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網膜・硝子体

網膜静脈閉塞症

網膜静脈閉塞症(retinal vein occlusion; RVO)は、網膜静脈の閉塞により網膜血流が障害される疾患である。糖尿病網膜症に次ぐ2番目に多い網膜血管疾患として知られる1)

閉塞部位により以下の3つに分類される1)

網膜静脈分枝閉塞症(分枝型)

分枝網膜静脈閉塞症:網膜静脈の分枝が閉塞する。最も頻度が高く、有病率は約2.0%。動静脈交叉部で閉塞が起こることが多い。

網膜中心静脈閉塞症(中心型)

中心網膜静脈閉塞症視神経乳頭部で中心静脈が閉塞する。有病率は約0.2%。網膜静脈分枝閉塞症より重篤になりやすい。

HRVO(半側型)

半側網膜静脈閉塞症:網膜の上半側または下半側の静脈が閉塞する。網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症の中間的な病態を呈する。

発症のピークは60〜70歳代である1)。若年発症例では全身的な素因(血液凝固異常など)の検索が重要となる。

Q 網膜静脈閉塞症は両目に起こることがあるか?
A

通常は片眼性であるが、対側眼への発症リスクも存在する。特に網膜中心静脈閉塞症では全身的なリスク因子管理が対側眼の予防につながる。

  • 急激な視力低下:片眼性で突然に生じることが多い1)。黄斑浮腫が主な原因である。
  • 視野欠損:閉塞領域に対応した扇形の視野欠損が生じる。網膜静脈分枝閉塞症では上方または下方の半視野欠損が典型的。
  • 変視症:黄斑浮腫による網膜変形で、直線が歪んで見える。
  • 飛蚊症硝子体出血を合併した場合に生じる。

急性期の主な所見を以下に示す1)

  • 網膜出血:静脈分布域の炎上状・斑状出血。網膜中心静脈閉塞症では4象限全体に及ぶ。
  • 網膜静脈の蛇行・怒張:閉塞静脈の拡張・蛇行が認められる。
  • 軟性白斑(CWS):神経線維層梗塞による綿花状白斑。虚血の存在を示唆する。
  • 黄斑浮腫:視力低下の主因。OCT嚢胞様黄斑浮腫(CME)として確認できる。
  • 視神経乳頭浮腫:網膜中心静脈閉塞症で認められる。
  • 虹彩新生血管(NV):網膜中心静脈閉塞症の約25%に生じ、血管新生緑内障の原因となる1)
Q 網膜静脈閉塞症で突然視力が落ちたらすぐ受診すべきか?
A

はい、できる限り早期の受診が重要である。黄斑浮腫の早期治療が視力予後を左右する。また虹彩新生血管など重篤な合併症は無症状で進行することがあり、定期的な経過観察が必要である。

網膜静脈閉塞症の主要なリスク因子は以下の通りである1)

  • 高血圧:最も重要なリスク因子。網膜静脈分枝閉塞症・網膜中心静脈閉塞症ともに関連が強い。
  • 動脈硬化:動静脈交叉部での外膜共有が閉塞の解剖学的基盤となる。
  • 糖尿病:血管内皮障害・血液粘稠度上昇を介してリスクを高める。
  • 脂質異常症・肥満:代謝症候群に関連したリスク因子。
  • 緑内障:視神経乳頭部での静脈圧迫が関与するとされる。

50歳未満の網膜中心静脈閉塞症患者の58%に、高血圧・糖尿病以外の非伝統的リスク因子(血液凝固異常・自己免疫疾患など)が認められる1)全身性エリテマトーデス(SLE)では網膜静脈閉塞症発症リスクが3.5倍に上昇する1)

網膜静脈閉塞症患者では心血管イベントおよび全死因死亡率が一般集団と比較して上昇している1)。発症後の内科的管理が重要となる理由の一つである。

診察では対光反射の検査が重要であり、網膜中心静脈閉塞症では求心性瞳孔反射障害(RAPD)が認められることがある1)

主な検査法を以下に示す。

検査目的ポイント
OCT黄斑浮腫の定量治療効果の判定にも使用
蛍光眼底造影(FA)虚血領域の評価無灌流面積10PD以上でPRP適応1)
OCTA血流・毛細血管の評価非侵襲的に施行可能1)
  • OCT(光干渉断層計):黄斑浮腫の程度・性状(嚢胞様・漿液性剥離)を非侵襲的に評価できる1)。治療効果の定量的判定にも用いられる。
  • 蛍光眼底造影(FA)無灌流領域(毛細血管非灌流域)の範囲を評価する。網膜中心静脈閉塞症・HRVOでは非灌流域が10乳頭径(PD)以上の場合、汎網膜光凝固(PRP)の適応となる1)
  • OCTA(OCT血管造影):造影剤を用いずに網膜・脈絡膜の血流を評価できる1)。無灌流域の評価や新生血管の検出に有用である。

