保険適用・有効性が確立
ベーチェット病(難治性網脈絡膜炎):日本では2007年に保険収載。コルヒチン・シクロスポリン無効例で第一選択となる。炎症発作頻度の低下・QOL改善・眼外症状改善も報告されている。
若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎:エタネルセプトよりインフリキシマブ・アダリムマブが推奨される。メトトレキサートとの併用が標準。

インフリキシマブ(商品名:レミケード®)は、腫瘍壊死因子α(TNF-α)に特異的に結合するマウス/ヒトキメラ型モノクローナル抗体である。「インフリキシマブ(infliximab)」の語尾「imab」はキメラ型を示し、完全ヒト型を示す「umab」(アダリムマブ等)とは異なる構造をもつ。この違いは免疫原性の差異として現れ、キメラ型であるインフリキシマブは完全ヒト型より抗薬物抗体を生成しやすい2)。
非感染性ぶどう膜炎治療における生物学的製剤の中では、アダリムマブに次ぐ使用頻度を持つ薬剤であり1)、特にベーチェット病関連難治性ぶどう膜炎において世界に先駆けて日本で保険収載された実績がある。
関節リウマチ・乾癬・強直性脊椎炎・クローン病などの全身性炎症疾患でも広く使われており、眼科領域での適応はその延長として発展してきた。
インフリキシマブ(レミケード)はマウス/ヒトキメラ型でありCDR(相補性決定領域)にマウス由来部分を含む。アダリムマブ(ヒュミラ)は完全ヒト型。キメラ型は抗薬物抗体(ADAb)を産生しやすく、輸注反応のリスクが相対的に高い2)。一方インフリキシマブは点滴静注のため外来での管理が必要だが、同時に投与状況の観察が可能という利点もある。
インフリキシマブが適応となる疾患の典型的な自覚症状は以下の通りである。
インフリキシマブの主要適応疾患の眼所見の特徴を以下に示す。
| 疾患 | 主な眼所見 | 炎症の部位 |
|---|---|---|
| ベーチェット病 | 炎症発作・閉塞性血管炎 | 汎ぶどう膜炎 |
| 若年性特発性関節炎関連 | 慢性前部ぶどう膜炎・帯状角膜変性 | 主に前眼部 |
| サルコイドーシス | 豚脂様KP・ろう様滲出斑 | 汎ぶどう膜炎 |
| 原田病 | 滲出性網膜剥離・夕焼け眼底 | 後部・汎 |
抗TNF療法中に新規ぶどう膜炎が発症する「逆説的炎症」が報告されている3)。インフリキシマブ投与中に両眼性前部・中間部ぶどう膜炎が発症した関節リウマチ患者の症例では、感染性・自己免疫性原因を除外後にインフリキシマブによる逆説的反応と診断された3)。これはetanerceptで最も多く報告されているが、インフリキシマブでも発症しうる3)。
多くの場合はインフリキシマブを継続したままステロイドで治療可能である3)。ぶどう膜炎が持続・再発する場合は薬剤中止または他のTNF阻害薬(アダリムマブ等)への切り替えを検討する。文献上の症例では、adalimumabへの切り替えや tocilizumabへの変更で再発なく経過した例が報告されている3)。
保険適用・有効性が確立
ベーチェット病(難治性網脈絡膜炎):日本では2007年に保険収載。コルヒチン・シクロスポリン無効例で第一選択となる。炎症発作頻度の低下・QOL改善・眼外症状改善も報告されている。
若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎:エタネルセプトよりインフリキシマブ・アダリムマブが推奨される。メトトレキサートとの併用が標準。
有効性が報告されている疾患
サルコイドーシス:ステロイド・免疫抑制薬抵抗性例への有効性が報告されている。
原田病(フォークト・小柳・原田病):難治性例への有効性が報告されている。
難治性非感染性ぶどう膜炎全般:コホート研究で81.8%が臨床的寛解を達成した報告がある。
嚢胞状黄斑浮腫・毛様体扁平部炎:有効例が報告されている。
難治性ぶどう膜炎に対するインフリキシマブの適応は以下の状況で検討する。
