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小児眼科・斜視

ナノフタルモス(真性小眼球症)

1. ナノフタルモス(真性小眼球症)とは

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ナノフタルモス(nanophthalmos)は、ギリシャ語で「小人」を意味する「nano」に由来する名称である。胎生裂(embryonic fissure)の閉鎖後に眼球の成長が停止することで生じる発達異常であり、前眼部・後眼部の両方が短縮する完全型小眼球症(complete microphthalmos)に分類される1)

他の明らかな眼奇形や先天異常を伴わない点が特徴であり、散発例のほか常染色体優性(NNO1、NNO3)および常染色体劣性(NNO2)の遺伝形式が報告されている。

小眼球症全体の有病率は英国で0.002〜0.017%、中国で0.0009%と推定される1)ぶどう膜滲出症候群(UES)の発症率は英国で年間1000万人あたり約1.2例と極めて稀である4)

単純型小眼球症(simple microphthalmos)は、眼軸短縮の部位により以下の3型に分けられる1)

病型短縮部位強膜肥厚
ナノフタルモス(完全型)前眼部+後眼部あり
相対的前眼部小眼球症(RAM)前眼部のみなし
後眼部小眼球症(PM)後眼部のみあり

眼軸長20.5mm以下が真性小眼球の定義とされ、Duke-Elderは眼球容積が正常の2/3以下と定義した。馬嶋の診断基準では、眼軸長が年齢正常の0.87以下とされており、成人では男性20.4mm、女性20.1mm以下が基準となる。年齢別の正常眼軸長と小眼球の眼軸長は以下の通りである(超音波Aモード測定値)。

出生後2歳6〜7歳13歳〜成人
正常(男)16.85mm20.60mm22.00mm23.40mm
正常(女)16.60mm20.29mm21.68mm23.06mm
小眼球(男)14.70mm17.97mm19.19mm20.42mm
小眼球(女)14.44mm17.65mm18.86mm20.06mm
Q ナノフタルモスと後眼部小眼球症の違いは何ですか?
A

ナノフタルモスは前眼部・後眼部の両方が短縮し、小角膜や浅前房を伴う。後眼部小眼球症では後眼部のみが短く、前眼部のパラメータは正常〜わずかに小さい程度にとどまる。

  • 高度遠視:+8D〜+25Dの強度遠視を呈し、幼少期から厚い眼鏡やコンタクトレンズが必要となる。
  • 両側性弱視:出生時からの高度遠視に起因する。最高矯正視力(BCVA)が20/40(0.5)を超えることは稀である。網膜神経線維層の形成異常を伴う器質的弱視の要素もあるため、正常視力の獲得が困難な例が多い。
  • 急性緑内障発作:眼痛、頭痛、霧視、充血を呈する。若年(20歳代)から発作を起こしうる。高度遠視のため弱視であることが多く、慢性緑内障の発症に気付きにくい。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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前眼部所見

眼球:短眼軸長(18〜20mm以下)、眼球陥凹、狭い眼瞼裂、軽度眼瞼下垂

角膜:径9〜11.5mm(小角膜〜正常下限)、透明、高角膜曲率(>46D、正常43〜44D)1)

前房:浅前房(正常3.14〜3.60mm → 1.38〜2.30mm)1)

水晶体:正常〜肥大。水晶体/眼球容積比(LEVR)11〜32%(正常4%)1)

隅角:狭窄〜閉塞。40代以降に虹彩隆起・周辺虹彩前癒着(PAS)を生じる。

後眼部所見

視神経乳頭:密集像(crowded disc)、乳頭ドラルーゼン。小乳頭のため緑内障性陥凹の判定が困難。

黄斑:黄斑低形成、中心窩無血管域(FAZ)の未発達、中心窩分離様変化、黄斑襞1)

脈絡膜:中心窩下脈絡膜厚(SFCT)551.30±87.00μm(正常330.5±46.0μm)。鼻側の脈絡膜厚が相対的に増加1)

強膜:赤道部で2.00mm以上に肥厚(正常0.60mm)。異常コラーゲン線維1)

  • OCT:中心窩陥凹の消失、びまん性黄斑肥厚(中心黄斑厚331.90±78.90μm、正常268.90±24.30μm)1)
  • UBM:浅前房、隅角閉塞、強膜肥厚、ぶどう膜滲出(uveal effusion)、毛様体突起の前方回旋
  • 網膜電図:正常〜様々な程度の明所視・暗所視機能不全
  • 眼底所見:ぶどう膜滲出、漿液性網膜剥離、嚢胞様黄斑浮腫網膜色素変性様所見
Q ナノフタルモスの最高矯正視力が20/40を超えることが稀なのはなぜですか?
A

