好発層
年齢:20〜30代の若年者
性別:男性が多数
背景:スポーツ外傷・交通事故・暴行など

外傷性黄斑円孔(traumatic macular hole; TMH)は、眼への鈍的外傷を契機として黄斑部中心窩に全層の組織欠損が生じる疾患である。黄斑円孔全体の中では少数派の病型であり、特発性・近視性・続発性と並ぶ4型分類の一つに位置づけられる1)。
好発するのは若年男性(20〜30代)であり、特発性黄斑円孔が高齢女性に多い点と対照的である2)。眼外傷全体に占める発生率は1〜9%と報告されている。
円孔のサイズはIVTS(International Vitreomacular Traction Study)分類に基づき、小型(S:最小径250μm未満)、中型(M:250〜400μm)、大型(L:400μm超)に分類される1)。
好発層
年齢:20〜30代の若年者
性別:男性が多数
背景:スポーツ外傷・交通事故・暴行など
自然閉鎖
閉鎖率:10〜67%(報告により幅あり)
待機期間:まず経過観察を選択
閉鎖機序:グリア細胞による架橋形成
手術成績
閉鎖率:82〜96%
術式:PPV+ILM剥離が標準
視力改善:閉鎖例で良好
特発性は高齢女性に多く、硝子体黄斑牽引が主な発生機序である。外傷性は若年男性に多く、鈍的外傷による物理的な組織断裂が原因で、自然閉鎖の可能性がある点も特発性と異なる1)2)。
主な症状は視力低下と変視症(ゆがんで見える)である。
commotio retinae(網膜振盪)の合併が特徴的である。外傷直後は黄斑部に網膜振盪を伴うことが多く、これが後に円孔形成に進展する。
後部硝子体剥離(PVD)の状態も重要な所見で、TMH症例の約85%では 後部硝子体剥離 が認められない。若年者では硝子体が網膜に強く接着しているためである。
OCTによる形態分類(タイプI〜V)は治療方針の決定に直結する。
以下に外傷性黄斑円孔のOCT分類を示す。
| タイプ | OCT所見 | 特徴 |
|---|---|---|
| タイプI | 黄斑部の浮腫・嚢胞変化 | 円孔未形成 |
| タイプII | 板層円孔 | 部分層欠損 |
| タイプIII | 全層円孔(小〜中型) | IVTS分類 S/M |
| タイプIV | 全層円孔(大型) | IVTS分類 L |
| タイプV | 網膜剥離を伴う円孔 | 緊急手術の適応 |
外傷直後の視力低下は網膜振盪(commotio retinae)による場合もあり、必ずしも円孔形成を意味しない。OCTで経時的に観察し、円孔の形成・進行を確認することが重要である。
鈍的外傷が眼球に加わると、前後方向への眼球圧縮と赤道方向への眼球拡張が同時に生じる。この変形により黄斑部に接線方向の牽引力が働き、中心窩組織が断裂して円孔が形成される。
若年者では硝子体が網膜に強く接着しており、外力が硝子体を介して黄斑部に直接伝わりやすい2)。
レーザー照射(レーザーポインターの誤照射・不正使用など)も外傷性黄斑円孔の原因となる。
特発性と外傷性の主な相違点を以下に示す。
| 項目 | 特発性 | 外傷性 |
|---|---|---|
| 好発年齢 | 60〜70代 | 20〜30代 |
| 性別 | 女性優位 | 男性優位 |
| 自然閉鎖 | ほぼなし | 10〜67% |
光干渉断層計(OCT)が診断の中心である。円孔の有無・全層性の確認・サイズ計測・周囲網膜の状態評価をすべてOCTで行う2)。
全層黄斑円孔(FTMH)、板層円孔(lamellar hole)、黄斑偽孔(pseudohole)の3者はOCTで明確に鑑別できる2)。
OCT
全層円孔:網膜全層の連続性断裂を確認
サイズ計測:IVTS分類(S/M/L)に基づく
硝子体状態:後部硝子体剥離 の有無を評価
蛍光眼底造影(FA)
円孔部:過蛍光(窓欠損)として描出
合併症評価:網膜剥離・脈絡膜損傷の確認
鑑別補助:他疾患との区別に有用
自然閉鎖の可能性(10〜67%)があるため、受傷後は一定期間の経過観察が初期方針となる。自然閉鎖はグリア細胞が欠損部を架橋することで生じると考えられる。
自然閉鎖が得られない場合、硝子体手術(PPV)+内境界膜(ILM)剥離がゴールドスタンダードである1)。閉鎖率は90%を超え3)、15 ETDRS letters以上の視力改善が期待できる3)。閉鎖率82〜96%という成績が複数の報告で確認されている1)。
術後はガスタンポナーデ(SF₆またはC₃F₈)が行われ、伏臥位保持が必要となる。
大型(IVTS分類 L)や通常のILM剥離で閉鎖しない難閉鎖例には、以下の手技が選択肢となる1)。
以下に治療方針の判断基準を示す。
| 状況 | 方針 |
|---|---|
| 受傷直後・小型 | まず経過観察 |
| 自然閉鎖なし | PPV+ILM剥離 |
| 大型・難閉鎖 | ILMフラップ・羊膜 |
受傷後早期(数週間以内)は自然閉鎖の可能性がある。しかし長期間待機すると閉鎖率が下がり、閉鎖しても視力回復が不十分になる場合がある。経過観察と手術のタイミングについて担当医と相談することが重要である。
鈍的外傷が眼球に加わる際、眼球は一時的に前後方向に圧縮され、同時に赤道方向へ拡張する。この変形により黄斑部には接線(tangential)方向の牽引力が集中する。中心窩はもっとも薄い網膜部位であり、この牽引力に対する脆弱性が高い。若年者では硝子体皮質が網膜に強固に接着しているため(PVD非形成)、硝子体が緩衝材として機能せず外力が直接中心窩に伝わる。
自然閉鎖はミュラー細胞を中心とするグリア細胞が円孔縁から増殖し、欠損部を架橋することで生じると考えられている。若年者ほどグリア細胞の増殖能が高いため、自然閉鎖率が相対的に高い。
高出力レーザー(レーザーポインターなど)の中心窩への照射は、光熱的・光音響的損傷を中心窩に生じさせ、組織壊死を経て円孔へ進展することがある。機序は鈍的外傷とは異なるが、臨床的にはOCTで類似した全層欠損として観察される。
ILMフラップ法や羊膜移植を用いた大型・難閉鎖例への対応は、従来の単純ILM剥離では閉鎖困難な症例に対して有望な結果を示している1)。いずれも標準的なPPVの延長として施行されるが、術者の技術的習熟を要する。
硝子体黄斑牽引の薬物的解除を目的としたocriplasmin(微小プラスミン)の硝子体内注射が特発性黄斑円孔を対象に研究されており、外傷性円孔への応用も検討されている1)。ただし外傷性に特化した大規模データはまだ限られる。
IVTS分類に基づくサイズ別の治療選択や、自然閉鎖予測因子(外傷からの経過時間・後部硝子体剥離の有無・円孔サイズ)を組み合わせた個別化アプローチが研究されている1)3)。将来的には、待機か手術かの判断をより精緻なモデルで行えるようになることが期待される。
通常のPPV+ILM剥離では剥がしたILMを除去するが、ILMフラップ法では剥離したILMを円孔内に翻転させて充填することで、大型円孔の閉鎖を促す。現時点では大型・難閉鎖例に限定的に用いられる研究的手技の位置づけである1)。