硝子体腔内注入
利点:外来で施行可能。広く普及した手技である。
欠点:内境界膜が遺伝子ベクターの網膜到達を阻害する1)。ヒアルロン酸がナノ粒子の凝集を促進する1)。免疫原性の液性免疫応答を惹起しうる1)。

脈絡膜上腔注入(suprachoroidal injection)は、強膜と脈絡膜の間に存在する潜在的空間である脈絡膜上腔(suprachoroidal space; SCS)に薬剤を直接投与する方法である。網膜・網膜色素上皮(RPE)・脈絡膜への精密かつ標的を絞った薬剤送達を可能にする。
SCSは前方では毛様体付近の強膜拍車、後方では視神経付近まで広がる。厚さは約35μmと推定される。眼圧の影響で通常は薄い空間であるが、液体注入により拡張が可能である。注入された薬剤はぶどう膜強膜流出路の液体の流れにより後方へ移動する。この空間の区画化により、前眼部との接触を最小限に抑えつつ標的組織への集中的な送達が実現する1)。
脈絡膜上腔注入は外来で施行可能な低侵襲手技である1)。硝子体切除術を要する網膜下注入と異なり、マイクロニードルを用いた簡便な手技で済む。注入剤の広い生体内分布が特徴であり、網膜下注入がブレブ(局所的な網膜剥離)周囲に限局するのに対し、脈絡膜上腔注入では眼球の広範囲に薬剤が到達する1)。
硝子体腔内注入は硝子体に薬剤を投与する方法で、内境界膜や硝子体の構造が薬剤到達の障壁となる。脈絡膜上腔注入はより標的組織に近い位置に薬剤を送達でき、動物実験では硝子体腔内注入の最大12倍の送達効率が示されている。外来で施行可能な点は両者に共通する。
脈絡膜上腔注入は治療手技であり、疾患そのものではない。現在FDA承認されている唯一の適応は、非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫である。
黄斑浮腫の主な自覚症状は以下の通りである。
PEACHTREE試験はランダム化二重盲検シャム対照試験である。0日目と12週目にトリアムシノロンアセトニド(CLS-TA)の脈絡膜上腔注入を施行した群は、シャム群に比べ黄斑浮腫と視力に有意な改善を示した。24週時点でBCVA(最高矯正視力)が15文字以上改善した患者の割合は、CLS-TA群で47%であった。
MAGNOLIA試験はPEACHTREE試験の長期延長試験である。最終投与からレスキュー薬使用までの期間中央値は、CLS-TA群257.0日に対しシャム群55.5日であり、有意に長い効果持続が確認された。
非感染性ぶどう膜炎では慢性的な眼内炎症により血液網膜関門が破綻し、黄斑浮腫を生じる。黄斑浮腫はぶどう膜炎患者における主要な視力低下の原因である。
日本におけるぶどう膜炎の治療は、炎症の程度に応じて多段階に行われる。眼底後極部の炎症性変化が強い場合にはトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-A)の後部テノン嚢下注射による消炎が行われてきた。脈絡膜上腔注入は、こうした既存の投与経路に加わる新たな選択肢として位置づけられる。
脈絡膜上腔注入の適応判断には、以下の検査による正確な評価が必要である。
日本の診療では、非感染性ぶどう膜炎の治療は段階的に行われる。
脈絡膜上腔注入は現時点で日本では一般的な保険診療として確立されていないが、非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫に対する新たな治療選択肢として注目されている。
トリアムシノロンアセトニド(Xipere 40 mg/mL; Bausch & Lomb社)が脈絡膜上腔注入で唯一FDA承認された薬剤である。再投与は前回投与から12週間以上の間隔を空ける。
脈絡膜上腔投与にFDA承認されているのは900μmまたは1,100μmのXipereマイクロニードルである。初回注入には900μmが一般的に使用される。抵抗が強く脈絡膜上腔への到達が不十分な場合は1,100μmに変更する。
その他のアクセス技術には以下がある。
| 技術 | 特徴 | 留意点 |
|---|---|---|
| マイクロカテーテル | LED誘導で精密標的化可能 | 侵襲的、術者スキル依存 |
| 標準皮下注射針 | 入手容易、低侵襲 | 可視化不能、高度スキル要 |
| 中空マイクロニードル | 外来で施行可能、簡便 | FDA承認デバイスあり |
注入部位:上耳側の角膜縁から約4〜4.5mmの位置。
準備と麻酔:
手技の手順:
同日の両眼注入は可能であるが、各眼を別個の処置として扱い、異なるバイアルとインジェクターを使用する。
