変性型(LMH)
不規則な中心窩輪郭:非線形の中心窩形態を呈する。
丸みを帯びた縁の空洞化:潜り込みのある縁を持つ中心窩空洞を認める。
中心窩組織の消失:中心窩の菲薄化や偽弁蓋を伴う。
中心窩隆起(foveal bump):外層網膜面の小隆起が特徴的である。
黄斑前膜増殖(ERP/LHEP):ミュラー細胞由来のグリア増殖組織を認める。

分層黄斑円孔(lamellar macular hole; LMH)は、黄斑部の網膜内層に部分的な組織欠損を生じる疾患である。全層黄斑円孔(FTMH)と異なり、外層網膜は保たれる。1975年にGassが嚢胞様黄斑浮腫の合併症として初めて報告した2)。
OCTの進歩に伴い、LMHの構造的特徴の理解は大きく進んだ。2020年にHubschmanらが国際コンセンサスを発表し、LMH関連病変を「分層黄斑円孔(LMH)」「ERM中心窩分離症(ERMF)」「黄斑偽円孔」の3つに再定義した4)。
有病率は集団ベースの研究で1.1〜3.6%と報告されている。50〜70歳代に好発する。大部分は特発性であるが、嚢胞様黄斑浮腫や網膜前膜、硝子体黄斑牽引に続発するものもある。
LMHの自覚症状は他の硝子体網膜界面疾患と共通する。
初期には無症状のことも多い。FTMHに比べると視力は良好に保たれることが多い5)。
OCTにより以下の特徴的所見が確認される。Govettoらの分類では「変性型」と「牽引型」の2つに大別される5)。Hubschmanらはさらに変性型を「LMH」、牽引型を「ERM中心窩分離症(ERMF)」と再定義した4)。
変性型(LMH)
不規則な中心窩輪郭:非線形の中心窩形態を呈する。
丸みを帯びた縁の空洞化:潜り込みのある縁を持つ中心窩空洞を認める。
中心窩組織の消失:中心窩の菲薄化や偽弁蓋を伴う。
中心窩隆起(foveal bump):外層網膜面の小隆起が特徴的である。
黄斑前膜増殖(ERP/LHEP):ミュラー細胞由来のグリア増殖組織を認める。
牽引型(ERMF)
収縮性網膜前膜の存在:高反射の網膜前膜を伴う。
ヘンレ線維層での網膜分離:外網状層レベルの裂開を認める。
鋭い縁の分離(split):牽引による線形の裂開を呈する。
網膜内嚢胞状腔:内顆粒層の微小嚢胞を伴う。
網膜厚の増加と皺:網膜前膜の収縮による変化を認める。
変性型はエリプソイドゾーン(EZ)の破壊を伴いやすく、牽引型に比べ視力予後が不良となる傾向がある。
LMHは内層網膜の部分的欠損であり、外層網膜(視細胞層)は保たれる。FTMHは内境界膜から網膜色素上皮まで全層の裂開を生じ、硝子体腔と網膜下腔が交通する5)。FTMHの方が視力低下は高度である。
LMHの大部分は特発性である。形成には網膜面への牽引力が関与する。
高度近視眼では複数の牽引力(後部硝子体、網膜前膜、硬い内境界膜、後部ぶどう腫)が複合的に作用し、LMHの形成と進行がより複雑になる1)。
LMHの診断と分類のゴールドスタンダードである。2006年の国際硝子体黄斑牽引研究グループによる診断基準は以下の通りである。
2020年のHubschmanらによるコンセンサス定義では、LMHとERMFの区別がより明確化された4)。
LMHの必須基準は「不規則な中心窩輪郭」「潜り込みのある縁を伴う中心窩空洞」「中心窩組織の明らかな消失」の3点である4)。ERMFの必須基準は「収縮性網膜前膜の存在」と「ヘンレ線維層レベルでの網膜分離」である4)。
中心窩組織の消失による窓状欠損を介して、黄斑部に過自発蛍光を認める。OCTの補助的検査として用いられる。
主な鑑別疾患は以下の3つである。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 黄斑偽円孔 | 中心窩組織の消失を伴わない |
| 硝子体黄斑牽引 | 硝子体皮質の黄斑付着あり |
| FTMH | 全層の中心窩欠損を認める |
黄斑偽円孔は網膜前膜の収縮により中心窩壁が急峻化した状態であり、組織消失を伴わない点でLMHと異なる5)。OCTで視力はほぼ正常(20/30以上)に保たれることが多い。
OCTが最も重要な検査である。眼底自発蛍光は補助的に有用であるが、特発性LMHでは臨床検査は基本的に不要である。鑑別が困難な場合はOCTの詳細な断面評価が決め手となる。
多くのLMHは時間の経過とともに安定しており、無症状の特発性症例には治療適応がない。定期的なOCTフォローアップで構造変化を監視する。LMHはFTMHに進行する可能性があるため、定期受診が重要である。
