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網膜・硝子体

ペルオキシソーム病の眼症状

1. ペルオキシソーム病の眼症状とは

Section titled “1. ペルオキシソーム病の眼症状とは”

ペルオキシソーム病(peroxisomal disease)は、脂肪酸の代謝やアミノ酸の合成などを担う細胞内小器官であるペルオキシソームの形成異常により、神経系を中心に全身に症状が出現する遺伝性代謝疾患群である。

最も頻度の高い副腎白質ジストロフィや、最も重篤なZellweger症候群など15の疾患に分類される。いずれも常染色体劣性遺伝形式をとる。指定難病に認定されている。

Zellweger症候群(脳肝腎症候群)は1964年にBowenらにより初めて報告された。発生率は地域差が大きく、米国で5万人に1人、ケベック州で1万2千人に1人、日本で50万人に1人とされる。

眼症状がみられる代表的な病型として、以下の4疾患がある。

  • Zellweger症候群:最も重症で出生後早期から発症する
  • 新生児型副腎白質ジストロフィ:Zellweger症候群よりは軽症
  • Refsum病:フィタン酸代謝酵素の欠損による
  • 根性点状軟骨異形成症:四肢短縮と関節の点状石灰化を特徴とする
Q ペルオキシソーム病にはどのような種類があるか?
A

15疾患に分類されるが、眼症状を伴う代表的な病型はZellweger症候群、新生児型副腎白質ジストロフィ、Refsum病、根性点状軟骨異形成症の4つである。最も頻度が高いのは副腎白質ジストロフィであり、最も重篤なのはZellweger症候群である。

ペルオキシソーム病の眼症状は病型により大きく異なる。

  • 夜盲:Refsum病で最も多い初発症状である。網膜色素変性に伴い暗所での視力低下を自覚する。小児期では気づかれないこともある
  • 視力低下:網膜色素変性の進行や白内障の発症に伴い生じる。Zellweger症候群では乳児期から高度な視覚障害を呈する
  • 視野狭窄:網膜色素変性の進行に伴い周辺視野から障害される

病型ごとの眼所見を以下に示す。

Zellweger症候群

白内障水晶体皮質線維の空胞化により様々な密度で出現する1)

緑内障:前眼部の異常に伴い認められる。

角膜混濁:前眼部所見の一つとして出現する。

網膜色素変性:色素を含むマクロファージの沈着による色素性網膜症を呈する。

視神経萎縮・低形成視神経の萎縮や低形成がみられる1)

網膜細動脈狭細化:網膜血管の狭小化を認める。

Refsum病

網膜色素変性:必発の所見である。蛍光眼底造影で背景蛍光が斑紋状にブロックされ低蛍光を示す。

網膜電図異常:早期から網膜電図で振幅低下を認める。

病型主な眼所見特記事項
新生児型副腎白質ジストロフィ色素性網膜症、視神経萎縮Zellweger症候群より軽症
根性点状軟骨異形成症白内障1〜2歳までに死亡例が多い

Zellweger症候群の眼科的所見と他のペルオキシソーム病との比較では、いずれの病型でも色素性網膜症・網膜細動脈狭細化・視神経萎縮・網膜電図消失が共通して認められる。Zellweger症候群ではこれに加え角膜混濁・緑内障・白内障が出現する点が特徴的である。

Zouら(2024)は、PEX1遺伝子のホモ接合性変異(c.2528G>A, p.Gly843Asp)を持つ4歳女児の症例を報告した1)。視力は両眼5/80で、内斜視・感覚性回旋垂直眼振遠視乱視を認めた。超広角眼底写真では蒼白な乳頭ハロー、細動脈の狭細化、中心窩反射の減弱、周辺部の粗大な色素塊を認めた。OCTでは網膜外層の肥厚と分離/浮腫が確認された。

