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小児眼科・斜視

小児ロービジョン

小児ロービジョン(Pediatric Low Vision)は、21歳未満の不可逆的な視力喪失・永続的視覚障害であり、屈折矯正・内科的治療・外科的介入では改善できない状態を指す。

具体的な診断基準は以下の通りである。

  • BCVA 20/40(0.5)以下:良好な方の眼での最良矯正視力
  • コントラスト感度低下例:コントラスト感度が1.4 logユニット未満の場合、BCVA 20/30(0.6)以下でもロービジョンに該当する
  • 視野狭窄:視野が20度未満

先進国における小児視覚障害の疫学については、脳性視覚障害(cortical/cerebral visual impairment; CVI)が最も頻度の高い原因として知られている。WHO報告(2001)では先進国において中枢神経系疾患が小児失明の28%を占め、英国ではCVIが重度小児視覚障害・失明の最大48%を占めるとされる。2)

その他の主要原因として、眼振視神経萎縮視神経形成不全が挙げられる。IRISレジストリによれば、良好な方の眼の視力20/200未満の最多原因は未熟児網膜症(ROP)である。

視覚障害は知的障害や行動障害と誤解される可能性があり、早期からの正確な診断と支援が発達転帰に大きく影響する。

Q 小児ロービジョンはどの程度の視力低下から該当するか?
A

良好な方の眼のBCVA 20/40(0.5)以下が基準となる。コントラスト感度が1.4 logユニット未満の場合はBCVA 20/30(0.6)以下でも該当し、視野が20度未満の場合も対象となる。

視覚障害の兆候は年齢によって異なる。以下に年齢段階別の主要な兆候を示す。

年齢主な兆候
出生~4ヶ月強い光への感受性低下、瞬目反射の欠如・遅延、社会的微笑の発達遅延、眼振
5~8ヶ月視線が合わない、物体や顔への固視不全、斜視
9~24ヶ月自分の手に気づかない、目的を持った手や腕の動きの欠如
24ヶ月~ハイハイ時の不器用さ、物体を顔に近づけて持つ、縁石・階段の昇降困難
学童期読書の困難、頭痛の訴え

粗大運動・微細運動の遅れも視覚障害の重要な手がかりとなる。読書困難は学習障害と誤解される可能性がある。

Q 乳幼児のロービジョンの兆候にはどのようなものがあるか?
A

出生~4ヶ月では瞬目反射の欠如・遅延や社会的微笑の発達遅延が見られる。5~8ヶ月では視線が合わない・固視不全、9~24ヶ月では手に気づかない・目的動作の欠如が兆候となる。粗大・微細運動の遅れも視覚障害を示唆する重要なサインである。

CVIに特徴的な臨床所見を以下に示す。2)

  • 視覚機能の変動性:てんかんや体調不良で一時的に低下し、視覚的に複雑な環境での困難を生じる
  • crowding effect / simultanagnosia:CVI児の41%がcrowding ratio 2.0を示す(非CVI児は4%)
  • 色覚の相対的温存:両側性色覚表現に起因する
  • コントラスト感度低下:日常視機能と視力の乖離を生じる
  • 視覚誘導性眼球運動の潜時延長:サッカード・固視の遅延
  • 視野欠損:損傷部位に応じた個別パターンを示す
  • 羞明・paradoxical light gazing:後者は視床損傷に起因と推定される

高次視覚認知障害(Dutton分類)としては、認識障害(相貌失認:20例中15例)、方位障害(topographic agnosia)、奥行き知覚障害(astereocognosis)、運動知覚障害(akinetopsia)、同時知覚障害(simultanagnosia)が知られている。2)背側経路機能障害(dorsal stream dysfunction)として視覚運動統合障害・optic ataxiaを呈することもある。

小児ロービジョンの原因は多岐にわたる。主要な原因を以下に分類する。

  • 角膜混濁、先天白内障、原発性無水晶体
  • 脈絡網膜コロボーマ、視神経形成不全、中心窩形成不全
  • 輪部幹細胞欠損症、先天眼振、無虹彩症
  • 網膜ジストロフィ、外傷、医原性損傷