注入後は結膜下出血や軽度の眼痛が生じることがある。視力の急激な変化、強い充血、羞明、増悪する痛みは重篤な合併症の兆候である可能性があり、速やかに眼科を受診すべきである。
脈絡膜上腔は強膜と脈絡膜の間に位置する潜在的空間である。脈絡膜上腔注入により空間が拡張され、注入された薬剤や粒子は空間内に分布する。20 nmから10 μmの広範な粒子サイズが注入・滞留可能であり、数ヶ月間にわたり残存する1)。
ぶどう膜強膜流出路を介した液体の流れにより、薬剤は注入部位から後方へ移動する。空間の区画化構造が前眼部への不要な薬剤拡散を抑制し、網膜・脈絡膜への標的送達を可能にする。
硝子体腔内注入
利点:外来で施行可能。広く普及した手技である。
欠点:内境界膜が遺伝子ベクターの網膜到達を阻害する1)。ヒアルロン酸がナノ粒子の凝集を促進する1)。免疫原性の液性免疫応答を惹起しうる1)。
網膜下注入
利点:免疫特権部位への直接投与。網膜色素上皮と視細胞への効率的な送達が可能。
欠点:硝子体切除術を要する侵襲的手技である1)。薬剤分布が注入部位周囲に限局する1)。術後合併症(白内障、網膜剥離、出血)のリスクがある1)。
脈絡膜上腔注入
利点:外来での低侵襲な施行が可能1)。広範な生体内分布を示す1)。硝子体腔内注入より液性免疫応答が低い1)。
欠点:血液網膜関門の外に位置し完全な免疫特権部位ではない1)。
トリアムシノロンアセトニドの脈絡膜上腔注入は、ぶどう膜炎における後眼部炎症を標的部位に近い位置から制御する。従来の後部テノン嚢下注射と比較して、より直接的に脈絡膜・網膜へ薬剤を送達できる可能性がある。
硝子体腔内トリアムシノロン注入(IVTA)は前眼部と後眼部の両方の炎症治療に使用されるが、50%以上の確率で眼圧上昇を惹起する2)。脈絡膜上腔注入はPEACHTREE試験で12〜14%と比較的低い眼圧上昇率であった。
AAV8ベクターを用いた脈絡膜上腔遺伝子治療が、滲出型加齢黄斑変性(滲出型加齢黄斑変性)と糖尿病網膜症を対象に臨床試験で評価されている1)。
AAVIATE試験(第2相)は、ABBV-RGX-314(抗VEGFタンパクを発現するAAV8ベクター)の脈絡膜上腔注入を滲出型加齢黄斑変性患者で検討した。最高用量1.0×1012 GC/眼を投与された56例中、50%が追加の抗VEGF注入を必要としなかった。追加注入不要例のBCVA変化量は+1.0文字であり良好な視力維持が確認された1)。
ALTITUDE試験(第2相)は糖尿病網膜症患者を対象とした。用量レベル2(5.0×1011 GC/眼)群では、対照群と比較して視力障害イベント(VTE)が89%減少した1)。
炎症に関しては、1.0×1012 GC/眼の投与群でステロイド予防なしの場合、20%に眼内炎症、37.1%に上強膜炎が認められた1)。いずれも局所ステロイドで速やかに消退し、ステロイド予防投与により発生率が低下した1)。AAV脈絡膜上腔投与時の上強膜炎は5.0×1011 vg/眼で約14%、1.0×1012 vg/眼で約37%とする報告もある3)。
脈絡膜上腔注入は外来で施行可能であり、注入されたベクターが眼球の広範囲に分布する1)。網膜下注入のように硝子体切除術を要さず、硝子体腔内注入より液性免疫応答が低い1)。一回の注入で持続的な抗VEGFタンパク発現が期待できる点も利点である。
ポリ(β-アミノエステル)(PBAE)ナノ粒子は、生分解性の非ウイルス性遺伝子送達ベクターとして注目されている1)。
Shenらはラットにおいて、PBAEナノ粒子の脈絡膜上腔注入により6ヶ月以上にわたるGFP発現の持続を確認した。また脈絡膜上腔注入は硝子体腔内注入や網膜下注入と比較して、遺伝子発現の量・分布の両面で優れていた1)。
大型動物(ミニブタ)における検討では、単回の脈絡膜上腔PBAE NP注入(19 μg/50 μL)により眼球全周にわたる広範なトランスフェクションが確認された。ヘマトキシリン・エオジン染色では毒性や炎症細胞の所見はなく、12週時点まで発現が持続または増加した1)。
PBAEナノ粒子はウイルスベクターと比較して以下の利点を持つ。
現在の滲出型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫の治療は頻回の抗VEGF硝子体腔内注入が必要であるが、遺伝子治療により一回の投与で長期的な治療効果が期待される。AAVIATE試験では年間注入率が80%減少し、50%の患者が追加注入不要であった1)。ただし、すべての患者で効果が得られるわけではなく、さらなる研究が必要である。