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網膜・硝子体

原発硝子体網膜リンパ腫

1. 原発硝子体網膜リンパ腫とは

Section titled “1. 原発硝子体網膜リンパ腫とは”

原発硝子体網膜リンパ腫(Primary Vitreoretinal Lymphoma; PVRL)は、眼内—とくに硝子体・網膜・網膜色素上皮(RPE)—に原発する希少な悪性腫瘍である。中枢神経系原発リンパ腫(PCNSL)のサブタイプに分類され、組織型は95%以上がびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である。3)4)

全眼内腫瘍に占める割合は1%未満ときわめて希少である。1) 発症年齢は50〜70歳が中心で、女性が男性の約2倍の頻度で罹患する。1) 発症時には両眼性を呈することが80〜90%と高く、片眼発症でも経過中に対側眼へ進展することが多い。1)

CNS浸潤は診断時または経過中に60〜90%の症例で認められる。1)3) この全身病変の合併が予後を規定し、5年生存率は5%未満と不良である。1) 一方、眼内再発は初回治療から平均3年以内に生じることが多い。1)

ぶどう膜炎(uveitis)に酷似した所見を呈するため “uveitis masquerade syndrome” の代表疾患として知られ、診断確定まで平均2.1回の手術的介入を要するとの報告がある。1)

Q PVRLはどのくらい希少な疾患か?
A

全眼内腫瘍の1%未満を占める希少疾患である。1) ぶどう膜炎との鑑別が困難なため実際の診断数は少なく、眼科診療においても経験する機会は限られる。

最も多い自覚症状は霧視(約90%)と飛蚊症(約30%)である。3) 症状は緩徐に進行し、一般的なぶどう膜炎との臨床的区別が困難なため、診断が遅れることが多い。診断遅延は最大21か月に及ぶ報告がある。3) 初診時の平均視力は20/100(小数視力0.2相当)であった。3)

  • 霧視:最頻症状。硝子体混濁による視界のかすみ。
  • 飛蚊症:硝子体内腫瘍細胞の浮遊による。
  • 視力低下:硝子体混濁や網膜病変の進行に伴う。
  • 眼痛・充血:炎症反応を伴う症例で認められることがある。

硝子体混濁は診断時にほぼ全例(100%)で認められる。3) 混濁内には大型の腫瘍細胞が「streaks(線状)」パターンで浮遊し、通常の炎症性ぶどう膜炎と異なる特徴を示す。1)

眼底所見では、網膜色素上皮下に形成される黄白色の多巣性沈着物が特徴的である。1) 病変の進行に伴い色素上皮に豹紋状(leopard spotting)の色素沈着を生じる。1)

初発時の所見

硝子体混濁:ほぼ全例(100%)で認められる。streaks状の大型腫瘍細胞が特徴的。3)

網膜色素上皮下黄白色病変:多巣性の黄白色沈着物。網膜下液を伴うことがある。1)

豹紋状色素沈着:網膜色素上皮への腫瘍浸潤による特徴的な色素変化。1)

星状KP角膜後面沈着物。PVRLに比較的特異的な所見。4)

再発時の所見

網膜内沈着物:再発時に47%で認められ、初発時(7%)より有意に多い。4)

片眼再発:再発の64.3%は片眼性で生じる。4)

硝子体再混濁:初回治療で消退した混濁が再燃する。

網膜下浸潤増悪:網膜色素上皮下病変の拡大や新規出現。

蛍光眼底造影(FA)および/またはインドシアニングリーン蛍光造影ICGA)は診断補助に有用で、陽性的中率89%・陰性的中率85%が報告されている。1)

Q 星状KPとは何か?PVRLに特異的か?
A

星状KP(keratic precipitate)は角膜後面に形成される沈着物で、リンパ腫細胞または炎症産物に由来する。PVRLに比較的特異的な所見として報告されており4)、ぶどう膜炎との鑑別に参考となる。ただし単独での確定診断はできない。

