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小児眼科・斜視

先天性風疹症候群

先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome; CRS)は、妊娠初期に母体が風疹ウイルスに初感染し、経胎盤性(血行性)に胎児へ感染することで生じる器官形成異常の総称である。白内障・先天性心疾患・感音難聴を三主徴とする。

妊娠早期(3か月以内)の感染ほど発症率が高く重症化しやすい。妊娠最初の2か月では胎児の65〜85%が罹患し、多発先天異常または流産に至る1)。妊娠20週を過ぎるとほとんどみられなくなる。

世界では毎年約10万人のCRS児が出生すると推定されている3)。2022年時点で194か国中175か国が風疹含有ワクチン(RCV)を導入し、93か国で風疹の排除が確認された4)。同年の世界の報告数は風疹17,407例、CRS 1,527例であった4)

日本では風疹ワクチンの定期接種が行われている。しかしワクチン導入が遅れた地域では依然としてCRSが蔓延しており、インドでは先天白内障で失明した児の約25%がCRSによるものと推定されている。中国では2014〜2023年の10年間に確認されたCRS確定例がわずか16例であり、監視体制の不備による大幅な過少報告が指摘されている2)

1963〜1965年の世界的風疹流行では、感染した母親から生まれた児の30%が先天異常を発症し、13,000人以上の胎児死亡・早期乳児死亡が報告された。

Q 妊娠何か月までに風疹にかかると胎児に影響がありますか?
A

妊娠初期(1〜5か月)の感染でCRSが発症しうる。妊娠3か月以内の感染が最もリスクが高く、妊娠20週以降の感染ではCRSの発症はほとんどない。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。

CRSの眼症状は出生時から存在する場合が多く、保護者が最初に気づく所見として以下がある。

  • 白色瞳孔(白色反射):白内障による白色瞳孔として発見されることが多い。片眼または両眼性に認められる。
  • 羞明(まぶしさ)虹彩異常や白内障に伴い、強い羞明を示すことがある。
  • 眼振:感覚性眼振として出現する。CRS患者の約50%に認められるとの報告がある1)
  • 視力不良:白内障・網膜症・緑内障などの複合的要因により、視覚発達が障害される。

眼症状はCRSで最も頻度の高い異常であり、ある研究では白内障93.1%、小眼球85.1%、虹彩異常58.6%、色素性網膜症37.9%、眼振50%、斜視26%、緑内障6%と報告されている1)

色素性網膜症

ごま塩状(salt-and-pepper)眼底:後極部から赤道部にかけて、微細な脱色素斑と色素斑がびまん性に混在する特徴的所見である。

視神経・網膜血管:通常は異常を認めない。

経過:大部分が停止性で視機能への影響は軽微であるが、網膜電図に異常を示すことがある。極めて稀に中心窩脈絡膜新生血管に進行する。

白内障

真珠様白色の核白内障:風疹ウイルスが水晶体上皮細胞の増殖を遅延させ、水晶体線維が変性・不透明化する。

両側性が多い:89%が両側性との報告がある。20歳までに50〜85%で発症する。

自然吸収:稀に白内障の自然吸収が報告されている。

緑内障

先天緑内障角膜混濁と牛眼(buphthalmos)を伴う。隅角の中胚葉吸収不全やシュレム管分化不全が原因である。

続発緑内障:10代以降に白内障や小眼球症の結果として発生しうる。白内障摘出後の43%に続発緑内障が報告されている。

頻度:症例の2〜25%で報告されている。

小眼球症

頻度:CRS児の約10〜20%に認められる。眼径16.6mm未満で定義される。

合併所見:眼振・白内障・網膜症の発生率が高く、視能予後が不良になる傾向がある。

屈折:眼球が小さいため遠視が多い。

  • 斜視:有病率約25%で、CRSのない児の4倍である。内斜視がより一般的である。
  • 虹彩萎縮:散大筋の発達不良により瞳孔散大が困難となる。
  • フックスぶどう膜炎症候群(FUS):CRSとの関連が示唆されている。虹彩異色症・軽度前部ぶどう膜炎・白内障を特徴とする。

