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白内障・前眼部

ADAMTSL4関連眼疾患

ADAMTSL4関連眼疾患は、ADAMTSL4遺伝子の変異によって生じる遺伝性眼疾患の総称である。主な臨床表現型を以下に示す。

  • 孤立性水晶体脱臼(isolated ectopia lentis; IEL):全身症状を伴わない水晶体の位置異常
  • 水晶体瞳孔脱臼(ectopia lentis et pupillae; ELeP)水晶体偏位に加え虹彩・瞳孔の変位を伴うもの
  • 先天白内障(congenital cataract)
  • 緑内障(glaucoma)

本疾患は通常、両眼性であるが非対称性を示すことが多い。全身的な骨格・心血管系の異常を原則として伴わず、眼症状が単独で出現する点がマルファン症候群との重要な鑑別点となる。

ADAMTSL4遺伝子変異は、FBN1変異に次いで孤立性水晶体脱臼の2番目に多い原因として知られる1)。中国人コホート研究(175例)では、孤立性水晶体脱臼症例の19.2%にADAMTSL4変異が検出された1)

正確な有病率は不明であるが、世界各地でのコホート研究により様々な民族での症例が報告されている。特定の病原性変異は民族集団内で創始者効果(founder effect)により高頻度で出現する。

代表的な創始者変異とその頻度を以下に示す。

  • c.767_786del(エキソン6の20塩基欠失):欧州系集団に最多。ノルウェーではホモ接合体頻度が1:16,000と推定されている2)
  • c.2663G>A(ブハラ系ユダヤ人):保因者頻度1:48、先天性両眼性水晶体脱臼の頻度は約1:9,000と推定される1)
  • c.2237G>A(ポリネシア人):アレル頻度1:100,000
  • c.767_786del(オハイオ州アーミッシュ・メノナイト):保因者頻度1:542)
Q ADAMTSL4関連眼疾患は全身疾患を伴わないのか?
A

原則として眼症状のみで発症し、全身の骨格・心血管異常は認められない。ただし、頭蓋縫合早期癒合症との関連が3例報告されており、稀ではあるが全身的な骨格関与の可能性が完全には除外されていない。マルファン症候群とは異なり、定期的な循環器科受診の必要はない。

ADAMTSL4関連眼疾患の患者は通常、若年期(診断時中央値2〜3歳)に以下の症状を契機に受診する1)

  • 視力低下・視力発達遅延:乳幼児では保護者が気づくことが多い
  • 高度近視球状水晶体化と眼軸長延長に伴う屈折異常
  • 単眼複視:水晶体が部分的に瞳孔領内に存在する場合に生じる
  • 斜視:乳幼児では視力発達の左右差により顕在化する
  • 読書・近見作業の困難:学齢期の患児で指摘されることもある

初期・軽症例では無症状のまま経過し、屈折矯正の機会に偶然発見されることもある。

前眼部の所見は軽度から重度まで幅があり、両眼間で非対称性を示す。

水晶体・チン小帯

水晶体脱臼:偏位の方向は不定。ホモシスチン尿症(下鼻側)やマルファン症候群(耳上側)と異なり一定方向を示さない。

長く伸びたチン小帯:ホモシスチン尿症の小帯欠損とは異なり、脆弱化した小帯が中間部で断裂する特徴がある。

球状水晶体(microspherophakia):チン小帯の牽引がなくなり水晶体が球形化する。強度近視を引き起こす。

水晶体震盪(phacodonesis):眼球運動時に水晶体が揺れる。

虹彩・前眼部

瞳孔偏位(corectopia):虹彩・瞳孔の変位。水晶体瞳孔脱臼表現型の特徴。

残存瞳孔膜(persistent pupillary membrane):水晶体瞳孔脱臼症例で高頻度に認められる。

虹彩透照欠損(iris transillumination defects):虹彩の透照での色素欠損。

散瞳不全:水晶体瞳孔脱臼症例で認められる。

後眼部の所見は相対的に少ないが、重要な合併症として以下がある。

  • 眼軸長延長:孤立性水晶体脱臼患者9例の平均眼軸長は27.54 mm(正常20〜23 mm)と著明に延長する
  • 格子状変性(lattice degeneration):高度近視に伴い、周辺網膜に生じる2)
  • 眼圧上昇・緑内障:水晶体偏位・術後変化・隅角形成異常などに続発する
  • 網膜剥離:眼軸長延長と格子状変性が危険因子となる2)
Q 眼軸長が延長するとどのような問題があるか?
A