ベーチェット病:コルヒチン1mg/日継続投与で炎症発作が十分に抑制できない場合、シクロスポリン(ネオーラル®)5mg/kg/日でもコントロール不十分な場合に5mg/kgを2ヶ月ごとに点滴静注する。
その他の非感染性ぶどう膜炎:経口ステロイドおよび従来型免疫抑制薬(メトトレキサート・ミコフェノール酸・シクロスポリン等)が無効または不耐の場合に検討する1)。
薬物モニタリング(TDM)はトラフ濃度・ADAb測定を含むが、現時点では臨床試験でTDMが臨床転帰を有意に改善するとは示されておらず2)、疾患活動性のモニタリングが主軸となる。国際調査では不活動性ぶどう膜炎患者の薬物毒性スクリーニングを6〜12週ごとに実施している専門医が多い1)。
インフリキシマブは静脈内点滴投与で使用する。
日本では1.2μm以下のインラインフィルタを通して投与することが推奨されている。
米国リウマチ学会の推奨に従い、インフリキシマブはメトトレキサートなどの免疫抑制薬と併用されることが多い。これにより、キメラ型抗体に対するADAb産生を抑制し、より少量での使用が可能となる場合がある2)。ADAb形成はトラフ濃度低下・過敏反応リスク上昇・寛解率低下と関連する2)。
国際調査では221名中176名(79.6%)のぶどう膜炎専門医がインフリキシマブ使用経験を持ち、アダリムマブ(98.6%)に次ぐ使用頻度であった1)。ベーチェット病ではアザチオプリンが第一選択の従来型薬であり(52.0%)、インフリキシマブは生物学的製剤として23.1%が使用している1)。
インフレクトラ®などのバイオシミラー(後続品)は非感染性ぶどう膜炎でも安全性・有効性の報告があるが、さらなるエビデンスの蓄積が必要である。
TNF-α(腫瘍壊死因子α)は眼内炎症の主要なサイトカインであり、マクロファージ・T細胞・肥満細胞・NK細胞など多様な免疫細胞が産生する。TNF-αはNF-κB産生・細胞活性化・アポトーシス誘導を引き起こし、IL-1・インターフェロンγ・IL-2などの炎症性サイトカインの産生を増幅する(炎症カスケードの増幅)。
TNF-αは循環中(可溶型)と細胞膜結合型の2形態で存在する。インフリキシマブはこれら両形態に高親和性で結合し、TNF受容体への結合を阻害する。
インフリキシマブはTNF-αの持つ前炎症作用を中和することで眼内炎症を抑制する。この経路は特にベーチェット病(CD4+ T細胞のTh1/Th17細胞が関与)に対して有効であり、閉塞性網膜血管炎の発作頻度を顕著に低下させる。
TNF-αは前炎症的な働きと同時に免疫調節的な役割も担っている3)。TNF-α阻害によりこのバランスが乱れると、一部の患者で新たな炎症反応(ぶどう膜炎、強膜炎、視神経炎など)が誘発される逆説的効果が生じうる3)。インフリキシマブによる逆説的ぶどう膜炎は前部ぶどう膜炎として発症することが多く、光干渉断層計(OCT)で嚢胞状黄斑浮腫を伴うことも報告されている3)。
キメラ型であるインフリキシマブは完全ヒト型アダリムマブと比べてADAb産生リスクが高い2)。ADAb形成はトラフ濃度の低下と関連し、過敏反応(輸注反応)のリスクを高め、寛解率の低下につながる2)。多くの測定法はADAbの結合を検出するが、in vivoでの中和効果を正確には反映しないため、ADAb陽性でも寛解中の患者が存在する2)。
ADAb検出を含む治療薬物モニタリング(TDM)は理論的に魅力的であるが、現時点でのランダム化試験ではTDMが臨床転帰を有意に改善するとは実証されていない2)。ADAb測定法の標準化・臨床的中和能の評価法の開発が今後の研究課題である。
Branfordら(2025)による53カ国221名の調査はインフリキシマブの実臨床での位置づけを国際的に示した重要なデータであり1)、ベーチェット病では23.1%の専門医が生物学的製剤としてインフリキシマブを選択する実態が明らかとなっている1)。
インフリキシマブのバイオシミラー(インフレクトラ®等)は医療費軽減の観点から注目されており、非感染性ぶどう膜炎での安全性・有効性の長期データ蓄積が期待されている。