CRS患者の半数以上に先天性心疾患が認められる。中国のデータでは心臓欠損62.50%、聴覚障害31.25%、血小板減少31.25%であった2)

  • 心血管系:動脈管開存症(PDA)と分枝肺動脈狭窄の合併がCRSで最も多い心奇形である5)。心室中隔欠損・心房中隔欠損も認められる。
  • 感音難聴:三主徴の一つ。失聴に至ることもある。
  • 中枢神経系:小頭症、脳内石灰化、髄膜脳炎、知的障害を伴うことがある。剖検では基底核の嚢胞性梗塞や血管周囲石灰化がCRSに特徴的な病理所見として報告されている3)
  • 血液系:血小板減少は31.25%に認められ2)、皮膚造血による「ブルーベリーマフィン」疹として現れることがある4)。持続性の重度血小板減少(4,000/μL)がCRSの初発症状となった症例も報告されている3)
  • その他:子宮内発育遅延、肝脾腫、溶血性貧血のほか、後天的にインスリン依存性糖尿病や甲状腺疾患を発症することがある。
Q 風疹網膜症は視力に影響しますか?
A

風疹網膜症(ごま塩状眼底)は大部分が停止性であり、他の合併症がなければ通常0.3以上の視力を維持する。ただし極めて稀に中心窩下脈絡膜新生血管へ進行し、急激な視力低下を来すことがある。定期的な網膜検査が推奨される。

CRSはトガウイルス科に属する風疹ウイルス(rubella virus)への母体感染によって引き起こされる。風疹ウイルスの宿主はヒトのみであり、飛沫感染によって伝播する。感染した個人では発疹出現から最大10日間、鼻・喉・尿・血液・脳脊髄液からウイルスが排泄される。

ウイルスは母体の胎盤を介して胎児に垂直感染し、器官形成期の正常な細胞増殖を阻害する。

CRS児は特に感染力が強く、分泌物や尿を通じて数か月〜数年にわたりウイルスを排泄し続ける4)。1か月間隔で2回の培養が陰性にならない限り、少なくとも1歳まで感染力があるとみなされる。

  • 妊娠中の風疹感染:特に第1三半期の感染がCRS発症の最大のリスクである。
  • 風疹ワクチン未接種:RCVの単回接種で97%に生涯にわたる防御効果が得られる。
  • 母体の無症状感染:CRS児の母親のうち発疹歴があったのは18.75%に過ぎず、大部分は無症状であった2)
Q 先天性風疹症候群はどうすれば予防できますか?
A

最も重要な予防策は妊娠前の風疹ワクチン接種と抗体価の確認である。日本では定期接種として麻疹風疹混合(MR)ワクチンが導入されている。妊娠中はワクチン接種ができないため、妊娠前の対策が不可欠である。

WHO基準では、熟練した医師がA群から2項目、またはA群1項目+B群1項目を認めた場合に臨床的確定例とする2)

所見
A群白内障、先天緑内障、先天性心疾患、難聴、色素性網膜症
B群紫斑、脾腫、小頭症、精神発達遅滞、髄膜脳炎、透光性骨疾患、生後24時間以内の黄疸
  • 出生前診断:胎盤絨毛・羊水・臍帯血からPCR法によりウイルスRNAを検出する。
  • 出生後診断:新生児血清の風疹IgM抗体をELISAで検出する。3か月未満の乳児では感度・特異度がともにほぼ100%である1)。PCRによる風疹ウイルスの検出で確認する。
  • IgGアビディティ検査:最近の感染(低アビディティ)と過去の感染(高アビディティ)を鑑別できる1)
  • 抗体推移:風疹IgMは生後3〜4か月でピークに達し、約1歳で消失する2)

