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ぶどう膜炎

シクロスポリン(ぶどう膜炎への使用)

1. シクロスポリン(ぶどう膜炎への使用)とは

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シクロスポリン(Cyclosporine;CsA)はアミノ酸側鎖を持つ中性親油性ポリペプチドであり、カルシニューリン阻害薬(calcineurin inhibitors)に分類される免疫調節薬である。

非感染性ぶどう膜炎の病態においてT細胞の活性化が中心的役割を担うことが知られており、シクロスポリンはこのT細胞活性化を標的とした薬剤である。

日本では眼科領域でのシクロスポリン適応として、当初は「活動性の高いBehçet病眼症」のみであったが、2012年の公知申請により「Behçet病以外の非感染性ぶどう膜炎(既存薬で効果不十分で、視力低下のおそれのある活動性の中間部または後部の非感染性ぶどう膜炎)」への適応が追加された。

SITE試験(Systemic Immunosuppressive Therapy for Eye diseases)は、眼炎症性疾患における標準的な免疫抑制薬の有効性を確認した多施設コホート研究であり、シクロスポリンはその対象薬の一つとして評価されている。同試験の373名(681眼)を対象としたシクロスポリンコホートでは、12ヶ月までに51.9%が持続的な炎症の完全制御を達成し、36.1%がステロイド減量(プレドニゾン10mg以下)に成功した。

Q シクロスポリンと他の免疫抑制薬の位置づけはどう違うか?
A

非感染性ぶどう膜炎に対しては、現在メトトレキサートやミコフェノール酸モフェチルなどの代謝拮抗薬が第一選択薬として使われる傾向にある。221名のぶどう膜炎専門家を対象とした調査では、シクロスポリンを第一選択とした医師は8.1%にとどまり、メトトレキサート(57.0%)が最多であった。シクロスポリンは腎毒性・高血圧などの毒性により使用が制限される第二選択薬として位置づけられる。

シクロスポリン自体がぶどう膜炎を引き起こすわけではなく、ぶどう膜炎に対する治療薬として用いられる。治療対象となる主な自覚症状は以下の通りである。

  • 眼痛・充血:前部ぶどう膜炎の炎症症状
  • 霧視・視力低下硝子体混濁黄斑浮腫による
  • 飛蚊症中間部ぶどう膜炎硝子体炎症による

治療対象疾患

ベーチェット病眼症:再発性汎ぶどう膜炎。眼底病変(黄斑病変・網膜血管炎)を伴う重症例が対象。

原田病:高用量ステロイドと併用することでステロイドの投与量を減量できる。

中間部ぶどう膜炎:長期治療を必要とする難治例に対し単独または併用で使用。

バードショット網脈絡膜:ステロイドとの併用により硝子体炎症の制御率が向上。

副作用所見

腎機能障害:血清クレアチニン値の上昇。通常投与開始1〜3ヶ月で発現する。

高血圧:重要な有害事象であり治療中止の主な原因となる。

多毛症・歯肉増殖:外見上の副作用として知られる。

神経症状:振戦など。神経Behçet病患者への投与は避ける。

シクロスポリンの副作用発現リスクに関連する因子は以下の通りである。

  • 高齢:55歳以上では毒性による中止リスクが顕著に上昇する。SITE試験では55〜64歳で調整相対リスク3.25、65歳以上で5.66と報告された。
  • 腎機能低下:既往の腎疾患がある患者では使用を慎重に検討する。
  • 高血圧:コントロール不良の高血圧患者への使用は避けるべきである。
  • 高初期用量:10mg/kg/日の用量では75〜100%の患者に腎毒性が発現する。
  • 中枢神経系病変:神経毒性の懸念から避けるべきである。

シクロスポリン治療の導入前および治療中に行うべき検査は以下の通りである。

  • 血清クレアチニン値:ベースラインの腎機能評価は必須である。
  • 血圧測定:コントロール不良の高血圧の除外。
  • 感染症スクリーニング:活動性または潜伏性の感染症の除外。
  • 肝機能検査:肝毒性の可能性を考慮する。

日本の教科書では、導入後は定期的に血中トラフ値を測定しながら投与量を調整することが推奨されている。実際の測定は、定期診察時に朝の内服しない状態で血液検査を行う。目標トラフ値は100〜250ng/mLとされるが、150ng/mL以上で腎機能障害の発生頻度が高くなるため、100〜120ng/mLを目標とすることが多い。

血清クレアチニン値はベースラインから30%以上上昇しないよう管理すべきである。

Q シクロスポリンの血中濃度測定はなぜ必要か?
A

シクロスポリンは消化管吸収において個体内・個体間差が大きく、食事(特に脂肪摂取量)によってもバイオアベイラビリティが変動する。血中濃度のモニタリングにより、臨床的有効性を維持しつつ腎毒性などの有害事象を最小化できる。現在主流のネオーラル®はマイクロエマルジョン製剤であり、旧製剤より血中動態が安定しているが、それでも定期測定が必要とされる。