Q Refsum病の眼症状にはどのようなものがあるか?
A

Refsum病では網膜色素変性が必発であり、多くの症例が夜盲で発症する。蛍光眼底造影では背景蛍光の斑紋状ブロックが特徴的である。網膜電図では早期から振幅低下を認める。成人型Refsum病は20歳前後に発症し、網膜色素変性に加え小脳失調・多発ニューロパチーを伴う2)

ペルオキシソーム病は、ペルオキシソームの形成・機能に関わる遺伝子の変異により発症する。ペルオキシソームは肝臓・腎臓・乏突起膠細胞に多く分布し、酸化反応を介して過酸化水素・尿酸・アミノ酸・脂肪酸を分解する。

  • PEX遺伝子変異:14種類のPEX遺伝子のいずれかの変異がペルオキシソーム形成異常症を引き起こす。PEX1変異が全症例の70%を占める1)
  • Refsum病:phytanic-CoA hydroxylase(phyH)の欠損により血中フィタン酸が増加する。発症年齢は7か月から50歳と幅広く、発症時期と重症度は必ずしも相関しない

ペルオキシソーム機能不全により以下の代謝異常が生じる。

  • 極長鎖脂肪酸(VLCFA)の蓄積:β酸化障害による
  • プラスマローゲンの低下:ミエリン合成に重要な脂質が減少する
  • フィタン酸・ピペコリン酸の蓄積:分解経路の障害による
  • 胆汁酸中間体の蓄積:胆汁酸合成経路の異常による

網膜への影響は、ドコサヘキサエン酸(DHA)の内因性合成障害に起因する。DHAは脳と網膜の発達・機能に不可欠であり、その欠乏が網膜ジストロフィを惹起する1)

  • 顔貌異常:前額突出、鼻根部平坦、小顎
  • 筋緊張低下:乳児期から認められる
  • 肝腫大:80%の症例で観察される
  • 腎嚢胞:70%の症例で認められる
  • 精神運動発達遅滞:程度は病型により異なる
  • 難聴感音難聴を伴う
  • 歯牙エナメル質形成不全:二次歯で認められる1)

出生時から顔貌異常・筋緊張低下・肝腫大などの症状を呈するが、一般的な生化学検査では異常がみつからないことが多い。

  • 血中極長鎖脂肪酸(VLCFA):スクリーニングの第一歩となる。Zellweger症候群では著明な上昇を認める
  • フィタン酸・プリスタン酸:上昇を認める。Refsum病では血中フィタン酸の高値が特徴的
  • ピペコリン酸:血中濃度の上昇
  • 胆汁酸中間体:C27胆汁酸中間体の上昇
  • プラスマローゲン:赤血球プラスマローゲンの低下
  • 皮膚線維芽細胞の免疫染色:ペルオキシソームの形成異常を直接確認する
  • 遺伝学的検査:PEX遺伝子変異の同定による確定診断。14種類のPEX遺伝子が対象となる
  • 網膜電図(ERG):早期から振幅低下〜消失を認める。ペルオキシソーム病全般で重要な検査である
  • 光干渉断層計(OCT):網膜外層の構造異常や黄斑浮腫の評価に有用である1)
  • 蛍光眼底造影網膜色素上皮の異常を評価する。Refsum病では背景蛍光の斑紋状ブロックが特徴的

ペルオキシソーム病の眼症状は非特異的であり、幅広い鑑別を要する。

  • 他のペルオキシソーム障害:副腎白質ジストロフィ、Refsum病との鑑別
  • 非ペルオキシソーム性代謝異常症:ムコ多糖症、ライソジーム病
  • 染色体異常
  • TORCH感染症:先天性トキソプラズマ症、風疹、サイトメガロウイルス、単純ヘルペス
  • 先天性筋ジストロフィー
  • ミトコンドリア病:Kearns-Sayre症候群など2)

網膜色素変性の鑑別診断として、成人型Refsum病はペルオキシソームに局在するフィタン酸オキシダーゼの欠損で生じ、20歳前後に発症する2)。乳児型Refsum病はペルオキシソーム形成異常症の一つであり、乳児期に発症し、眼振を伴い、幼少期に死亡する例が多い2)