CRSが疑われる、または確定したすべての患者に完全な眼科検査が必要である。風疹網膜症の特徴的なごま塩状眼底所見は診断的価値が高い。先天性風疹症候群の児では、眼合併症が認められない場合でも生後1年以上は眼科的な経過観察が必要であり、視力障害を生じうる眼合併症の遅発に注意する。

小児緑内障の評価には、手持ち眼圧計による眼圧測定、角膜径測定、隅角検査を行う。乳児では視神経乳頭のC/D比0.3以上で緑内障を疑う。

CRSの鑑別で重要な疾患を以下に示す。

分類鑑別疾患
感染症先天性CMV感染症、先天梅毒、先天性トキソプラズマ症、先天性水痘、先天性HSV感染症
遺伝性疾患網膜色素変性症、X連鎖性眼白皮症

先天梅毒も「ごま塩状」の網膜所見を呈するため、血清学的検査による鑑別が重要である。

CRSに対する根治的治療は存在しない。各臓器障害に対する対症療法が基本となる。

対象治療法注意点
屈折異常眼鏡矯正、遮光眼鏡羞明には虹彩付きCLも有効
白内障白内障手術(早期)Zinn小帯脆弱IOLは慎重適応
緑内障線維柱帯切除術隅角手術は不適応
角膜混濁全層角膜移植視力改善困難、拒絶反応高率
弱視遮蔽療法、屈折矯正早期介入が重要

核白内障は出生後に全白内障へ進行することが多いため、視覚発達の観点から早期手術が必要である。ただし、以下の点に特別な注意を要する。

  • Zinn小帯が脆弱であるため、眼内レンズ(IOL)挿入は慎重な適応となる。
  • 瞳孔散大不良:虹彩の発達障害により散瞳が困難であり、手術操作が制約される。
  • 水晶体内にウイルスが残留するため、風疹抗体を持たない術者(<5%)は感染リスクに留意する。
  • 続発緑内障:白内障摘出後の43%に続発緑内障が発生し、うち56%が線維柱帯切除術を必要としたと報告されている。
  • 症例報告では、白内障手術後に裂孔原性網膜剥離を発症した例がある1)

点眼による眼圧コントロールが困難であることが多い。隅角形成異常があるため、線維柱帯切開術や隅角切開術は適応とならず、年齢を考慮しながら線維柱帯切除術を選択する。

角膜混濁に対する全層角膜移植は視力改善に結びつかないことが多く、拒絶反応の率が高いため注意を要する。

CRSで最も多い心奇形であるPDA+分枝肺動脈狭窄の合併に対しては、カテーテル治療(デバイス閉鎖+ステント留置)が報告されている5)

CRS児は少なくとも1歳までは感染力があるとみなされ、隔離と適切な手指衛生が求められる4)

視覚発達の支援として、多くの患者は普通学級に進学可能であるが、拡大教科書などの支援が必要である。弱視学級への一部通級や、盲学校・視覚特別支援学校の教育相談なども勧められる。

Q CRSの白内障手術にはどのような注意点がありますか?
A

Zinn小帯が脆弱で眼内レンズ挿入には慎重な判断が必要である。虹彩の発達障害による瞳孔散大不良が手術を困難にする。また白内障摘出後の43%に続発緑内障が報告されており、長期的な眼圧管理が不可欠である。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

CRSの病態生理は多因子性であり、完全には解明されていない。器官形成期において風疹ウイルスが正常な細胞増殖を阻害する機序として、以下が提唱されている。

  • 絨毛膜上皮の非炎症性壊死:胎盤への初期障害
  • アクチン重合の阻害:前駆細胞の有糸分裂を制限し、胎児組織の成長を遅延させる
  • サイトカインのアップレギュレーション:炎症反応の増強
  • 白内障:風疹ウイルスが水晶体上皮細胞の増殖と有糸分裂を遅延させ、水晶体線維が変性して不透明化する。妊娠第1三半期の感染に限定される。
  • 網膜症網膜色素上皮(RPE)の萎縮と色素変化が後極部に生じ、数十年にわたり進行しうる。
  • 緑内障:隅角における中胚葉の吸収不全やシュレム管の分化不全により房水流出が障害される。持続的なウイルスダメージと隅角形成異常(trabeculodysgenesis)が関与する。

