完全型cCSNB

先天停在性夜盲
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 先天停在性夜盲とは
Section titled “1. 先天停在性夜盲とは”先天停在性夜盲(congenital stationary night blindness: CSNB)は、視細胞・網膜色素上皮(RPE)・双極細胞に影響を及ぼす稀な遺伝性網膜疾患の不均一な集まりである。出生時から非進行性の暗所視覚障害(夜盲:nyctalopia)を呈することが最大の特徴とされる。
フランスにおける有病率は約1/10,000と報告されている。10) 1838年にFlorent Cunierが最初に記載し、Jean Nougaret家系の11世代56人にわたる家系が古くから知られる。10)
CSNBは大きく眼底正常型と眼底異常型に分類される。
眼底正常型はさらに以下に分類される。
- Riggs型:桿体視細胞の機能不全
- Schubert-Bornschein型:ON双極細胞またはON/OFF双極細胞の機能不全。完全型(cCSNB)と不全型(iCSNB)に細分される
眼底異常型には以下がある。
- 白点状網膜(Fundus albipunctatus)
- 小口病(Oguchi disease)
遺伝的背景は多様であり、18遺伝子・360以上の変異・670のアレルがCSNBに関連する。1) 遺伝形式は常染色体劣性・X連鎖・常染色体優性と多彩である。近年はGNB3関連CSNBという新たな病型も報告されている。1)
不全型iCSNB
機能不全部位:ON/OFF双極細胞
網膜電図特徴:DA 0.01でb波減少だが残存。陰性型網膜電図
主な原因遺伝子:CACNA1F(X連鎖)、CABP4、CACNA2D4(常染色体劣性)
Riggs型CSNB
機能不全部位:桿体視細胞
網膜電図特徴:DA 3.0でa波・b波振幅低下。LA正常
主な原因遺伝子:GNAT1、PDE6B、RHO、SLC24A1
非進行性の疾患であり、38年間のフォローアップでも視機能に変化がないことが確認されている。ただし近視は成長とともに進行することがあるため、定期的な眼科受診が重要である。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”- 夜盲:暗所・薄暗い光での視力低下が主訴。ただし明るい都市部では自覚しないことも多い
- 羞明:光過敏。特にiCSNBでよくみられる。4)6)
- 視力低下:近視に伴う視力低下として初診する例が多い
iCSNBの小児では54%のみが夜盲を主訴として来院し、残りの多くは弱視や近視として診断されている。7) CABP4関連疾患では夜盲はほとんど報告されず、暗い場所を好む(明るい光を避ける)傾向が特徴的とされ、「先天性錐体杆体シナプス障害」という名称が提案されている。4)6)
ある。iCSNBの小児では夜盲を自覚・主訴するのは54%にとどまる。7) CABP4関連疾患では夜盲がなく羞明が主症状の場合もあり、弱視・近視・先天性運動眼振として長年誤診されていた例も報告されている。斜視や眼振を伴う小児では積極的に網膜電図検査を検討することが重要である。
視力・屈折異常
- cCSNBの矯正視力中央値は20/40(0.30 logMAR)、iCSNBでは20/60程度10)
- 近視がCSNBの96.61%で最多だが、遠視も約22%に報告される7)10)
- cCSNBの屈折異常中央値は-7.4D(中~強度近視が多い)10)。完全型ではほとんどの症例で近視がみられる
- iCSNBの屈折異常中央値は-4.8D10)
- 不全型では屈折に一定の傾向はなく、近視・遠視ともにありうる。また不全型では停在性夜盲という疾患名であるにもかかわらず、夜盲を訴えることは少ない
眼位・眼球運動
- 斜視:50〜70%に認められ、内斜視が最多2)
- 眼振:小振幅・高頻度・斜め方向・非共役な振子状眼振が特徴的
眼底・OCT所見
- 完全型・不全型ともに眼底は通常正常
- 完全型では強度近視を伴うことが多いため、傾斜乳頭やや耳側蒼白の視神経乳頭と網脈絡膜萎縮を認めることがある。不全型では眼底所見に異常はみられない
- 一部患者でSD-OCTによりRNFL菲薄化・mGCC菲薄化が報告されている5)2)10)
- 一部cCSNB患者でINL菲薄化が報告されている10)
- CABP4関連疾患では中心窩低形成・楕円体ゾーン不連続・中心窩挙上・中心窩下低反射ゾーンが報告されている4)
眼底異常型の特徴的所見
- 白点状網膜:後極部(黄斑部除く)~中間周辺部に黄白色斑点が散在する
- 小口病:三尾・中村現象(暗順応後は正常眼底に見えるが、光曝露後に網膜が黄金色の光沢を呈する)
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”CSNBは単一の疾患ではなく、異なる遺伝子変異によって引き起こされる疾患群である。亜型ごとに原因遺伝子と遺伝形式が異なる。
以下に主要な原因遺伝子をまとめる。
| 亜型 | 原因遺伝子 | 遺伝形式 |
