内斜視・下斜視型
眼位:内方・下方への偏位が主体。最も多い表現型。
外転制限:外転方向への眼球運動が著しく制限される。
上転制限:上方向への眼球運動も障害される。
斜視角:典型例では内斜視約110PD、下斜視14PDに達する2)。

固定斜視(Strabismus Fixus)は、長年の病的強度近視を有する患者に発症する進行性の大角度内斜視・下斜視であり、眼球回旋制限を伴う疾患である。別名「ヘビーアイ症候群(Heavy eye syndrome)」とも呼ばれる。加齢関連の開散不全の最重症型に位置付けられる。
強度近視は通常、屈折値 -8.00D以上かつ眼軸長27mm以上と定義される。固定斜視の大部分の症例では眼軸長が30mm以上に達する。先天性線維化症、アミロイドーシス、強度近視などに関連して発生する。
発症年齢は中年期以降が多く、進行性の経過をとる。性差が著しく、女性が約90%を占める。
近視の世界的な有病率増加も重要な背景である。2050年までに世界の近視人口は約50億人、強度近視人口は約10億人に増加すると見込まれる7)。日本では60〜70代(22,379人を対象とした調査)の6.96%が両眼とも眼軸長26.0mm以上の強度近視であると報告されており1)、強度近視(-7.90D)の有病率は30年間で0.2%から1.6%に増加している1)。
強度近視を有する高齢女性に多い。患者の約90%が女性であり、眼軸長30mm以上の症例が大部分を占める。中年期以降に発症し、徐々に進行する特徴がある。
眼球は内転・下転位に固定され、最重症例では全く動かない。外転および上転方向に機械的な運動制限を認める。牽引試験では外転・上転方向で陽性となる。
固定斜視には大きく2つの表現型がある2)。
内斜視・下斜視型
眼位:内方・下方への偏位が主体。最も多い表現型。
外転制限:外転方向への眼球運動が著しく制限される。
上転制限:上方向への眼球運動も障害される。
斜視角:典型例では内斜視約110PD、下斜視14PDに達する2)。
外斜視・下斜視型
眼位:外方・下方への偏位が主体。比較的まれな表現型。
内転制限:内転方向への眼球運動が制限される。
発症機序の違い:外直筋の下方偏位と上直筋の鼻側偏位のパターンが異なる。
合併所見:結膜下の黄色い軟らかい脂肪塊(脂肪脱出)を伴う場合がある2)。
結膜下脂肪脱出を伴う場合、上外側の結膜下に黄色い軟らかい腫瘤として観察される2)。
固定斜視の原因は複数あるが、強度近視が最も多い。
以下の原因分類により、発症機序と臨床的特徴が異なる。
| 原因 | 機序・特徴 |
|---|---|
| 強度近視(最多) | 眼軸延長による眼球脱臼 |
| 先天性線維化症 | 内直筋の弾力性喪失 |
| 外直筋麻痺 | 二次的な内直筋拘縮・線維化 |
| アミロイドーシス | 外眼筋へのアミロイド浸潤 |
| その他 | 機械的因子・進行性線維化・ミオパチー・筋炎 |
強度近視性固定斜視では、近視性固定斜視の平均眼軸長は報告によって28.9±2.03mm・30.5±3mm・32±5mmと差がある1)。多くの患者で近視が-15D以上、眼軸長が31mmを超える2)。
強度近視であっても全例が固定斜視になるわけではない。眼軸延長が均等方向に生じ、上外側への眼球脱臼が起きない場合は固定斜視に至らない。眼軸の延長方向と筋円錐との位置関係が発症の鍵を握る。
眼窩MRI冠状断が最も適した診断法である。T1強調画像(脂肪抑制なし)が最適であり、外眼筋の偏位と眼球後部の脱臼を明瞭に評価できる。
脱臼角度(SR-LR間角度)の計測が重要であり、固定斜視では平均179.9±30.8°に達し、固定斜視を伴わない症例の平均102.9±6.8°と比較して著しく大きい4)。軽症例では正面視・右下向き・左下向きの複数方向でのMRI撮影が必要となる。
CT冠状断でも眼球後部の脱臼位置や筋円錐外脂肪の状態を評価できる2)。
以下の疾患との鑑別が重要である。
眼窩MRI冠状断が最も適している。T1強調画像(脂肪抑制なし)で外眼筋の偏位と眼球脱臼を評価する。固定斜視では上直筋・外直筋間の脱臼角度が平均179.9±30.8°に達し、固定斜視のない症例と比較して有意に大きい4)。
