眼底自発蛍光所見
高自発蛍光ライン(RVPs):眼底自発蛍光検査で旧血管走行部位に一致した高輝度ラインを認める。現在の網膜血管位置との乖離が偏位の程度を示す。2)
RVPsの検出原理:短波長光(488nm)でRPEのリポフスチンを励起する。リポフスチンは網膜血管直下では遮蔽されるため低自発蛍光となるが、網膜が偏位すると旧血管位置が相対的に高自発蛍光として残存する。2)

裂孔原性網膜剥離復位術後の網膜偏位(retinal displacement following rhegmatogenous retinal detachment repair)とは、裂孔原性網膜剥離の術後に網膜が網膜色素上皮(RPE)に対して解剖学的な位置からずれる現象である。
2010年に白神らによって初めて報告された。眼底自発蛍光(FAF)検査の普及により認識が進み、RPEに対する網膜のずれが変視症や不等像視の原因となることが明らかになった。
術後に網膜が解剖学的に復位していても、黄斑部の光受容体とRPEの対応関係がずれると、変視・歪視・不等像視が残存する。この偏位は眼底自発蛍光上の高自発蛍光ライン(retinal vessel prints; RVPs)として可視化される。RVPsとは、網膜血管がRPE上に残した色素分布の「印影」であり、現在の網膜血管との位置ずれを偏位の指標として使用する。
網膜が解剖学的に復位していても、RPEに対して網膜が位置ずれ(偏位)を起こしている場合、黄斑の光受容体とRPEの対応関係が乱れ、変視症・不等像視が残存する。眼底自発蛍光検査でRVPs(高自発蛍光ライン)を確認することで、この偏位を客観的に評価できる。
術後の視機能改善が不十分な場合に以下の症状が認められる。
眼底自発蛍光所見
高自発蛍光ライン(RVPs):眼底自発蛍光検査で旧血管走行部位に一致した高輝度ラインを認める。現在の網膜血管位置との乖離が偏位の程度を示す。2)
RVPsの検出原理:短波長光(488nm)でRPEのリポフスチンを励起する。リポフスチンは網膜血管直下では遮蔽されるため低自発蛍光となるが、網膜が偏位すると旧血管位置が相対的に高自発蛍光として残存する。2)
眼底・形態所見
網膜皺襞:術後に網膜表面の微細な皺を認めることがある。偏位の存在を示唆する所見の一つ。
黄斑前膜:偏位例では合併頻度が高く、視力低下・変視症の追加因子となる。
黄斑下液(SRF)残存:術後早期に少量のSRFが残存する場合がある。偏位と独立した症状の原因となりうる。
定量的評価
M-CHARTS:変視症の定量評価に用いる。ドット列の最小識別間隔(M-スコア)で変視の程度を数値化する。
PHP(プリファード・ハイパーアキュイティ・ペリメーター):黄斑部の変形視を自動定量評価する装置。
VR(視覚VR)技術:不等像視の定量評価に応用される最新の評価法。
眼底自発蛍光検査は網膜色素上皮(RPE)に含まれるリポフスチンの自発蛍光を利用した非侵襲的検査である。短波長光(488nm)を照射し、RPEから発せられる蛍光を撮影する。2) 網膜偏位では、旧血管走行部位に一致した高輝度ライン(RVPs)が特徴的に描出される。
網膜偏位は裂孔原性網膜剥離復位術後に特有の現象であり、複数の因子が関与する。
| リスク因子 | 内容 |
|---|---|
| 黄斑オフ裂孔原性網膜剥離 | 黄斑剥離を伴う症例 |
| 広範囲剥離 | 1象限以上の網膜剥離 |
| PPV施行 | 硝子体手術の実施 |
| ガスタンポナーデ | 膨張ガス使用例 |
網膜偏位の診断は、症状(変視症・不等像視)と客観的な画像所見を組み合わせて行う。
眼底自発蛍光(GS; グリーンレーザー対応Scanning Laser Ophthalmoscope使用)による高自発蛍光ライン(RVPs)の検出が診断の中心となる。2)
