脈絡膜結核
脈絡膜粟粒結核:黄白色小滲出斑が網膜下に散在する。1/2〜1/6乳頭径の結節が多巣性脈絡膜炎の様相を呈する。通常は両眼性で、AIDS等の細胞性免疫低下時に好発する。
脈絡膜結核腫:後極部近傍に形成される乳頭大以上の黄白色腫瘤。類上皮細胞やLanghans巨細胞からなる肉芽腫で、乾酪壊死を伴う。きわめてまれである。

結核性ぶどう膜炎(tubercular uveitis; TB-uveitis)は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis; Mtb)が眼内に炎症を引き起こした病態の総称である1)。ただし、眼内から結核菌を直接検出することはほぼ不可能であり、臨床的には免疫学的検査や抗結核薬への治療反応を重視して診断する。
結核は特に高蔓延国において感染性ぶどう膜炎の主要な原因であり、インドやインドネシアでは感染性ぶどう膜炎の22.9〜48.0%を占める1)。全ぶどう膜炎患者における有病率は世界の三次医療機関で0.2〜10.5%と報告されている2)。わが国でも欧米先進国と比較して結核罹患率が著明に高く、特に大都市での罹患率が高い。また、結核高蔓延国からの渡航者の増加に伴い、ぶどう膜炎の鑑別において常に念頭に置くべき疾患である。
結核性ぶどう膜炎の視覚障害は重篤となりうる。約3分の1の患者で最良視力が3/60未満であったとの報告がある1)。ぶどう膜黄斑浮腫や続発緑内障は約30%の患者に生じる1)。
肺に活動性病変がなくても眼結核は発症する。肺所見は認められないか限定的な場合が多い5)。IGRA陽性など免疫学的に結核感染を示す所見があれば、肺病変の有無にかかわらず眼結核を疑う必要がある。
症状は炎症の部位と重症度により異なる。
結核性ぶどう膜炎は前部・中間部・後部・汎ぶどう膜炎のいずれの型も呈しうる1)。後部ぶどう膜炎が最も頻度の高い臨床型である。
肉芽腫性炎症が特徴である。
最も多い臨床型であり、以下の所見が代表的である。
脈絡膜結核
脈絡膜粟粒結核:黄白色小滲出斑が網膜下に散在する。1/2〜1/6乳頭径の結節が多巣性脈絡膜炎の様相を呈する。通常は両眼性で、AIDS等の細胞性免疫低下時に好発する。
脈絡膜結核腫:後極部近傍に形成される乳頭大以上の黄白色腫瘤。類上皮細胞やLanghans巨細胞からなる肉芽腫で、乾酪壊死を伴う。きわめてまれである。
脈絡膜炎
蛇行状(serpiginous-like)脈絡膜炎:典型的には中心窩を免れ、硝子体炎症を伴う蛇行状の病変を呈する。インターフェロンγ遊離試験陽性1項目のみでも抗結核療法開始が推奨される2)。
地図状脈絡膜炎:不整形の脈絡膜萎縮病変として認められる。
後部ぶどう膜炎が最も多い臨床型である。脈絡膜結核結節、蛇行状脈絡膜炎、閉塞性網膜血管炎が代表的な所見として挙げられる1)。
結核性ぶどう膜炎の発症機序は完全には解明されていない。以下の3つの機序が提唱されている1)。
これらの機序を臨床的に鑑別することは現時点では困難であり、治療アプローチの最適化には更なる病態研究が必要である1)。
リスク要因としては以下が挙げられる。
結核性ぶどう膜炎の確定診断は、眼内液や眼組織からの結核菌の検出である2)。しかし、菌量がきわめて少なく、生検検体も微量であるため、培養や塗抹で菌を証明できることはまれである1)2)。そのため、大多数の症例では推定診断(presumptive diagnosis)に基づいて治療が行われる。
| 検査法 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| ツベルクリン反応 | 結核菌に対するIV型アレルギー反応 | BCG接種の影響を受ける |
| インターフェロンγ遊離試験 | インターフェロンγを測定。BCGの影響なし | 潜伏感染も陽性となる |
| T-SPOT | ELISPOT法。結核既感染の検出に有用 | インターフェロンγ遊離試験と同様の限界がある |
ただし、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の投与中はツベルクリン反応やインターフェロンγ遊離試験が偽陰性となりうる。可能であれば免疫抑制開始前に検査する8)。
Bruzzoneら(2024)は、2回のツベルクリン反応陰性後にクォンティフェロンTBゴールドプラスが陽性となり、結核性多巣性脈絡膜炎の診断に至った症例を報告した8)。インターフェロンγ遊離試験実施時期の重要性を示す報告である。
眼内液(前房水・硝子体液)を用いたPCR検査が実施される。リアルタイムPCR法(IS6110配列など)が有用であるが、系統的レビューにおけるPCR陽性率は55%にとどまり、特異度も不十分である1)。インドのような高蔓延国ではMPB64プライマーを用いた場合に陽性率が最大70%に達する1)。
Standardization of Uveitis Nomenclature(SUN)ワーキンググループは結核性ぶどう膜炎の分類基準を策定した1)。強い関連が認められる臨床型として以下が挙げられる。