PVRLの腫瘍細胞は活性化B細胞型DLBCLに分類される。発症の分子機序については「病態生理学」の項で詳述する。

免疫抑制状態(臓器移植後・HIV感染など)がリスク要因として挙げられるが、免疫機能が正常な高齢者にも発症する。

眼内再発に関するリスク要因として、以下が同定されている。4)

  • 若年発症:年齢が1歳低下するごとに再発オッズ比0.90(再発リスク増加)
  • 孤発性(CNS病変なし):オッズ比35.3と最大の再発リスク因子
  • 硝子体内化学療法未施行:オッズ比7.72

PVRLは “uveitis masquerade syndrome” の代表疾患であり、診断確定まで平均2.1回の手術的介入を要する。1) 臨床的にPVRLを疑ったら、速やかに確定診断のための侵襲的検査へ進む必要がある。

診断の根幹となる検査である。25G低カットレートの硝子体手術PPV)で検体を採取し、以下の複数の検査法を組み合わせる。1)

以下に主要検査法の感度・特異度を示す。

検査法感度特異度
細胞診30〜50%高い(報告値1.0)2)
フローサイトメトリー88.0%3)(別報告36%2)1.02)
PCR(IgH再構成)85.1%3)(別報告64%2)1.02)
  • 細胞診:感度は30〜50%と低いが特異度は高い。1)2) 腫瘍細胞は核が大型で核小体が目立つ非定型B細胞として同定される。
  • フローサイトメトリー:腫瘍細胞表面のCD19・CD20・CD22などのB細胞マーカーを検出する。5)
  • PCR(免疫グロブリン重鎖再構成解析):モノクローナルな免疫グロブリン遺伝子再構成を検出する。感度64〜85%。2)3)

サイトカイン測定(IL-10/IL-6比)

Section titled “サイトカイン測定(IL-10/IL-6比)”

硝子体液または前房水のインターロイキン(IL)-10とIL-6を測定し、IL-10/IL-6比が1.0を超えればPVRLを強く示唆する。1)3)

Kaya Mらの報告では、IL-10/IL-6比の感度は89.4%であった。3) 別報告ではこの比の感度・特異度はともに約75%とされている。5)

MYD88 L265P変異は全症例の約70%で検出される。3) 変異検出の感度は若年症例で低い傾向があり4)、陰性でも否定はできない。

硝子体液中の無細胞DNAからMYD88変異を検出する新しい手法で、感度は細胞診より高い(約30%高い)とされる。3)

網膜色素上皮下病変を伴う症例では、40G針を用いた網膜下液生検が有用な場合がある。IgH再構成検出の特異度1.0が報告されている一方、感度は0.24〜0.64と検査法によって異なる。2)

香港での経験では、細胞診・フローサイトメトリー・PCR・IL-10/IL-6比・MYD88変異・cell-free DNAの6項目を組み合わせた複合診断基準の感度97.5%・特異度100%が報告されている。3)

Q 細胞診の感度が低い場合、どう対処するか?
A

細胞診単独の感度は30〜50%と低い。1) そのためIL-10/IL-6比測定・フローサイトメトリー・MYD88変異PCRなど複数の検査を組み合わせることが推奨される。それでも診断がつかない場合は再生検を検討する。6項目複合基準では感度97.5%が報告されている。3)

硝子体内メトトレキサート(MTX)注射

Section titled “硝子体内メトトレキサート(MTX)注射”

硝子体内メトトレキサート(MTX)注射が眼局所治療の第一選択である。3) 投与量は1回400μgとし、導入・地固め・維持の3段階で実施する。1)

以下にMTX硝子体内注射の標準プロトコールを示す。

段階頻度期間
導入期週2回4週間
地固め期週1回8〜12週間
維持期月1回9か月間

導入期に98.5%の症例で完全退縮が得られると報告されている。眼内再発率は2.5〜59.6%と施設・報告によって幅がある。4)

抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブの硝子体内注射は、MTXに追加または代替として用いられる。65%の奏効率が報告されている。4)

