前駆期
眼外症状先行:頭痛・発熱・耳鳴・めまい・髄膜刺激症状が主体。
眼症状は軽微:視神経乳頭の軽度充血が現れ始める時期。

Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Harada disease;VKH病、原田病)は、眼外症状を伴う、あるいは伴わない両眼性の肉芽腫性全ぶどう膜炎(granulomatous panuveitis)と定義される自己免疫疾患である1)。脈絡膜を主病巣とし、虹彩・毛様体・網膜・髄膜・内耳・皮膚のメラノサイトに自己免疫反応が及ぶ1)。
1906年にVogt、1929年に小柳が各々独立して慢性前部ぶどう膜炎・脱毛・白斑・難聴を特徴とする疾患を報告した。同年、原田が髄液細胞増多を伴う後部ぶどう膜炎・滲出性網膜剥離を報告。1932年にBabelが両者を統合して「Vogt-小柳-原田病」と命名した。
原田病はヒスパニック・アジア人・ネイティブ・アメリカン・中東系・インド系などの有色人種に多い4)。サハラ以南のアフリカ系黒人には稀である。日本では全ぶどう膜炎症例の6.8〜9.2%を占める。米国では1〜4%にとどまる。
ある研究(n=65)では患者の78%がヒスパニック、10%がアジア人、74%が女性であった4)。発症時の平均年齢は32歳で、20代〜50代が大多数を占める4)。日本人では約80%でHLA-DR4陽性であり、遺伝的素因が強く示唆される。
有色人種(ヒスパニック・アジア人・ネイティブ・アメリカンなど)の20〜50代に多く、女性が男性より罹患しやすい傾向がある。ある研究では74%が女性で、発症時の平均年齢は32歳であった4)。日本では全ぶどう膜炎の約7〜9%を占める。
原田病の症状は病期によって異なる。発症前から系統的に経過をたどることが診断の助けとなる。
原田病の臨床所見は4病期に応じて変化する。
前駆期
眼外症状先行:頭痛・発熱・耳鳴・めまい・髄膜刺激症状が主体。
眼症状は軽微:視神経乳頭の軽度充血が現れ始める時期。
ぶどう膜炎期
漿液性網膜剥離:脈絡膜肥厚による後極部の多発性漿液性剥離。重症例では水疱状に。
視神経乳頭充血・浮腫:後極部の炎症所見。
前房・硝子体炎症:病期が進むと全ぶどう膜炎の様相を呈する。
慢性期(回復期)
夕焼け状眼底(sunset-glow fundus):脈絡膜の脱色素による特徴的な眼底。
杉浦徴候(Sugiura sign):角膜輪部白斑。発症1ヶ月後頃に出現する最初期の脱色素所見。
白斑・白毛・脱毛:全身の皮膚症状が顕在化する。
再発期
肉芽腫性前部ぶどう膜炎:Koeppe結節・Busacca結節・豚脂様KP・虹彩後癒着。
虹彩萎縮・脱色素:虹彩が薄く萎縮した外観。
合併症出現:白内障・続発緑内障・脈絡膜新生血管4)。
脈絡膜のメラノサイトが脱色素されることで眼底が明るい赤橙色に見える状態を指す。原田病の慢性期に特徴的な所見で、治療後数ヶ月以内に出現することが多い。診断基準の一つにも含まれている。
原田病の病因は完全には解明されていないが、メラノサイトが発現するチロシナーゼファミリータンパクへの自己免疫反応が主要な役割を果たす2)。T細胞介在性の免疫応答(Th1およびTh17細胞の活性化)によってメラノサイト富裕組織(脈絡膜・髄膜・内耳・皮膚)に炎症が生じる1)。
HLA-DRB1*0405などのHLA-DR4サブタイプとの関連が確立されている。ある系統的レビューによりHLA-DRB1*0404・*0405・*0410がリスクサブアレル、*0401が防御的サブアレルとして同定されている8)。IL-23受容体など免疫応答関連遺伝子との関連も示唆されている1)。
感染症やワクチン接種が遺伝的感受性のある個体において原田病発症または増悪の引き金となることが報告されている。
2001年に国際Vogt-小柳-原田病委員会が定めた改訂診断基準が現在も用いられる。
| 型 | 基準 |
|---|---|
| 完全型 | 基準1〜5のすべてを満たす |
| 不完全型 | 基準1〜3を満たし、4または5のいずれかを満たす |
| 疑い例(眼単独型) | 基準1〜3のみを満たす |
基準1:ぶどう膜炎発症前の眼球穿通外傷・手術の既往がない 基準2:他疾患を示唆する臨床的・検査的証拠がない 基準3:両眼性の眼病変(早期:漿液性網膜剥離・びまん性脈絡膜炎。後期:夕焼け状眼底・杉浦徴候等) 基準4:神経学的・聴覚的所見(髄膜刺激症状・耳鳴・髄液細胞増多) 基準5:皮膚所見(脱毛・白毛症・白斑)—眼疾患発症より前には出現しない
鑑別すべき主な疾患を以下に示す。
眼梅毒はぶどう膜炎・網膜剥離・耳鳴・頭痛など、原田病とほぼ同一の症候群を呈することがある3)。梅毒に対してステロイドを投与すると病状が悪化しうるため、ステロイド開始前に血清梅毒検査(RPR・FTA-ABS)と髄液検査(VDRL)を必ず実施する必要がある3)。
原田病の治療目標は、急性炎症の迅速な鎮静と、慢性再発期への移行を防ぐことである。早期の十分なステロイド治療が「治療の窓」を逃さない鍵となる5)。