中心窩無血管域(FAZ)の未発達・黄斑低形成による解剖学的制約に加え、出生時からの高度遠視に伴う両側性弱視が複合的に視力を制限する。合併症(緑内障、網膜剥離、嚢胞様黄斑浮腫)も二次的に視力を低下させる。

非症候群性ナノフタルモスの多くは孤発性であるが、常染色体優性(AD)および常染色体劣性(AR)の遺伝形式も報告されている。

遺伝形式遺伝子座/遺伝子染色体
AD(NNO1)未同定11p
AD(NNO3)未同定2q11-q14
AR(NNO2)MFRP11q23
ARPRSS562q37.1
ADMYRF
ADTMEM9817p12-q12
  • MFRP:13エクソン、579アミノ酸。frizzledファミリー相同膜貫通ドメインを有し、WNTシグナルを介して眼の発達に関与する。網膜色素上皮(RPE)および毛様体で選択的に発現する。
  • PRSS56:13エクソン、603アミノ酸。セリンプロテアーゼドメインを含み、神経網膜・角膜・強膜・視神経に発現する。
  • MYRF(myelin regulatory factor)変異は家族性ナノフタルモスに関与し、Zinn小帯の密度低下と構造的離断を引き起こすことが動物モデルで示されている3)

強膜におけるコラーゲンの異常やコンドロイチン硫酸の減少が発生機序に関与すると考えられている。

症候群性ナノフタルモスとしては、網膜色素変性・中心窩分離・視神経乳頭ドラルーゼン症候群、眼・歯・指症候群(ODD)、ADVIRCなどが知られている。

44研究・1397眼を対象としたメタアナリシスでは、ナノフタルモスにおける緑内障のプール有病率は51.88%(95%CI: 33.33〜70.43%)と報告された5)

主要リスク因子は以下の通りである5)

  • 眼圧:緑内障群の平均眼圧 27.11mmHg
  • 短眼軸長:全体平均眼軸長 17.74mm
  • 浅前房:緑内障群の平均前房深度 1.99mm

合併症の内訳では、急性閉塞隅角緑内障が33.3%と最多であり、悪性緑内障(14.9%)、ぶどう膜滲出(10.4%)がこれに続く5)

Q ナノフタルモスの半数以上が緑内障を発症するのはなぜですか?
A

水晶体/眼球容積比(LEVR)の増大により虹彩が前方に押し出され、相対的瞳孔ブロックが生じる。加齢に伴い周辺虹彩前癒着(PAS)が進行し、房水流出が障害される。さらに強膜肥厚による毛様体脈絡膜滲出が毛様体突起を前方回旋させ、閉塞を助長する。詳細は「病態生理学」の項を参照。

ナノフタルモスの診断は、両側性・対称性の小眼球を確認し、以下の生体パラメータを総合的に評価して行う。

  • 眼軸長測定:超音波Aモード・Bモード、光学的眼軸長測定器(IOLMaster等)で計測する。多くの研究で眼軸長 <21.00mmを診断基準とするが、<20.50mmや <20.00mmなど基準は統一されていない1)
  • 角膜径:<11.00mmを診断基準とする研究が多い1)
  • B-scan超音波:網膜-脈絡膜-強膜(RCS)複合厚 >1.70mmが診断に有用である1)
  • 超音波生体顕微鏡(UBM):浅前房、隅角閉塞、強膜肥厚、毛様体突起の前方回旋を詳細に評価できる。
  • 光干渉断層計(OCT):中心窩陥凹消失、黄斑肥厚、脈絡膜肥厚(EDI-OCT)を定量的に評価する。
  • OCTアンギオグラフィーOCTA:FAZの欠損・低形成の評価に有用である1)
  • 屈折検査:調節麻痺下屈折検査(cycloplegic retinoscopy)で高度遠視の正確な程度を評価する。
  • 画像検査:CT・MRIは眼窩形状の解析に適している。

最も重要な鑑別疾患は後眼部小眼球症(posterior microphthalmos)である。後眼部小眼球症では眼軸長は短く遠視であるが、前眼部のパラメータは正常〜わずかに小さい程度にとどまる。また、前眼部のみが小さい前眼部小眼球症(anterior microphthalmos)との鑑別も要する。

