急性期
視神経乳頭浮腫:最も早期の所見。蛍光眼底造影ではびまん性の漏出を認める。
乳頭周囲漿液性網膜剥離:乳頭浮腫に伴う滲出性の漿液性剥離。
硝子体細胞:約90%で認められる。前房の細胞・フレアを伴うこともある。
黄斑浮腫:発症後9〜12日で出現。その後硬性滲出物が星芒状に配列する。

視神経網膜炎(neuroretinitis)は、視神経乳頭の炎症が網膜神経線維を介して黄斑部へ波及した状態をいう。特発性ないし何らかの病原体感染に起因する視神経乳頭浮腫と網膜の炎症を呈する症候群の総称である。
1916年にLeber(レーバー)が「星状黄斑症(stellate maculopathy)」として最初に記載した。1977年にGassが、黄斑の滲出物に先立って乳頭浮腫が生じることを示し、「視神経網膜炎(neuroretinitis)」という用語を提唱した。
すべての年齢層で起こりうるが、平均年齢は25歳前後である。男女比は1:1.8と女性にやや多い。症例の約50%では原因が同定されず、特発性と分類される8)。
視神経網膜炎は以下の3型に分類される。
重要な点として、視神経網膜炎の診断は、将来の多発性硬化症(MS)発症リスク因子とはみなされない。
ならない。視神経網膜炎は脱髄性視神経炎とは異なり、多発性硬化症の発症リスク因子とはみなされない。黄斑星芒の存在はMS除外に有用な所見である8)。
初発症状は霧視で、通常は無痛性である。10%弱の症例では眼痛を伴うこともある。
ほとんどが片眼性である。相対的瞳孔求心路障害(RAPD)は陽性となることが多いが、脱髄性視神経炎ほど顕著ではない。これは視力低下が視神経病変だけでなく、網膜(黄斑)病変にも起因するためと考えられている。
視神経乳頭浮腫が最も早期の所見であり、黄斑星芒は視力低下の発症から1〜2週間後に出現する8)。黄斑星芒が現れる前の段階では、視神経乳頭炎のみが認められる場合がある。硝子体細胞は約90%の症例で認められる7)。
急性期
視神経乳頭浮腫:最も早期の所見。蛍光眼底造影ではびまん性の漏出を認める。
乳頭周囲漿液性網膜剥離:乳頭浮腫に伴う滲出性の漿液性剥離。
硝子体細胞:約90%で認められる。前房の細胞・フレアを伴うこともある。
黄斑浮腫:発症後9〜12日で出現。その後硬性滲出物が星芒状に配列する。
回復期
黄斑星芒の消退:滲出物は境界が不明瞭となり徐々に消失する。
乳頭浮腫の消退:8〜12週で消失し、正常または蒼白な乳頭が残る。
網膜色素上皮変化:RPE欠損のみが残存する場合がある。
乳頭蒼白:慢性化・再発例では視神経萎縮に至ることがある。
蛍光眼底造影(FA)では視神経乳頭からのびまん性の蛍光漏出を認めるが、網膜血管自体には異常を認めない。この所見は「網膜疾患と勘違いしやすい眼底所見」であるが、FAにより視神経乳頭からの漏出のみであることが確認できる。
光干渉断層計(OCT)では網膜の肥厚、網膜下液、外網状層(ヘンレ層)内の滲出物を検出できる。黄斑星芒形成前の漿液性網膜剥離の早期検出にも有用である。
その通りである。視神経乳頭浮腫が先行し、黄斑星芒は1〜2週間後に形成される8)。初診時に乳頭浮腫のみの症例では、2週間以内の再検査で星芒の出現を確認すべきである。再発例では星芒が典型的パターンを示さないこともある。
視神経網膜炎の原因は多岐にわたる。感染性と非感染性に大別される。
| 分類 | 主な原因 |
|---|---|
| 細菌 | B. henselae、梅毒、結核、ライム病 |
| 寄生虫・原虫 | トキソプラズマ、トキソカラ、顎口虫 |
| ウイルス | HSV、サイトメガロウイルス、EBV、麻疹、ムンプス |
最も多い原因は Bartonella henselae による猫ひっかき病(CSD)であり、感染性視神経網膜炎の主因を占める。40%以上の症例でネコ(特に子猫)を飼育しており、受傷後数日で受傷部位に丘疹・水疱が生じる。
その他の感染性原因として、以下が報告されている。
IRVAN症候群(特発性網膜血管炎・動脈瘤・視神経網膜炎)は、視神経網膜炎を構成要素の一つとする稀な臨床的症候群である6)。
リスク要因は各病原体への曝露に関連する。免疫不全状態、動物(特に子猫)との接触、流行地域への渡航歴、生食嗜好などが挙げられる。
視神経網膜炎の最多原因である猫ひっかき病は、Bartonella henselae を保有するネコ(特に子猫)から感染する。40%以上の患者がネコを飼育している。ただし、ネコとの接触歴がない患者でも B. henselae による視神経網膜炎は報告されている5)。
視神経乳頭浮腫と黄斑星芒の組み合わせが診断の手がかりとなる。ただし黄斑星芒は発症から1〜2週間遅れて出現するため、初診時には乳頭浮腫のみの場合がある8)。動物接触歴・渡航歴・性行動・肉類の生食嗜好などの病歴聴取が重要である。
視力検査、色覚検査、瞳孔評価(RAPD確認)、視野検査(中心暗点の検出)、および散瞳下眼底検査が基本的な診察項目となる。
| 検査法 | 主な所見 |
|---|---|
| FA | 視神経乳頭からのびまん性蛍光漏出 |
| OCT | 網膜肥厚、網膜下液、OPL滲出物 |