眼軸長の延長は高度近視の直接原因となるだけでなく、格子状変性や網膜菲薄化を介して網膜剥離リスクを高める。ADAMTSL4変異患者では一般集団と比較して高い頻度で網膜剥離が報告されており、定期的な散瞳眼底検査が重要である2)

ADAMTSL4遺伝子は第1染色体1q21.2に位置し、17個のコーディングエキソンを含む。病因変異の遺伝形式は常染色体劣性(autosomal recessive; AR)であり、両親は無症状のヘテロ接合体保因者である。

これまでに13以上の病原性変異が報告されている。変異の種類には以下が含まれる。

  • フレームシフト変異・ナンセンス変異:早期終止コドンを生じ、切断型ADAMTSL4タンパクを産生する
  • ミスセンス変異:c.2237G>A (p.Arg746His)、c.2594G>A (p.Arg865His)、c.2663G>A (p.Arg888His) など

最も多い変異はエキソン6の20塩基対欠失(c.767_786del)であり、欧州系集団における既知症例の58%を占める2)。Guoらの中国人コホートでは、ADAMTSL4変異の87.5%が複合ヘテロ接合変異であった1)

ヘテロ接合体保因者では水晶体脱臼は生じず、両アレルの機能喪失(ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)が発症に必要とされる。

Q 子どもが罹患している場合、兄弟にも検査が必要か?
A

常染色体劣性遺伝であるため、罹患児と同じ両親から生まれた兄弟姉妹は25%の確率で同様の変異を持つ。特に無症状でも遺伝子検査によりホモ接合体または複合ヘテロ接合体変異を持つ兄弟を早期に発見できる。早期診断により弱視治療を適切なタイミングで開始でき、視機能予後の改善につながる。

診断は病歴・家族歴・詳細な眼科的検査を組み合わせて行う。以下の検査が必要である。

  • 細隙灯顕微鏡検査(散瞳下):水晶体偏位の程度・方向・チン小帯の状態・残存瞳孔膜の有無を評価
  • 眼底検査(散瞳下):後眼部異常(格子状変性・網膜剥離・網膜色素上皮変化)の除外
  • 眼軸長・屈折測定:高度近視の評価
  • 眼圧測定:緑内障の合併確認(中心角膜厚の増加により実測値が過大評価される場合がある)
  • 超音波生体顕微鏡(UBM):水晶体偏位の確認、特に前房への脱臼評価に有用2)
  • 全身検索:心血管系・骨格系の評価(他疾患の除外目的)

確定診断には病原性ADAMTSL4変異を同定する遺伝子検査が必要である。以下の検査戦略が利用できる。

  • 標的変異解析:創始者効果が知られる特定集団ではコスト効率が高い
  • 単一遺伝子検査・マルチ遺伝子パネル:臨床的疑いが強い場合
  • 全エキソーム解析(WES)・全ゲノム解析:パネルで診断がつかない場合

ectopia lentisに関わる複数遺伝子を含む次世代シークエンシング(NGS)パネルは診断率が高く、24例を対象とした研究では67%(16/24例)で遺伝的原因が特定された1)。遺伝子検査と臨床データを組み合わせることで診断率が19.43%から40.57%に上昇したとの報告もある1)

発端者の確定後には、家族へのカスケード検査が推奨される。

水晶体脱臼を主徴とする遺伝性疾患との鑑別が重要である。主要3疾患の比較を以下に示す。

特徴ADAMTSL4関連マルファン症候群ホモシスチン尿症
遺伝形式常染色体劣性常染色体優性常染色体劣性
診断時年齢2〜3歳19歳(中央値)新生児〜乳児
脱臼方向不定上耳側(多)下鼻側・前方
全身所見原則なし心血管・骨格異常発達遅滞・血栓症