代表的な症候群と主な眼症状を以下に示す。

症候群主な眼症状
レーバー先天黒内障眼振、高度遠視、調節能力低下、羞明
スターガルト病中心視力喪失、羞明、色覚異常、暗順応遅延
網膜色素変性症夜盲、進行性周辺視野制限、管状視野
全色盲BCVA低下、色覚障害、羞明、眼振
眼皮膚白皮症視神経/中心窩形成不全、眼振、斜視、羞明
アクセンフェルト・リーガー症候群瞳孔偏位、多瞳孔症、緑内障
バルデー・ビードル症候群暗順応遅延、羞明、中心視力・色覚喪失
CHARGE症候群脈絡網膜コロボーマ、白内障、眼瞼下垂、斜視
ハーラー症候群角膜混濁、網膜色素変性、視神経乳頭腫脹、緑内障
ロウ症候群先天白内障、角膜ケロイド、乳幼児緑内障
スティックラー症候群硝子体液化、網膜裂孔/剥離、病的近視
スタージ・ウェーバー症候群脈絡膜血管腫、緑内障
アッシャー症候群夜盲、進行性周辺視野喪失

CVIは先進国における小児視覚障害の最多原因である。2)

  • 最多原因:低酸素虚血性脳症(特に早産児)
  • その他の原因:てんかん、水頭症、外傷、感染症
  • 病理機序:後膝状体以降の視路損傷、逆行性経シナプス変性による前部視路への影響
  • 一部の遺伝性症候群にも合併する

精度の高い評価には詳細な病歴聴取が不可欠である。

  • 発症時期、重症度、進行の詳細
  • 視覚障害の家族歴
  • 日常活動の障害程度・心理社会的影響
  • ロービジョン補助具の使用歴
  • 近接作業・移動の困難
  • 子供本人の参加(self-advocacy)の重要性

発達遅滞児では発達年齢に応じた検査法を選択する。

ゴールドスタンダードは年齢適切な視標によるlogMAR検査(近距離+遠距離)である。単一視標(字ひとつ)での検査はcrowding phenomenonにより視力を過大評価する可能性がある。

0~36ヶ月

Teller Acuity Cards:ゴールドスタンダード。ロービジョン児でも検証済み。乳幼児が縞模様を好む性質(PL法)を利用する。

縞視力カード法(TAC, Cardiff card):外来で簡便に実施可能。

森実式ドットカード:2歳頃から可能。30cm距離で実施する。知的障害児や肢体不自由児ではドットカードの小さな目を指差す動作が困難であることが多いため、「どっち」の概念理解ができている子どもには0カードと目のあるカードの両方を出して選んでもらう方法も有用である。

VEP(視覚誘発電位):PL視力・OKN視力より高値を示し、後頭葉皮質反応を直接評価できる。OKN視力の目安は新生児20/400、6ヶ月20/100、1歳20/60。

4~7歳

LEAシンボル:読み書き前の子供に適用。絵視標・図形視標は2歳半~3歳半から測定可能。

ランドルト環・HOTV:文字学習中の子供に使用。ランドルト環の成功率は3歳で60%、4歳で95%。

字ひとつ視力1.0到達率:3歳で67%、4歳で75%、5歳で85%、6歳でほぼ100%。

注意点:字ひとつ視力と字づまり視力の読み分けは8~10歳頃まで困難(crowding phenomenon)。

8~13歳

LogMARチャート:この年齢層に最適な検査法。

眼振児の検査:プラスレンズによるぼかし、または半透明遮閉で単眼視力を評価する。

発達の考慮:近見視力は遠見視力に先行して発達する。

Q ロービジョン児の視力はどのように測定するか?
A

年齢によって推奨される検査法が異なる。0~36ヶ月はTeller Acuity Cardsや縞視力カード法、4~7歳はLEAシンボルやランドルト環、8~13歳はLogMARチャートが推奨される。単一視標での検査は視力を過大評価するため、crowdingを保持した検査法が重要である。