小角膜かつ角膜曲率が大きいため、ゴールドマン圧平眼圧計による正確な眼圧評価は困難である。視神経乳頭が小乳頭を呈するため、緑内障性視神経障害の判定にも注意を要する。

ナノフタルモスの治療は多岐にわたり、年齢・合併症に応じた管理が求められる。

  • 屈折異常の完全矯正を早期に開始する。調節麻痺下屈折検査の値を十分に与え、眼鏡またはコンタクトレンズで矯正する。
  • 片眼性弱視が特定された場合、**アイパッチ(遮閉法)**が推奨される。前眼部の解剖学的過密のため、アトロピンペナリゼーションは安全性の観点から避ける。
  • 調節性内斜視がある場合は両眼視を可能にするため斜視手術を行う。
  • 網膜神経線維層の形成異常を伴う器質的弱視の要素もあり、正常視力の獲得が困難な例が多い。結膜拡張器(コンフォーマ)の装着は3歳以降に患児が嫌がるため、早期開始が望ましい。

閉塞隅角緑内障は管理が困難であり、浅前房・狭隅角の程度が原発閉塞隅角緑内障より強く、強膜肥厚と小角膜がさらに治療を複雑にする。

  • 薬物療法:眼圧への反応は不良なことが多い。毛様体ブロック(悪性緑内障)時の処方例として、アトロピン点眼液1% 1日1回、チモブトール点眼液0.5% 1日2回、ダイアモックス錠250mg 2錠 分2食後、ウラリット配合錠4錠 分2食後の併用がある。高浸透圧薬の点滴で硝子体液を減らし、調節麻痺薬で毛様筋を弛緩させてブロック解除を試みる。
  • レーザー治療:虹彩切開術(iridotomy)、虹彩形成術(iridoplasty)。偽水晶体眼ではNd:YAGレーザーによる後嚢切開後、前部硝子体破壊術を行う。
  • 手術療法濾過手術、水晶体再建術。根治術として水晶体嚢ごと周辺虹彩切除+前部硝子体切除がある。

超音波水晶体乳化吸引術の進歩により安全性は向上しているが、術後合併症(ぶどう膜滲出、嚢胞様黄斑浮腫)のリスクは依然として高い。88.2%の患者で+30D以上の眼内レンズが必要であり、レンズ選択にも困難を伴う1)

Zinn小帯の脆弱性が報告されており、文献レビューでは184眼中15眼(8.2%)でZinn小帯欠損が認められた3)。手術中の急激な眼圧低下は脈絡膜上液貯留を悪化させるため、慎重な操作が必要である3)

手術成績向上のための工夫(surgical pearls)として、前部硝子体切除、硝子体の薬物脱水、強膜層状切除がある。

ぶどう膜滲出・滲出性網膜剥離の管理

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強膜切除術

第一選択:強膜減圧術が最も持続的な治療効果を示す4)

術式:全周4象限、90〜95%深度の広範な強膜切除が有効2)3)。筋付着部から渦静脈まで280〜300度にわたり施行する。

視力回復:水晶体接触型完全網膜剥離でも術前光覚弁→術後中央値20/100の回復が報告されている3)

硝子体手術

第二選択:強膜手術無効例にのみ施行すべきである6)

リスク:医原性網膜裂孔シリコーンオイルタンポナーデの必要性など合併症が多い。

比較:同一患者の両眼で比較した報告では、強膜切除術のほうが安全で解剖学的・機能的予後が良好であった6)

非手術的治療(高用量全身ステロイド)はナノフタルモスのぶどう膜滲出に対して効果が乏しいとされている4)。渦静脈減圧術は技術的に困難で渦静脈穿刺のリスクがある4)

Q ナノフタルモスの白内障手術で注意すべき点は何ですか?
A

Zinn小帯の脆弱性(8.2%で欠損報告あり)と術中の急激な眼圧低下による脈絡膜上液貯留のリスクが主な注意点である。+30D以上の高度数眼内レンズが多くの症例で必要となり、レンズ選択にも困難を伴う。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

MFRPタンパク質は網膜色素上皮(RPE)および毛様体で選択的に発現し、RPE細胞の頂端側に集中する。胎児眼では妊娠20週でRPEに発現が確認され、眼の発達において比較的遅い時期に機能し始める。MFRPは正視化(emmetropization)と眼軸長の調節に不可欠であり、完全欠損患者でも眼以外に特定可能な病変は見られない。

