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ぶどう膜炎

ぶどう膜炎における前房穿刺

1. ぶどう膜炎における前房穿刺とは

Section titled “1. ぶどう膜炎における前房穿刺とは”

前房穿刺(Anterior Chamber Paracentesis)は、眼の前房内の房水(aqueous humor)を採取する侵襲的手技である。ぶどう膜炎の診断補助として使用される。1)

前部・中間部・後部ぶどう膜炎および汎ぶどう膜炎は、西洋諸国における視覚障害原因の10%以上を占める。中でも前部ぶどう膜炎は最も頻度が高く、ぶどう膜炎全体の最大60%に達する。感染性ぶどう膜炎は全症例の10〜20%を占める。

ぶどう膜炎の診断アプローチは、詳細な病歴聴取と臨床検査を基本とする。しかし根本的な原因を特定できない困難な症例も多く、侵襲的な検体採取技術が必要となる。前房穿刺は硝子体採取と比較して合併症リスクが低く、外来で迅速に実施できる利点がある。早期に確定的な病原体特異的PCR検査を行うことで、適時の診断と適切な治療開始が容易になる。

Q 前房穿刺はどのような場合に適応となりますか?
A

以下の状況でPCR検査のために前房穿刺を検討する:非典型的な臨床像を呈する場合、原因不明の再発性ぶどう膜炎、治療抵抗性の症例、免疫不全患者や高齢者で臨床像が不明確な場合、眼底検査が困難な症例。VZV初感染によるぶどう膜炎でも、前房水PCRによりVZV-DNA陽性が確認されることがある。2)

感染性原因が疑われる場合、PCRは培養検査よりも感度が高く優先される。房水中の微量の病原体DNA・RNAを正確に検出できる。

PCRで検出可能な主要病原体

  • 単純ヘルペスウイルス(HSV)
  • 水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)
  • サイトメガロウイルス(CMV)
  • トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)

これらの病原体に特異的な房水PCR検査は、硝子体生検や血清学的検査に匹敵する高い診断感度と特異度を有する。房水PCR検査はかなりの割合の患者で診断と治療方針を変更させる可能性がある。

VZV初感染の実例:糖尿病患者におけるVZV初感染に伴う前部ぶどう膜炎・網膜血管炎の症例において、前房水PCRでVZV-DNA陽性が確認され、バラシクロビル+ステロイドの治療で良好な経過を示した例が報告されている。2)

PCRの欠点としては、費用・採取量の制限(複数項目の同時検査が困難)・汚染物質の誤増幅・細胞成分が乏しい場合の検出失敗などがある。

房水中のサイトカイン測定はぶどう膜炎の病因鑑別を補助する。

炎症性ぶどう膜炎のサイトカインプロファイル

ウイルス性ぶどう膜炎:IL-6、IL-10、IFN-γなどの免疫調節サイトカインが存在する。

特発性ぶどう膜炎:IL-1、IL-2、IL-6、TNF-α、IFN-γ、IL-8、MCP-1などの炎症性サイトカインが上昇する。

感染性vs非感染性の鑑別補助:特定のサイトカインパターンが診断を支持する。

眼内リンパ腫の鑑別(重要)

IL-10高値・IL-10/IL-6比>1:活動性B細胞リンパ腫(原発眼内リンパ腫)を示唆する。ぶどう膜炎ではIL-6が上昇する。

MyD88 L265P変異分析:B細胞リンパ腫診断の有用なツール。通常は硝子体検体で行うが、最近では房水検体での分析も報告されている。

注意点:感染性ぶどう膜炎でもIL-10が上昇する例外や、早期・低悪性度リンパ腫でIL-10が低い例外がある。

光干渉断層計(OCT)やフルオレセイン蛍光眼底造影(FFA)等の非侵襲的検査で診断が確定しない場合に前房穿刺を検討する。「ぶどう膜炎」として治療抵抗性の症例では悪性リンパ腫を念頭に置き、IL-10・IL-6・細胞診・遺伝子再構成(単クローン性)を検索する。

感染性ぶどう膜炎(全ぶどう膜炎の10〜20%)では、前房穿刺によるPCRが確定診断に直結する。

主要な感染原因:

  • ヘルペスウイルス群(HSV、VZV、CMV):ヘルペス虹彩毛様体炎や急性網膜壊死サイトメガロウイルス網膜炎の診断に前房水PCRが有効
  • トキソプラズマ:血清中と前房水中の抗体価の比(Q値)による診断も行われる
  • 梅毒:ぶどう膜炎全体との鑑別に必須(前部・後部どちらの形態もとりうる)

眼科学的には以下の場合に前房穿刺を検討する。

  • ヘルペス虹彩毛様体炎・急性網膜壊死・サイトメガロウイルス網膜炎の診断:前房水PCRによるウイルスDNA検出
  • 眼トキソプラズマ症:前房水中と血清中の抗体価比(Q値)による診断
  • 悪性リンパ腫の疑い:IL-10/IL-6比・細胞診・MyD88 L265P変異
  • 治療抵抗性ぶどう膜炎の原因精査

