後眼部異常(主要基準)
胎児血管遺残/PHPV:硝子体動脈の退縮不全。視力障害の原因となる。
モーニンググローリー乳頭奇形:視神経乳頭の特徴的な先天奇形。
視神経萎縮・形成不全:視神経の低形成または萎縮。
視神経乳頭浮腫:後頭蓋穩奇形に伴う頭蓋内圧亢進で生じる。
乳頭周囲強膜ブドウ腫:強膜の先天的外方膨隆。
網膜血管異常:発達異常による網膜血管の走行異常。

PHACES症候群は、大型の頸顔面分節状乳児血管腫に複数の構造奇形を伴う神経皮膚症候群(母斑症)である。OMIM番号606519。母斑症とは皮膚・中枢神経系・眼器に良性組織増殖病変がみられる疾患群であり、神経堤病の一種に位置づけられる。
アクロニムが示す構成要素は以下のとおりである。
1978年にPascual-Castroviejoが初報告し、1996年にFriedenがPHACESアクロニムを確立した1)。1998年にBoulinguezがPHACESとして概念を拡張している。別称として「PHACE連合」「パスカル・カストロビエホII型症候群(P-CIIS)」とも呼ばれる。ICD-10コードはQ28.8。
疫学的特徴は以下のとおりである1)。
全乳児血管腫の2〜3%、頸顔面血管腫の約20%に合併する1)。250例以上の報告があるが、稀な疾患であることに変わりなく、長期縦断研究はまだ実施されていない。
乳児期に発見される疾患のため、患者本人の自覚症状は通常みられない。保護者が顔面の赤紫色の腫瘤、眼位のずれ、あるいは視線が合わない様子に気づいて受診することが多い。
5cm以上の頸顔面分節状血管腫が特徴的である1)。三叉神経V1〜V3デルマトーム分布に沿って広がる。前頭側頭部の血管腫は脳・眼のリスクが高く、下顎部の血管腫は心血管リスクが高い。血管腫は7歳頃までに自然退縮する2)。声門下血管腫を伴う場合は25〜50%に気道狭窄を生じる1)。
皮膚外症状の合併頻度は以下のとおりである1)。最大70%は皮膚外症状を1つのみ有する。
| 系統 | 頻度 |
|---|---|
| 脳血管異常 | 87〜91% |
| 心血管異常 | 37〜67% |
| 脳構造異常 | 52% |
| 眼異常 | 16%(最大1/3との報告あり) |
| 腹側・正中線欠損 | 7〜21% |
| 内分泌異常 | 6% |
後眼部異常(主要基準)
胎児血管遺残/PHPV:硝子体動脈の退縮不全。視力障害の原因となる。
モーニンググローリー乳頭奇形:視神経乳頭の特徴的な先天奇形。
視神経萎縮・形成不全:視神経の低形成または萎縮。
視神経乳頭浮腫:後頭蓋穩奇形に伴う頭蓋内圧亢進で生じる。
乳頭周囲強膜ブドウ腫:強膜の先天的外方膨隆。
網膜血管異常:発達異常による網膜血管の走行異常。
前眼部異常(副基準)
その他の眼科的所見として、眼球突出、先天緑内障、ホルネル症候群、斜視、結膜・脈絡膜血管腫がみられる。最大2/3の症例で顔面血管腫が弱視・斜視の原因となりうる。
後眼部異常(モーニンググローリー乳頭奇形・視神経形成不全・胎児血管遺残など)が診断の主要基準となる1)。前眼部異常(コロボーマ・白内障・小眼球症など)は副基準に相当する。最大2/3の症例で顔面血管腫が弱視や斜視の原因となりうる。
病因は未解明であり、孤発性で非遺伝性とされている。以下の仮説が提唱されている。
子癇前症および前置胎盤の有意な高頻度が報告されている。低酸素症もリスク要因として挙げられている。一次予防の推奨はない。
5cm超の頸顔面血管腫がある場合にPHACES症候群を疑う。診断基準は2009年に策定され、2016年に改訂された1)。
主要基準と副基準の詳細は以下のとおりである1)。
| 系統 | 主要基準 | 副基準 |
|---|---|---|
| 脳構造 | 後頭蓋穩奇形 | 正中線異常・皮質形成異常 |
| 血管・動脈 | 脳・頸部動脈異常、持続性頸動脈-椎骨脳底動脈吻合 | 脳動脈瘤 |
| 心血管 | 大動脈弓異常 | VSD・右大動脈弓・体静脈異常 |
| 眼科 | 後眼部異常(胎児血管遺残/PHPV、網膜血管異常、モーニンググローリー、視神経形成不全、乳頭周囲強膜ブドウ腫) | 前眼部異常(小眼球、強膜化角膜、コロボーマ、白内障) |