マルファン症候群はADAMTSL4変異と同様にフィブリリン1の機能異常を背景とするが、常染色体優性遺伝で患者の75%に罹患した親が存在し、心血管・骨格系の全身異常を伴う点で異なる。ホモシスチン尿症では血漿ホモシステイン上昇による毛様体小帯の初期形成障害が起こり、小帯が欠損するかまたは短く乱れた残骸状となる点で、チン小帯が伸長して中間部で断裂するADAMTSL4変異と細隙灯所見で鑑別できる。

その他の鑑別疾患:Weill-Marchesani症候群(ADAMTS17変異)、Traboulsi症候群、Knobloch症候群、Cohen症候群、Loeys-Dietz症候群など。

治療方針は水晶体偏位の程度・視機能への影響・患者年齢に応じて決定する。

軽症例では手術を行わず、光学的管理と弱視治療を優先する。

  • 眼鏡による屈折矯正:水晶体偏位の程度が軽く矯正視力が良好な場合は経過観察
  • コンタクトレンズによる屈折矯正:無水晶体眼や高度の屈折異常に対して
  • 弱視治療(健眼遮閉):視機能発達途上の小児では最優先で対処する。左右差の著明な例では早期開始が重要
  • 散瞳薬:水晶体前房脱臼による瞳孔ブロック時の応急処置(縮瞳薬は禁忌)

進行例では屈折矯正困難な不正乱視を生じるため、経過観察が不可欠である。

以下の場合に手術適応となる。

  • 前房内(亜)脱臼
  • 白内障合併による視力障害
  • 水晶体偏位・変形による視力障害(屈折矯正困難)
  • 水晶体偏位の進行
  • 緑内障発作

水晶体摘出

水晶体・前部硝子体切除術:一般的な術式。水晶体とともに前部硝子体を切除する。

硝子体手術PPV)+水晶体摘出(lensectomy):硝子体外科医が行う術式。合併した格子状変性に対してエンドレーザーを同時施行できる利点がある2)

眼内レンズ(IOL)

二次眼内レンズ縫着術:十分なカプセル支持がない場合、強膜縫着型眼内レンズを用いる。8-0 PTFEスーチャーによる縫着が報告されている2)

年齢依存的判断:小児期の低年齢例は無水晶体のまま経過させ、後日二次眼内レンズを検討する。若年成人では積極的な一次眼内レンズ留置も選択肢となる2)

Chiangらが報告した4症例シリーズでは、手術例(3例)の術後視力は非弱視眼で20/20〜20/60と良好な結果が得られた2)。無症状例(1例)は経過観察のみで視力20/25が維持された2)

術後は長期的な経過観察が必要であり、緑内障・網膜剥離などの合併症を継続的にモニタリングする。特に術後に弱視治療と屈折矯正を継続することが重要である。

Q 手術後も定期通院は必要か?
A

術後も定期的な通院が不可欠である。小児では弱視治療の継続、屈折矯正の調整、眼圧管理が必要となる。長期的には緑内障・網膜剥離・眼内レンズの位置ずれなどの合併症監視も重要である2)。生涯を通じた眼科管理が推奨される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

ADAMTS(A Disintegrin And Metalloproteinase with Thrombospondin motifs)ファミリーには19種のメタロプロテアーゼと7種のADAMTS様(ADAMTSL)糖タンパクが含まれる。ADAMTSL4はプロテアーゼドメインを欠く糖タンパクとして細胞外マトリックス(ECM)に分泌され、眼内では毛様体・脈絡膜・網膜色素上皮に発現する1)

フィブリリン1との相互作用:ADAMTSL4はフィブリリン1の分泌・構築・マイクロフィブリル形成を促進する。細胞培養実験では、ADAMTSL4の存在下でフィブリリン1の沈着面積と免疫蛍光シグナル強度が増大することが確認されている1)

チン小帯の脆弱化と水晶体脱臼

Section titled “チン小帯の脆弱化と水晶体脱臼”