症状のある視力低下、進行性の変視症、または中心窩プロファイルの悪化を認める場合に手術を検討する。
硝子体茎切除術に網膜前組織(網膜前膜/ERP)および/または内境界膜(ILM)の除去を併施する。空気やガスによるタンポナーデが使用されることもあるが、長期滞留ガスは必須ではない。
深層のLMHや全層への移行が疑われる場合は、非膨張濃度のC₃F₈またはSF₆ガスによるより完全なfluid-gas exchangeが行われる。
近年、LHEPを剥離せず温存または埋め込む手技が注目されている。
Yuら(2025)のメタ解析(8研究)では、LHEP温存手術群の術後の最高矯正視力(BCVA)改善量は−0.25 logMAR(95% CI −0.30〜−0.21、P < 0.00001)と有意であった3)。従来の剥離術と比較しても、最高矯正視力の改善量の差は−0.19 logMAR(P < 0.0001)と温存群が優れていた。
術後にエリプソイドゾーン(EZ)が修復した患者の割合も温存群で有意に高かった(OR 2.55; 95% CI 1.48〜4.38)3)。剥離群との比較ではOR 10.80(95% CI 1.86〜62.83; P = 0.008)であった。
LHEP温存群では術後FTMH形成の報告がなかった点も注目される3)。LHEPはミュラー細胞由来のグリア組織であり、温存することで網膜神経上皮の「修復足場」として機能する可能性がある。
多くのLMHは安定した経過をたどり、有意な視力低下を来さない。ただし一部はFTMHへ進行するため、定期的なOCT検査で経過を追うことが重要である。視力低下や変視症が進行する場合に手術を検討する。
近年のOCT研究により、LMHの形成には牽引力の関与が一貫して認められている。高度近視眼での詳細な検討では、4つの牽引関連形成過程が同定された1)。
従来、ERP(網膜前膜増殖)を伴い緩徐に組織が消失するLMHは「変性型」と分類されていた。しかし近年の知見では、変性型もミュラー細胞錐体やヘンレ線維への牽引損傷から始まり、外網状層とヘンレ線維層の間の分離を生じることが示されている。時間の経過とともにヘンレ線維の変性が進行し、中心窩の空洞化が拡大する。
Hsiaら(2023)の高度近視50眼の検討では、すべてのLMH形成過程で牽引力が同定された1)。一部の症例では初期の「牽引型」形態が経過中に「変性型」形態へ移行する現象も観察された。
ERPはこの初期牽引損傷に対する修復過程を反映する可能性がある1)。ERPの存在はむしろ構造的進行に対する保護因子として機能しうる。
高度近視眼での検討から、以下が構造的進行のリスク因子として同定された1)。
LMHの一部は自然閉鎖することが報告されている。
Cataniaら(2024)は変性型187例中11例(5.9%)、混合型200例中10例(5.0%)の自然閉鎖を報告した2)。閉鎖過程の中央値は4年であった。
閉鎖群では、空洞辺縁の高反射内縁(HIB)および外網状層の線状高反射(LHOP)の出現頻度が安定群より有意に高かった2)。画像処理後のHIB検出感度は90.9%(P = 0.007)、LHOP検出感度は81.8%(P = 0.03)であった2)。
これらの所見はミクログリアとミュラー細胞の協調的活性化を反映する可能性がある2)。外網状層に多く分布する網膜ミクログリアの活性化がミュラー細胞の適応的変化(神経栄養因子やケモカインの発現増加)を誘導し、組織修復に寄与すると推察されている。
LHEP温存手術は近年急速に発展している分野である。剥離ILMとLHEPのダブルフラップを円孔内に埋め込む手技も報告されている3)。ILMフラップがミュラー細胞の増殖・移動の足場となり、グリア細胞による構造修復を促進する可能性がある。
Yuら(2025)のメタ解析ではLHEP温存群にFTMH形成の報告がなく、従来の剥離術と比較してEZ修復率が約10.8倍であった3)。ただし含まれた研究はすべて後方視的であり、今後の前向きランダム化比較試験が必要である。
Cataniaら(2024)は、画像処理により検出されるHIBとLHOPがLMH自然閉鎖の予測マーカーとなりうることを示した2)。今後、前向き研究によるこれらのマーカーの検証と、OCTA(OCT血管造影)を用いた微小血管変化との関連の解明が期待される。
Hsiaら(2023)が提唱した4類型の形成過程分類は、予後予測に有用である1)。タイプ3は進行リスクが低い一方、タイプ4は全例FTMHへ進行した。この分類の非高度近視眼への適用可能性は今後の検討課題である。