン尿症 | 下方(鼻下方) | 知的障害、骨粗鬆症 |
| マルファン症候群 | 上方(上耳側) | 心血管異常、常染色体優性 |
| Weill-Marchesani症候群 | 不定 | 小球状水晶体、短指症 |
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”治療の主な目標は、ホモシステイン値を適切な範囲に維持し、血栓症を予防することである。ホモシステイン濃度は成人で100 μmol/L未満、小児で50 μmol/L未満に保つことで、水晶体亜脱臼の進行停止や標準的骨成長の再開が期待できる。
ピリドキシン(ビタミンB6)
Section titled “ピリドキシン(ビタミンB6)”第一選択薬である1)。患者の約半数が反応する。CBSの補酵素であり、残存する酵素活性を刺激する。
ピリドキシン不応性の患者では、メチオニン制限食が治療の柱となる。乳児の場合、メチオニン除去・システン添加特殊ミルクと自然蛋白を用い、空腹時血中メチオニン値1 mg/dL以下を目標に摂取量を調整する。葉酸およびビタミンB12の補充も行う。食事療法は生涯にわたり継続する必要があり、コントロール不良は血栓症の原因となる。
E-HOD(欧州ホモシスチン尿症ネットワーク)ガイドラインでは、ピリドキシン反応性患者で血漿総ホモシステイン50 μmol/L未満、不応性患者で100 μmol/L未満を目標としている1)。
ホモシステインをメチオニンに戻す再メチル化を促進するメチル供与体である。他の手段で目標値に到達できない場合の補助療法として用いられる1)。
- 屈折矯正:水晶体偏位が軽度で矯正視力が良好であれば、眼鏡による屈折矯正と経過観察を行う。
- 水晶体摘出術:偏位の進行や視力障害を認めた場合に適応となる。Zinn小帯の不安定性から硝子体切除術を併用することが多い。術後は無水晶体眼となるため、眼鏡やコンタクトレンズによる矯正が必要となる。コンタクトレンズ装用が困難な場合は眼内レンズ(虹彩固定・強膜固定・前房レンズ)を検討する。
- 瞳孔ブロック緑内障:調節麻痺薬による散瞳と眼圧降下薬を使用する。縮瞳薬は毛様筋を収縮させZinn小帯を弛緩させ、水晶体の前方移動を助長するため禁忌である。再発例では外科的介入が必要となる。
- 球状水晶体:囊内摘出術が必要となることがある。
血栓塞栓症のリスクが高いため、手術前に生化学的コントロールを最適化し、弾性ストッキングや低分子ヘパリンなどの予防措置を講じる。麻酔では亜酸化窒素(笑気)が禁忌である1)。術後は早期離床と十分な水分補給が重要となる。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”ホモシステインはメチオニンの代謝中間体である。その代謝には3つの経路が関与する。
- 転硫経路:CBS(補酵素:ビタミンB6)によりシスタチオニンに不可逆的に変換され、最終的にシステインとなる。本疾患ではこの経路が障害される。
- 再メチル化経路(MTR):メチオニンシンターゼ(補酵素:ビタミンB12)により5-メチルTHFからメチル基を受け取りメチオニンに再変換される。
- 再メチル化経路(BHMT):ベタイン-ホモシステインメチルトランスフェラーゼによりベタインからメチル基を受け取る。
CBS欠損によるホモシステインの蓄積は、以下の機序で多臓器障害をもたらす。
- エラスチンのスルホンヒドリル基の架橋阻害:結合組織の構造異常を引き起こし、骨格系の変形と水晶体脱臼の主因となる。
- S-アデノシルホモシステイン(SAH)の蓄積:メチル化反応を阻害する。
- システイン・シスタチオニン濃度の低下:抗酸化能の低下とアポトーシスの促進をもたらす。水晶体チン小帯はシステイン含有量が特に高いため、システイン低下により脆弱化し水晶体脱臼に至る。
- フィブリリンの変質:血管内皮機能不全や血栓形成促進に寄与する。
骨格の変形に関しては、不均衡な骨成長により恥骨-踵間長が頭頂-恥骨間長を上回る1)。未治療患者の70%が16歳までに脊椎骨粗鬆症を発症するとされ1)、椎体圧潰から側彎症に至ることもある。思春期以降に骨粗鬆症が顕在化するため、思春期からのDEXAスキャンによる定期的な骨密度評価が推奨される1)。
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”ホモシスチン尿症患者の妊娠管理
Section titled “ホモシスチン尿症患者の妊娠管理”ホモシスチン尿症は血栓形成促進状態であり、妊娠中のリスク管理が課題となっている。
Hartら(2021)はアイルランドにおけるピリドキシン不応性ホモシスチン尿症女性2名・5妊娠の経験を報告した2)。E-HODガイドラインは妊娠第3三半期からの低分子ヘパリン(LMWH)投与を推奨しているが、同施設では妊娠確認時からのLMWH開始を実践した。妊娠後期にはメチオニン耐容量が増加しホモシステイン値が低下する傾向が観察された。しかし1例では産褥6週のLMWH中止直後に肺塞栓を発症しており、産褥期の厳密な代謝モニタリングとLMWH投与期間の個別化の重要性が示された。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Ramakrishnan E, Muthu S, Balasubramaniam P, Chellamuthu G, Priyadharshini K. Holistic approach in the management of skeletal deformity in a case of homocystinuria. J Orthop Case Rep. 2021;11(4):1-5.
- Hart C, McNulty J, Cotter M, Al Jasmi F, Crushell E, Monavari AA. The challenges of pregnancy management in pyridoxine nonresponsive homocystinuria: the Irish experience. JIMD Rep. 2021;61(1):34-41.