  • 対座法視野検査:中心物体への固視+周辺カラフルターゲット(小児に適用しやすい)
  • 動的視野検査(ゴールドマン):約6歳以上で可能。暗点検出に優れる
  • 静的自動視野検査(ハンフリー、オクトパス):迅速かつ正確

視力と日常視機能の乖離を説明する重要な手がかりとなる。

  • Hiding Heidi Test:1.25%~100%のコントラストレベル4枚+白紙の計5枚を使用する
  • Pelli-Robson test:年長児向け。1m距離で実施する
  • 石原式検査(赤緑色覚異常の検出)
  • Farnsworth D-15テスト、MRMテスト(視力低下児向け)

ロービジョン児は屈折異常の頻度が高く、調節麻痺下屈折検査が特に重要である。小児では調節力が強いため、調節麻痺薬を用いた屈折検査が必要となる。調節能力は動的レチノスコピーで評価し、障害がある場合は二重焦点矯正の追加を検討する。ポリカーボネートレンズによる眼の保護も考慮する。

  • OCT網膜電図、VEP(必要に応じて鎮静・全身麻酔下で実施)
  • CVIの評価:介護者質問票、fMRI、拡散テンソルMRI、遺伝子検査2)

多職種チームによる包括的管理

Section titled “多職種チームによる包括的管理”

小児ロービジョンの管理には多職種による連携が不可欠である。チームの構成員は以下の通りである。

  • 小児眼科医、検眼士
  • 作業療法士、視覚リハビリテーション療法士
  • 支援技術トレーナー、歩行訓練士
  • 心理士、職業カウンセラー
Q 小児ロービジョンの管理にはどのような専門家が関わるか?
A

小児眼科医・検眼士を中心に、作業療法士、視覚リハビリテーション療法士、支援技術トレーナー、歩行訓練士、心理士、職業カウンセラーによる多職種チームが関与する。子供の発達段階・生活環境に応じた包括的支援が重要である。

ロービジョン補助具(近距離視覚補助具)

Section titled “ロービジョン補助具(近距離視覚補助具)”
  • 単焦点眼鏡型拡大鏡:近距離作業に有用だが、不自然な姿勢が姿勢悪化・首への負担を招くことがある
  • 手持ち型・スタンド型拡大鏡:用途に応じて使い分ける
  • 単眼鏡:遠距離の視覚課題に使用する
  • 拡大読書器(CCTV):カメラで撮影した映像をスクリーンに拡大表示する。最高倍率を提供できるが高コスト
  • スマートフォンアプリ・AI技術:Siri、Alexaなどの音声アシスタントを活用する
  • オーディオブック、スクリーンリーダー、音声変換:読み書き困難への対応

電子視覚デバイスによる5~10倍拡大は、中等度~重度視覚障害児における知覚学習の効果を向上させることが報告されている。1)

  • 遮光レンズ
  • 特殊吸収フィルター・サイドシールド付き眼鏡

学校での適応支援として以下が有効である。

  • 大活字本、太字筆記用具の使用
  • 傾斜机・適切な照明の確保
  • タブレット・電子書籍リーダーの活用
  • 点字ラベリング(家庭での物品配置の固定と組み合わせる)

日本では就学先として通常学級・特別支援学級・特別支援学校の3種類がある。視覚障害が非常に重い子どもの場合は、重複障害であっても地域の視覚特別支援学校(盲学校)の教育相談に早期につなげることが重要である。学校への診療情報提供書には、視力・屈折度数・眼鏡の必要性と使用方法、斜視の有無や両眼視機能、眼球運動、視野、色覚、遮光の必要性、座席の配慮の必要性、教科書の文字の大きさなど具体的に記載することが勧められる。

ロービジョン児はメンタルヘルスの懸念が高頻度に見られる。主な誘因として、移動能力低下、介護者依存、レジャー制限、社会的発達機会の減少が挙げられる。小児の症状は頭痛、悪夢、イライラ、認知変化などの身体症状として現れることがある。

