眼振
高頻度・小振幅:「シマリング(shimmering)」と表現される微細な眼球運動。
非共同性:左右で振幅・方向が異なる非同調性の揺れ。振子様の波形が多い。
多方向性:水平・垂直・回旋など多様で、注視方向により変化する。
間欠性:単眼性・非対称性・間欠性となることもある。固視や近見努力で増強する。

点頭痙攣症候群(spasmus nutans syndrome; SNS)は、通常生後2年以内に発症する後天性の眼振の一種である。以下の三徴を臨床的特徴とする。
分類上は広義の先天眼振に含まれ、生後早期から3歳頃までにみられ始める。大半は特発性の良性疾患であり、2〜3年以内に自然消退する1)。一卵性双生児の研究から家族性の要因も示唆されている。
ただし約15%の症例で視神経膠腫(optic nerve glioma)の合併が報告されており、画像検査による除外が必須となる1)。稀に先天停止性夜盲(congenital stationary night blindness; CSNB)などの網膜ジストロフィーとも関連する。
予後は一般的に非常に良好であり、長期フォローアップ研究では良好な視力が期待できる。ただし亜臨床的な眼振が5〜12歳まで持続することがあり、弱視の原因となる屈折異常・斜視・発達遅滞の発生率が高いため、慎重な臨床モニタリングが必要である。長期予後の報告では、内斜視や交代性上斜位、弱視の合併のため視力不良例や立体視の獲得が不十分な例があること、肉眼的には眼振が消失しても小振幅の残存がみられることが報告されている。
大半は3〜4歳までに消退する自己限定性疾患である。ただし亜臨床的な眼振は5〜12歳まで残存することがあり、屈折異常・斜視・弱視の合併にも注意が必要である。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
点頭痙攣は乳幼児に発症する疾患であり、患児自身からの自覚症状の訴えは乏しい。多くの場合、保護者が以下のような症状に気づいて受診に至る。
点頭痙攣の三徴を構成する所見を以下に示す。
眼振
高頻度・小振幅:「シマリング(shimmering)」と表現される微細な眼球運動。
非共同性:左右で振幅・方向が異なる非同調性の揺れ。振子様の波形が多い。
多方向性:水平・垂直・回旋など多様で、注視方向により変化する。
間欠性:単眼性・非対称性・間欠性となることもある。固視や近見努力で増強する。
頭部振盪
head nodding:不規則低頻度(2〜3Hz)で、水平・垂直・回旋性の成分がある。
代償機構:眼振をコントロールするための代償性メカニズムと考えられている。
斜頸
異常頭位:head turnや斜頸が多い。
代償機構:頭部振盪と同様に眼振に対する代償として生じる。
その他の重要な所見を以下に示す。
眼球の細かい揺れ、頭の小刻みな振り、首の傾きが主な徴候である。視神経乳頭蒼白・浮腫やRAPDは早急な脳MRI紹介を要する警告サインである。
点頭痙攣のほとんどは特発性(原因不明)の良性疾患である。一卵性双生児の研究から遺伝的素因の関与も示唆されているが、明確な遺伝子座は同定されていない。
稀に以下の病態に関連して点頭痙攣様の眼振が生じることがある。
点頭痙攣の診断は臨床的に行われる。三徴(眼振・頭部振盪・斜頸)が診察時に確認されれば診断が可能である1)。ただし頭蓋内病変や網膜ジストロフィーを除外するための検査が重要となる。
点頭痙攣症候群と網膜疾患にはオーバーラップが存在するため、点頭痙攣症候群の診断を確定する前に網膜疾患の除外が不可欠である1)。
主な鑑別疾患を以下の表に示す。
| 鑑別カテゴリ | 主な疾患 |
|---|---|
| SN様眼振 | 視神経形成不全、全色盲、先天停止性夜盲、バルデー・ビードル症候群、低髄鞘化白質ジストロフィー |
| 神経疾患 | 視路膠腫、蜘蛛膜嚢胞、オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群、間脳症候群 |
| その他 | 特発性乳児眼振、眼振阻止症候群 |
特発性乳児眼振との鑑別:先天眼振は生涯持続するのに対し、点頭痙攣では眼振を含む症状が数年の経過で自然消退する。
眼振阻止症候群:眼振を有する患者が片眼あるいは両眼を内転させることで眼振を減弱させ、内斜視となった状態である。輻凑時の縮瞳は軽度で、固視眼を内転させる点が特徴的である。
頭蓋内病変の有無は臨床所見だけでは判別できないことが研究で示されており、画像検査に基づく鑑別が必要である。
眼振や頭部振盪の所見だけでは、頭蓋内病変の有無を判別できない。約15%に視神経膠腫の合併が報告されており、MRIによる除外が重要である。CTより検出感度が高く、放射線被曝も回避できる。
点頭痙攣は通常、自己限定性(self-limited)の疾患であり、特別な薬物治療や手術治療は不要である1)。管理の基本は以下の通りである。
先天眼振に対する一般的な治療法として以下が知られている。点頭痙攣自体は自然消退するため通常は適用されないが、弱視や屈折異常の合併例では参考となる。
点頭痙攣自体は自然消退するため、特別な治療は通常不要である。ただし屈折異常・斜視・弱視の合併には適切な管理が必要であり、定期的な眼科フォローアップが推奨される。
点頭痙攣の正確な発症機序は現在も不明である。
頭部振盪と斜頸は、眼振の頻度や非対称性を軽減し視覚を改善させるための代償機構(compensatory mechanisms)と考えられている。眼振に対して頭部の反復運動や頸部の異常姿勢をとることで、網膜像の安定化を図っている可能性が示唆される。
病変の局在に関しては、網膜または視神経の関与が推定されている1)。多くは特発性であるが、視交叉部膠腫に起因する場合には視路の障害が眼振の原因となる1)。
先天眼振一般の特徴として、輻凑(convergence)により眼振の振幅が減少または消失する症例が約80%にみられることが報告されている。この所見は前述のvergenceプリズム法の理論的根拠となっている。
Ramanziniら(2024)は、眼振・全般性発達遅延・MRIでのびまん性低髄鞘化を呈した3歳男児の症例を報告した2)。当初Pelizaeus-Merzbacher病(PMD)が疑われたが、PLP1遺伝子に病的変異は認められず、エクソーム解析でGJC2遺伝子のホモ接合変異が同定され、Pelizaeus-Merzbacher-like disease(PMLD)と診断された。PMDとの鑑別には、脳幹・小脳の低髄鞘化所見と正常な聴性脳幹反応が手がかりとなる。発達遅延を伴う乳幼児の眼振では、低髄鞘化白質ジストロフィーも鑑別に含めるべきである。
Doyaら(2022)は、3か月間の過度な頭部振盪を主訴とした1.5歳女児の症例を報告した3)。頭部振盪は歩行・情動・ストレスで増悪し、集中時に減弱、睡眠中は消失した。頭部MRIでモンロー孔を閉塞するトルコ鞍上くも膜嚢胞(3×5×7 cm)と水頭症が認められた。神経内視鏡下嚢胞脳室吻合術・嚢胞脳槽吻合術を施行し、術後6か月で頭部振盪は完全に消失した。乳幼児の頭部振盪ではBobble-head doll syndromeの鑑別が重要であり、早期の画像検査と外科的介入が良好な転帰につながる。