発症早期の新鮮例ではステロイド大量静脈内投与(パルス療法)が一般的である。メチルプレドニゾロン(mPSL)500〜1,000 mg/日またはデキサメタゾン100 mg/日を1〜3時間かけて点滴静注し、3日間施行する。全身感染症や禁忌がないことを確認したうえで実施する。妊娠中も適応となりうるが、胎盤通過性の高いフッ素化ステロイド(デキサメタゾン・ベタメタゾン)より非フッ素化ステロイド(mPSL・プレドニゾロン)が優先される9)。
パルス療法後または急性期より、経口プレドニゾン/プレドニゾロン1〜1.5 mg/kg/日(最大100〜200 mg/日)を開始する9)。初期用量を2〜4週間維持した後、非常にゆっくりと漸減し、6ヶ月以上かけて中止する。
日本の「今日の眼疾患治療指針」による処方例を以下に示す。
| 期間 | 用量 |
|---|---|
| 初期2日ずつ | 200 mg→150 mg→100 mg→80 mg/日 |
| 4日間 | 60 mg/日 |
| 10日間 | 40 mg/日 |
| 2週間 | 30 mg/日 |
| 4週間ずつ | 20 mg→15 mg→10 mg→5 mg/日 |
| 最終4週間 | 5 mg/日 隔日 |
Lai らの報告によると、6ヶ月未満の治療を受けた患者は再発率58.8%で、6ヶ月以上の治療を受けた患者(再発率11.1%)と比較して有意に高い4)。
ステロイド単独の系統的レビューでは44%の患者が再発し、59%に夕焼け状眼底が生じたことが報告されており5)、長期的には免疫抑制療法の追加が必要なことが多い。
FAST Uveitis Trialの非感染性ぶどう膜炎(原田病93例を含む計216例)サブ解析では、MTXとMMFの治療成功率(6ヶ月時のステロイド節約的炎症コントロール)は同等であった。MTXは74%、MMFは53%が6ヶ月でステロイド節約的コントロールを達成したとの解析もある5)。
再発時には前眼部炎症が主体となることが多く、局所療法が重要となる。
ステロイド投与は最低6ヶ月以上かけて漸減する必要がある。6ヶ月未満で中止した場合の再発率は58.8%と、6ヶ月以上継続した場合の11.1%と比べ顕著に高い4)。免疫抑制薬を追加した場合はさらに長期の継続が必要なことが多い。
原田病の病態中心はメラノサイト関連抗原(チロシナーゼ・チロシナーゼ関連タンパク・75kDaタンパクなど)を標的とするTh1・Th17細胞介在性の自己免疫反応である1)。遺伝的感受性(HLA-DRB1*0405等)を持つ個体でウイルス感染などの環境誘因がトリガーとなると考えられている2)。
急性期には肉芽腫性炎症が脈絡膜全層に及ぶ。類上皮細胞・多核巨細胞の集簇を伴うびまん性リンパ球浸潤が認められる。網膜色素上皮とブルッフ膜の間に肉芽腫を形成した所見がダーレン・フックス結節(Dalen-Fuchs nodules)であり、原田病や交感性眼炎に比較的特異的な病理所見である。免疫組織化学的にはT細胞とHLA-DR陽性マクロファージからなるぶどう膜浸潤が示されており、脈絡膜メラノサイト近傍に非樹状突起状CD1陽性細胞が存在する。慢性期には非肉芽腫性炎症へ移行する。
ワクチン接種後の原田病発症については、ワクチンペプチドと脈絡膜自己ペプチドとの分子擬態、遅延型過敏反応による免疫複合体沈着、アジュバント(アルミニウム塩など)への免疫反応などが提唱されている8)。mRNAワクチンでは接種1〜5日後にウイルスタンパクが血中に検出されることがあり7)、これが既存の自己免疫活性化を増強する機序が推測されている7)。
FASTトライアル(NCT01829295)は非感染性中間・後部・全ぶどう膜炎を対象にMTX(週1回25 mg経口)とMMF(1.5 g 1日2回)をランダム比較した大規模RCTである。VKH病93例(MTX群49例・MMF群44例)のサブ解析では、急性原田病はMMFに対してより大きな視力改善と中心窩厚低下が得られた(ともにP<.05)5)。一方、両群の治療成功率に統計的有意差はなく、MTXとMMFはステロイド節約的免疫抑制薬として同等の有効性を持つとされた5)。
難治・再発例に対するインフリキシマブ・アダリムマブ・リツキシマブの使用が蓄積されつつある1)。ただし大規模RCTデータは乏しく、原田病への適応は確立されていない。CD4⁺CD25⁺制御性T細胞(Treg)の機能低下が原田病の活動性と相関するとの報告があり1)、Treg増強療法が今後の研究対象として注目されている。
光干渉断層計(OCT)やICGアンギオグラフィーを組み込んだ新しい診断基準(早期・後期のステージ別)の提唱が複数のグループから相次いでいる5)。原田病特異的なOCTバイオマーカー(過反射フォーカス・脈絡膜肥厚の定量値など)の標準化が研究段階にある。
Matsuo らによる32症例のレビューでは、妊娠第3三半期のVKH病に対するステロイドパルス療法後に経口プレドニゾロンを1.5ヶ月以上漸減する治療が安全・有効とされ、ほとんどの患者で分娩後のぶどう膜炎再発は認めなかったと報告されている9)。しかし免疫抑制薬の多くは催奇形性があるため、妊娠中の治療選択肢は限られており、多職種チームによる個別対応が必要とされる9)。
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