| 腹側・正中線 | 胸腹部異常(胸骨欠損、胸骨裂、臍上縫線) | 異所性甲状腺・下垂体機能低下症 |
2016年改訂の診断基準による1)。5cm超の頭部血管腫に加えて、主要基準1つ(または副基準2つ)が揃えば確定的PHACESと診断される。副基準が1つのみの場合は疑い例となる。MRI/MRA・心エコー・眼科検査による系統的スクリーニングが診断に必要である。
多職種連携(神経科・心臓科・眼科)が不可欠である。確立された標準プロトコールはなく、各症状に応じた個別対応となる。
プロプラノロール(第一選択)
用法・用量:2 mg/kg/日を3分割投与2)。乳児血管腫に対する第一選択薬。
PHACES患者での注意:脳動脈狭窄がある場合、血圧低下が脳虚血を誘発するリスクがある1)。開始前にMRA等で脳血管評価が必要。
副作用対応:徐脈が生じた場合にはアトロピンを考慮する1)。
補助薬剤
アスピリン:虚血性イベントの予防目的で使用。
カプトプリル:心不全合併時に使用1)。
シロリムス:プロプラノロール難治例に使用1)2)。mTOR阻害薬として血管腫増殖を抑制する。
副腎皮質ステロイド:デキサメタゾン1)・プレドニゾロン2 mg/kg/日2)。現在は非推奨。
継続的な多職種フォローが必要である。予後は皮膚外症状の種類と重症度に依存する。血管腫は7歳頃までに自然退縮する2)が、臓器圧迫リスクのある増殖期には早期介入が重要である2)。
PHACES患者では脳動脈狭窄の合併率が高いため、プロプラノロールによる血圧・心拍数低下が脳虚血を引き起こすリスクがある1)。投与前にMRA等で脳血管評価を行い、脳灌流圧を維持しながら慎重に使用する。徐脈発生時はアトロピン投与を考慮する。
病態生理は未解明である。現在、以下の2つの主要仮説が提唱されている。
妊娠3〜12週の胚発生期に、頸顔面・脳・心血管・眼器の組織が協調的に形成される時期に発育不全が生じるとする説。血管形成異常と動脈壁破壊が関与すると考えられている。
正中線欠損と動脈異常の分布パターンが、神経堤細胞の移動経路と一致することから支持される仮説。眼球形成の間葉細胞の大部分が神経堤細胞由来であるため、神経堤細胞の発生異常が母斑症の眼症状の根本原因になりうる。
男女比8:1〜10:1からX連鎖優性遺伝子変異が示唆される1)が、比較研究で男性の重度表現型は確認されていない。98人を対象としたゲノムワイドコピー数多型解析では共通変異が検出されず、多因子性疾患であることが示唆されている。異常な血管形成と動脈壁の脆弱化が複合的に関与すると考えられている。
ゲノムワイド解析では共通変異が発見されておらず、全ゲノム解析の必要性が認識されている。250例以上の報告があるものの、長期縦断研究は未実施であり1)、自然史の解明が今後の課題である。
mTOR阻害薬であるシロリムスのプロプラノロール難治性血管腫への使用が報告されている1)2)。
AbouZeidら(2021)は、背部皮膚血管腫と縦隔傍脊椎血管腫を伴うで2例でプロプラノロール・プレドニゾロンによる標準治療後もシロリムスを要したことを報告した2)。臓器圧迫(腎萎縮・気道狭窄)のリスクがある増殖期血管腫に対する早期介入の重要性が強調されている。
PHACES患者の麻酔管理において、近赤外分光法(NIRS)を用いた脳酸素化モニタリング(rSO2)の有用性が報告されている1)。脳灌流の連続評価により、麻酔中の虚血性イベントを早期検出できる可能性がある。
Abtahi D, Shakeri A, Tajbakhsh A. Facing PHACES Syndrome; Anesthesiologist’s Point of View. Anesth Pain Med. 2024;13(6):e141896.
AbouZeid AA, Mohammad SA, Ragab IA, Aly HG. Posterior Mediastinal and Cutaneous Back Hemangiomas in Infants: A New Association. Eur J Pediatr Surg Rep. 2021;9:e37-e40.