対処法として、家族・教師・友人の社会的支援、専門的カウンセリング、自立維持の促進が重要である。早期からの自己主張(アドボカシー)教育も推奨される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

視覚発達は出生直後から始まり、段階的に機能が獲得される。

  • 出生~4ヶ月:光への順応、目の前の物体への焦点合わせ
  • 5~8ヶ月:深径覚(立体視)の発達、顔の認識
  • 9~12ヶ月:手と目の協調、粗大な空間認識の確立
  • 生後2年間:環境内の物体探索能力の構築

近見視力は遠見視力に先行して発達する。この発達過程における障害がロービジョンの機能的影響を決定する。

CVIの主な病態生理的特徴を以下に示す。2)

  • 最多原因:低酸素虚血性脳症(特に早産児)による後膝状体以降の視路損傷
  • 逆行性経シナプス変性:後部視路の損傷が前部視路(外側膝状体網膜神経節細胞)にも影響を及ぼす
  • 背側経路優位の障害:背側経路(dorsal stream、where経路)が腹側経路より障害されやすい
  • 「ブラインドサイト」:膝状体外視路または視覚系の再編成に関連する現象
  • 運動知覚障害:optic flow、global/biological motionの検出異常

先天白内障後のコントラスト感度については、全視野にわたり1~1.5 log unitsのコントラスト上昇が必要であることが報告されている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

視覚障害児の眼球運動パターンは正常視力児と異なることが体系的に明らかにされている。1)

Fonteyn-Vinkeら(2022)のシステマティックスコーピングレビューでは、眼球性視覚障害(VI)児の視覚刺激への反応時間は170±28ms遅延し、CVI児では232±36ms遅延することが報告されている。読書困難を持つVI児では、固視数の増加、固視時間の延長、サッカード振幅の減少、組織化されていない眼球運動戦略が認められる一方、正常読者は各行で類似した眼球運動パターンを示す。低視力児・眼振児では固視固定面積の増大も観察される。1)

知覚学習は視覚障害児における新たなリハビリテーション介入として注目されている。1)

コンピュータ化されたcrowded letter discrimination trainingにより、reading acuityおよびcritical print sizeの改善が報告されている。ペーパーベースの知覚学習では、crowded training群のみでcrowded near visual acuityへの転移が確認された。近距離視力・立体視・crowdingが改善し、その効果は持続する。電子視覚デバイス(5~10倍拡大)を用いることで、中等度~重度VI児における知覚学習効果がさらに向上する。1)

視覚注意スパン(VAS)ベースの訓練

Section titled “視覚注意スパン(VAS)ベースの訓練”

VAS機能障害と読字障害を持つ子供を対象に、VAS機能と読字パフォーマンスの両方の改善が報告されている。1)訓練内容は以下の3要素から構成される。

  • 長さ推定課題(bottom-up attentionの促進)
  • 視覚探索・数字消去(top-down attentional modulationの促進)
  • 視覚追従(eye movement controlの改善)

viewing strategyと注意ネットワーク

Section titled “viewing strategyと注意ネットワーク”

viewing strategyは3つの注意ネットワークとの関連が示されている。1)

  • alerting(覚醒)ネットワーク:色手がかりによる支援が有効
  • orienting(定位)ネットワーク:holistic gaze strategyが表情認識・読書に有効
  • executive(実行)ネットワーク:構造化された眼球運動パターンの訓練が有効

CVIに対する治療として、視覚刺激療法・幹細胞治療が提唱されている。2)また、fMRI・拡散テンソルMRIなど新しい神経画像検査による評価の可能性も研究されている。


  1. Fonteyn-Vinke A, Huurneman B, Boonstra FN. Viewing Strategies in Children With Visual Impairment and Children With Normal Vision: A Systematic Scoping Review. Front Psychol. 2022;13:898719.

  2. Chang MY, Borchert MS. Advances in the evaluation and management of cortical/cerebral visual impairment in children. Surv Ophthalmol. 2020;65:708-724.

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