ペルオキシソーム病に対する根治療法は確立されていない。各病型に応じた対症療法が治療の中心となる。

  • 白内障手術:視力維持を目的として施行される
  • 屈折矯正:屈折異常に対して眼鏡を処方する
  • 黄斑浮腫に対する治療:ドルゾラミド点眼やデキサメタゾン硝子体内注射Ozurdex 0.7mg)が試みられている1)

Zouら(2024)の症例では、高度黄斑浮腫に対し初期にドルゾラミド1日2回点眼を開始したが浮腫が進行したため、デキサメタゾン0.7mg硝子体内インプラント(Ozurdex)の両眼注射に切り替えた1)。黄斑浮腫と視力の改善が得られ、最終矯正視力は両眼20/125に達した。以後6か月ごとの反復注射を継続している。

  • Refsum病:フィタン酸制限食(全脂乳製品、反芻動物の高脂肪肉製品、脂肪の多い魚の回避)による食事療法が行われる
  • 肝機能不全:ビタミンKおよび他の脂溶性ビタミンの補充。コール酸(Cholbam)補充療法によりC27胆汁酸中間体を低下させる
  • 痙攣:経験豊富な神経内科医による抗てんかん薬治療
  • 難聴:補聴器の装用
  • 副腎不全:副腎ホルモン補充療法
  • 骨減少症:ビタミンDの補充、ビスホスホネートの検討
  • 発達遅滞:早期療育サービスの提供

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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ペルオキシソームは、ほぼすべての細胞に存在する細胞内小器官である。肝臓・腎臓・乏突起膠細胞に最も多く分布する。その主な機能は以下の通りである。

  • 脂肪酸のβ酸化:極長鎖脂肪酸の分解
  • プラスマローゲンの合成:ミエリン(髄鞘)の主要構成成分
  • 胆汁酸・コレステロールの合成
  • 過酸化水素の分解:カタラーゼによる解毒

ペルオキシソーム形成異常症(PBD)は、14種類のPEX遺伝子のいずれかの変異によりペルオキシソームの形成・維持が障害される疾患群である。PEX1変異が最も多く、全症例の70%を占める1)

網膜障害の主因はDHA(ドコサヘキサエン酸)の内因性合成障害である1)。DHAは網膜視細胞外節の構成脂質として不可欠であり、その欠乏は視細胞の構造・機能異常をもたらす。

組織学的には以下の変化が確認されている1)

  • 視細胞の消失:杆体・錐体の進行性変性
  • 網膜色素上皮(RPE)の障害:色素を含むマクロファージが沈着し色素性網膜症を呈する
  • 網膜神経節細胞の消失
  • 色素分散:網膜内色素移動
  • 視神経乳頭の蒼白化・低形成
  • 網膜細動脈の狭細化

PRPH2遺伝子(ペリフェリン2)の変異が合併する場合もある1)。ペリフェリン2は視細胞特異的な糖タンパクであり、杆体・錐体外節の正常な形成に不可欠である。その変異は黄斑変性・神経網膜変性・RPE萎縮・脈絡膜欠損に関与する。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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Bravermanら(2016)は、PBD-ZSS患者に対するアデノ随伴ウイルス9(AAV9)を用いた遺伝子増強療法の可能性を報告している1)。PEX1遺伝子の正常コピーを導入することで、ペルオキシソームの機能回復を目指す研究が進められている。

PBD-ZSS患者に対する細胞型移植(cell-type transplantation)も将来的な治療選択肢として検討されている1)。変性した網膜細胞や神経細胞の補充を目的とした研究が進行中である。

これらの治療法はいずれも基礎研究・前臨床段階であり、臨床応用には更なる安全性・有効性の検証が必要である。


  1. Zou H, Sutherland L, Geddie B. Pigmentary retinal dystrophy associated with peroxisome biogenesis disorder-Zellweger syndrome spectrum. Oxf Med Case Reports. 2024;2024(6):263-265.
  2. 日本眼科学会. 網膜色素変性診療ガイドライン.

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