好酸球性肉芽腫
孤発性骨病変:20歳以下、特に10歳以下に好発。
画像所見:骨破壊を伴う腫瘤形成。溶骨性欠損(punch-out lesions)。
予後:良好で自然治癒を期待できる。

ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis; LCH)は、骨髄由来の抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞が各臓器にモノクローナルに浸潤・増殖する疾患である。かつて「組織球症X(histiocytosis X)」と総称され、以下の3疾患を含む。
1868年にドイツの医師パウル・ランゲルハンスが表皮のランゲルハンス細胞を初めて記載した。樹状細胞の造血由来と抗原提示機能が解明されるまでに1世紀以上を要した。2016年には国際組織球症学会が改訂分類を提唱し、LCHはL群(Langerhans群)に分類された4)。
LCHは主に小児の疾患であり、1〜10歳に発症のピークがある。年間発生率は15歳未満の小児100万人あたり4.6〜8.9人と報告されている1)2)3)。診断年齢の中央値は3歳で2)、男女比は1.5:1と男児にやや多い4)。2歳未満の小児はより侵襲性の高い経過をたどり、予後が不良である。小児の眼窩腫瘍の1〜3%を占める。
LCHの年間発生率は15歳未満の小児100万人あたり約5〜9人である。小児の眼窩腫瘍の1〜3%を占め、稀ではあるが小児眼窩腫瘍の重要な鑑別疾患の一つである。
眼窩LCHの主要な症状は以下の通りである。
2歳未満の小児では急速に進行し、多臓器関与を伴うことが多い。
LCH病変は造血活性のある骨髄を好むため、眼窩では上外側(superotemporal orbit)に最も多く認められる。
好酸球性肉芽腫
孤発性骨病変:20歳以下、特に10歳以下に好発。
画像所見:骨破壊を伴う腫瘤形成。溶骨性欠損(punch-out lesions)。
予後:良好で自然治癒を期待できる。
Hand-Schuller-Christian病
3主徴:眼球突出、溶骨性骨病変(頭蓋骨の多発性骨欠損)、尿崩症。
骨欠損:90%以上が頭蓋骨(眼窩骨含む)に生じる。
その他:皮膚病変(黄色腫)、肺病変、脳下垂体浸潤。
Letterer-Siwe病
発症:ほとんどが1歳未満。
全身性:肝脾腫、リンパ節腫脹、皮膚湿疹、発熱、全身衰弱。
予後:きわめて不良。
三次医療機関の連続24例を対象とした研究では、9例(37.5%)に眼窩関与が認められた。最も多い罹患部位は前頭骨(n = 6)で、次いで頬骨(n = 3)、蝶形骨(n = 3)、上顎骨(n = 2)であった。
眼窩以外の全身所見として、骨病変が最も頻度が高く(約80%)、頭蓋骨が最多である2)4)。皮膚病変は患者の約1/3に認められ、脂漏性皮膚炎様の発疹、紅斑性丘疹、小水疱として現れる4)。
LCHの病因は完全には解明されていない。かつては腫瘍性か反応性かの論争があったが、近年の分子遺伝学的知見により腫瘍性疾患としての理解が進んでいる。
一過性の免疫機能不全(ウイルス感染など)が、感受性のあるランゲルハンス細胞のサイトカイン介在性増殖を誘発するとの仮説もある。
BRAF V600E変異はLCH患者の50〜65%で検出される遺伝子異常で、MAPK経路を恒常的に活性化しランゲルハンス細胞の増殖を促進する。この変異の存在はより重症の多臓器型と関連する。
確定診断には生検が必須である。以下の免疫染色が診断基準となる1)2)3)。
組織学的には、ランゲルハンス細胞・マクロファージ・好酸球・Tリンパ球・形質細胞からなる肉芽腫様病変を認める。淡好酸性の比較的豊かな胞体を持ち、腫臓形にくびれた核を有する組織球様細胞の浸潤が特徴的である。電子顕微鏡ではテニスラケット状のバーベック顆粒が確認される。
BRAF V600E変異検査が診断補助および治療方針決定に有用である2)6)。
小児の眼窩病変で鑑別すべき疾患は以下の通りである。
| 病態 | 代表的疾患 |
|---|---|
| 炎症性 | 眼窩蜂窩織炎、眼窩偽腫瘍、サルコイドーシス |