眼のチン小帯(毛様体小帯)は主にフィブリリンマイクロフィブリルで構成される細胞外線維のリングであり、水晶体を水晶体窩内に懸垂する役割を担う。ADAMTSL4変異により以下の連鎖が起こると考えられている。

  • ADAMTSL4タンパクの機能喪失
  • フィブリリン1マイクロフィブリルの構築障害
  • チン小帯の機械的強度の低下
  • 小帯の伸張・中間部での断裂
  • 水晶体偏位(水晶体脱臼)

ホモシスチン尿症では小帯の初期形成障害で小帯が欠損するのに対し、本疾患では形成された小帯が引張強度不足から断裂する病態が異なる。

Collinらのマウス実験(Adamtsl4-/-ノックアウトマウス)では、チン小帯の水晶体からの離断と網膜色素上皮の脱分化が観察され、網膜色素上皮の表現型の重症度は眼軸長延長と相関した1)

チン小帯牽引がなくなった遊離した水晶体は球形(球状水晶体)に近づき、水晶体起因性の強度近視を引き起こす。水晶体偏位による像のぼけは眼軸長の伸長を促進し、さらなる屈折異常を招く悪循環を形成する。この過程で不規則な水晶体形状による高度乱視も生じる。

水晶体瞳孔脱臼表現型に見られる虹彩変形の病理学的メカニズムは現在も不明な点が多いが、残存瞳孔膜の高頻度な出現は先天的な発育異常の要素を示唆する。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

次世代シークエンシングパネルと臨床データを組み合わせた診断戦略が発展している。

Chen THらの中国人コホート(175例)では、遺伝子結果と臨床データを組み合わせた診断戦略により、診断率が19.43%から40.57%に上昇したことが報告されている1)。パネルベースの次世代シークエンシング戦略は複雑な表現型においても遺伝的診断を高精度に行える手法として注目されている。

特定集団スクリーニングと創始者効果研究

Section titled “特定集団スクリーニングと創始者効果研究”

オハイオ州アーミッシュ・メノナイトコミュニティにおける症例シリーズは、この集団でのADAMTSL4関連水晶体脱臼の創始者効果を示唆している2)。ノルウェーの5家系の解析では、c.767_786del変異が共通祖先150世代以上(4000年以上)前にさかのぼることが示されており2)、集団遺伝学的スクリーニングの有用性が議論されている。

Chiangらは、オハイオ州アーミッシュ・メノナイトコミュニティにおける保因者頻度を1:54と推定し、この集団で孤立性水晶体脱臼の診断・管理パターンにおける創始者効果の臨床的意義を報告した2)

二次眼内レンズ留置時期と術式の最適化

Section titled “二次眼内レンズ留置時期と術式の最適化”

小児への二次眼内レンズ留置の最適年齢は依然として議論中である。チン小帯支持が不十分な症例に対する眼内レンズ選択についても研究が続いている。

Chiangらの報告では、年齢依存的な手術アプローチが採用されており、低年齢例(2歳・7歳)は無水晶体眼とし、若年成人例(17歳)にはスクレーラルサチャード二次眼内レンズ(8-0 Gore-Texスーチャー)が留置された2)。縫合なし強膜内固定法は非常に若い患者では強膜発達の観点から推奨されない可能性が指摘されている。

ADAMTSL4の機能と関連するフィブリリンマイクロフィブリル形成経路は、将来的な遺伝子補充療法や分子標的治療の標的として研究されているが、ヒトへの臨床応用にはなお多くの課題がある。


  1. Wei H, Meng X, Qin H, Li X. A novel ADAMTSL4 compound heterozygous mutation in isolated ectopia lentis: a case report and review of the literature. J Med Case Rep. 2023;17:532.

  2. Chiang TK, Kloosterboer A, Örge F, Sobol W, Echegaray JJ. Autosomal recessive ADAMTSL4-related isolated ectopia lentis in the Ohio Old Order Amish and Mennonite communities. J VitreoRetinal Dis. 2024;8(4):442-451.

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