MFRPヘテロ接合体キャリアは遠視を示さないが、角膜曲率や前房深度が一般集団と有意に異なり、半優性(semidominance)を示す。

強膜異常とぶどう膜滲出の機序

Section titled “強膜異常とぶどう膜滲出の機序”

強膜の3層すべてにおいて、ほつれや裂けのある異常コラーゲン線維が認められ、異常プロテオグリカンの沈着も報告されている1)。この異常が強膜の非弾力性を生じ、以下の機序でぶどう膜滲出と網膜剥離に至る。

  1. 強膜肥厚→渦静脈系からの流出障害
  2. 細胞外液の貯留→脈絡膜鬱血
  3. 脈絡膜剥離→漿液性網膜剥離

Mansourら(2024)は、コンピュータモデリングの知見を引用し、ナノフタルモスにおける肥厚した乳頭周囲脈絡膜が視神経乳頭組織を変形させる「区画症候群」が圧迫性視神経症の原因であると報告した。乳頭周囲脈絡膜厚は術前726μmから術後645μmに減少し、95%深度強膜切除+鼻側後方放射状強膜切開により2週間で視力が20/100から20/40に完全回復した2)

MYRF(myelin regulatory factor)の変異を持つマウスモデルでは、浅前房およびZinn小帯線維の密度低下・構造的離断が示された。胚期におけるMFRP遺伝子の機能が眼球の正常サイズ到達に必要であり、変異による毛様体環の拡張不全が結晶体の肥大とZinn小帯の「矮小化」をもたらすと考えられている3)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Mansourら(2024)は、ナノフタルモスに伴う乳頭周囲パキコロイドによる圧迫性視神経症に対して深部強膜切除術を施行し、視力の完全回復を報告した。脈絡膜鬱血の減圧が視神経障害を逆転させうることを示し、他の乳頭周囲パキコロイド関連視神経症への応用可能性を提唱した2)

長期網膜剥離に対する外科的治療

Section titled “長期網膜剥離に対する外科的治療”

Mansourら(2024)の5例のケースシリーズでは、水晶体接触型完全網膜剥離(持続期間24〜48ヶ月)に対する深部強膜切除術で、術前光覚弁から術後20/100〜20/150への視力回復が得られた。長期にわたり不可逆と考えられていた症例でも外科的介入の余地があることが示された3)

強膜減圧手術のシステマティックレビュー

Section titled “強膜減圧手術のシステマティックレビュー”

Braga de SousaとBarbosa-Breda(2025)は28研究を対象としたシステマティックレビューで、強膜切除術がぶどう膜滲出の治療・予防に有効であることを確認した。一方、大規模比較試験の不足を指摘し、マイトマイシンC(MMC)や抗VEGF製剤などの補助療法の有効性については今後の検証が必要であるとした4)

Rajendrababuら(2025)は44研究・1397眼のメタアナリシスで、ナノフタルモスにおける緑内障有病率51.88%を報告した。生体計測スクリーニングの重要性と、解剖学的特性に基づく個別化管理戦略の必要性を強調した5)

ナノフタルモスの眼軸長カットオフ値は研究により <21mm、<20.5mm、<20mm、<18mmと不統一であり、合併症リスクに対応するグレーディング基準の策定が課題とされている1)


  1. Yang N, Zhao LL, Liu J, Ma LL, Zhao JS. Nanophthalmos: An Update on the Biological Parameters and Fundus Abnormalities. J Ophthalmol. 2021;2021:8853811.
  2. Mansour AM, Uwaydat SH, Hamam R, Salti HI. Sclerectomy Reverses Nanophthalmic Optic Neuropathy. Case Rep Ophthalmol. 2024;15:284-291.
  3. Mansour AM, Lopez-Guajardo L, Özdek Ş, Popov I, Parodi Battaglia M. Surgical Approaches to Serous Retinal Detachment With Retina-Lens Touch in Eyes With Nanophthalmos. J VitreoRetinal Dis. 2024;8(2):173-180.
  4. Braga de Sousa L, Barbosa-Breda J. Sclerectomies in nanophthalmos and idiopathic uveal effusion syndrome: a systematic review. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2025;263:2709-2722.
  5. Rajendrababu S, Berendschot TTJM, Senthilkumar VA, et al. Risk factors for glaucoma in nanophthalmos — a systematic review and meta-analysis. BMC Ophthalmol. 2025;25:617.
  6. Popov I, Popova V, Krasnik V. Comparing the Results of Vitrectomy and Sclerectomy in a Patient with Nanophthalmic Uveal Effusion Syndrome. Medicina. 2021;57:120.

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