| MRI | 通常正常(一部で眼内視神経の増強) |
感染性原因の鑑別のため、以下の検査が行われる。
眼内液のPCR検査は、血清学的検査で診断が困難な非典型例で有用である。Alafaleqら(2025)の報告では、血清学的検査で診断がつかなかった慢性ぶどう膜炎の症例で、硝子体液のPCR検査により Bartonella quintana が同定された5)。
黄斑星芒を呈する疾患として、高血圧網膜症、乳頭浮腫(頭蓋内圧亢進)、前部虚血性視神経症(AION)、糖尿病性乳頭症などとの鑑別が必要である。これらの多くは両側性であるのに対し、視神経網膜炎は通常片側性である点が鑑別に有用である。
視神経網膜炎の治療は基礎疾患に対して行われる。
猫ひっかき病(CSD)
第一選択:リファンピシン(10 mg/kg)+スルファメトキサゾール・トリメトプリム(TMP-SMX)3週間5)
代替薬:シプロフロキサシン250 mg 1日2回+アジスロマイシン250 mg 1日2回(サルファ剤アレルギー時)5)
小児:アジスロマイシン(キノロン系禁忌のため)5)
自然回復傾向:治療後93%で最終視力0.5以上に回復する。
その他の感染症
トキソプラズマ:SMX-TMP 1日2回+プレドニゾロン。持続例には硝子体内クリンダマイシン1 mg注射7)
サイトメガロウイルス(免疫不全):硝子体内フォスカルネット2.4 mg+バルガンシクロビル900 mg 1日2回2)
梅毒:ペニシリンG静注
顎口虫:虫体の外科的摘出+アルベンダゾール400 mg 1日2回・21日間4)
猫ひっかき病による視神経網膜炎の治療では、抗菌薬の選択を年齢・アレルギー歴・重症度に応じて個別化する5)。アジスロマイシンは眼内移行性が高く、小児・成人双方に有効な選択肢である5)。
特発性視神経網膜炎に対する確立された治療法はない1)。多くの症例は介入の有無にかかわらず良好な視力回復を示す。
Mizeraら(2023)は、再発性特発性視神経網膜炎の1例に対し、ミコフェノール酸モフェチル2 g/日+プレドニゾロン10 mg/日の維持療法で再発なく安定した経過を報告した1)。同症例では抗MOG抗体が弱陽性であったが、臨床像はMOGADに非典型的であり、最終的に特発性と判断された。
視神経網膜炎に伴う重症黄斑浮腫は稀であるが、中心視力低下の主因となりうる。
Aminuddinら(2024)は、トキソプラズマとHSV-1の二重感染による視神経網膜炎に伴う重症黄斑浮腫に対し、抗菌薬・抗ウイルス薬・経口ステロイドに加え硝子体内ラニビズマブを単回投与し、2週間で網膜下液の著明な減少を認めた3)。
特発性視神経網膜炎の多くは自然回復する。報告された症例の90%で最終視力0.5以上に回復している。ただし、再発を繰り返す症例では視神経萎縮が進行し、視力・視野の回復が不十分となることがある1)。再発性の場合は長期的な免疫抑制療法が検討される。
視神経網膜炎の本態は、視神経乳頭血管系の炎症と乳頭周囲網膜への液体滲出である。その発症機序は以下の通りである。
感染性視神経網膜炎では、病原体が視神経へ直接侵入するか、または視神経に対する自己免疫を活性化することで血管炎が惹起される。Bartonella 属は血管内皮細胞への侵入性を有しており、この性質が乳頭周囲の血管炎・網膜炎・脈絡膜炎など多彩な眼所見の原因と考えられている5)。
特発性の場合、ウイルス感染後の自己免疫反応が推定されている。50%以上でインフルエンザ様の前駆症状が先行することが、この仮説を支持する。
顎口虫による視神経網膜炎では、幼虫が毛様体循環を介して眼内に侵入し、視神経乳頭周囲での線維増殖と出血を引き起こすと推察されている4)。
眼内液のPCR検査は、従来の血清学的検査では診断困難な非典型例に対する有力な診断アプローチとして注目されている。
Alafaleqら(2025)は、1854例のぶどう膜炎患者のうちBartonella陽性5例を解析し、血清学的検査が陰性であった71歳の慢性後部ぶどう膜炎症例で、硝子体液のLightCycler PCRにより Bartonella quintana のDNAを同定した5)。PCR検査は非典型的な眼バルトネラ症やステロイド治療で原因が不明瞭となった症例で特に有用であると報告された。
難治例に対する硝子体内薬物投与の有効性が複数報告されている。
Hsuら(2022)は、SMX-TMP+経口ステロイドに反応しないトキソプラズマ視神経網膜炎に対し、硝子体内クリンダマイシン1 mg注射を追加投与し、1ヶ月で視力が20/20に完全回復したことを報告した7)。
Alafaleqら(2025)のCase 3では、ステロイド治療に6ヶ月間抵抗した両眼性後部ぶどう膜炎に対し、硝子体内ゲンタマイシン1 mg注射を施行し、全身抗菌薬と併用して微小動脈瘤と滲出物の消退を認めた5)。ただし最終視力は20/63(右眼)と20/200(左眼)にとどまった。
Aminuddinら(2024)は、二重感染に伴う重症黄斑浮腫に対し硝子体内ラニビズマブの有効性を報告したが、視神経網膜炎に対する抗VEGF薬の有効性は確立されていない3)。