患者因子
糖尿病:術後の遷延性炎症リスクが上昇する1)。
アフリカ系アメリカ人:PUPPI発生率が他の人種に比べ高い傾向がある2)。
51〜60歳:この年齢層で発生率が最も高い2)。

白内障術後リバウンド虹彩炎は、白内障手術後に一旦消退した前房炎症が、局所ステロイド漸減中または中止後に再燃する病態である。前房内のセル(細胞)およびフレア(蛋白)の再出現を特徴とする。
白内障手術では水晶体の操作により血眼柵(血液房水関門)が破綻し、白血球や炎症メディエーターが前房内に流入する。この炎症は通常、術後1週間以内にピークに達し、2〜3週間で正常レベルに戻る。術後のステロイド漸減療法で多くの症例では良好にコントロールされるが、ステロイドの漸減が早すぎたり、服薬遵守が不良であったりすると、炎症の再燃(リバウンド)を招く。
本疾患は、術後の期待される期間内に炎症が消失しない「遷延性(持続性)虹彩炎」とは概念上区別されるが、臨床研究では両者がしばしば一括して扱われる。
術後遷延性炎症の発生率について、大規模なIRIS Registryデータを用いた研究では、白内障手術患者の1.68%に「長期未分化術後偽水晶体眼虹彩毛様体炎(PUPPI)」が術後6ヶ月以内に認められた2)。51〜60歳で発生率が最も高く(1.80%)、加齢に伴い低下する傾向が示されている2)。
リバウンド虹彩炎は一旦消退した炎症がステロイド漸減・中止を契機に再燃するものである。遷延性虹彩炎は術後数週間経過しても炎症が持続する状態を指す。ただし臨床研究上は両者が混同されやすい。
リバウンド虹彩炎の症状は急性前部ぶどう膜炎に準じる。
細隙灯顕微鏡検査で以下の所見を確認する。
重症例や遷延例では、虹彩後癒着の形成に注意が必要である。散瞳下の眼底検査で硝子体細胞や脈絡網膜炎の有無を評価し、汎ぶどう膜炎や後部ぶどう膜炎を除外する。慢性眼内炎が疑われる場合は硝子体炎や前房蓄膿の有無を確認するが、これらは症例の最大25%で認められないため、高い疑いを持つことが重要である。
リバウンド虹彩炎の本質は、手術侵襲により生じた眼内炎症状態に対する抗炎症治療の不足である。
リバウンドと鑑別すべき持続性炎症の原因は以下の通りである。
水晶体起因性眼内炎との鑑別では、術後遅発性に遷延する虹彩毛様体炎を呈する場合、残存水晶体成分の有無を確認する。C. acnes による遅発性眼内炎では水晶体嚢の白色プラーク形成がみられることがあるが、臨床所見のみでは判断困難な場合も多い。
患者因子
糖尿病:術後の遷延性炎症リスクが上昇する1)。
アフリカ系アメリカ人:PUPPI発生率が他の人種に比べ高い傾向がある2)。
51〜60歳:この年齢層で発生率が最も高い2)。
術中因子
瞳孔拡張デバイスの使用:術中に使用した場合、術後炎症のリスクが増加する1)。
ぶどう膜炎の既往:術後の炎症増悪リスクが高く、頻回かつ長期の抗炎症治療を要する1)。
糖尿病患者は術後の遷延性炎症および嚢胞様黄斑浮腫のリスクが高い1)。ただし長期的な視力予後は糖尿病のない患者と同等であるとの報告もある1)。
リバウンド虹彩炎の診断は、臨床経過と細隙灯顕微鏡所見に基づく。白内障手術後数ヶ月以内に前房炎症を発症し、かつ一旦は炎症が消退していた病歴があれば、リバウンドが第一に考慮される。
詳細な病歴聴取が不可欠である。術後の点眼スケジュールに関する患者の理解度と遵守状況を確認する。不遵守の原因は不注意、誤解、不適切な使用手技、懸濁液の未攪拌、薬剤の入手困難など多岐にわたる。
前房内のセルとフレアを評価する。SUN分類に基づく前房炎症のグレーディングが重要である。虹彩後癒着の有無も確認する。
硝子体細胞や脈絡網膜炎がないことを確認し、汎ぶどう膜炎や後部ぶどう膜炎を除外する。
持続性炎症の他の原因を除外するため、必要に応じて以下を検討する。
| 鑑別疾患 | 特徴的所見 | 追加検査 |
|---|---|---|