|---|---|---|
| cCSNB | NYX | X連鎖 |
| cCSNB | GRM6, TRPM1, GPR179, LRIT3 | 常染色体劣性 |
| iCSNB | CACNA1F | X連鎖 |
| iCSNB | CABP4, CACNA2D4 | 常染色体劣性 |
各亜型の遺伝子について補足する。
- CACNA1F(iCSNB):260以上の変異が報告されている。9) CSNBに関連するものとして28種の変異が登録されている。1)
- GNAT1(Riggs型):Nougaret型変異p.Gly38Argは常染色体優性CSNBを引き起こす。10)
- SLC24A1(Riggs型):網膜色素変性を伴わずCSNBを引き起こす。10)
- RDH5(白点状網膜):RPE65・RLBP1変異も原因となる。1)
- GRK1・SAG(小口病):常染色体劣性遺伝。1)
X連鎖型(NYX, CACNA1F)は主に男性が罹患し、女性は保因者となることが多い。常染色体劣性型は血族婚がリスク因子となる。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”**網膜電図(網膜電図)**が診断において最も重要な検査であり、亜型の鑑別にも不可欠である。1)2)
網膜電図による亜型鑑別
Section titled “網膜電図による亜型鑑別”各亜型の網膜電図所見の違いを以下に示す。
| 網膜電図条件 | cCSNB | iCSNB |
|---|---|---|
| DA 0.01 | b波消失 | b波減少だが残存 |
| DA 3.0/10.0 | a波正常・b波減少 | 陰性型(a波>b波) |
| LA 30Hz | 谷拡大・b波急峻化 | 減衰・遅延・二峰性 |
各亜型の詳細な網膜電図所見を以下に補足する。
完全型cCSNB:
- DA 0.01でb波完全消失
- DA 3.0/10.0でa波正常・b波減少(陰性型ERG)
- LAで正常a波だが谷が広がりb波が急峻化
- 律動様波(oscillatory potential)消失1)2)
不全型iCSNB:
- DA 0.01でb波減少だが残存
- DA 3.0/10.0で陰性型波形(a波振幅がb波を上回る)
- LAで完全型より著明に低下
- 30Hzフリッカーで遅延・二峰性ピーク1)2)
Riggs型:
- DA 0.01で平坦または消失
- DA 3.0でa波・b波振幅低下
- LA正常1)
小児では協力が得にくいことがあり、ポータブル網膜電図(RETeval)も有用である。7)
- 大部分の症例で正常眼底
- CABP4関連疾患では中心窩挙上・中心窩下低反射ゾーンが新規OCT所見として報告されている4)
- 一部のCACANA1F症例で内網膜層菲薄化を認める5)10)
標準的な遺伝子検査(次世代シーケンシング:NGS)で70〜80%に遺伝子診断が可能である。8) 通常のエクソーム解析では検出困難な構造変異には全ゲノムシーケンシング(WGS)が優れた検出能を示す。8)
Martinez Sanchezら(2025)は通常のシーケンシングで診断困難だったCSNB症例をWGSにより診断し、CACNA1F遺伝子における新規構造変異を同定した。8)
- 網膜色素変性症(RP):進行性で視野狭窄・骨小体様色素沈着・視力低下が進行。CSNBは非進行性で眼底所見が保たれる
- 進行性桿体錐体ジストロフィー:病歴・網膜電図の経時変化で鑑別
- 後天性夜盲:ビタミンA欠乏症など。血清ビタミンA値で鑑別
- CABP4関連疾患:色覚異常症候群(全色盲: achromatopsia)との鑑別が必要4)6)
CSNBは斜視・先天性運動眼振・弱視として長年誤診されることが多く、小児の斜視・眼振・視力低下では積極的に網膜電図検査を考慮する。7)
CSNBは非進行性で網膜構造が維持される。一方、網膜色素変性症(RP)は進行性で視野狭窄・骨小体様色素沈着・視力低下が年余にわたって進行する。網膜電図所見も異なり、RPでは桿体・錐体ともに振幅が低下していくのに対し、CSNBでは典型的な陰性型網膜電図を呈し変化しない。詳細は「診断と検査方法」の鑑別診断を参照。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”現在、CSNBに対する確立された根本的治療法はない。1) 治療は対症療法が中心となる。
屈折矯正
眼鏡・コンタクトレンズ:近視・遠視の矯正が日常視力の改善に最重要
遮光レンズ:羞明(光過敏)がある場合は遮光レンズが有用
弱視治療
遮閉療法:CSNBに伴う斜視弱視に対して実施されることがある
限界:CSNBでは効果が不十分な場合があり、通常の弱視よりも治療反応が低いことに注意が必要7)
眼底異常型の特殊な対応
Section titled “眼底異常型の特殊な対応”- 白点状網膜(RDH5欠損):高用量経口9-シス-β-カロテン投与により7人の患者で視野・網膜電図の改善が報告されている(研究レベルの報告)