外照射(通常30〜36 Gy)が眼局所病変に対して有効であるが、白内障放射線網膜症・乾性眼などの晩期合併症に注意が必要である。

CNS浸潤を合併する場合は、全身化学療法(高用量メトトレキサート静注など)または放射線療法を追加する。全生存期間中央値は60.1か月と報告されている。4)

Q 眼局所治療のみで十分か?
A

孤発性PVRLでは眼局所治療のみで管理されることがあるが、CNS再発のリスクが残る。再発リスク因子として孤発性であることはオッズ比35.3と最大の因子であり4)、神経眼科的フォローアップと頭部MRIの定期的な評価が不可欠である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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PVRLの腫瘍細胞は活性化B細胞型(ABC型)DLBCLに分類される。その発症機序の中心にあるのはMYD88 L265P変異によるNF-κBシグナル伝達経路の恒常的活性化である。

腫瘍細胞がなぜ眼内に選択的に集積するかについては、以下の仮説が提唱されている。5)

  • CNS外での腫瘍形質転換:末梢リンパ組織でDLBCLに形質転換した腫瘍細胞が免疫特権部位である眼内へ移行・集積する。
  • 免疫特権環境の利用:眼内はBRB(blood-retinal barrier; 血液網膜関門)やBruch膜に守られた免疫特権部位であり、免疫監視から逃れやすい。
  • Bruch膜とBRBによる封じ込め:眼内に侵入した腫瘍細胞はBruch膜とBRBによって眼外への拡散が阻まれ、眼内で増殖する。5)

IL-10は腫瘍細胞自身が産生するサイトカインであり、腫瘍細胞の生存・増殖を促進するオートクリン因子として機能する。腫瘍細胞はCD19・CD20・CD22などのB細胞マーカーを発現する。5)

MYD88 L265P変異はTLR(Toll様受容体)/IL-1受容体シグナルのアダプタータンパクをコードするMYD88遺伝子の点変異であり、NF-κBを恒常的に活性化することで腫瘍細胞の増殖・生存を促進する。若年発症症例では変異率が低い傾向があり、別の発症機序の存在も示唆される。4)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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硝子体液中のcell-free DNAからMYD88変異を検出する低侵襲診断法が注目されている。細胞診よりも約30%高い感度が報告されており、3) 検体採取量が少ない状況でも診断が可能となる可能性がある。

網膜色素上皮下病変を伴う症例に対して、40G針を用いた網膜下液生検が診断に有用なことが報告されている。2)

Inamiら(2022)は77歳女性のPVRL症例において、40G針による網膜下液生検でIgH再構成陽性を確認した。細胞診・フローサイトメトリー・AIGHRの特異度はすべて1.0であり、感度はそれぞれ0.24・0.36・0.64であった。2)

現行の導入・地固め・維持の3段階プロトコールは施設ごとに差異があり、最適な投与スケジュールの標準化が研究課題となっている。眼内再発率の2.5〜59.6%という幅のある報告4)は、治療プロトコールの不均一性を反映している可能性がある。


  1. Kaya M, Özdamar Y, Atalay K, et al. Primary vitreoretinal lymphoma: a review. Turk J Ophthalmol. 2021;51:317-325.
  2. Inami W, Nishikawa T, Ide T, et al. Subretinal fluid biopsy for diagnosis of primary vitreoretinal lymphoma with subretinal lesion. Int Med Case Reports J. 2022;15:111-115.
  3. Hong Kong PVRL Study Group. Primary vitreoretinal lymphoma: clinical features, diagnosis, and treatment outcomes—Hong Kong experience. HKMJ. 2024. hkmj2412293.
  4. Wan M, Yeh S, Bourges JL, et al. Recurrence patterns and risk factors in primary vitreoretinal lymphoma: a multicenter study. Am J Ophthalmol. 2024. PIIS2468653023005729.
  5. Sagoo MS, Mehta H, Swampillai AJ, et al. Pathogenesis and management of primary intraocular lymphoma. Surv Ophthalmol. 2024. 1-s2.0-S1350946224000107-main.

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