| 残存水晶体皮質 | 早期〜遷延性炎症 | 超音波生体顕微鏡・隅角鏡 |
| 慢性眼内炎 | 硝子体炎・白色プラーク | 前房水培養 |
| 眼内レンズ偏位 | 持続性炎症 | 超音波生体顕微鏡・前眼部OCT |
リバウンド虹彩炎の治療は急性前部ぶどう膜炎の標準治療に準じる。
第一選択は1%酢酸プレドニゾロン点眼である。炎症の程度に応じて点眼頻度を調整し、初回の漸減より緩徐なスケジュールで再漸減する1)。0.1%デキサメタゾンや1%プレドニゾロンリン酸エステルナトリウムも使用される。
日本の教科書では、再発時には前眼部の炎症が強く生じることが多いため、ベタメタゾン(リンデロン®)0.1%点眼液を1日3回投与し、炎症の程度に合わせて増減する処方が推奨されている。
前房セルが0.5+以下になるまで調節麻痺薬を使用する。散瞳により虹彩後癒着の形成を防ぎ、毛様体筋痙攣の緩和を通じて疼痛を軽減する。日本ではミドリンP®(トロピカミド・フェニレフリン配合剤)の1日1回夜点眼が一般的である。
ステロイド単剤に比べ、NSAIDs(ケトロラク、ネパフェナクなど)の併用はより効果的に炎症と嚢胞様黄斑浮腫(CME)を予防する3)。
服薬遵守が不良な患者やフォローアップが途絶える可能性がある患者には、以下の選択肢がある。
ESCRSガイドラインでは、定期的な白内障手術後の炎症および嚢胞様黄斑浮腫予防に、NSAIDsとステロイド点眼の併用を推奨している3)。ぶどう膜炎患者では、術後にステロイドの頻度を増やし投与期間を延長することが推奨されている3)。
リバウンド虹彩炎は通常5〜6ヶ月にわたり持続する。その間、定期的な通院とステロイドの緩徐な漸減が必要となる。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
白内障手術では、角膜切開・超音波乳化吸引・灌流液の使用などの操作により、血眼柵が物理的に破綻する。これにより白血球、プロスタグランジン、サイトカインなどの炎症メディエーターが前房内に流入し、急性外傷性前部ぶどう膜炎が惹起される。
炎症反応の時間経過は以下の通りである。
リバウンドが生じる機序としては、ステロイドによるプロスタグランジン産生抑制が解除されることで、未だ完全には修復されていない血眼柵を通じて炎症細胞の再流入が起こると考えられている。
ステロイド中止後のリバウンド炎症は前房セルとフレアの増加として現れ、嚢胞様黄斑浮腫(CME)に進展する場合もある1)。抗炎症点眼の再開と緩徐な漸減により炎症は抑制される1)。
ぶどう膜炎患者における白内障手術は特に術後炎症増悪のリスクが高い1)。ぶどう膜炎専門医は手術前に3ヶ月以上の消炎静止期間を推奨しており、術前からの十分な抗炎症治療が術後の炎症コントロールに寄与する1)。
ぶどう膜炎では血眼柵がすでに脆弱化しており、手術侵襲が加わるとさらに容易に破綻する。術後にはより頻回かつ長期の抗炎症治療が必要となる1)。術前に3ヶ月以上の消炎静止期間を設けることが推奨されている1)。
Betsyら(2024)はAAO IRIS Registryのデータ(約751万人・約1246万眼)を用いてPUPPIの疫学を分析した2)。術後6ヶ月以内の患者レベル発生率は1.68%であった。女性(IRR 1.12)、黒人(IRR 1.71)、糖尿病(IRR 1.14)がリスク因子として同定された。この研究は「PUPPI」という統一名称の提唱を通じ、今後の研究比較を可能にする標準的定義の確立を目指している。
従来の点眼に代わる新たな薬物送達手段として、前房内ステロイド・NSAID懸濁液注入システムの開発が進んでいる。服薬遵守の問題を根本的に解決しうるアプローチとして注目されている。
ESCRSガイドラインでは、ぶどう膜炎患者の白内障術後管理として、全身ステロイド療法に忍容性のない患者に対する硝子体内ステロイド注射やステロイドインプラントの使用が有益である可能性を示唆している3)。