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”CSNBの発症機序は亜型によって異なるが、いずれも網膜内のシグナル伝達経路の障害に起因する。
光受容変換カスケード(Riggs型の基盤)
Section titled “光受容変換カスケード(Riggs型の基盤)”光受容変換(phototransduction)の正常な流れは以下の通りである。
- ロドプシンが光子を吸収
- トランスデューシン(GNAT1)活性化
- ホスホジエステラーゼ(PDE6)活性化
- cGMP低下→イオンチャネル閉鎖
- 桿体視細胞の過分極→グルタミン酸放出低下1)10)
RHO変異(常染色体優性)では構成的活性化によるロドプシンの持続活性化→桿体脱感作が生じる。GNAT1変異ではGTPase活性障害によりトランスデューシンの不活化が阻害される。1)10)
完全型cCSNBの機序(ON双極細胞シグナル伝達障害)
Section titled “完全型cCSNBの機序(ON双極細胞シグナル伝達障害)”ON双極細胞のシグナル伝達経路が障害される。
- GRM6(mGluR6受容体)→Gタンパク質αサブユニット活性化→TRPM1チャネルの開閉を制御
- 光条件下でグルタミン酸減少→TRPM1開放→ON双極細胞脱分極
- NYXとLRIT3はTRPM1のシナプス先端への局在に必須
- GPR179はmGluR6活性を調節1)
これらいずれかの遺伝子に変異があるとON双極細胞が脱分極できず、網膜電図でb波が消失する(陰性型ERG)。
不全型iCSNBの機序(Cav1.4チャネル障害)
Section titled “不全型iCSNBの機序(Cav1.4チャネル障害)”- CACNA1FはL型電位依存性Ca²⁺チャネルのα1サブユニット(Cav1.4)をコードする
- Cav1.4は視細胞シナプス終末でCa²⁺流入を担い、持続的なグルタミン酸放出に必須
- CABP4はCav1.4の調節タンパク質
- 変異によりON/OFF双極細胞両方へのシグナル伝達が障害される3)4)1)
Cav1.4チャネルはシナプスリボンの構造維持にも関与することが示されている。3) CACNA1F変異は機能的に以下の3型に分類される:loss-of-function型・gain-of-function型・チャネルシフト型。3)
小口病・白点状網膜の機序
Section titled “小口病・白点状網膜の機序”- 小口病:GRK1はロドプシンをリン酸化して光受容変換カスケードを不活化する。SAGはリン酸化ロドプシンに結合する。これらの変異により暗順応が著しく遅延する。1)10)
- 白点状網膜:RDH5はRPE内で11-cis-retinolを11-cis-retinalに変換する酵素であり、変異によりビジュアルサイクルが障害される。1)
近視発症との関連
Section titled “近視発症との関連”NYXまたはGRM6のノックアウトマウスでは近視傾向とドパミン低下が観察されており、ON双極細胞機能がEmmetropization(正視化)に関与する可能性が示唆されている。10)
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”遺伝子置換療法(動物モデル)
Section titled “遺伝子置換療法(動物モデル)”CSNBの遺伝子治療は動物モデルで精力的に研究されている。
NYX関連cCSNBモデル(Nyxnob マウス):
AAV2(quadY-F+TV)-Ple155-YFP_NyxのP2(生後2日)硝子体内注射によりb波回復とTRPM1局在回復が確認された。P30(生後30日)での投与では効果が見られず、発達早期の介入が重要とされる。1)
LRIT3関連cCSNBモデル(Lrit3-/- マウス):
rAAV RHO::Lrit3のP5投与でTRPM1局在回復・DA b波50%回復が達成された。P35(成体)マウスでも効果が確認されており、成人発症例への応用可能性が示唆される。さらにAAV2-7m8のP30投与でDA b波58%回復が達成され、4ヶ月後も効果が持続した。1)
GRM6関連cCSNBモデル(Grm6-/- マウス):
AAV2-7m8投与でmGluR6発現は回復するものの、網膜電図の回復が得られなかった。発達期の構造的異常が原因と推測されており、この遺伝子型では早期介入の重要性が示唆される。1)
犬モデル(CSNBビーグル犬):
AAV K9#12-shGRM6-cLRIT3-WPREの投与により網膜電図 b波が野生型の30%まで安定回復し、1.2年以上効果が持続することが確認された。1)
遺伝子編集技術
Section titled “遺伝子編集技術”CRISPR/Cas9・塩基編集・プライム編集はCSNBへの臨床応用報告はまだないが、CEP290変異LCA10(レーバー先天性黒内障10型)では網膜内SaCas9(EDIT-101)が臨床試験Phase 1/2まで進んでいる。1)
AAVベクターの課題と非ウイルスベクター
