前眼部所見
眼圧上昇:線維柱帯の閉塞により生じる。
微小前房出血・前房出血:虹彩血管の擦過による。
前房内炎症:細胞・フレア・前房蓄膿を認める。
虹彩透照欠損:IOLとの接触部位に一致する。
色素散布:虹彩色素が線維柱帯に沈着する。

UGH症候群(Uveitis-Glaucoma-Hyphema syndrome)は、眼内レンズ(IOL)が虹彩や隅角周囲の血管組織を機械的に擦過することで生じる合併症である。ぶどう膜炎・緑内障・前房出血の三徴を呈するが、不完全型も存在する。1978年にEllingsonが初めて命名した。
前房IOLのフットプレートの歪みがレンズの揺動運動を引き起こし、隣接する前房隅角組織を刺激するのが初期に報告された典型的な発症機序である。IOL設計・素材・製造技術および手術手技の改良、さらに後房レンズの普及により発生率は急激に低下した。UGH症候群の年間発生率はレンズタイプにより2.2〜3%から0.4〜1.2%まで減少したとされる。
現在も特にモダンなシングルピースアクリルIOLに関連した報告が続いており2)、嚢外に配置されたシングルピースIOLや毛様溝に挿入されたIOLで発症しやすい。高齢者に多いが、IOLを挿入しているあらゆる年齢層で発生し得る。
術後数週間から数年と幅広い。亜急性または慢性の経過をたどることが多く、術後早期に発症するのは前房IOLで最も多い。後房IOLの嚢内固定では発症はまれである。
UGH症候群の症状は間欠的に出現することが多い。
細隙灯顕微鏡検査および隅角鏡検査で以下の所見を確認する。
前眼部所見
眼圧上昇:線維柱帯の閉塞により生じる。
微小前房出血・前房出血:虹彩血管の擦過による。
前房内炎症:細胞・フレア・前房蓄膿を認める。
虹彩透照欠損:IOLとの接触部位に一致する。
色素散布:虹彩色素が線維柱帯に沈着する。
IOL関連所見
隅角鏡検査では、隅角内の血液、線維柱帯の色素沈着増加、および機械的侵食の徴候を確認する。IOL支持部の位置特定にも有用である。
UGH症候群の本態はIOLによる前眼部組織への機械的刺激である。
IOLの位置異常や亜脱臼による虹彩への反復的な機械的外傷が主な機序である1)。そのほか、偽性水晶体動揺(pseudophacodonesis)がリスク因子として報告されている2)。偽落屑症候群による毛様小帯弛緩、プラトー虹彩形態、光学部周囲の嚢線維化による接触なども原因となる1)。
IOLが囊外固定や非対称固定の状態になると、支持部が虹彩や周囲組織と直接接触する。虹彩を擦過するため脱出した虹彩色素が線維柱帯に詰まり、色素性緑内障を起こす。虹彩障害が著しいと、虹彩毛様体炎と前房出血を伴う。
抗凝固薬の使用者では出血が起こりやすい。
嚢内に正常に固定されたIOLでもUGH症候群は起こり得る。嚢線維化によるIOLと虹彩の接触、IOLの偏位、毛様小帯弛緩に伴う動揺などが原因となる1)。嚢内固定のみでUGH症候群を除外してはならない。
UGH症候群の診断は病歴・身体診察に基づく臨床診断であり、画像検査が補助的に用いられる。白内障手術の既往がある患者で反復性のぶどう膜炎・眼圧上昇・前房出血を認めた場合、本症候群を疑う。
前房内炎症(細胞・フレア)、前房出血、虹彩透照欠損、IOLの位置異常、角膜内皮への色素沈着などを確認する。
隅角内の血液貯留、線維柱帯の色素沈着増加、IOL支持部による機械的侵食の徴候を検索する。侵食の原因となっている支持部の位置を特定するのにも役立つ。
| 検査法 | 主な用途 |
|---|---|
| 超音波生体顕微鏡(UBM) | IOLと虹彩の接触の可視化 |