眼所見だけで確定はできないが、結核性ぶどう膜炎を示唆する表現型の整理は推定診断に役立つ7)。
Collaborative Ocular Tuberculosis Study(COTS)グループは臨床で使用しやすいガイドラインを提唱しており、より広い臨床状況に適用可能である1)2)。
IGRA陽性は結核菌への免疫反応を示すが、潜伏感染でも陽性となるため、眼結核の確定にはならない。典型的な眼所見の存在、他疾患の除外、治療反応を総合して診断する1)2)。
結核性ぶどう膜炎の治療の主軸は多剤併用抗結核薬療法(ATT)である1)。ATTにより再発率が約75%減少することが報告されている2)。
標準的なRIPE療法のレジメンは以下の通りである。
治療期間は6〜9ヶ月が標準である5)。
日本の教科書では、イソニアジドの治療試験が重視されている。イソニアジド内服開始後1週間前後で炎症の消退または増悪(薬剤に対する反応)がみられる場合は有効と判断する。1ヶ月間で効果がない場合は無効とみなし中止する。有効であればリファンピシンなどの薬剤を追加する。
蛇行状脈絡膜炎および脈絡膜結核腫では、免疫学的検査1項目(TST/IGRAのいずれか)が陽性であれば、胸部画像で結核を示唆する所見がなくてもATT開始が推奨される2)。他の臨床型では、臨床像・免疫学的検査・画像所見を総合的に判断する。
ATTとの併用で後部炎症の制御に有効である5)。通常、ATT開始と同時またはその直後に開始し、4〜6週間かけて漸減する。COTSガイドラインでも、結核性ぶどう膜炎に対するステロイド補助療法の有用性が支持されている5)。
結核性ぶどう膜炎の病態は、直接感染と免疫介在性メカニズムの双方が関与する複合的なものである1)。
結核菌は肺の初感染巣から血行性に眼組織へ播種される。脈絡膜は高い血流量と酸素分圧を有するため、菌の定着に適した環境である。眼組織内の乾酪壊死を伴う肉芽腫が報告されている1)。類上皮細胞やLanghans多核巨細胞からなる肉芽腫の形成には、マクロファージを中心とした細胞性免疫反応が関与する。
眼内に生菌が存在しない場合でも、結核菌抗原に対する過剰な免疫反応が眼内炎症を引き起こしうる。
Puteraら(2023)のレビューでは、結核菌抗原で事前感作されたマウスにのみ慢性ぶどう膜炎が発症したとする動物実験が紹介されている1)。このことは、結核菌抗原に対する免疫記憶が眼炎症の発症に重要な役割を果たすことを示唆する。
結核菌抗原と網膜抗原の分子模倣(antigenic mimicry)による自己免疫反応の関与が提唱されている1)。BCG膀胱内注入後に結核性ぶどう膜炎に類似した肉芽腫性前部ぶどう膜炎を発症した症例が報告されており、末梢Tリンパ球が高レベルのIL-2・IFN-γを産生していた1)。活動性および潜伏性の結核性ぶどう膜炎では、血清中の抗網膜抗体(ARA)陽性率が健常対照より高い1)。
結核菌の構成蛋白に対する免疫反応により網膜血管炎が生じると考えられている。閉塞性血管炎は網膜無灌流領域の急速な拡大をもたらし、新生血管形成や硝子体出血を引き起こす。Eales病との関連が指摘されており、結核菌PCR陽性の報告がある。
従来のATTに加え、宿主の免疫応答を増強することでATTの効果を高めるアプローチが研究されている1)。薬剤耐性結核の増加を背景に、肺結核領域で複数のHDT候補薬が検討されている。
Puteraら(2023)は、HDTが結核性ぶどう膜炎にも応用可能な可能性を指摘している1)。結核菌に対する過剰な免疫応答が組織障害を引き起こしている場合、免疫調節によるアプローチが有用となりうる。ただし、眼結核における前臨床エビデンスはまだ限られている。
Amjadら(2024)は、IGRA陽性の55歳女性に両眼性VKH様の漿液性網膜剥離が出現した症例を報告した4)。ステロイドパルス療法に著明に反応したものの、網膜周辺部の血管周囲炎という非典型的所見を伴っていた。結核に対する過敏反応がVKH様の臨床像を惹起した可能性が示唆されている。
このような混合型の症例は、結核蔓延地域においてVKHと眼結核の鑑別がきわめて重要であることを示している4)。
Faneliら(2026)は、6症例の後部眼結核を報告した5)。脈絡膜肉芽腫・多巣性脈絡膜炎・蛇行状脈絡膜炎・閉塞性網膜血管炎といった多彩な臨床型が含まれ、全例でRIPE療法+ステロイド併用により炎症の鎮静化が得られた。4例に服役歴があり、肺所見は3例でのみ認められた。脈絡膜新生血管を合併した1例では抗VEGF療法が追加された。
Houら(2025)は、推定眼結核が自己免疫性網膜症に酷似した36歳男性の症例を報告した9)。ステロイド投与で悪化した後、ATT単独療法1ヶ月で視力と黄斑構造が著明に改善した。
Babalola(2025)は、15歳男児の両眼性視神経萎縮と網膜前膜を伴う非典型的な眼結核症例を報告した10)。家族内結核歴と脈絡膜結節の存在が推定診断の手がかりとなった。