Section titled “AAVベクターの課題と非ウイルスベクター”AAV7m8は霊長類では期待通りの効果を示さず、種差が課題となっている。AAVv128は種を超えた広範な導入効率を示すとされる。1) 非ウイルスベクターとして脂質ナノ粒子(LNPs)やウイルス様粒子(VLPs)の開発が進んでいる。1) 一方、既存の遺伝子治療薬(Luxturna/RPE65遺伝子治療)は1注射85万ドルと高額であり、コストが実用化の障壁となっている。1)
全ゲノムシーケンシング(WGS)の診断的優位性
Section titled “全ゲノムシーケンシング(WGS)の診断的優位性”通常のエクソーム解析では検出困難な構造変異も、WGSにより同定可能であることが示されている。8) 遺伝子診断の精度向上が将来の遺伝子治療への道を開くと期待される。
現時点では臨床応用には至っていない。動物モデル(マウス・犬)では遺伝子置換療法により有意な網膜電図改善が確認されており、特にLRIT3関連cCSNBモデルでは成体への投与でも効果が持続した。1) ただし霊長類での課題も残っており、臨床試験への移行には更なる研究が必要な段階である。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Zhang Y, Lin S, Yu L, et al. Gene therapy shines light on congenital stationary night blindness for future cures. J Transl Med. 2025;23:392.
- Durajczyk M, Lubinski W. Congenital stationary night blindness (CSNB) — case reports and review of current knowledge. J Clin Med. 2025;14:1238.
- Koschak A, Fernandez-Quintero ML, Heigl T, et al. Cav1.4 dysfunction and congenital stationary night blindness type 2. Pflugers Arch. 2021;473:1437-1454.
- Tan JK, Arno G, Josifova D, et al. Unusual OCT findings in a patient with CABP4-associated cone-rod synaptic disorder. Doc Ophthalmol. 2024;148:115-120.
- Cammarata G, Mihalich A, Manfredini E, et al. Optic neuropathy AFG3L2 related in a patient affected by congenital stationary night blindness. Case Rep Ophthalmol Med. 2024;2024:8581090.
- Hauser BM, Place E, Huckfeldt R, et al. A novel homozygous nonsense variant in CABP4 causing stationary cone/rod synaptic dysfunction. Ophthalmic Genet. 2024;45(6):640-645.
- Wen L, Liu Y, Yang Z, et al. Novel CACNA1F pathogenic variant in pediatric incomplete X-linked CSNB: integrating portable 網膜電図 and genetic analysis. Doc Ophthalmol. 2025;150:33-39.
- Martinez Sanchez M, Meher N, DeBruyn H, et al. Novel structural variant in CACNA1F causing congenital stationary night blindness identified with whole genome sequencing. Ophthalmic Genet. 2025;46(6):692-696.
- Mahmood U, Mejecase C, Ali SMA, et al. A novel splice-site variant in CACNA1F causes a phenotype synonymous with Aland Island eye disease and incomplete congenital stationary night blindness. Genes. 2021;12:171.
- Morda D, et al. [Congenital Stationary Night Blindness]. Prog Retin Eye Res. 2025;109:101405.