風疹ウイルスは胎生期の第6弓由来構造に親和性を持つと考えられており、PDAと分枝肺動脈狭窄の合併がCRSの心奇形で最も多い理由と推察されている5)

剖検例の報告では、CRSに特徴的な神経病理所見として基底核の血管周囲石灰化とミクログリア結節が認められている3)。嚢胞性梗塞を伴うこともある。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Gongら(2024)は、中国における2014〜2023年のCRS確定例がわずか16例であったことを報告し、CRS監視体制の不備による大幅な過少報告を指摘した。中国では2008年からRCVが定期接種に組み込まれたが、それ以前に出生した出産年齢の女性は一般にRCVの接種を受けていない。出生前の風疹感受性スクリーニングと非免疫女性へのRCV接種が、CRS予防の鍵であると結論している2)

世界的な風疹排除の進捗と課題

Section titled “世界的な風疹排除の進捗と課題”

Loeveら(2025)は、オランダにおいてソマリア難民の母親からCRS児が出生した事例を報告した。2022年時点で世界の194か国中93か国で風疹排除が達成されているが、アフリカ地域と東地中海地域ではワクチン接種率が依然として低く(それぞれ36%、42%)、難民・移民集団へのワクチンキャンペーンの強化が急務であると指摘した4)

Guptaら(2023)は、CRS患者において水晶体コロボーマと高度軸性近視を合併した初の症例を報告した。風疹ウイルスによるチン小帯の発達障害が水晶体コロボーマの原因と推察された。また高度近視との合併により裂孔原性網膜剥離のリスクが増加する可能性が示された1)

Kumarら(2022)は、CRS児の剖検において基底核の血管周囲石灰化とミクログリア結節を報告した。これらはCRSに特徴的な神経病理所見とされる。また持続性重度血小板減少(4,000/μL)がCRSの初発症状として認識されるべきであり、TORCH感染症のスクリーニングの重要性を強調した3)

CRSの心奇形に対するカテーテル治療

Section titled “CRSの心奇形に対するカテーテル治療”

Royら(2022)は、CRSに伴うPDAと左肺動脈狭窄の合併に対して、カテーテルによるデバイス閉鎖とステント留置を3例に施行した結果を報告した。2例で良好な長期成績が得られたが、1例ではデバイスによる主肺動脈閉塞を来し緊急開心術を要した。症例選択の重要性が強調されている5)


  1. Gupta V, Naharwal A, Sharma P, Luthra S. Lens Coloboma: A Rare Association of Congenital Rubella Syndrome. Cureus. 2023;15(5):e39355.
  2. Gong X, Zheng C, Fang Q, Xu W, Yin Z. A case of congenital rubella syndrome and epidemiology of related cases in China, 2014-2023. Hum Vaccin Immunother. 2024;20(1):2334917.
  3. Kumar J, Sundaram V, Gupta K, Bhatia A, Kaur G, Dutta S. Congenital Rubella Syndrome as a possible cause for persistent thrombocytopenia in early infancy: The Forgotten Culprit. Autops Case Rep. 2022;12:e2021386.
  4. Loeve LF, Sideridou VL, Schölvinck EH, Brandsema RB, van Leer-Buter CC, Zhou X. A Case of Congenital Rubella Syndrome in the Netherlands: A Brief Report on Rubella Virus Surveillance. Pediatr Infect Dis J. 2025;44(9):e350-e352.
  5. Roy M, Gangopadhyay D, Goyel N, Chattopadhyay A, Bandyopadhyay B. Transcatheter management of combined patent ductus arteriosus and left pulmonary artery stenosis in congenital rubella syndrome. Ann Pediatr Card. 2022;15:164-168.

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