前房穿刺は滅菌技術を用いて外来で施行可能な手技である。通常、麻酔は点眼麻酔で十分である。水晶体損傷を避けることが最も重要であり、針先の方向を虹彩面に平行に保つことが必須である。縮瞳させておくことが望ましい。

手順の概要

  1. 局所麻酔薬(点眼)の投与。
  2. ポビドンヨード溶液の局所塗布。
  3. 開瞼器の装着で術野を確保。
  4. 1mLツベルクリン注射筒に装着した30G針を耳側角膜輪部(または透明角膜)から、虹彩面に平行に前房内へ進め、針先を虹彩の中間周辺部上に位置させる。
  5. 虹彩・水晶体との接触を避けながら、約0.1〜0.2mLの房水を吸引する。検査目的によっては0.2mL程度の採取が必要。
  6. 刺入部位に滅菌綿棒を当て10〜20秒間軽く圧迫する。
  7. 抗菌薬点眼の塗布と眼帯の装着。
  8. 約30分後に再評価し、前房の再形成と前房出血(hyphema)の有無を確認する。

技術的な留意点:穿刺部位は結膜側より角膜中央部寄りに選択する(結膜に近いと出血や虹彩嵌頓が起こりやすい)。針を抜去する際にはコンタミネーション防止のため、針先部分のサンプルを少し排液する程度に陽圧を加える。前房水を吸引しすぎると前房が虚脱するため、穿刺部に虹彩が嵌頓しない程度に留めることが重要。

細隙灯顕微鏡を使用する・使用しないの両方の方法がある。患者が非協力的な場合や仰臥位で行う場合は細隙灯を用いないこともある。仰臥位で行うと水晶体損傷リスクが最小限になる。

Q 前房穿刺は25Gと30G、どちらの針を使いますか?
A

推奨は30G針(1mLツベルクリン注射筒に装着)である。最初から25Gや27Gの鋭針で穿刺する方法も可能であるが、ナイフによる穿孔後に25G針で吸引する方法と比較して、鋭針はキレが劣るため眼球や針先の方向が変わりやすい。より慎重な操作が求められる。安全性の研究では、ぶどう膜炎患者への前房穿刺は安全な手技であることが示されている。1)

前房穿刺は一般的に安全な手技であるが、以下の合併症が報告されている。1)

  • アムスラー徴候(Amsler sign):手技中に前房内の血管が出血しやすい傾向。ぶどう膜炎患者では特に注意が必要
  • 前房出血(hyphema)
  • 眼内炎(Endophthalmitis)
  • 角膜膿瘍
  • 角膜・虹彩・水晶体・後眼部への外傷
  • 角膜感染症
  • 硝子体採取への転換が必要となる場合

これらの合併症を最小化するために、滅菌操作の厳守と手技の習熟が重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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房水は前房内を循環する透明な液体であり、眼内の代謝産物・免疫細胞・病原体・サイトカインを含む。血液眼関門が機能している正常眼では免疫担当細胞が通過しにくいが、ぶどう膜炎では血液房水関門の破綻により炎症細胞・蛋白・免疫細胞が前房内に流入する。

前房水中に存在する診断的マーカー:

  • 病原体のDNA・RNA(PCRで検出)
  • サイトカイン(IL-10、IL-6、IFN-γなど)
  • 腫瘍細胞・悪性細胞(細胞診)
  • 抗体(トキソプラズマQ値診断)
  • 遺伝子変異(MyD88 L265P:B細胞リンパ腫)

近年、病原体DNAのマルチプレックスPCRや眼内液サイトカイン検査などの分子診断の進歩により、ぶどう膜炎の確定診断例が増加している。しかし従来の診断技術では分類不能なケースが依然として40%近く存在する。

硝子体手術による硝子体液生検(硝子体内サンプリング)も確定診断に有用であるが、前房穿刺の方が低侵襲・迅速であり外来での実施が可能である点で優れる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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次世代シークエンシングの応用

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次世代シークエンシング(NGS)技術を房水検体に応用することで、PCRでは検出できない未知の病原体や複数病原体の同時検出が可能になると期待されている。

非侵襲的前房内評価技術の発展

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レーザーフレアセルメーターや共焦点レーザー顕微鏡を用いた前房内蛋白・細胞の非侵襲的評価技術の開発が進んでいる。前房内に存在する細胞や蛋白の質的情報を非侵襲的に取得できれば、穿刺の適応をより絞り込んで前房穿刺の必要性を減らせる可能性がある。

IL-10/IL-6比の閾値設定など、診断基準の標準化が求められている。現状では複数の研究間で基準値が統一されておらず、日常診療への普及には標準化された測定プロトコルの確立が必要である。


  1. Cheung CMG, Durrani OM, Murray PI. The safety of anterior chamber paracentesis in patients with uveitis. Br J Ophthalmol. 2004;88:582–3. [41433_2023_Article_2631.pdfの引用文献31より]

  2. Marín Payá E, Aguilar González M, Rahhal Ortuño M, et al. Anterior uveitis and vasculitis in primary infection with VZV in a diabetic patient. Romanian Journal of Ophthalmology. 2022;66(4):369–372.

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