| 悪性腫瘍 | 横紋筋肉腫、白血病、転移性神経芽細胞腫 |
| その他の腫瘍 | ユーイング肉腫、ウィルムス腫瘍の眼窩転移 |
| 肉芽腫性 | 多発血管炎性肉芽腫症(GPA) |
確定診断には生検による病理組織学的検査が必須である。免疫染色でCD1a・S-100・Langerin(CD207)陽性を確認する。画像診断(CT・MRI)は病変の範囲評価に有用である。
好酸球性肉芽腫症と病理診断が確定した場合、まず画像診断などで経過観察を行う。炎症症状や疼痛が軽快しない症例、骨折の危険性が高い症例では手術による掻爬を行い、自然治癒を促す。副腎皮質ステロイドや低用量の放射線照射を用いることもある。
Hand-Schuller-Christian病では副腎皮質ステロイドが肉芽腫性炎症の制御に有効である。免疫抑制薬や低用量の放射線照射も使用される。
ステロイド療法や化学療法が有効であり、難治例では造血幹細胞移植も行われる。
すべての眼窩LCH患者において、診断確定と他の悪性疾患除外のために生検が必要である。小児腫瘍科医への紹介が推奨される。
単一系統・単一病巣
局所治療:限定的掻爬+病変内ステロイド注入。
経過観察:生検後の自然退縮も期待できる。
メチルプレドニゾロン:単回病変内注入で35病変中31病変(89%)が消失。
再発率:約15%。
多中心性・多臓器型
第一選択:ビンブラスチン+プレドニゾンの全身化学療法(12ヶ月間)1)2)。
LCH-IIIプロトコル:初期Pred 40mg/m2 4週+VCR 6mg/m2 iv毎週(W1-6)。維持Pred+VCR q3w+6-MP 50mg/m2/d(W7-52)5)。
CNSリスク病変:全身療法が必須。
単一病巣で頭蓋内進展のない場合は限定的掻爬と病変内ステロイド注入が基本である。多臓器型やCNSリスク病変ではビンブラスチンとプレドニゾンによる全身化学療法(12ヶ月間)が必要となる。
多臓器型でなく、2歳以上の小児であれば予後は良好である。メイヨークリニックの314名のコホート研究では、孤立した骨LCH患者の97%(114名中)が治療後に無病生存を達成した。無病生存率は単一系統疾患で91%、多系統疾患で74%であり、有意差を認めた(P < 0.003)。
眼窩LCHは多くの場合孤立した単一病巣として現れるが、初期精密検査が陰性でも後に多臓器関与が判明する場合があるため、定期的な観察が不可欠である。
LCHの中心的な病態は、欠陥のある未熟なランゲルハンス細胞のクローン性増殖である。病的ランゲルハンス細胞はCD1a+/CD207(Langerin)+マーカーを発現し、各組織に肉芽腫様病変を形成する3)。
LCHの約50〜65%でBRAF V600E変異が検出される2)。また、BRAF野生型症例の最大33%でMAP2K1変異が認められる1)。いずれの変異もRAS-RAF-MEK-ERKシグナル伝達経路(MAPK経路)を恒常的に活性化し、クローナルな骨髄系腫瘍としての細胞増殖を駆動する1)。
BRAF V600E変異が骨髄前駆細胞レベルで生じた場合はより重症の多臓器型に、分化した樹状細胞レベルで生じた場合はより限局型の臨床像と関連することが示唆されている2)。
LCH病変は段階的に進行する3)。
BRAF V600E変異陽性の難治性LCHに対して、ベムラフェニブ(vemurafenib)が第II相オープンラベル試験(VE-BASKET study)で初期的な有効性と安全性を示している1)。ただし、臨床応用にはさらなる治験が必要である。
MEK阻害薬コビメチニブ(cobimetinib)が先天性LCHの治療に使用された報告がある2)。MAPK経路を標的とするプロテインキナーゼ阻害薬は、難治性症例における将来の重要な治療選択肢となりうる。
SIRPa(signal regulatory protein alpha)はCD1a+樹状細胞に発現する膜貫通タンパク質であり、LCHの新たな治療標的として提案されている2)。また、SMAD6遺伝子の生殖細胞系変異がLCHへの感受性を高める可能性が報告されており、遺伝的素因の解明が進んでいる2)。分子標的治療と免疫療法の統合による個別化治療が今後の展望として期待される。