麻痺性斜視
外転神経麻痺:最も一般的な適応。後天性の原因として外傷、脳血管障害、脳腫瘍、末梢神経障害、ウイルス感染、糖尿病がある。
動眼神経麻痺:上斜筋腱移動術(Scott法)や外直筋の鼻側移動術が適応となる。

移動術(transposition surgery)は、外眼筋の走行経路を変更することで、麻痺や機能障害に起因する眼位のずれや眼球運動制限を改善する手術である。
1908年にHummelsheimが外転神経麻痺に対する初の移動術を報告して以来1)、多くの改良術式が開発されてきた。Jensen法を代表とするさまざまなバリエーションがあり、西田法のように栄養血管を切除せずに同等の効果を出す低侵襲な術式も開発されている。
血流不全や重大な血管リスクのある患者、拮抗筋の拘束がある場合は禁忌となる。
主な適応は麻痺性斜視(外転神経麻痺・動眼神経麻痺)、デュアン症候群(代償性頭位や水平偏位が著明な場合)、単眼挙上不全、紛失筋・滑脱筋である。通常の前後転術では対応できない高度な眼球運動制限がある場合に選択される。
移動術の適応となる主要疾患を以下に示す。
麻痺性斜視
外転神経麻痺:最も一般的な適応。後天性の原因として外傷、脳血管障害、脳腫瘍、末梢神経障害、ウイルス感染、糖尿病がある。
動眼神経麻痺:上斜筋腱移動術(Scott法)や外直筋の鼻側移動術が適応となる。
その他の適応
デュアン症候群(DRS):代償性頭位、水平偏位、重度共同収縮が手術適応となる。
単眼挙上不全(MED/double elevator palsy):改良西田法が用いられる。
紛失筋・滑脱筋:従来の再付着術が不可能な場合に移動術が選択される。
強度近視に伴う固定内斜視:上外直筋結合術(横山法)が効果的。
不全麻痺で眼球が正面まで動く場合は前後転術(麻痺筋の短縮術+拮抗筋の後転術)で対応可能である。正中を越えない不全麻痺や完全麻痺では筋移動術が必要となる。
不全麻痺で眼球が正中を越えて動く場合は、前後転術(麻痺筋の短縮術+拮抗筋の後転術)で対応可能である。正中を越えない不全麻痺や完全麻痺で初めて移動術の適応となる。また発症から6ヶ月間は自然回復を待つため、保存的経過観察を行うのが原則である。
| 検査 | 目的 |
|---|---|
| カバーテスト | 偏位量と方向の評価 |
| Hessチャート | 各外眼筋の運動障害パターンの可視化 |
| 牽引試験 | 拘束の有無(拘束があれば移動術は適応外) |
| 自動収縮力試験 | 患筋の残存機能の評価 |
| プリズム測定 | 偏位量の定量(PD) |
| 頭部画像診断(CT/MRI) | 脳幹・脳底部・海綿静脈洞・眼窩の病変検索 |
| MRI T1冠状断 | 上斜筋萎縮の評価(代償不全性の鑑別) |
拘束がある場合は移動術の適応外となるため、牽引試験は必須の術前検査である。
原則として6ヶ月間の保存的経過観察後に手術適応を判断する。
全幅筋腱移動術(FTT)
上下直筋の全幅を外直筋側へ移動する。前眼部虚血防止のため水平直筋への同時手術は避ける。
増強法:移動前の上下直筋短縮、調整縫合、後方固定縫合(外直筋付着部から6〜8mm後方)を追加する。
Hummelsheim法
上下直筋の腱の半幅を移動する。毛様体血管の半分を温存でき、前眼部虚血リスクが低減される。
改良型:内直筋後転や移動筋腱の短縮、後方固定縫合を追加。術前43PD±5PD→術後6PD±7PDと報告されている。
増強型:麻痺性内斜視に有効。X型移動術は外斜視に有効1)。
前眼部虚血が最も重要な合併症であり、3筋以上の直筋手術でリスクが上昇する。Hummelsheim法やJensen法などの半幅移動術は、毛様体血管の一部を温存することでこのリスクを軽減する。西田法は切腱が不要で栄養血管をさらに温存できる。また、術後に完全な眼球運動改善は期待できず、第一眼位以外では複視が残存する可能性がある。
移動術の作用機序は複数の要素から構成される。
おそらくこれらの複数のメカニズムが同時に寄与していると考えられる。
移動術の主な目的は第一眼位での眼位を整えることである。麻痺筋方向への単眼運動はあまり改善しない場合がある。
移動術の主な目的は第一眼位(正面視)での眼位矯正と代償性頭位の解消である。麻痺筋方向への単眼運動は改善が限定的な場合があり、第一眼位以外の方向では複視が残存する可能性がある。しかし第一眼位と下方視での複視消失が得られれば、日常生活の質は大きく改善する。
Shengら(2024)は、脳幹海綿状血管腫による8年間持続した核上性眼筋麻痺に対し、2段階の手術(第1段階:右内直筋・外直筋後転10mm、第2段階:右外直筋短縮10mm+左内直筋短縮8mm+右上下直筋半幅移動)で良好な一次眼位矯正と代償性頭位の消失が得られたと報告した1)。術後6ヶ月で前眼部虚血は認められなかった。
Jethaniの22例の長期追跡では、85PD超の大角度内斜視に対する筋移動術と内外直筋の短縮後転併用で、平均2年の追跡期間において良好な矯正が維持された1)。
Arfeenらの報告では、慢性外転神経麻痺に対するHummelsheim法とJensen法の成功率に統計的有意差は認められなかった1)。
Gokoffskiらの報告では、増強Hummelsheim法は麻痺性内斜視偏位に、X型移動術は外斜視偏位に有効であった1)。