ステロイド療法

第二選択治療:抗VEGFへの反応が不十分な場合に検討する。

薬剤トリアムシノロン硝子体内注射、またはデキサメサゾン眼内インプラント(オズデックス)。

レーザー光凝固

網膜静脈分枝閉塞症黄斑浮腫:BVOSでの格子状光凝固の有効性が示されている。現在は抗VEGFが主体。

新生血管・虚血:PRP(汎網膜光凝固)は網膜中心静脈閉塞症・HRVOの虹彩新生血管に適応1)

黄斑浮腫に対する現在の標準治療である1)。使用可能な薬剤は以下の通りである。

  • ラニビズマブ(ルセンティス):抗VEGF-A抗体フラグメント。網膜静脈閉塞症黄斑浮腫の保険適応を有する。
  • アフリベルセプト(アイリーア):VEGF-A・VEGF-BおよびPlGFを阻害する融合タンパク。
  • ファリシマブ(バビースモ):VEGF-AとAng-2(アンジオポエチン-2)を同時阻害する二重特異性抗体。投与間隔の延長が期待される。
  • 格子状光凝固(網膜静脈分枝閉塞症):BVOS(Branch Vein Occlusion Study)では、発症3か月以上経過した黄斑浮腫に対し格子状光凝固が有効と報告された。現在は抗VEGF療法が主流となっている。
  • 格子状光凝固(網膜中心静脈閉塞症):CVOS(Central Vein Occlusion Study)では、網膜中心静脈閉塞症黄斑浮腫に対する格子状光凝固の視力改善効果は確認されなかった。網膜中心静脈閉塞症の黄斑浮腫には抗VEGF療法が第一選択である。
  • 汎網膜光凝固(PRP):網膜中心静脈閉塞症およびHRVOで無灌流域が広範な場合、または虹彩隅角新生血管が出現した場合に適応となる1)。血管新生緑内障の予防を目的として施行する。
Q 抗VEGF注射は何回打てばよいか?
A

黄斑浮腫の程度・治療反応により個人差が大きい。初期は月1回の注射から開始し、浮腫の改善に応じて投与間隔を延長するTreat-and-Extend法などが用いられる。ファリシマブでは最大16週間隔への延長が期待される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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網膜静脈閉塞症の閉塞機序には解剖学的・血液学的・血管壁因子が関与する1)

動静脈交叉部での閉塞(網膜静脈分枝閉塞症):網膜動脈と静脈は交叉部で外膜(アドベンチシア)を共有している。動脈硬化による動脈壁の肥厚が静脈を外側から圧迫し、乱流・内皮障害・血栓形成を引き起こす1)

視神経乳頭部での閉塞(網膜中心静脈閉塞症)篩状板部でのせん断力と血管壁変化が閉塞を引き起こすと考えられている。

閉塞後は以下の経過をたどる。

  • 静脈圧上昇・血管外漏出:閉塞により静水圧が上昇し、血漿成分が網膜に漏出する。
  • VEGF産生:網膜虚血に応答して網膜色素上皮・Müller細胞からVEGFが放出される1)
  • 黄斑浮腫の形成:VEGF依存性の血管透過性亢進が嚢胞様黄斑浮腫を形成する。
  • 新生血管形成:持続的な虚血刺激により網膜・虹彩・隅角に新生血管が生じる1)
  • 側副血行路の形成:慢性期に閉塞静脈の代替となる側副血管が発達し、黄斑浮腫が自然寛解する場合もある。

広角眼底撮影および広角蛍光眼底造影(UWFA)の普及により、周辺部網膜の無灌流域をより正確に評価できるようになった1)。治療適応の判断精度向上につながることが期待される。

OCTA(OCT血管造影)は造影剤不要で網膜血流を評価できる1)。解像度の向上により、毛細血管非灌流域や黄斑部毛細血管密度の定量的評価が可能になりつつある。抗VEGF治療効果の客観的指標としての役割が期待される。

ファリシマブはVEGF-AとAng-2を同時に阻害する二重特異性抗体である。Ang-2は血管安定性を低下させ、VEGFと協調して血管透過性・新生血管形成を促進する。Ang-2阻害により、VEGF単独阻害では効果が不十分な症例への治療効果向上が期待される。

AAO Retina/Vitreous Panelの2025年改訂PPPでは、抗VEGF療法の費用対効果に関するエビデンスの整備が課題として挙げられている1)。長期的な治療継続率と視力転帰の関係についても継続的な研究が必要とされている。

Q ファリシマブは従来の抗VEGF薬と何が違うのか?
A

従来薬がVEGF-Aのみを阻害するのに対し、ファリシマブはVEGF-AとAng-2の両方を阻害する。Ang-2は血管の不安定化に関与するため、これを同時に抑制することで投与間隔の延長や治療効果の安定化が期待されている。

Q 網膜静脈閉塞症は治るのか?予後はどうか?
A

網膜静脈分枝閉塞症は側副血行路の発達により自然改善することもあるが、黄斑浮腫が残存すると視力低下が持続する。網膜中心静脈閉塞症は一般に予後が厳しく、虚血型では半数以上で視力が低下する。抗VEGF療法により視力予後は改善しているが、定期的な治療継続が必要な場合が多い。


  1. AAO Retina/Vitreous Panel. Retinal Vein Occlusions PPP. Ophthalmology. 2025;132(2):P314-P345.

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