眼科所見
小球状水晶体:赤道径が通常より小さく球形を呈する。LT(水晶体厚)5.36 mmの計測例あり。84%に認める。1)
水晶体偏位:73%に認め、下方偏位が多い。虹彩振盪を伴うことがある。
強度近視:94%に認める。OD -19.00 DS・OS -19.50 DSに達した報告例がある。1)
続発緑内障:80%に認める。瞳孔ブロックによる閉塞隅角緑内障が主体。2)
浅前房:約2 CT(角膜厚)の浅前房を呈する。1)
白内障:23%に認める。2)
硝子体液化・角膜厚増加も報告される。

ワイル・マルケサニ症候群(Weill-Marchesani Syndrome; WMS)は、遺伝性の結合組織疾患である。Spherophakia-Brachymorphia syndromeまたはMesodermal dysmorphodystrophyとも呼ばれる。別称としてMarchesani症候群、Inverted Marfan syndromeがある。80年以上前にWeillおよびMarchesaniにより報告された。2)
有病率は10万人に1例と推定される。1) 遺伝形式は常染色体劣性(AR)と常染色体優性(AD)のいずれもあり、常染色体劣性 45%・常染色体優性 39%・孤発 16%とされる。1)
原因遺伝子によって4つのサブタイプに分類される。
マルファン症候群とは対照的な体型を呈することが特徴で、「Inverted Marfan syndrome」とも称される。マルファン症候群が高身長・クモ状指・水晶体上方偏位を示すのに対し、ワイル・マルケサニ症候群は低身長・短指症・水晶体下方偏位を示す。
有病率は10万人に1例と推定される希少疾患である。1) 遺伝形式は常染色体劣性 45%・常染色体優性 39%・孤発 16%で、原因遺伝子はADAMTS10・FBN1・LTBP2・ADAMTS17の4種類が知られている。

眼所見と全身所見を以下に整理する。各所見の頻度はFaivre(2003)の128例統計による。2)
眼科所見
小球状水晶体:赤道径が通常より小さく球形を呈する。LT(水晶体厚)5.36 mmの計測例あり。84%に認める。1)
水晶体偏位:73%に認め、下方偏位が多い。虹彩振盪を伴うことがある。
強度近視:94%に認める。OD -19.00 DS・OS -19.50 DSに達した報告例がある。1)
続発緑内障:80%に認める。瞳孔ブロックによる閉塞隅角緑内障が主体。2)
浅前房:約2 CT(角膜厚)の浅前房を呈する。1)
白内障:23%に認める。2)
硝子体液化・角膜厚増加も報告される。
全身所見
低身長:98%に認める。身長103 cm(Zスコア -5.4)の報告例がある。2)
短指症・弯指症:98%に認める。2)
関節硬直:62%に認める。2)
皮膚肥厚・偽性筋肉質体型:特徴的な体型を呈する。
顔貌異常:狭い眼瞼裂、長い睫毛、広い鼻根、薄い上唇。2)
心血管欠損:24%に認める。動脈管開存症などを含む。2)
知的障害:13%に認める。2)
聴覚障害も報告される。
以下に主要所見の頻度をまとめる。
| 所見 | 頻度(%) |
|---|---|
| 低身長 | 98 |
| 短指症 | 98 |
| 近視 | 94 |
| 小球状水晶体 | 84 |
| 続発緑内障 | 80 |
| 水晶体偏位 | 73 |
| 関節硬直 | 62 |
| 心血管欠損 | 24 |
| 白内障 | 23 |
| 知的障害 | 13 |
小球状水晶体が前方に移動すると瞳孔ブロックが生じ、閉塞隅角緑内障を発症する。2) ワイル・マルケサニ症候群患者の80%に緑内障を来すとされる。縮瞳薬はこの機序を悪化させるため禁忌となる(詳細は「標準的な治療法」の項参照)。
ワイル・マルケサニ症候群の原因は、細胞外マトリックス(ECM)構成成分をコードする遺伝子の変異である。
具体的な変異例として、LTBP2遺伝子のc.3672delCおよびc.3542delTの複合ヘテロ接合変異(GnomAD東アジアデータベース未登録)が報告されている。1) また、ADAMTS10 c.2050C>T p(Arg684*)のホモ接合変異も報告されている。2)
近親婚がリスク因子となり、サウジアラビアの報告では患者の57%に近親婚歴があった。2)
ワイル・マルケサニ症候群の診断は眼科所見と全身所見の組み合わせにより臨床的に行う。確定には遺伝子検査が有用である。
エクソーム解析・次世代シーケンシング(NGS)にて候補変異を同定し、サンガー法で確認する。1)
代表的な鑑別疾患を以下に示す。
| 疾患 | 体型 | 水晶体偏位方向 |
|---|---|---|
| ワイル・マルケサニ症候群 | 低身長・短指 | 下方 |