手術が唯一の有効な治療法である。偏位が大きく非共同性であるため、プリズム等の保存的治療は基本的に適応外となる。
日本における第一選択術式である。上直筋(SR)と外直筋(LR)の筋腹を付着部から15mm後方で縫合固定する方法であり、脱臼した眼球後部を正常の筋円錐内に戻すことが目的である。使用する縫合糸は5-0ポリエステル糸が標準的である。
横山法に内直筋後転術を追加するかどうかは議論がある。長年の外転制限がある症例では内直筋の拘縮が生じている可能性があるため、内直筋後転術の追加が推奨される場合がある1)。一方で、純粋な横山法と比較して内直筋後転の追加効果がないとする報告や、過矯正のリスクを指摘する報告もある1)。
Koiwa et al.(2024)は眼軸長33.97mmという極めて長い眼軸長を持つ68歳女性の症例を報告した1)。術前は右眼が内転・下転位に固定され約113Δの内斜視を呈していた。MRIでの脱臼角度は181°であった。横山法(SR-LRを付着部から15mm後方で5-0ポリエステル糸にて縫着)に内直筋5mm後転を追加した結果、術後には残余内斜視が約20Δまで改善し、正中を越える外転が可能となった。術後MRIでは脱臼角度が181°から104°に改善した。
縫合糸による筋固定術の代替法として、シリコンバンドを使用するループ筋固定術がある2)。従来の縫合筋固定術と比較して、眼球穿孔・筋裂開・縫合糸関連合併症・前眼部虚血が少ない利点がある2)6)。
Lalwani & Kekunnaya(2021)は、両側の強度近視性固定斜視(眼軸長:右眼34.21mm・左眼34.41mm)に脂肪脱出を合併した60歳男性を報告した2)。シリコンバンド(No.240)による外直筋-上直筋筋固定に内直筋後転と脂肪切除を組み合わせた手術を施行した。術後には外転制限が-4から-1に改善し、脂肪脱出も消失した2)。
深い眼窩や狭い瞼裂を有する症例では、付着部から15mm後方への縫着が従来法では困難な場合がある。外側眼角切開・外側眼角靭帯離断・上結膜円蓋切開を追加する変法により、広い術野を確保する方法が報告されている3)。
Lee et al.(2021)は深い眼窩・狭い瞼裂(Hertel値11・12mm)を有する69歳女性に変法横山法を施行した3)。外側眼角切開に加え、眼窩外側壁の一部除去により十分な術野を確保した。術後3ヶ月において良好な眼位の回復と外眼筋運動の改善が得られた3)。
手術が唯一の有効な治療法である。偏位が大きく非共同性であるため、プリズム等の保存的治療は基本的に適応外である。プリズム矯正が困難な角度の斜視であることに加え、機械的な眼球固定を解除することが治療の本質であるため、手術以外での根本的な改善は期待できない。
強度近視性固定斜視の発症機序は以下の段階的な変化による。
固定斜視でない強度近視眼では脱臼角度の平均が102.9±6.8°であるのに対し、固定斜視では179.9±30.8°と有意に大きく4)、脱臼の程度が固定斜視の発症に直接関与していることを示している。
一般病理として、外眼筋の組織学的所見では筋原線維の消失や線維化が認められる。先天性固定斜視では内直筋の先天的な線維化、外直筋麻痺由来の症例では二次的な内直筋拘縮・線維化が主たる病理所見となる。
Wabbels et al.(2021)は横山法の実臨床データを大規模多施設解析で報告した5)。内直筋後転の追加は純粋な横山法と比較して追加効果がないとされており、過矯正のリスクも指摘された1)。この結果は術式の適応決定における議論を深めている。
近視の世界的な有病率増加が固定斜視の患者数増加につながることが予測されている1)。2050年までに強度近視人口が約10億人に達すると見込まれる7)中、固定斜視の予防・早期介入に関する研究が今後の重要課題となる。
深い眼窩・狭い瞼裂などの解剖学的困難症例に対する変法の有効性が報告されており3)、外側眼角切開や眼窩外側壁の部分除去を組み合わせることで手術適応を拡大できる可能性がある。また、脂肪脱出を合併する症例に対するシリコンバンド筋固定術と脂肪切除の組み合わせについても継続的な検討が行われている2)。