488nm短波長光でRPEのリポフスチンを励起し撮影する。正常ではRPE上の血管投影部は低自発蛍光となる。網膜が偏位すると、RPE上に残った旧血管投影(RVPs)と現在の網膜血管位置がずれて描出される。この位置ずれの方向・量が偏位の方向・程度に対応する。2)
変視症・不等像視を呈する疾患との鑑別が必要である。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 黄斑前膜 | OCTで確認 |
| 裂孔原性網膜剥離再剥離 | 眼底・OCTで確認 |
| 黄斑下液残存 | OCTで確認 |
| PVR(増殖硝子体網膜症) | 網膜皺形成・牽引所見 |
どちらも変視症の原因となるが、網膜偏位は眼底自発蛍光検査でRVPs(高自発蛍光ライン)の位置ずれとして特徴的に描出される。黄斑前膜はOCTで網膜前の高反射膜として確認される。両者が合併することもあるため、眼底自発蛍光とOCTを組み合わせて評価するのが望ましい。
網膜偏位そのものに対する確立した治療法は現時点では存在しない。治療方針は偏位の程度と合併病変の有無によって決定する。
偏位が軽微で視機能への影響が小さい場合は、経過観察が基本となる。術後時間の経過とともに一部の症例では自然改善が期待されることもある。
偏位に伴う合併病変がある場合は、それぞれに対する治療を検討する。
PPVガスタンポナーデ後の網膜偏位は、タンポナーデ物質の物理的作用によって引き起こされると考えられている。
ガスタンポナーデの機序として、界面張力と浮力の2つが重要である。3) 眼内ガスは眼球後部に面した網膜を押さえる一方、側方・下方では浮力により網膜を持ち上げる方向にも力が働く。これが網膜のRPEに対する滑りを引き起こす機序として理論化されている。
膨張ガスの特性として、SF6(六フッ化硫黄)は注入後24時間で約2倍に膨張し2〜3週間で吸収される。C3F8(パーフルオロプロパン)は72時間で約4倍に膨張し6〜8週間で持続する。空気は数日間持続する。1) 膨張・吸収の過程でタンポナーデ界面の動態が変化し、この期間中に網膜偏位が生じると考えられる。
シリコーンオイル(SO)は長期タンポナーデが可能だが、ガスと比較して網膜偏位の成績が劣るとの報告がある。1) SOの物性(密度・界面張力)の違いが偏位パターンに影響する可能性がある。
網膜偏位は主に下方偏位として生じやすいとされる。術後の体位(うつ伏せ)や眼球内のガスの位置関係が偏位方向に影響すると考えられる。
コンピュータシミュレーションを用いた解析により、タンポナーデの物理的作用と網膜偏位の方向性の関係が検討されている。シミュレーションは偏位発生機序の理解と手術技術の改善に貢献している。
網膜血管はRPE上に酸素・代謝廃棄物の移動に関わる微細な構造的影響を残す。網膜が偏位すると、RPE上には旧血管位置に対応した色素変化(RVPs)が残存し、眼底自発蛍光上に高自発蛍光ラインとして描出される。2) この現象が裂孔原性網膜剥離術後偏位の非侵襲的な検出を可能にしている。
PPV後のうつ伏せ(伏臥位)姿勢維持が網膜偏位を軽減する可能性について研究が進んでいる。うつ伏せを徹底した群で偏位が少ないとする報告がある一方、その効果は一定しない。最適な術後体位指導プロトコールの確立が課題となっている。
タンポナーデ素材の選択が網膜偏位の発生率・程度に与える影響を比較する研究が行われている。1) ガスの種類(空気・SF6・C3F8)や濃度の違いが偏位に与える影響も検討対象となっている。
Virtual Reality(VR)技術を利用した不等像視の定量評価法の開発が進んでいる。従来のM-CHARTS・PHPに代わる客観的評価ツールとして期待されており、網膜偏位の経過観察・治療効果判定への応用が見込まれる。
タンポナーデの物理的作用と網膜偏位の関係をコンピュータシミュレーションで解析する研究が進んでいる。眼球形状・ガス量・体位の変数を組み合わせた数値解析により、偏位発生機序の定量的理解と手術技術の最適化が期待される。