日本の標準治療としては、通常ステロイド全身投与と併せて1日量5mg/kgを2回に分けて経口投与する(12時間間隔での食後内服が一般的)。効果が弱い場合は最高血中濃度を上げる目的で食前投与することもある。

ベーチェット病に対しては以下の処方が用いられる。

フェーズ薬剤用量
寛解期コルヒチン(第1選択)0.5〜1.5mg/日
増悪期ネオーラル®5mg/kg/日 分2
重症例インフリキシマブ5mg/kg(0・2・6週、以後8週ごと)

原田病に対してはネオーラル 3mg/kg/日(体重60kgの場合:180mg/日 分2)が処方例として用いられる。

ベーチェット病眼症:コルヒチンのみでは炎症発作の十分な抑制が得られない場合にシクロスポリンを導入する。ただし、神経Behçet病が疑われる患者には使用しない。抗TNF製剤(インフリキシマブ・アダリムマブ)の台頭により、現在ではシクロスポリンが導入される機会は減少している。

サルコイドーシス:ステロイド抵抗性の症例、ステロイド薬減量に伴い再燃を繰り返す症例、副作用のために内服継続が困難な症例では、シクロスポリン、メトトレキサート(保険適用外)、またはTNF阻害薬のアダリムマブの追加が考慮される。

中間部ぶどう膜炎:副腎皮質ステロイド薬の内服(4ヶ月以上)かトリアムシノロンアセトニド後部Tenon嚢下注射、あるいはシクロスポリンなどの免疫抑制薬の内服が選択肢となる。

リウマチ性ぶどう膜炎(膠原病関連):内服漸減により炎症再燃を繰り返す場合にはシクロスポリンの内服併用が治療選択肢となる。

眼の炎症が制御され続ければ、50〜100mg/日ずつシクロスポリンを段階的に減量できるが、炎症の再発も報告されている。維持量0.5mg/kg/日まで下げることが推奨される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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シクロスポリンの作用機序は、T細胞内のカルシニューリンを阻害することにより、活性化T細胞核内因子(NF-AT)の活性化をブロックし、インターロイキン-2(IL-2)をコードする遺伝子の転写を抑制することである。IL-2はT細胞の活性化と動員を促進する主要なサイトカインであるため、その産生抑制が免疫応答の抑制につながる。

シクロスポリンはシトクロムP450(CYP450)酵素系によって代謝される。親油性の性質のため、バイオアベイラビリティは食事の脂肪摂取量と肝臓での初回通過効果(約27%)に依存する。半減期は6〜24時間と変動し、全身投与を受けているぶどう膜炎患者では血清シクロスポリン濃度の約40%が房水中に認められる。代謝物は主に胆汁排泄系により消失する。

シクロスポリンは消化管吸収において胆汁酸分泌量の影響を受けるため、当初は血中濃度が不安定であった。現在広く使用されているネオーラル®は体内で親水性マイクロエマルジョンを形成し、腸管から安定して吸収されるため、旧製剤より血中動態が安定化している。しかし吸収の個体内差・個体間差は依然として大きいため、血中濃度モニタリングが不可欠である。

シクロスポリンの腎障害は機能的かつ構造的変化を伴う。腎生検では、軽度のIV型尿細管性アシドーシス、間質性線維化、尿細管・糸球体の萎縮・硬化、細動脈壁の肥厚といった変化が認められる。進行性の腎障害は、腎機能が正常であっても、またシクロスポリンを減量しても見られることがある。

SITE試験のデータでは、1年以内に毒性のために中止したのは10.7%であり、55歳以上の年齢が中止の強力な予測因子であった(調整相対リスク:55〜64歳で3.25、65歳以上で5.66)。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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FAST試験(First-line Antimetabolites as Steroid-sparing Treatment)はランダム化比較試験であり、後部及び汎ぶどう膜炎に対してメトトレキサートがミコフェノール酸モフェチルよりも有意に治療成功率が高かったことを示した。これらの代謝拮抗薬はT細胞抑制薬(シクロスポリン)と比較して優れた治療成績を示す可能性が示唆されており、シクロスポリンの位置づけが今後変化しうる。

現在の国際的な専門家パネルの推奨では、ベーチェット病の眼症状に対する第一選択薬として、インフリキシマブやアダリムマブを含む抗TNF-α阻害薬が挙げられており、シクロスポリンの役割は限定的になりつつある。

Q シクロスポリン治療を長期間続けなければならない場合、将来的に腎臓が悪くなることはあるか?
A

長期投与では不可逆的な腎障害のリスクがある。進行性腎障害は腎機能が正常であっても、減量後も見られることがある。定期的な血清クレアチニン値のモニタリングが不可欠であり、ベースラインから30%以上の上昇が見られた場合には用量減量または中止を検討すべきである。


  1. Branford JA, et al. Current practice patterns in the management of non-infectious uveitis. Br J Ophthalmol. 2025;109:482-489.
  2. Hesselink DA, Baarsma GS, Kuijpers RW. Experience with cyclosporine in endogenous uveitis posterior. Transplant Proc. 2004;36:372-7.

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