| マルファン症候群 | 高身長・クモ状指 | 外上方 |
| ホモシスチン尿症 | 高身長 | 内下方 |
| Ehlers-Danlos症候群 | 関節過可動性・皮膚過伸展 | 不定 |
ワイル・マルケサニ症候群は低身長・短指症・水晶体下方偏位を示すのに対し、マルファン症候群は高身長・クモ状指・水晶体外上方偏位を示す。体型が対照的であることから「Inverted Marfan syndrome」とも称される。ホモシスチン尿症も水晶体偏位を示す(内下方が多い)が、知能障害や血栓症の合併が鑑別に役立つ。なおワイル・マルケサニ症候群は球状水晶体を伴うため、他の水晶体偏位を呈する症候群と比較して緑内障を合併しやすい。
治療の基本方針は、病態の進行度に応じた段階的な介入である。軽度の場合は経過観察、緑内障や水晶体合併症が進行した場合は手術を検討する。水晶体が硝子体内に落下する前に手術を行うことが推奨される。
急性閉塞隅角発作には以下を組み合わせる。
慢性管理の点眼薬として、カルテオロール塩酸塩、1) ブリモニジン・チモロール・ドルゾラミドなどが使用される。2)
小児例では弱視予防のため早期から屈折矯正(眼鏡)を行い、適切な時期に手術へ移行する。
縮瞳薬(コリン作動薬)は毛様筋を収縮させ、Zinn小帯を弛緩させる。その結果、小球状水晶体がさらに前方へ移動して瞳孔ブロックが助長され、閉塞隅角緑内障発作を悪化させる危険がある。ワイル・マルケサニ症候群では調節麻痺薬(散瞳薬)を用いて水晶体を後退させることが治療の原則である。
ワイル・マルケサニ症候群の病態は、細胞外マトリックス構成成分の異常による毛様体小帯・水晶体囊の脆弱化を中心に理解される。
FBN1変異はマイクロフィブリルの構造を障害し、Zinn小帯の脆弱化と水晶体可動性亢進を引き起こす。ADAMTS10・ADAMTS17はフィブリリン-1と密接に関連し、これらの欠損でもワイル・マルケサニ症候群様の症状が生じる。
LTBP2はECMのマイクロフィブリル安定性に関与する。変異によりZinn小帯・水晶体囊が脆弱化し、小球状水晶体と水晶体偏位が生じる。1)
正常では胎生5〜6か月頃に水晶体は一時的に球形となる。その後中胚葉の正常発達により楕円形へ変化するが、中胚葉の異常によりこの球形が維持されると小球状水晶体となる。1)
AR型(ADAMTS10/LTBP2)
遺伝形式:常染色体劣性
主な遺伝子:ADAMTS10・LTBP2・ADAMTS17
眼所見の重症度:高い傾向(LTBP2: LT 5.36 mm,眼圧 26〜30 mmHg)1)
全身所見:低身長・短指症が顕著
AD型(FBN1)
遺伝形式:常染色体優性
主な遺伝子:FBN1(フィブリリン-1)
特徴:マルファン症候群と同じ遺伝子の変異
全身所見:低身長・短指症・関節硬直を伴う
また、アクチン分布の異常がワイル・マルケサニ症候群の病態に関与するという仮説も提唱されている。2)
Linら(2021)は、LTBP2遺伝子の新規複合ヘテロ接合変異(c.3672delC・c.3542delT)を持つ5歳女児を報告した。1) これらの変異はGnomAD東アジアデータベースに未登録の新規変異であった。出生前診断・遺伝カウンセリングへの応用が今後の方向性として示されている。
Al Motawaら(2021)は、ADAMTS10 c.2050C>T p(Arg684*)ホモ接合変異を持つ家系を報告し、遺伝カウンセリングおよび着床前遺伝子診断の重要性を強調した。2) 患者の両親は近親婚(いとこ婚)であった。
ワイル・マルケサニ症候群に伴う低身長に対する成長ホルモン療法は、現時点でエビデンスが確立されていない。Al Motawaらが報告した症例では成長ホルモンピーク 7.89 ng/mLと低値ではなかったが、試験的に成長ホルモン療法が開始された。2) 有効性・安全性の確立には今後の検討が必要である。
Lin Z, Zhu M, Deng H. A Pedigree Report of a Rare Case of Weill-Marchesani Syndrome with New Compound Heterozygous LTBP2 Mutations. Risk Manag Healthc Policy. 2021;14:1785-1789.
Al Motawa MNA, Alreshidi FS, Alluwaim FA, et al. Weill-Marchesani Syndrome, a Rare Presentation of Severe Short Stature with Review of the Literature. Am J Case Rep. 2021;22:e930824.