| 前眼部OCT | 虹彩萎縮部位とIOLの位置関係 |
| 光干渉断層計(OCT) | CMEの評価 |
超音波生体顕微鏡はIOLの支持部・光学部の位置と周囲組織との関係を詳細に描出でき、臨床的疑いの確認と治療方針の決定に有用である。前眼部OCTでは、虹彩萎縮領域とIOL接触部位の対応が確認できる1)。
UGH症候群は繰り返し過小診断される傾向がある1)。以下の疾患との鑑別が必要である。
細隙灯顕微鏡検査と隅角鏡検査が基本であり、虹彩透照欠損やIOLとの接触所見を確認する。超音波生体顕微鏡は支持部と虹彩の接触を直接可視化でき、確定診断に有用である2)。
UGH症候群の根治的治療はIOLの外科的介入であるが、手術までの間は薬物療法で症状をコントロールする。
確定的な手術が行われるまでの対症療法として実施する。
ただし、原因が機械的な虹彩への侵襲であるため、点眼の長期的な効果は低い。確実な診断がつけば外科的治療が第一選択となる。
IOLの位置修正、摘出、および/または入れ替えにより、反復性の前房出血やぶどう膜炎は通常消退する。
Hermoso-Fernandezら(2021)は、白内障術後8か月で反復する高眼圧性ぶどう膜炎を呈した56歳男性の症例を報告した1)。眼圧上昇の反復により視神経乳頭陥凹は0.3から0.9に進行し、YAGレーザー後嚢切開術後に硝子体出血と下方網膜剥離を発症した。硝子体手術+強膜バックルにより、IOLが後方に変位して虹彩との擦過が解消され、高眼圧性ぶどう膜炎の発作は消失した。
UGH症候群の根本的な病態はIOLによるぶどう膜組織への反復的な機械的外傷である。
IOLの光学部または支持部が虹彩、毛様体、線維柱帯を含む前房隅角組織を擦過する。フットプレートの歪みやエッジの不完全さによる侵食も関与する。この擦過により血液房水柵が破壊され、色素、赤血球、タンパク質、白血球が前房内に放出される。
眼圧上昇は複数の機序で生じる3)4)。
摘出されたIOLの電子顕微鏡観察では、損傷した虹彩色素上皮細胞由来と考えられるメラノソームがIOL表面に認められることがある。
毛様溝に配置されたシングルピースアクリルIOLのスクエアエッジ支持部は、色素散布・虹彩透照欠損・眼圧上昇・反復性炎症を引き起こし得る2)。嚢内固定例でも以下の機序で発症する1)。
慢性例では後極部にも病変が波及し、硝子体出血や嚢胞状黄斑浮腫を生じ得る1)。眼圧上昇の反復により緑内障性視神経症が進行し、不可逆的な視野障害に至る場合がある。
Hermoso-Fernandezら(2021)の症例では、繰り返す高眼圧性ぶどう膜炎により視神経乳頭陥凹が3/10から9/10に進行し、中心10度のみを残す求心性視野狭窄に至った1)。このような例ではα2作動薬の使用も考慮される。NMDA受容体の直接的抑制を介した網膜神経節細胞の神経保護作用が報告されている。
IOL設計の継続的な改良が進められている。スクエアエッジ支持部による虹彩擦過の問題から、ラウンドエッジ設計やIOL素材の表面処理改良が検討されている2)。ぶどう膜炎を有する眼に対してはアクリルIOLやヘパリン表面修飾(HSM)ポリメチルメタクリレートIOLが良好な成績を示したとの報告がある2)。
ACIOLの適切なサイズ選択に関する研究が進んでおり、角膜水平径(white-to-white距離)に1mmを加えた値が一般的な目安とされる。不適切なサイズのACIOLは傾斜や支持部の擦過を通じてUGHを引き起こし得る2)。前眼部OCTや超音波生体顕微鏡を用いた術前計測の精度向上が期待される。